学園仮面ライダー ~インリデンとライド 乗り手求めて多重世界~ 作:大島海峡
「トゥ!」
短い呼気と共に、猪が飛ぶ。
シートに掴み掛からんとしたカリュドーンのフライングプレスを回避して、空の座を振り回して、インリデンなる『仮面ライダー』はターンする。
「くそっ、なんなんだよ! ショーブしろショーブ!」
何度とも知れないその小回り切り回しに、起き上がった次郎丸厚は地団駄を踏む。
「いやぁ、取っ組み合おうにも手もない足もないもんで」
などと悪びれもなく吐かす少女。
(仮面ライダーインリデン……レーザーと同じタイプか)
樹上の少年は冷徹にその様を観察した。
鳥獣だの2等身のゲームキャラだの、それこそバイクや車などがライダーを名乗る時分。非人間型のライダーなど珍しくもない。こと、この世界においては。
「でも、攻撃手段はちゃんと用意していますっ!」
そう嘯くインリデンの荷物から、飛び出たシグナルバイクが飛び出た。そのままの勢いで、詰まることなく銃型のデバイスへと自ら飛び入る。
〈Legend in Ridden! Blade!〉
男性的とも女性的とも聴こえる、甲高い音声が轟く。
ゼンリンシューターにも似た装備に嵌め込まれたのは、青を基調としたバイクの模型。
その学園の者なら、多くは基礎知識として知っている。媒体それ自体は、ドライブの世界におけるサポートメカ、シグナルバイク。造形は、ブレイドの専用マシン、ブルースペイダーだった。
そして畳や
それは、まさしくそのシグナルバイクの姿そのものである。
たが原典と異なるのは、フロント部分がカブトムシの戦士――仮面ライダーブレイドのマスクを象っていることだった。
〈サンダー〉
鹿をデフォルメしたエンブレムが宙に浮かびあがり、フロントへと吸い込まれる。
そしてインリデンは前輪を持ち上げてウィリーを披露した。高速回転するその前輪から電光が迸り、カリュドーンへと向けて注がれた。
「おわっ」
悲鳴じみた声をあげて、次郎丸は後ずさる。
それを見て気を良くでもしたのか、得意げな呼気とともにマフラーからエンジン音が小気味よく聴こえて来た。
「さっさとカタをつけないと、授業に遅れますよ」
と、淡々と言った不二は、地面に光物を滑らせた。それは私物らしき手鏡だった。
「タマにはマシなことするじゃねぇの、不二!」
その意を察した次郎丸は荒々しく彼女を誉め、ベルトのデッキからカードを引き抜き、そして胸部の猪の口を開けた。
〈アドベント〉
そしてその口を閉じた瞬間、置かれた鏡から、その鏡面をはるかに超える怪物が飛び出てきた。
青い鋼のボディを持つ猪のミラーモンスター、シールドボーダーだ。
それは鼻息荒くインリデンのボディにタックルを仕掛けた。
「きゃあっ……!?」
悲鳴を発しながら横転する彼女が、少年の居る樹の根本まで滑って来た。
「に、二体一は卑怯ですよ!?」
(どっちだ?)
