学園仮面ライダー ~インリデンとライド 乗り手求めて多重世界~   作:大島海峡

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職員会議

「……その前に、ちょっと良いかな?」

 巧が手を挙げた。

「何故彼は、()()()風呂に入っている?」

 と問いただした。

 

 彼、と言うのはモニター越しのカグヤに向けてである。

 そんな、というのは、水面を埋めるほどの宝石を投じた風呂である。

 (カグヤ)は、そんな(宝石風呂)に、浸かっていた。

 

『見て分からないか? こちらは今、ゴージャス・バスタイムだ。下らない輩に土をつけられたのでな。その瑕と汚れは徹底的に取り払わなければならない』

「……意味あるの、それ?」

「無いね。鉱物による遠赤外線効果やマイナスイオンは、科学的根拠が実証されていない。あるとしても、そう使うことで得られる効果があるとも思えない」

『視座が低いな、ビルド……そして別世界線のマジェード。カグヤ様の輝きは一流の輝きに触れてこそより一層の高みへ至る。そこに科学などという理屈を持ち出すこと自体がナンセンスだ』

「……いや、意味分からないんだけど」

 

 表情を険しくさせるりんねを、まぁまぁとユウスケは宥め、そして耳打ちする。

 

「多分アレ、先にボロ負けしたから傷心中とか、不貞腐れてるとか、そんな感じだと思う……そういう素直じゃ無いところまで似なくても良いと思うんだけどさ」

『聴こえているぞ』

 少し声のトーンを落として返ってきたあたり、図星だったのだろう。

 ウォズの咳払いが、初端から弛緩しかけた空気を払った。

 

「では、本題に入らせて貰おう」

 という宣うに合わせて、画面いっぱいに表示されていたカグヤとバスタブは隣へと追いやられ、代わり、大部分を無数の映像や文書(オブジェクト)が占める。

 

「まず、学園の被害についてだが、ディサイダーズの襲撃を受けて、全校生徒、教員の実に四割が『ハント』された。そして核たる彼らを失った世界の消滅も確認した」

「くっ……」

 ユウスケが義憤と悔しさに打ち震えた。

 

「せめて戦力が整うまで秘匿するつもりだったこの世界の座標が割れたのか。それは目下内部調査を進めている」

「内部調査」

「内通者を疑ってるんだろ、この場所を、ディサイダーズに漏らした奴がいると」

 りんねの鸚鵡返しに、巧は冷然と返した。学園長は顧みず、ウォズは

「実際その有無を含めて調査中、だ。無用の猜疑心を生まないよう、生徒たちに気を配ってくれ」

 と念押しした。

 

「そして外部においては、今回の大敗を受け、去就に迷っていた他世界のライダー達が奴らの傘下に加わった。尖兵となって、奴らに対抗しているライダーたちの妨害行動に出ている」

 

 表示された映像の一部が、クローズアップされる。

 満ちる月下の千年京、という表現が似つかわしい、新古の建造物が乱立する夜景。その棟々を、競るように二つの影と煌めきが交錯する。

 金狐とも言うべきそのうちの一体が振るう尾飾りが縦横に振るわれる。幾重にも分かれたそれらが屋根をなぞり上げれば、火熱が瓦を溶かす。たちまちに一帯が煉獄と化した。

 

『成程。流石は別の世の麿(オレ)か』

 対して嘯くもまた狐である。花霞の色味を持つ装甲の上より、紫紺の狩衣の如き装飾を纏う。

『だが母上の権能を引き継ぎ、創世の神へと至った麿には、及ばぬよ』

 腰元のデザイアドライバーのみが、その時代感より浮いている。セットされたバックルは、扇とも狐の尾とも思えるもの。

 

『参れ、鬼共』

 と華扇を真一文字に舞わしめれば、花嵐が舞い、沙羅双樹の鐘が響く。たちまちに金狐の火による修復された。

 銀の帷がその背後で蠢く。

 その魔と幽玄に誘われてか。そこより五匹ばかりの妖魔が入幕と相成った。

 いずれも武骨な照りを持つ堂々たる体躯と、種々長短さまざまな角と面とが一体となった、鬼ども。中には、それとは意匠を異とする金銀一対となって与党を組み、大金棒を携えた者もいる。

 

 だが果たして、それのいずれが敵で、味方か。

 それを問う前に乱戦が始まり、映像は途切れた。

 

「まったく、頭が痛くなってくるな……それで、奴ら自身の動きは」

「……幸か不幸か」

 重い声音の巧の問いに、青ウォズが踵を返す。その背の画面に、ディサイダーたちと、準幹部の顔写真と映像が表示される。

 

「目下、動向が掴めているのはメルキー。今は海中世界での狩猟を開始したようだ。元々、我々と彼らは提携関係にある。おそらくは学園の協力者たちへの見せしめと、先に受けた屈辱の憂さ晴らし、八つ当たりといったところか」

 

