学園仮面ライダー ~インリデンとライド 乗り手求めて多重世界~   作:大島海峡

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去る者、来る者

 詩島広子は、ディサイダーズ襲撃の後、しばらくはダメージから復帰できずにいた。

 相対的には極めて軽微ではあったが、実質上の初陣だ。その辺りは大目に見て欲しいものである。

 

 とは言え医務室も未だパンク中の時分、広子は自室での療養という扱いになっていた。

 そんな日常、極めて目覚めの悪い朝。ダンボールが届けられていた。

 療養中の支給品かと思い、起き上がって無造作にそれを開けた彼女は息を呑み、目を見開いた。

 

「え……っ!?」

 そこには、詩島ライドの、ライドライバーと取扱説明書が入っていた。

 

 〜〜〜

 

 霞のかかった中、詩島ライドは何一つ荷物を持たずライドマッハを手で押しながら校門へと向かう。

 だが、ふと頭頂に粒の当たる感触を覚え、そして手を翳して軽く舌打ちする。

 霞の一部が雨へと変わっていた。

 だが、奇妙なことに雨雲は浮かばす、ぼんやりとした白天には、確かに太陽が昇っている。

 

「ほら、俺雨男だから」

 その霞の向こう、背越しに、そんな少年の声が聴こえてきた。

「ったく、引き止めるならもう少しやり方ってもんが」

 ため息と共に、そちらへ、上座シンクローの方へと振り返った。

 

 ……そこには、包帯で顔面を覆って帽子を被りサングラスをかけた、車椅子姿の男がいた。

「どちら様!?」

 思わず後ずさるライドに、車椅子の男はサングラスと包帯の一部を取り外した。

「ただのコスプレだよ。ツインマキシマムの弊害含めて、それほど重症じゃない。ライダー学園は医療技術も最新なんだ。生き残ってればそう簡単には死ねんさ」

 なるほど、茶目っけある目と愛嬌ある鼻筋は、確かにシンクローのものである。

 

「ただこうしてオーバーにして君の同情を買えば、引き留められるかと思ったんだけど」

 サングラスのツルを手で遊びつつ、トーンを落として言った。

「決意は、固いみたいだ」

 ライドに自覚は無かったが。

 シンクローの目に映るライドの表情は穏やかだ。

 

 かつては常に何かに追い立てられているような気忙しさと鬱屈を抱いて日々を過ごしていた彼だが、今では肩の荷が下りたかのように、余計な気負いを感じさせず、余裕もある。だが、シンクローの言葉にも、その眼光が揺らぐことなく、静かに光を湛えている。

 

「やるべきことは、果たしたからな」

 ライドは言った。

「これから戦いは本格化する。そこで君に抜けられると、手痛いんだけどね」

「だからこそだ。もしこのタイミングを逃せば、あいつにドライバーを返してやれなくなる」

「けどね。すでに世界の滅びた君が、ライダーであることを自ら手放して学園を去るってことは」

「あぁ、()()()()()()()()()()()

「……彼女にしても、君の導きはまだまだ必要だと思うよ」

 シンクローが目で促す先、雷寮の方角より、ライドに追い縋るように走ってくる広子の姿があった。

 寝巻から慌てて着替えて飛び出したものだろう。普段からは考えられないほどに整わぬ身嗜みのまま、前後に揺れる手の中に、ライドの移譲したドライバー握られていた。

 

「なんっっですかコレェ!?」

 追いついてくるなり、開口一番に頓狂な声音で問いただす彼女に、ライドは呆れて息を吐く。

「添え書きに書いてやったろ。それは元々、お前のもんだ。悪かったよ、ずっと預かってて」

「そんなんで納得できるもんですかッ! だいたい私には、ダディから預かったデンセツシューターが、インリデンがあるんですって!」

「そのシューターとドライバーが、元々ニコイチなんだよ。だからお前のフォームチェンジに、俺も連動した」

 シンクローはその横で、サングラスをかけ直した。

 

「で、そいつらに使われているのは、片や失われた世界の技術……いわばロストテクノロジーだ。その内の何に由来するかは知らないが、奴らの盾を破ったのも、それが関わっていると見て良い。上手いこと併用すれば、きっとディサイダーズへの切り札になる」

「でも、だからって急な」

「諦めろ。俺はもっと急だった」

 シニカルな笑みを浮かべるライドだったが、広子の側は、なお納得できていないようだった。唇を引き結び眉間に皺を寄せ、スカートの裾を駄々っ子よろしく掴む。

 

