学園仮面ライダー ~インリデンとライド 乗り手求めて多重世界~ 作:大島海峡
ライダー学園。雷寮、ラウンジ。
学生食堂も兼ねたそのスペースには、その寮に住まう生徒たちの溜まり場である。
世界を救うための、あるいは自身の世界が直面する問題に対して建設的な議論を重ねる一方で、そうでない時間潰しの雑談も行われている。今は、それがピークに達する昼休憩だ。
空中や足下を彼ら若きライダーをサポートするメカや生物などが、鳴き声や駆動音を鳴らしながら行き交うのが、そのいつもの光景である。
学中学外でそうした施設を切り盛りするのは、何らかの理由で己の世界を逐われた人々であるが、誰の顔にも悲壮感はなく、瞬間瞬間を懸命に生きている感があった。
「いっただっきまーす」
青いソースのかかったオムライス。赤いホイップクリームを浮かせたウインナーコーヒーを並べて、手を合わせる、中性的な若者。少年的な所作に少女的な目鼻立ち。
自らの目を覆っていたゴーグルを外したその学生の横で、到底学生には見えない風情の長身の男が、むっつり腕組みしていた。他の生徒の一割半増しには
「
そう問いかけた若者に、重々しい口調で白咲
「無用」
と瞑目した。
「先のライダー大戦では多くの敵味方が互いに傷つき、その存在が失われた。その滅びを悼み、只今食を断っておる」
重苦しい空気を醸しつつそう言い、手を重ね合わせた。
「そっか……」
相手方……
「ずいぶんと、被害が出たらしいね。僕は基本的にこいつらと一緒に根無草だけど、心が痛むよ」
そう言うノコは指先で、宙を平面的に漂う人工生命体ケミー、その一種たるタイムロードを小突いた。
「故に、今はこれで栄養を賄っておるのよ」
そう言って取り出したヒマワリロックシードを、自身の戦極ドライバーにセットした。
「…………それ、断食って言う??」
甚だ疑問なノコであった。
「あぁー、朝っぱらからヒデーめに遭った」
と、嘆きながら次郎丸がラウンジ入りする。注文した巨大ナルト付きラーメンを、トレーで運びながら、
「あ、お疲れ様、ジロ先輩」
「おう、ノコか。相変わらずビミョーな色味のモン喰ってんなぁ。えぇ?」
「……なんか、機嫌悪くない? ビミョーに」
眉間にシワ寄る次郎丸をこれ以上刺激しないよう、その後ろでサラダを盛る鉄耶不二に問うた。
「瑣末な問題ですよ。ただ、新入りにしてやられただけで」
「サマツじゃねーし、してやられてもいねぇっ」
「それって、あのウェザー先輩たちといるあの見慣れない女子?」
「なにっ」
ノコの指した方を勇んで顧みる次郎丸。だがその拍子に肘が不二の身体に当たった。鋼の感触に逆に彼の方が弾かれることになり、トレーが傾き、ラーメン丼が跳ね上がる。
そしてひっくり返って、綺麗にスープ、麺、ナルトに丼という順に、彼はせっかく洗って乾かし整髪し直したその頭から引っ被ることになった。
「熱ッツェェエ!?」
という断末魔が、その場に響く。
〜〜〜
何やら叫ぶ声が聴こえたが、この学園とラウンジにおいては騒動など日常茶飯事であるとのこと。気にするには及ばないようだ。
異形異能だらけの中、その三人組はひときわに目を惹いている。
一つには、大部分のスペースを占める少女の荷物と、そしてもう一つは上座シンクローの用意した山盛りのパスタがためである。二人が揃って頼んだミルクティーとカツ丼も、それなりにインパクトと量があるが、それさえも霞んで見えた。
「――OK。それじゃ、もう一度説明させてもらいますね」
その中で気を改めて、少女は咳払いした。
私の名前は
超カッコいい仮面ライダー、マッハの詩島剛と旧姓佐伯令子の一人娘として世界に生を享けました。
もうその時には私の周囲や世間にもマッハ以外にもたっくさんライダーがいて、そのお手伝いがしたいと思って、私もその道を目指しました!
したら、私の世界が滅びの現象? ビッグクランチ? ってのに呑まれかけてるってんでもー大変!