 自然の光の届かない、海の底。各セクションを繋ぐ移動用らしきケーブルをグンダリが突き破り、海水が、そして水棲の妖魔たちが流れ込む。

 率いているのは、クラゲのような怪人である。ただし口は、腹にある。

 その手から伸びた無数の触手を、無作為に飛ばす。

 それらを、青年の手より振り抜かれた朱色のハープーンが、一絡げに薙いだ。膝下を晒した脚が海水に濡れることを厭わず、近未来的な青いジャケット羽織った彼は戦意を剥き出しにそれを睨み据えた。

 

『深呼吸』

 背後からそれを追ってきた白いダブルのスーツに身を包んだ男が、

『そういきり立つなって。また息継ぎから始めるか? ミハル』

 とおちょくりながら、その彼の腰には、太陽の装飾具を中央に収めたドライバーが転送されてくる。

〈Set up〉

 という機械音と共に、

 

『……だる』

 怠惰に嘆く彼は、黒い狛犬のように改造された己の(ガヴ)に、プリンを模る人造生物を噛ませた。

 

『悪く思うなよ、俺たちの世界と弟のためだ』

 と抑揚なく嘯きつつ、レバーを回す。空の大器がその総身を覆い、カラメルのような液体が注ぎ込まれ、彼を浸して侵す。

『弟か。敵ながらいい根性してやがる。カイゾーグの新手じゃなくて、例のライダー狩りの第一陣ってとこか?』

 と返し、自らも太陽の尾を掴んで操舵輪の要領で回す。

 青年も、ハープーンの穂先を水面に振り下ろし、腹前に据え置いたコアメダルに命ずる。

 

『変身!』

『変身』

『変、身!』

〈Apollo change〉

〈ドップリン・ヤミー〉

〈サメ・クジラ・オオカミウオ!〉

 

 太陽とも大鷲ともつかない装飾を左右に展開した、真紅の仮面。黒いバイザー。白と赤のマフラーを巻きロングバレルの拳銃と円盾を手にした戦士。

 肉食魚たちの特長性質を上下三種に寄せ集めたような、大槍の騎士。

 そして黒い仮面と素体に軟性の黄色と茶褐色の物質を塗り込めた、人外。

 

 三者三様の形態となったライダー達のうち、迎え撃つ側の二人が、残る一匹と

 

「……幸いにして、だが」

 と前置きをしたうえで青ウォズは言った。

「慣れぬ世界ゆえに、攻めあぐねているようで現在はどうにか防いでいるようだが、救援要請が来ている。対する我らはダメージが甚大。オマケに離脱者も相次いでいる。メタバースシステムを破る術を持っていない。一部の生徒がそれを貫通してダメージを与えることの成功した、という報告も上がってはいるものの、根本的な打破には至っていない」

「……士の行方は?」

 おもむろにユウスケは尋ねた。

「確かに、破壊者(ディケイド)なら既存のライダーの攻撃が通用しない、というルールそのものを破壊できる可能性が高い。もしくは、その係累の個体を見出すか」

 巧もそれに補足し、同調した。

「言わずもがな、それも視野に入れて人材の確保に動いている。ユウスケ君を各世界に派遣しているのも、その一環さ」

 と言いつつ、一画面がまた別に浮かび上がる。

 先の戦闘にて撮影されたものだろうか。

 

『俺様の美技に酔いな』

 ハウンドによって呼び出された多くの怪人たちを前にしても、傲然と嘯く彼は、確かに目てくれはディケイドに似ている。だがボディとドライバーは灰色で、眼部の方がピンクないしマゼンタとなっている。いくつかの欠損部も見られる。いわば、試作型(プロト)といったところか。

 だが、鮮やかなライドブッカーさばきで敵を斬り除き、中途に現れたセルケトの剣も正面から受け切った。

 

『ディサイダー、見ろ。俺様のカメンライドを』

 と宣いつつ、ファイズのカードを開いたバックルに装填し、挟んで閉じる。

 

〈KAMEN RIDE FA FA FA FAIZ!〉

 ユウスケたちにとっては聞きなれた音と共に、フォトンブラッドのエネルギーラインが彼を包み――そして。

 ゴトリ、という重い金属音と共に、兵器――ファイズブラスターと化したプロトディケイドは、愕然となった。

 表情は鬼面で知れずとも、呆れたようにそれを見下すセルケトを前にして、必死に砲身(からだ)を動かそうとするも、左右にわずかに傾くのみである。

 

『そうだった』

 とぼんやり呟いた彼は、ようやく自身の性能の欠陥を思い出したかのようだった。

 

『小さな星が俺様の頭の中で話をしている。これがファイズかな? いや、違う、違うな……ファイズはもっと……バアーッてクリスマ打つもんな……重っ苦しいな……この身体。動けないのかな。おーい……戻してくださいよー、ねぇ?』

 蠢きつつ現実逃避を始める彼に、

 

『行くぞ』

 まるで見なかったことと決め込んだかのように、セルケトは彼を放置し、猟犬たちを伴って別の場所へと転身したのだった。

 

「……とまぁ、色々と不全な状態でね。他の生徒たちと同様、自分自身では世界間を渡ることもできない」

 と、青ウォズは肩をすくめた。

 