「だったら、せめて何か言い残すことはないんですか!?」

 ややあって、沈みかけていた目線を持ち上げた広子は、そう問いかける。

「……遺言じゃねぇんだから」

 軽く目を見開いてから、何かを取り繕うように、ライドは苦笑する。

「私は清純で寛容なんで、こんな時の皮肉悪態、お説教ぐらいは受け入れてあげますよ」

 と彼女は胸を反らす。

 

 あー、と声を伸ばした彼だったが、

「一個だけあったわ」

 と宣い、広子へ向けて身を翻した。

 

「清純で寛容なんて言葉からは程遠い言動の数々、半歩退くには我が強く、他人に信念や世界を委ねると言いつつテメーは時代から逆行したかのようなこだわりを捨てきれない」

 一個と言うには、あまりに多くのことを列挙し好き放題にまくし立て、ライドは広子に顔を寄せた。

 

「そんなお前に、どこの誰が乗るってんだ、バーカッ!!」

 と、子供じみた罵声を浴びせかけた。

 

「なっ………なななぁ!?」

 自分でも予期しえないあまりの怒りに、声を震わせるほかない広子に、微笑と共に、

「だから自分を乗りこなせよ。お前以外に、お前の手綱や運命を握れる人間なんて、いやしないんだからな――詩島広子」

 

 踵を返し、あらためて校門へと向かっていく少年に、

「ライドさん」

 と、シンクローは最後の言葉をかけた。

「またいつか」

 と。

 

「良い言葉だな」

 顧みることなくその別辞を受け入れ、片手を軽やかに持ち上げたまま、彼は学園を去っていったのだった。

 

 ~~~

 

 門を出ると、そこから先は濃い銀色の霧に包まれていた。

 顧みようともすでに何処から来たかは定かではなく、何処へ行くのかも分からない。ただマシンに乗って、ゆるやかに進む。

 

 その途中、誰かとすれ違った。

 霧が濃すぎて 男か女かもわからない。

 ちらりとその影を目で追いながら、ライドは察した。

 

「そうか――あいつが、噂の……」

 

 去りゆく自分とは逆に、学園の方へと向かっていく彼ないし彼女。おそらく未だ、何者でもない者。

 だが今後、学園を導いていくことになるであろう特殊な存在。

 

「まァ、あとは頼むわ」

 と、聴こえることのない言葉を霧中に投げかけ、自身は前へと進む。

 

「大丈夫さ」

 隣で、誰かが囁いた。

 己の先達か。レインコートで頭から下を覆い、さらにその中で船員の帽子をかぶる、奇特な格好の青年。

 誰でもない者。『()』とも言うべき者。おそらく『彼』の中に溶け込み、同じ存在となる。

 

「その雷鳴が絶えない限り、矢となって空を飛び続ける限り、きっとそこに、答えも意味も在る。たとえその光が、他人からは視えなくなってしまっても」

 

 海などないのに聴こえる、かすかな漣の音と共にその未来(ミライ)を告げる影。

 その影にライドは、皮肉げに眉を吊り上げ、不敵に笑う。

「見つけてもらう気なんざねぇよ。待つ気もねぇ。ただ俺は――飛び続けるだけだ。自分の世界から放たれた、あの時から、ずっと」

 と返す。

 

 影は頷き、それに合わせて『しじまの音』はより強いものとなっていく。

 やがて霧は彼らを呑み込み、何者さえ残らなかった。

 

 ~~~

 

「広子ちゃん?」

 シンクローの声に、しばしぼんやりと中空を見上げていた彼女の双眸に、生気と正気が戻ってきていた。

 

「えーっと……」

 戸惑うように愛想笑いを浮かべた広子はおずおずと

 

「なんで私達、ここに来たんでしたっけ?」

 そう、尋ねた。

 

「……」

 サングラスで目元を隠し、帽子を深く被り直したシンクローは深く呼吸をし、震える呼気を抑えてから

「それ、見せてくれるためじゃない?」

 と彼女自身が手にしたドライバーを指で示した。

 

「あ、そうでしたそうでした! やっと完成したのをダディが送ってきてくれたんですよ! だから急いで披露しに来たんでした!」

 目まぐるしく表情を転じて、無邪気に喜び舞う広子に、

「おめでとう。じゃあ、インリデン2ndフォームってところかな?」

 シンクローは、冗談めかしく言う。

 だが、広子は手足の動きを止め、丸くして目を彼へと向けた。

 

「どうかした?」

「えーとですね、なんかしっくり来ないって言うか、ふと頭に浮かんだことがあるって言うか……その」

 

 自分でも言葉として表せないことをもどかしげに、拙く紡ぐ詩島広子は、やっとのことで問いをかたちにした。

 

 

「名称変更って、今からでも出来ます?」

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