学園仮面ライダー ~インリデンとライド 乗り手求めて多重世界~ 作:大島海峡
1.金色の黄昏
――とある世界。とある可能性の果て。
二〇三七年。
闇の中、鉄錆びた扉をこじ開け、一組の男女がその中へと息せき切って転がり込んだ。
一人は未だ幼く十代の半ばにも達していない少年。もう一人はそのよりも一回り年上。親子と言って良い年齢差だが、両者は所謂叔母と甥の関係にあたる。
「ライド……貴方は、ここから逃げなさい」
呼吸が整い切らない間に、扉を引き戻しつつ彼女――詩島
「ここって、どこに……」
どう見てもその場所は当てもなく追い込まれた行き止まりのガレージであった。
そもそも、この世界の一体どこに、これ以上の逃げ場があるというのか。
嘆きにも問いかけに、霧子はその屋内の中心にあるオブジェ、それを覆う布を取り払った。
それは鉄塔にも似た、無骨な巨大な機械類であり、彼女たちの存在に反応してか、鈍い軌道音が響き始めた。
「もう間もなく、迎えがくる手筈になってる……これを守って、そこに落ち延びて……!」
そう言って渡されたのは、赤い
ロールアップ直後。マッハドライバー系統の、未だ名もなき最新型だった。
「よく分からない、けど……でも、逃げるんだったら霧子さんも一緒にっ」
少年――詩島雷弩がそう言いかけた、その刹那。
爆発音とともに扉が外より粉砕され、その残骸が土煙とともに、彼らの方へ倒れ込んで来た。
そして入り口の向こう側、無数に差し込む射光が、彼らの視界を潰した。
〈ダーッシュ!〉
野太い声と共に、その周囲を黄色に染まったシグナルバイクーーシグナルゴルドダッシュが駆け巡ってその所在と発見を、主に伝える。
そのほかにも、数多のシグナルバイク、ロイミュード、未知の錬成術で生み出された怪物たちが、そして量産型のダークドライブとネクストライドロンたちが、その施設を囲み、天地を埋め尽くしていた。
――その中心に、覚えの影が浮き彫りになっている。
まるで自らの権勢を誇るように手を挙げると、シグナルバイクたちがそれを祝福して花火を打ち上げる。
「子どもは親の失敗作……とは、よく言ったもんだ」
そしてそのもう一方の手に、煤けたドライブドライバーが――クリム・スタインベルトの成れの果てが、提げられていた。
〈逃げろ……霧子……ライド……ッ〉
ノイズと共に明滅するディスプレイを、転送したシンゴウアックスで男は両断した。
物言わぬ遺物と化したそれを地面に放り捨て、その上に、焼き切れた赤いネクタイをひらりと落とす。
それが意味することを悟り、霧子は長い睫毛を伏せ、震わせた。
「泊家総出で、ずいぶんと手間をかけさせてくれたね、姉ちゃん」
冷ややかに言うその影が、ゴルドダッシュを自らのマッハドライバーに取り込み、そして
「Let's 変身」
と、含み笑いと共に一体化する。
「剛」
様々な感情がない交ぜになった声音を、その影に投げかける。
「その名前は、もう捨てたよ」
自嘲にも似た調子で、影は返した。
「オレは自分の運命を受け入れた。結局、悪から生まれた存在は悪に染まるしかないってね」
影は、軍団の先頭に立ち、自らの姿をライドたちに晒した。
かつての白き騎士の姿はなく、その全身は金色に、そのバイザーは赤く染まっていた。
「オレのことは――ゴルドマッハと呼べ」
それは、もうすでに終わった世界の物語。すでにして摘まれた世界線。
彼――詩島雷弩にとってはすでに過ぎ去った顛末である。
それ以上でも、それ以下でもない。
たとえ今なお彼を苛む悪夢であったとしても、そこから醒める術は、すでに存在しないのだから。