学園仮面ライダー ~インリデンとライド 乗り手求めて多重世界~   作:大島海峡

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5.不死鳥と雷弩

 ――気を悪くしないでほしい。あいつも、色々と扱いの難しい奴でね。

 シンクローはそう窘めたが、広子としては納得がいかない。

 

(ヒーローにとって大事な大事なオリジン――ビギンズナイトを、あんな風にケンもホロロにッ!)

 と、言葉にせずとも静かに憤怒を燃やす。

 

 ライド――あんな人は、乗り手(ライダー)にふさわしくない――とは思うも、頭から否定はしない。

 シンクローの言う通り、あそこまで性格が歪んでしまった理由や出自が何かしらあるのだろうし、人を、ライダーを見定めるために、自分はこの学園に入ったのだから。

 

 ――この世界は、世界として未熟である。

 とは、自分の世界のジョージ狩崎の提唱である。

 

 ――この世界はおおよそ、各ライダーの基本世界を踏襲した時間軸となっているが、おそらくは主題となる『ライダーの物語』が存在しない。G-3、ナイト、カイザ、あるいは詩島剛氏のマッハ――彼らはいつの間にか当然のようにこの世界に存在し、現実と虚構の間を彷徨いながら、曖昧なままにそれぞれの敵と延々戦ってきた。対して、クウガは長野県の一部地域の伝承、あるいはそれをモチーフにした漫画のキャラクター。アギトは古代神話の一節に過ぎず、龍騎、ファイズ、ブレイドは戦いの過程において脱落し、ドライブはグローバルフリーズ時にロイミュード002と相討ちになっている。

 

 ――だが、それも限界に来ている。この銀河の終焉……ビッグクランチはおそらく近い。

 

 ――既に存在しているライダーではもはや物語たりえない。我々の手で、強固な存在感と強大な力を持つ仮面ライダーを見出し、

 

 だから、自分の世界には、必要なのだ。

 

 インリデンと共に時を超えて空を駆けて、この世界(ほし)のために戦える主役を張ることのできるライダーが。

 父こそ、その資格を持つ唯一のライダーだと思っていた。それに足る物語性、存在感(キャラクター)を持ち得ると。そしてこの人に任せておけば大丈夫という絶対的信頼感があった。

 だがその父でさえ、出来ないことならば――世界の外に、求めるよりほかなかった。

 

 そのための、知識知見が、必要なのだ。

 

 願わくば、あるいは、自分こそがそれであれば――と思ったことは一度ならず、広子にもある。

 だが、だめだ。インリデン単騎では、彼女では……

 

「バイクは、ライダーを引き立てる、ものですから……」

 唇を閉じ、奥歯を占めて呟く。

 

「てめぇ、どういうつもりだよ……?」

 そして己のものではない呟きを耳が拾ったのは、ちょうどその折だった。

 見れば校舎の裏手にある体育館。さらにその裏口より覗き込めば、洗練された施設とは裏腹に、どこかの競技会場という内装の中、対峙している三人の男女の姿がある。

 

 すでに見知った三人だ。

 次郎丸厚と、鉄耶不二。そして彼らと向かい合う少年こそ、ついさっき剣呑な別れ方をしたライドだった。

 

「なんのこったよ」

「とぼけんな。あの新入り、なんで庇った?」

「わざわざこんなところまでヒトを引っ張ってきて、訊きたいことがそれかよ。てかお前、醤油の匂いとれてないぜ。こんなところで油売ってないで、さっさとシャワーでも浴びて来いよ」

 

 息巻く厚に、ライドは冷笑を返す。

(このシチュって……いわゆる校舎裏へのYOBIDASHI……! まさか現実にお目にかかるとはっ)

 一触即発の雰囲気に、物陰より固唾を吞む広子。

 

 だが顔を真っ赤にして鼻孔を膨らませ、感情爆発寸前の次郎丸の前に、不二が割って入った。

 

「貴方が、あの樹の上にいたのは偶然だとでも?」

「あぁ。で、お前らが俺のサボリの邪魔をしたから、邪魔し返した……それ以外の何があんのよ」

 

 声とトーンを落として、ライドはなお傲然としている。

「もう良い。前々から気に食わねぇんだ。だったらここでやることつったら一つだろ」

 探るような目つきの不二を押しのけ、カードデッキを取り出した次郎丸が、窓ガラスにそれを向ける。

 そこに写し取られたVバックルがその腰に投影され、実体化。

「変身……!」

 己の額にデッキを打ち付けてから、次郎丸厚はそれをバックルの中へとスライドさせた。

 彼自身と、カリュドーンとしての鏡像が重ね合わさる。

 