非を鳴らしているのは、陰助した不二に対してか、それとも横槍を入れてきたシールドボーダーなのか。
「るっせぇ! これがオレらの世界の戦い方なんだよ!」
と、頭に血がのぼってこそすれ、真っ当な返しをした次郎丸は、さらにおのが子飼いの背を押し、
「おらっ、もう一発食らわせてやれ!」
と鋭く命じる。
内心はどうあれ、契約で結ばれている以上シールドボーダーに選択肢はない。
足裏で地を擦りながら、肩をいからせて彼女に向けて再び突っ込んで来た。
少年は樹上、溜息をこぼす。
そして、自らの銃器に黄色いアイテムを滑らせた。
〈ヒッサツ、フルスロットル! シューター!〉
ミラーモンスターの進路を、撃ち出された『STOP』の四字が妨げる。
それに触れた彼は、麻痺したが如く、その場から動けなくなった。
「あぁッ!?」
カリュドーンの首が、不二の目線が、その桜花に埋もれた影へと振り向けられる。
「喧嘩なら余所でやれ、人を落とす気か」
そう冷たく言い放った少年は、実際にそうなる前に大地に降り立つ。
「シグナルトマーレ……ゼンリンシューター……」
どこに目がついているかは知らず、インリデンは自らの装備に酷似した一式が少年の手にあるのを認め、反応した。
「テメェッ、ライド! いつもいつもジャマばっかりしやがって!」
「いつもいつも突っかかってくるの間違いだろ、猪突野郎……つか、良いのか?」
「あぁ!?」
「そうこうしてるうちに、来そうだぜ?」
そんな問答を続ける少年たちの裏手、なお醒めぬ主人の激情に触発されてか、荒々しく制止を破ったシールドボーダーが、少女へ向けて進撃を再開する。
それとなく、ライドと呼ばれた少年は彼らと距離を置いた。不二も、その彼の動きに倣った。
――刹那、その場に限定的な黒雲が覆い、その範疇で雨が激しく降り注いだ。
周りが難を逃れ、より遠巻きになった。
「うわっぶ!」
と雨水を頭から被ったカリュドーンはうろたえ、
〈ウェザー! マキシマムドライブ!〉
そして轟音と雷光が、少女の前に落ちてきた。
視界を焼くほどの眩さに、一同は思わず顔を背ける。
だがそれが収まった時、シールドボーダーの突進を正面から受け止める白き戦士の姿があった。
侍の髷を想わせる、後頭部に垂れる装飾。黒きバイザー、その奥で明滅する赤く鋭い瞳。
細くしなやかな腰にはロストドライバーとガイアメモリ。その下の辺りには太鼓のようなものが取り付けられ、どのパーツもメカニカルに統一されている。
雷神像を機械化させたかのような印象を、見る者に刻ませる。
魔猪の牙を掴むその掌から、霞のごとき白煙と電光が漏れていた。
「そこまで」
その只者ならぬ佇まいから想像もつかない、やわらかな男の声が、その鎧の内より響いた。
「次郎丸、彼を戻して。ほら、授業に遅れるよ」
そう促されたカリュドーンは、隠すことなく舌打ちした。
だが、その諫めを容れた。頑なに退かない男が、言葉だけでミラーモンスターを下がらせ、変身を解除した。
「……行くぞ」
そして不承不承という体で、不二を伴い大股で去っていく。
肩をすくめて見送ったガイアメモリの戦士は、インリデンの側を顧みた。
「編入初日から、大層な立ち回りだね、君」
と誉めているのか咎めているのか分からない調子と共に、銀色に金端子のガイアメモリを引き抜いた。
色を失った装甲が、長身の少年から剥がれ落ちていく。日が差し、雨が上がる。
「お前、雨どうにかなんねーの」
わずかに避け損ねた濡れ髪を払いながら、樹上にいた少年は苦言を呈する。
「悪いね。俺、雨男だから」
白き戦士の素顔は、さながらうねる雲のごとく、ウェーブの緩くかかった髪を持つ同じ年頃の少年だった。
ライダー体と同じく白い特別仕様のブレザーと赤い腕章は、エリート感を醸しているし、どことなくインターン中の医学生的な風情でさえある。
いつもの、こちらの扱いと距離感を知り尽くしたかのようなフラットな調子で返す。
周りに合わせるように変身を解き、人型に戻った少女は、どんぐり眼をパチクリさせ、長い睫毛を上下させ、そんな二人の少年を交互に見やる。
その視線に気が付いた、ウェーブの少年は微笑と共に手を差し伸ばした。
「挨拶が遅れてすまない。君の出迎えと案内を仰せつかった。ガイアメモリ科二年、風紀委員の
ナスカ、ファングと並んでT2ガイアメモリで誰しも妄想する奴。
なんならハーメルンのどっかの作品に多分もういる奴。