学園仮面ライダー ~インリデンとライド 乗り手求めて多重世界~ 作:大島海峡
〈ライダー三名の戦闘態勢および意思を確認。専用エリアへ転移します〉
ふと頭上から、不二以上に無機質な女性の声が響く。
すると、横合いから銀色のオーロラの壁が現れ、三人を――否、広子を含めた四人を、廃工場のごとき場所へと転移させた。
「えっ、えぇっ」
何かまずいことになった、巻き込まれた気がする――そんな予感に、咄嗟にドラム缶の裏へと、広子は我が身を押し隠した。
その前で、三名のライダーは誰が言い出すかを問わず、戦いの火蓋を切った。
仕掛けたのはやはり、カリュドーンだった。
前屈姿勢で真一文字に飛び込み、周囲の材木資材などのオブジェを巻き込みながらライドを砕かんとする。
巻き上がる粉塵の中、カリュドーンは身を起こす。
その横、至近。一瞥もくれず、ライドのゼンリンシューターがこめかみに押し当てられる。
そして躊躇いなく、トリガーを弾いた。
「っぶね!」
獣の反射神経でもって、次郎丸厚はそれを回避する。
彼自身の攻勢は、最小の動きで容易くいなされたが、意図せず陽動の役目は果たしたようだ。
ライドの背に、低空飛行でマッドグリスが迫る。その手に兵器ツインブレイカーを嵌めて。
〈シグナルコウカン! カクサーン!〉
だが、彼は一顧だにしない。
狙いを絞る必要もない。ライドの背越し、ゼンリンシューターより打ち上げられた光弾は、雨となり、弾幕となり、彼女の奇襲路を塞ぐ。
急転回してそれをかわした不二は、身を捻りながら、翼を畳んで着陸する。
その間に、体勢を立て直した再突撃をする。
だが――おそらくは先と同じように――身の向きを変えてずらしたライドは、そのまま右脚を前に出す。
「だっ」
そのくるぶしの辺りに躓いた次郎丸が、虚空に浮かぶ。
〈ゼンリン!〉
落下までの、わずかな合間。その間に、彼はゼンリンストライカーを三度、カリュドーンへ叩きつけ、極め付きの一蹴りでもって飛ばす。
〈ホーク・ロボット・クリエーション!〉
次いで、両翼を展開したマッドグリスが、手早くレバーを上下させる。もう一方の手に管が連なり、それがホークガトリンガーを製造する。
唸りをあげて連射される無数の弾丸を前に、ようやくライドがその場を離れた。
そのまま天井間際まで飛び上がり、空駆ける不二は、地上に向けて斉射を続ける。遮蔽物間を抜けていくライドの足下が、列を作るようにして爆ぜる。
……だが、岡目八目というところか。観戦する広子には、彼女の意図がライドに命中させることではないことを察した。
その射撃に夜破壊の数々の内、当然硝子が散る。液体が漏れる。
「――なるほどね。やっぱオマエはイイ女だ、不二!」
次郎丸もその思惑を汲んだらしい。強い口調で言い切るや、デッキから一枚カードをドロー。自らの胸飾りに噛ませる。
〈アドベント〉
その語調とは裏腹の、平らかな声が廃工場に響く。
そして大振りに割られた硝子片の面より、鋭い牙が突き出る。青き獣が吶喊する。
ライドは避けるも、すぐその背の水溜りにミラーモンスター、シールドボーダーは沈み、また斜め前から突き出る。
鏡面は、彼の左右前後を挟み込むように砕かれ、配置されていた。
そこから先は、猪による追い込み猟である。
神出鬼没の往来、そしてカリュドーン自身による近接、上空からのマッドグリスの射撃によってライドの動きを徐々に封じ、移動範囲を狭めていく。
そして袋小路。
前門には猪。後門にも、鏡。猪。
主従完全に息の揃ったタイミングで、挟み撃ちを仕掛けた。
――が、時機を見計らっても、その速度にはバラつきがある。
まずライドは、背後のシールドボーダーの牙を掴み、真っ向から抑えた。数歩分押しまくられるも、その勢いを受け流し、青猪は前のめりに。その背の上を、ライドは滑って回る。その勢いで、カリュドーンの懐に潜り込む。マッハドライバーで言うところの、バーストイグナイターを連打し、二段階目までエネルギーを充填した。
〈カナリ! レジェンド!〉
地面に沿って掬い上げるようにして繰り出した手の甲に、マフラー型の装置が転送され、雷撃を逆噴射する。その勢いの先で集約されたエネルギーが、回転するタイヤのイメージ像を作って、カリュドーンの顎を捉えた。
