学園仮面ライダー ~インリデンとライド 乗り手求めて多重世界~ 作:大島海峡
不利なはずの勝負は、その劣勢側の勝利で終わった。
「お疲れお疲れ」
そのことを、上座シンクローは格別驚きもしていないようで、体育館を出た少年、詩島ライドを迎えた。
「見てたんなら手伝え」
と、ライドは忌々しげに苦言を漏らす。
「今来たばっかだよ、彼女と違ってね」
と広子に目配せする。怪訝そうに、眉を顰めたままライドは彼女と視線をかち合わせた。
並行世界の、詩島剛の息子。
一応年齢的には、彼は兄に相当するのだろうか。
いや、そもそも自分と彼とは同位の存在なのか。
様々な憶測と感情が混じり、立ち竦む彼女に、
「ふん」
……あからさまに、小馬鹿にし切った目を形づくり、鼻で笑って目の前を横切って行った。
(うん、ない。あれだけは、ない)
色々思うところ、感じるものはあるが、絶対に彼だけは己の乗り手に選ぶまいと、密かに青筋立てて心定める、広子であった。
「あの野郎、いつか絶対潰す」
と、残された負け犬は遠吠え。本気では無かったのか。存外に平気そうな不二に助け起こされ、次郎丸厚は立ち上がった。
「にしてもお前、もうちょいケンカの口上は選べよ」
だが彼の口から出たのは、感謝ではなく非難の言葉。
「何がですか?」
「いくら売り文句だって、世界云々はライン越えすぎだろ」
「おや、貴方に見合わぬ理性的な発言ですね」
「抜かせっ! オレはな、自分の世界でそーやって言っちゃいけないやっちゃいけないことを繰り返した結果、引き返せなくなったヤツらを大勢知ってんだよっ。殺人犯の蛇だとか、相方を手にかけちまった虎だのコウモリだとかな!」
と、荒々しく彼は少女の手を振り払った。
「お前の世界だって、スカイツリーだかスイカウォールだとかで元々国中がメチャクチャになってるところに、ハンドレッドとかいうのが攻め込んできてボロボロなんだろ? どこも似たり寄ったりの世界なのに、それ棚上げしてヒトの世界にケチつけんのは無しだろ。相手がどんなクソライダーでもな」
そう熱っぽく語る次郎丸に、ふむと不二は払われた手を自らの口元に添えた。
「正論ではありますが……貴方に嗜められると腹が立ちますね」
「……そーいうオメーは、無口系クールなのはツラだけで、むしろ一言多いのなんなの!?」
「失礼。生まれも育ちもあまり良くないものでして」
やれやれ、と。
その戯れ合い睦み合いがそうでなくなる前に、手を叩き鳴らしてシンクローは二人を制した。
~~~
午後は、座学をメインに見学することになった。
学生として、『汎世界的な』一般教養は勿論のこと、各学科ごとに使用されるアイテムとその構造、効能、危険性、技術、あらゆる時間軸においてキーマンたりうる開発者。使用者などを修めていく。
教室や演習場の片隅でそれを一端聴いていただけだったが、それでも広子には十分過ぎるほどに有意義な時間だった。この一日だけで、この世界に招かれて良かったとさえ思えた。
もっとも、やはりそこにライドの姿は見えなかったが。
そして日も暮れて、雷寮。
「うおッ、なんだこれ」
グランドホテルのエントランスと見まごうばかりのロビー。
その広く取られた玄関口を占めて余りある荷物に、帰ってきた次郎丸は入り口で立ち往生した。
「あ、私の荷物です。今日からここでお世話になるので、お願いしますね先輩」
と、広子がそれをどう運ぼうか算段しながら答えた。
「まーたオメーかバイク女! 鬱陶しいからさっさとどけやがれっ」
「そう思うなら、ちょっと手伝ってくれません?」
「あぁ!?」
「あ、やっぱ無しで。流石に女子寮に入れちゃうのはちょっと……不二さんは?」
「アイツは炎寮に帰ったつの!」
よじよじと、荷物の隙間に潜り込んで、次郎丸はエントランスに侵入した。
「うーん、じゃあなんかこーパパッと、運んでくれるヒト紹介してくれません? 引っ越し蕎麦も配りたいですし」
「寮違いでも良ければ、今いちおう魔法科の生徒が遊びに来てるけど……彼女に頼むのは……止した方が良いな、うん。あとで余った蕎麦だけお裾分けしようか」
シンクローがその荷解きを手伝いながら、しみじみとした口調で彼女を説く。
そんな彼の背後に、黒い影が伸びた。
黒々とした木肌に金をあしらえた、異形の仮面を顔に張り付かせ、両腕をいからせ広げ、今まさに飛びかからんとする。
「あっ! 曲者が! すわ怪人かッ」
と広子が声を発すると同時に、
「あぁ、帰ってたんですね……先生。お帰りなさい」
驚きも振り返りもせず、シンクローは言った。
「もうちょっとリアクションが欲しいなぁ、そのコみたいに」
と、その仮面の内から声と苦笑が盛れる。
そしてそれを外すと、朗らかな男の笑みが溢れた。
見たところ、三十そこそこと言ったところか。いや、童顔でもう少し歳はいっているのかもしれない。
首から下はカジュアルな服装で、何処か抜け目ない感じのシンクローと比して、切れ物というよりは篤実さ善良さが前面に押し出された表情。
怪しむべきところは何処もない。
周囲の反応を見ても、どうやら不審者では無さそうだ。
(でも、あれ?)
広子は彼に、首を傾げる。
人の良い笑みを屈託なく浮かべる彼に、見覚えがあった。
面識というよりかは、知識として。
「君は、新顔? はい、これインドネシアのお土産。挨拶代わりにどうぞ」
そう言って彼は、自身の仮面を広子に手渡した。
「あの、あなたは」
「デラさんじゃないスか!?」
名を尋ねる前に、飛び出てきた次郎丸が明るい表情で割って入ってきた。
「おっ、次郎。
「やらかしたのは、そっちのガキっすよ! つか聴いてくださいって」
あの猪が、まるで身の丈相応の子どもだ。
それをあやすようにあしらいつつ、『デラさん』と呼ばれたは改めて広子に目を向けた。
「……まぁ、こんな感じでさ。色々な世界を冒険してる合間に、時折この学園で非常勤講師として世話になってる、しがない旅人だ。短い間だが、よろしく頼む」
「はぁ。それは……どうも?」
譲り受けた民芸品を両手で抱き込むようにしながら、広子は漫然と首肯した。
「……」
シンクローは、しばし彼らを見守っていたが、
「次郎丸、やっぱ彼女の荷物、行けるところまで持って行ってくれないか」
と頼む。
「はァ? なんでオレが」
「寮長命令」
当然次郎丸は不平を鳴らすが、シンクローの有無を言わさない様子に、渋々呑んだようだった。
「おら、ついてこい」
「ありがとうございます……ってあぁっ!? その中身フィギュアケースなんだから、大事に扱ってくださいってば!」
「うっせ、注文つけんな! その図々しさ、不二と良い勝負だ!」
そんな丁々発止と共に、両者が遠ざかっていくのを確かめてから、あらためてシンクローは『デラさん』と向き直った。
「それで?」
「ん?」
「俺にまで惚けないでください。貴方がここに戻ってきたことの意味、察せないわけないでしょ」
「流石のキレっぷりだな」
社交辞令的にそう褒めた後、ややあって、教師はにこやかな表情と口調を引き締め直し、答えた。
「