「そもそも、私にとってはカグヤ君の門矢士目撃情報の方が、眉唾物なんだがね」

『心外だな』

 カグヤの入浴姿が他を圧倒して拡大される。りんねはその隻眼をかすかに外した。

『カグヤ様の審美眼は何者をも見誤ることはない』

 だが、と彼は一枚のカードを取り出した。他ならぬ、彼の変身用の一枚だ。彼自身のライダーとしてのバストアップ姿が描かれている。

 だが、元よりそのデザインだったわけではなく、敵に包囲されて初期のライドカードが切断された後、突如助けに現れた門矢士謹製の一枚、とのことだ。

 

『過去から現れた奴自身だったのか、それともカグヤ様の輝ける意思にかつての憧憬が形となって示されたものだったのか。今となっては確かめる方法はない』

「俺は信じるよ」

 晴れ晴れとした表情で、ユウスケは笑みを浮かべた。

「あいつは、まだどっかで生きてる。それで、俺たちが本当に危機に陥った時、絶対に助けに来る……まぁ、助けに来るまでが気紛れな奴だけど」

 カグヤもまた、笑み返して頷いた。

 

「だが、そんな一縷の望みをアテには出来ない。生徒の戦力としての成熟も、もはや悠長に待ってはいられない」

 青ウォズは極めて事務的に返し、そしてまたカグヤを脇へと追いやった。

 

「そこで、今後の方針を伝える。ディサイダーズ討伐を視野に入れたものとなる。心して傾聴するように」

 と言い、またディサイダーズたちを表示する。

 

「連中が学園を半壊させ、増長していることは確かだ。その油断のためか、各世界に分散している。そこが狙い目だ」

 と続ける。

 

「まず、学園内で水中戦や科学技術に長けた精鋭を選りすぐり、『仮面ライダーアポロの世界』を狩場としているメルキーを確保ないし討伐する。その現場の指揮には、葛城先生にお願いしたい」

「トレビアーン! 近未来の海中都市とは、ようやく面白くなってきた」

 

「そして、鳴海探偵が、『ライダー博物館』の所在をすでに突き止めている。ここには、先に倒され、連れ去られた学生たちも収蔵――もとい収監されている。可能な限り迅速に救出する。よってこれらはほぼ同時期にやらなければならないが……その場所を守るのは、ジョージ・狩崎。仮面ライダーライジングジュウガ。彼はディサイダーズのゲームの参加者では無いからメタバースシステムの特権を持っているわけでは無いが、それでも戦闘と奸智に長けた男だ。対抗しうるバランスの良い智勇と精神力が必要になってくる。小野寺先生は折を見て、生徒達を選抜のうえで合流を」

「ライジング対決、ってことね」

 

「また、さらにその裏で、学園内における造反者を洗い出しを行う。これはまぁ私、青ウォズが陣頭に立って執行する。同士討ちとなる。真っ当なライダーでは、躊躇するだろう。手を汚すことを厭わない人材が、共に事に当たるのが望ましい」

 

「そして黄金郷エルドラド。イーラブのラボにしてメタバースシステムのメインサーバーのある世界だ。彼女と通じているカリザキにその座標と保管場所を吐かせ、そこを破壊すれば、我々の攻撃も奴らに通用するようになる」

『カグヤ様の友とその仲間たちにも、錬金術とオーロラカーテンシステムを組み合わせてそこのゲートを開けないか依頼済みだ』

「錬金……?」

『元よりそこは、錬金術で成立している世界だそうでな――丁度いい。もう一人のマジェード、貴様が行くといい。そして奴と共闘すると良い』

「……勝手に。まぁ良い。確かに適任ではある。機知に長け、隠密能力に優れた生徒を補佐としてつける」

 

「ダスク、セルケト、ハウンドの動向は掴めていない。特定のアジトを持たず、狩りの前線を常に移動している。現時点での捕捉は至難だろう」

「が、エルドラドの制圧がかなえば、追跡も可能となるはずだ……イーラブを倒せれば、の話ではあるが」

『バトラーにもダスクを追わせている……受けた屈辱、ゴージャス百倍返しといこう』

「そして、私も出る」

「学園長自らが!?」

「彼らとあらためて対峙する時には、おそらく総力戦となる、そこへと至るまでの道のりを含めて、ある程度の犠牲を覚悟してくれ」

 

「各自の尽力は言うまでもなく」

 カグヤを残して全ての映像が消えたモニターに、学園長の物憂げな表情が反射する。

「最後の一片(ひとひら)が、必要となる」

 との言葉に、居並ぶ大人たちは耳を傾ける。

 

「大中小、様々な資質を理解し、清濁を併せ呑む者。異形異才の若者たちを偏見を持たず公平に見定め、彼らを統率、支援できる者。己自身がライダーの力を持たずとも、臆せず、かといって卑屈にも無謀にも奔らず、前へと進み続ける者。先に待つわずかな光明へと、可能性の枝葉を伸ばし続けられる者。そう、それは例えるならば――」

 と、学園長は踵を返し、告げる。

 

立花(タチバナ)のごとき者」

 

 己が求める、(あだ)の名を。




大島作品の終盤にありがちなこと:ちゃんと続きを書く気がないから風呂敷の中身をブチまける

というわけで、多分あと2話でひとまず完結です
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