――その力が発揮された間際、広子の手は知らず、まるで別の意思がそうさせたかの如く、デンセツシューターを握りしめていた。
そしてそのデバイスは、熱と光を帯び、引力めいた指向性を感じさせた。
次郎丸の身体が、浮く。
その中で、ライドは自身のドライバーに別のシグナルバイクを通した。
「あれは……!」
広子が驚く間もなく、魔法陣を描いたタイヤがバックルの内に収まった。
〈シグナルレジェンド・ウィザード! トテモ! ウィザード!〉
そう読み取るや否や、彼はシューターを滑空する不二に向けて発射した。
その弾種が変わる。弾道が変わる。
まるで魔術のように、不規則な軌道を描きつつ、マッドグリスの背に回り込んだ銀色の弾丸は、翼を撃ってその統制を奪う。
何度か壁に激突した後、彼女は地に臥した。
それに構わず、ゆったりした所作で、ライドは次なる『弾』――シグナルバイクをそのベルトとゼンリンシューターにそれぞれ込める。
〈シグナルレジェンド・オーズ! カナリ! オーズ!〉
シグナルキケーンをセットしたシューターの銃口から、弾というよりは円柱の、缶のごときものが勢いを失って転がり落ちる。
それがシールドボーダーの爪先を小突く。不審げに、かつぼんやりとそれを見下していた猪だったが、彼の足下でその金属片は肥大化し、みるみるうちに彼の背丈さえも凌駕する鋼鉄の虎に変異し、その爪で薙ぎ倒した。
「くっ……」
「舐めんじゃ、ねぇ……まだ勝負はついてねぇぞ!!」
よろめきつつ起き上がった両ライダーが、前面にライドを据えて、ボトルとカードを、それぞれの武器や装甲の装填口に差し入れた。
〈シングル・ツイン! ツインブレイク!〉
ツインブレイカーに、ロボットのスクラッシュゼリーとフルボトルを。巨大なロボアームが不二の手と融合し、そのままライドに届かんばかりに伸び上がる。
〈シュートベント〉
猪の胸部装甲にカードを挟めば、その口がより立体的に突き出て重火器となる。
〈ヒッサツ! フルスロットル!〉
ライドもまた、その間に基本のバイクに戻して虎の化身を消し、イグナイターを拳で連打することで、散じたエネルギーを磁場によって絡め取り、己一個に送り込む。
一身に集められたエネルギーが、さらにその腕を伝ってゼンリンシューターへ推移していくのが見て取れた。
関節部より吹き出る黒き油圧に勢いづいて、不二の剛腕が振り下ろされる。
猪の砲口より、丸太のごとき熱線が射出される。
〈レジェンド!〉
その間隙に、怖じずにライドは飛び込む。掠めた力の塊が、その外殻を掠めて削り、火を咲かす。
誇張無しの紙一重、寸毫の間を縫って、ライドは相手の攻勢を突破した。旋回する雷光が、一息に二人のライダーの胴を薙いだ。
刻まれる轍の中で、力の塊が収縮を見せた後、一気に爆ぜる。
その威風が、二人のライダーの外装を剥がし、一組の男女へと戻して転がした。
それが、果たし合い終了の合図となったか。
再び銀色の幕が広子たちを包み、次の瞬間には元の体育館とその裏だ。
「すごい……」
広子の口から感嘆が漏れる。
単純なスペックや、テクニックの差ではない。強いて言うなら、場数の
差。破滅と背中合わせの、捨て身。
(でも、どうして)
自分たちとさほど歳の違わないはずの少年が、そこまでの戦いが出来るのか。
一体、彼はどのような世界で、どれほどの修羅場を潜ってきたというのか。
――それに、と彼女は目を落とす。
未だ脈動のように明滅と発熱を繰り返すデンセツシューターへ。
「彼は問題の多い生徒だが」
と、彼女の背から声がかかった。
顔を上げた広子に、背後の上座シンクローは、苦笑めいたものを零した。
「それがある程度許容される理由が、あそこにある……教師陣や学園長を除けば、彼はおそらく、この学園でもトップクラスの実力者さ」
「……なんなんですか、あの人」
目の前で、少年は変身を解く。制服の内より白いパーカーを抜き取り、襟元を正す。
先と同じ質問を、だが今度は確信に近い直感を抱いて、広子は質す。
あのマッハドライバーに似た装備を鑑みれば。
誰ぞの面影を想わせる横顔と目元を見れば。
ここに至ればもはや隠し立てできないと悟ったらしいシンクローは、嘆息混じりに答えた。
「彼の名は、詩島雷弩。君と同じ……いや、君とは違う、『詩島剛』の子だ」