そこで、ジョージ狩崎とハーレー博士の開発したこのデンセツシューターを使って、様々なスーパーマシンに変身するビークル型ライダー、インリデンのテストパイロットに志願しました。
そしてより多くのライダーの集まるこの学園世界に渡り、私にまたがって私たちの世界を救ってくれるスペシャルなライダーを捜すことこそ、私の――
「興味ねぇ」
――バッサリ、切り捨てられた。手渡した案内冊子は、突き返された。
「関係ねぇし、意味もねぇ。お前が誰と誰のガキで、どこの誰がお前をあのトンチキなライダーにしたのかとかな。大体、この学園に一体何人『十八歳の誕生日を迎えた天空寺タケル』だとか、『普通の高校生常盤ソウゴ』だとか、自称その息子だの娘だのだとかがいると思ってやがる?」
そう言いながら完全に横に向け、ミルクティーを飲んでいる。
確か、ライド、と呼ばれていた樹上で観戦していたあの少年だった。
整髪料の匂いのしないわりに、整った髪。制服の下に、白いフード付きのパーカーを着込んでその分膨れてはいるが、それでも十分に華奢だ。
ぶっきらぼうな眼差しの底に、形用しがたい光が沈んでいる。さながら、ダムの水底に沈んだ廃村の如く。
……だが、どうしてだろう。
どことなく、懐かしさならぬ、既視感、もとい既知感のようなものを覚えてしまう。
「なんなんですか、このヒト?」
とはいえ、頭から否定されては、さしもの広子も心穏やかではいられない。鼻白んだ様子で、指を差してシンクローに訊いた。
「あー、そいつはね」
と言いさしたシンクローの眼が、ライドとかち合う。明確に、緘口を強いる意が込められている。
「そいつは、ライド。仮面ライダーライド! 憧れに使役される存在から、己の意思で戦い、人々を護る進化を望み、仮面ライダーの名を掴んだ戦士さ!」
……ごまかしか、本気でそう信じているのか。シンクローが両手をいっぱいに広げて讃えると、当の本人は思い切り咽た。
「はぁ、そりゃまぁライダー名に『Ride』なんてつけるぐらいだから、さぞ自信がおありなんでしょうねぇ」
「そっちの意味じゃねぇっつの! コードネームが必要だってからって言われて、めんどくせーから
「はは、前田慶次の『だいふへんもの』のエピソードみたいだな」
パスタをたぐりながら、よく分からない茶々を入れる『医学生』に、広子の興味と目線は移っている。
「えっと、そっちはやっぱり風都の……?」
「うん。でも、『
五文字分、手を下げてみせながら、おどけてみせる。
ここに至るまでも、懇切丁寧に学校を案内してくれた。その紳士的な物腰と言い、あのカリュドーンとやらを圧倒した実力といい、まさに自分の求める
息を吸う。吐く。鼓動が整い、舌が自由に回るまでそれをくり返してから、意を決して広子は口を開いた。
「あの、よければ私のパートナーに」
「あ、ごめん。間に合ってる」
……そして、一言下に断られた。
見た目や物腰に反して、そこは中々にシビアな人らしい。
「や、申し訳ないんだけど専用マシンあるんだよね。何ならここに呼ぶ? リボルギャリー」
「やめろバカ! 潰す気か!?」
「っていうか、系統同じだし、君らで組んだほうが良いと思うけどなぁ」
ぐすんと涙ぐんで落胆していた広子はその助言を受けて一転、復活して身を起こした。
「あ、やっぱりそうなんです?」
「……さぁな」
「どうりでシグナルバイクとゼンリンシューター持ってると思いましたっ」
同好の士を見出したと思った広子は、ライドの前に回り込んでその手を取った。
「さてはライドさん……ダディの……詩島剛のファンとか後継者ですね!?」
と。
――直後、彼と彼女の間を流れる空気と時間が、凍り付いた。
これがウワサに聞くグローバルフリーズか、と言われればさもありなんと錯覚しそうなほどに、ライドの表情は虚無のまま凍り付いた。
「あ……いきなり地雷」と、その後ろでか細くシンクローが呟いた。
「もう一度言うぞ」
その表情のまま、彼は広子の襟を絞り上げた。
「俺は、お前がどういう世界の何者かなんて、どうでも良い。だが、俺の前で……二度と、
そして少女を押し飛ばすと、踵を返してラウンジを出た。
「ごめん、ちょっと提案を急ぎ過ぎた」
その激発ぶりに、軽く動揺を隠しきれないでいる広子の傍らで、シンクローは嘆息した。彼女が剛の名を持ち出した瞬間からどこか、この事態に至るまでの流れを予測していたかのような口ぶりだった。
「なんなんですか……あの人」
もう一度先と同じ質問をする広子に、彼女が持参して来た『インリデン取扱説明書』を開きつつ、シンクローはほろ苦く微笑した。
「気を悪くしないでほしい。あいつも、色々と扱いの難しい奴でね」