「良いのか? こんなところでケンカなんざ」

「残念ながら、今朝の件と異なり、届け出はすでに提出済みです」

 これ見よがしに視線を左右に配るライドに対し、平らかな声音で不二は答える。

「不意の遭遇戦もまた、ライダーにとっては避けられざるシチュエーション。その折の対応力も、求められる資質。よってこの学園では、ある程度の私闘は認められている。そしてその戦闘の経過結果は成績に反映され……それによっては退学もありうる」

 

 え、と。

 喉元から漏れそうになる声を、広子は己を律し、必死に抑えた。

 

「で、お前もそれに一枚噛む、と?」

 カリュドーンの分厚い体躯越しに、ライドは不二に問う。

 彼女は睫毛一本動かさず、

「貴方に、忸怩たる思いを抱いている……その一点だけは、私も次郎と同意見でしてね」

 と宣い、黒い革手袋を右手に嵌めた。その手の内に二本のボトルを包み込んで、ややぎこちなく上下させる。

 もう一方の素手で、レバーのついたドライバーを握り、そして己の腹部へ――すべて据える。

 

〈エボルドライバー!〉

〈不死鳥!〉

〈ロボット〉

〈エボルマッチ!〉

 

「ここは、戦場です。各々の世界を救うために集まった()()()()たちの……戦意のない兵士は、居るだけで迷惑極まりない」

 静かなる非難と共に、彼女はその毒々しい赤と青のドライバーのレバーを回す。

 それはさながらオルゴールのごとく。

 所謂『第九』のような荘厳な音楽が鳴り響いた。

 それに合わせて彼女を変身させるための、煙突のような装置が組み上がり、火柱を噴き上げ、かつパイプが鳥の両翼のような各セクターを繋ぎ合わせて彼女を囲う。

 

〈Are you Ready?〉

 渋みのある男の声が、挑発的に覚悟を問う。

 

「変身」

 己の顔の前に突き出した不二の右手が、キリキリという異音とともに人ならざる不規則的な挙動で蠢く。

 それがピタリと止むと同時に、不二を囲う装置は彼女を閉じ込め、そして不死鳥の戦士として転生せしめる。

 

 黒き鋼に、紅蓮の肩翼、鳳凰の尾羽。そして半透明のマスクでシャープな資格ユニットを覆い込む。

 ややあって、吹き出た毒々しいガスがそれを包み込み、その上からをベルトと同じ色味へと塗り替え、

〈ファーハハハハ!!〉

 そして、嘲笑が響く。

 

「仮面ライダーマッドグリス――それ出したからには、遊びじゃ済まんぜ」

「だから、そうだってんだよ……! とっとと変身しやがれ! それとも、生身でボコられてーのか!」

「ライダーのセリフじゃねぇな」

 

 呆れながら素通りせんとしたライドに、その女性ライダー……マッドグリスは、ただ静かに、

「確かに――座興かもしれませんね。救うべき価値のない世界に生まれた、貴方にとっては」

 と耳元で呟いた。

 

 数歩、さらに先に進んだライドは、彼女らに背を向けたままに、足を止めた。

 途端、その空間一帯を寒々しくも、ぴりりとくる空気が占める。ラウンジにて広子が彼から感じたものと、同じ種のものだ。

「安い挑発だな」

 と、ライドは静かに言った。

「えぇ、でも効くでしょう」

 対する不二も余計な感情を削ぎ落した調子で、返した。

 

「あぁ、あぁ……その通り。ごもっとも……だからその挑発、乗ってやるよ」

 そう言い放つや、彼がその手にドライバーを持つ。

 

 あまりに目に慣れ過ぎたその形状を目の当たりにした瞬間、広子の心臓は大きく跳ね上がった。

「まさか……」

 早鐘のように、鼓動が収まらぬままに、彼女は呟く。

 

 バイクのマフラーをモチーフにしたそれは、まさしくマッハドライバーそのもの。

 否、バックルの前方部分が赤錆色に置き換わっている。

 

〈シグナルレジェンド!〉

 上へと持ち上げたソケットに、黄金色のシグナルバイクを装填する――戻す。炎ではなく、黄金色の電光が明滅をくり返すさまが、エナジーバックファイア内に表示される。

 

「変身」

 一片の陽気さえも感じさせないまま、暗澹な口調でライドは呟く。握り固めた拳でバックルを叩く。

 

 稲光が彼の顔を照らし出す。その陰影の加減か。泣いているようにも怒っているようにも見える顔が、肩から下の肉体が、何処ぞより転送されてきたパーツによって閉ざされていく。

 

〈疾風・迅雷・いずれも伝説! Kamen! Ride! Ride! Ride!〉

 その基本形は、やはり父――仮面ライダーマッハに似てはいる。

 が、緑色のボディに、ピンク色の複眼、黒いヘッドを持ち、背面に後輪(コウリン)

 

「そしてお前らには後悔させてやる。この俺を乗せたことをなァ!」

 その仮面ライダーは……溜め兼ねた激情をすべて込めて、烈しく吼えたのだった。

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