学園仮面ライダー ~インリデンとライド 乗り手求めて多重世界~   作:大島海峡

8 / 34
後編
1.金色の黄昏


 ――とある世界。とある可能性の果て。

 二〇三七年。

 

 闇の中、鉄錆びた扉をこじ開け、一組の男女がその中へと息せき切って転がり込んだ。

 一人は未だ幼く十代の半ばにも達していない少年。もう一人はそのよりも一回り年上。親子と言って良い年齢差だが、両者は所謂叔母と甥の関係にあたる。

 

「ライド……貴方は、ここから逃げなさい」

 呼吸が整い切らない間に、扉を引き戻しつつ彼女――詩島霧子(きりこ)は言った。

「ここって、どこに……」

 どう見てもその場所は当てもなく追い込まれた行き止まりのガレージであった。

 そもそも、この世界の一体どこに、これ以上の逃げ場があるというのか。

 

 嘆きにも問いかけに、霧子はその屋内の中心にあるオブジェ、それを覆う布を取り払った。

 それは鉄塔にも似た、無骨な巨大な機械類であり、彼女たちの存在に反応してか、鈍い軌道音が響き始めた。

 

「もう間もなく、迎えがくる手筈になってる……これを守って、そこに落ち延びて……!」

 

 そう言って渡されたのは、赤い排気口(マフラー)にも似たドライバーを彼の掌に握らせた。

 ロールアップ直後。マッハドライバー系統の、未だ名もなき最新型だった。

 

「よく分からない、けど……でも、逃げるんだったら霧子さんも一緒にっ」

 少年――詩島雷弩がそう言いかけた、その刹那。

 

 爆発音とともに扉が外より粉砕され、その残骸が土煙とともに、彼らの方へ倒れ込んで来た。

 

 そして入り口の向こう側、無数に差し込む射光が、彼らの視界を潰した。

〈ダーッシュ!〉

 野太い声と共に、その周囲を黄色に染まったシグナルバイクーーシグナルゴルドダッシュが駆け巡ってその所在と発見を、主に伝える。

 そのほかにも、数多のシグナルバイク、ロイミュード、未知の錬成術で生み出された怪物たちが、そして量産型のダークドライブとネクストライドロンたちが、その施設を囲み、天地を埋め尽くしていた。

 

 ――その中心に、覚えの影が浮き彫りになっている。

 まるで自らの権勢を誇るように手を挙げると、シグナルバイクたちがそれを祝福して花火を打ち上げる。

 

「子どもは親の失敗作……とは、よく言ったもんだ」

 そしてそのもう一方の手に、煤けたドライブドライバーが――クリム・スタインベルトの成れの果てが、提げられていた。

 

〈逃げろ……霧子……ライド……ッ〉

 ノイズと共に明滅するディスプレイを、転送したシンゴウアックスで男は両断した。

 

 物言わぬ遺物と化したそれを地面に放り捨て、その上に、焼き切れた赤いネクタイをひらりと落とす。

 それが意味することを悟り、霧子は長い睫毛を伏せ、震わせた。

 

「泊家総出で、ずいぶんと手間をかけさせてくれたね、姉ちゃん」

 冷ややかに言うその影が、ゴルドダッシュを自らのマッハドライバーに取り込み、そして

「Let's 変身」

 と、含み笑いと共に一体化する。

 

「剛」

 様々な感情がない交ぜになった声音を、その影に投げかける。

「その名前は、もう捨てたよ」

 自嘲にも似た調子で、影は返した。

 

「オレは自分の運命を受け入れた。結局、悪から生まれた存在は悪に染まるしかないってね」

 影は、軍団の先頭に立ち、自らの姿をライドたちに晒した。

 かつての白き騎士の姿はなく、その全身は金色に、そのバイザーは赤く染まっていた。

 

 

 

「オレのことは――ゴルドマッハと呼べ」

 

 

 

 それは、もうすでに終わった世界の物語。すでにして摘まれた世界線。

 彼――詩島雷弩にとってはすでに過ぎ去った顛末である。

 

 それ以上でも、それ以下でもない。

 たとえ今なお彼を苛む悪夢であったとしても、そこから醒める術は、すでに存在しないのだから。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。