学園仮面ライダー ~インリデンとライド 乗り手求めて多重世界~   作:大島海峡

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2.デラさん

 不利なはずの勝負は、その劣勢側の勝利で終わった。

「お疲れお疲れ」

 そのことを、上座シンクローは格別驚きもしていないようで、体育館を出た少年、詩島ライドを迎えた。

 

「見てたんなら手伝え」

 と、ライドは忌々しげに苦言を漏らす。

「今来たばっかだよ、彼女と違ってね」

 と広子に目配せする。怪訝そうに、眉を顰めたままライドは彼女と視線をかち合わせた。

 

 並行世界の、詩島剛の息子。

 一応年齢的には、彼は兄に相当するのだろうか。

 いや、そもそも自分と彼とは同位の存在なのか。

 様々な憶測と感情が混じり、立ち竦む彼女に、

 

「ふん」

 ……あからさまに、小馬鹿にし切った目を形づくり、鼻で笑って目の前を横切って行った。

 

(うん、ない。あれだけは、ない)

 色々思うところ、感じるものはあるが、絶対に彼だけは己の乗り手に選ぶまいと、密かに青筋立てて心定める、広子であった。

 

「あの野郎、いつか絶対潰す」

 と、残された負け犬は遠吠え。本気では無かったのか。存外に平気そうな不二に助け起こされ、次郎丸厚は立ち上がった。

 

「にしてもお前、もうちょいケンカの口上は選べよ」

 だが彼の口から出たのは、感謝ではなく非難の言葉。

「何がですか?」

「いくら売り文句だって、世界云々はライン越えすぎだろ」

「おや、貴方に見合わぬ理性的な発言ですね」

「抜かせっ! オレはな、自分の世界でそーやって言っちゃいけないやっちゃいけないことを繰り返した結果、引き返せなくなったヤツらを大勢知ってんだよっ。殺人犯の蛇だとか、相方を手にかけちまった虎だのコウモリだとかな!」

 と、荒々しく彼は少女の手を振り払った。

「お前の世界だって、スカイツリーだかスイカウォールだとかで元々国中がメチャクチャになってるところに、ハンドレッドとかいうのが攻め込んできてボロボロなんだろ? どこも似たり寄ったりの世界なのに、それ棚上げしてヒトの世界にケチつけんのは無しだろ。相手がどんなクソライダーでもな」

 

 そう熱っぽく語る次郎丸に、ふむと不二は払われた手を自らの口元に添えた。

 

「正論ではありますが……貴方に嗜められると腹が立ちますね」

「……そーいうオメーは、無口系クールなのはツラだけで、むしろ一言多いのなんなの!?」

「失礼。生まれも育ちもあまり良くないものでして」

 

 やれやれ、と。

 その戯れ合い睦み合いがそうでなくなる前に、手を叩き鳴らしてシンクローは二人を制した。

 

 ~~~

 

 午後は、座学をメインに見学することになった。

 学生として、『汎世界的な』一般教養は勿論のこと、各学科ごとに使用されるアイテムとその構造、効能、危険性、技術、あらゆる時間軸においてキーマンたりうる開発者。使用者などを修めていく。

 教室や演習場の片隅でそれを一端聴いていただけだったが、それでも広子には十分過ぎるほどに有意義な時間だった。この一日だけで、この世界に招かれて良かったとさえ思えた。

 もっとも、やはりそこにライドの姿は見えなかったが。

 

 そして日も暮れて、雷寮。

「うおッ、なんだこれ」

 グランドホテルのエントランスと見まごうばかりのロビー。

 その広く取られた玄関口を占めて余りある荷物に、帰ってきた次郎丸は入り口で立ち往生した。

 

「あ、私の荷物です。今日からここでお世話になるので、お願いしますね先輩」

 と、広子がそれをどう運ぼうか算段しながら答えた。

「まーたオメーかバイク女! 鬱陶しいからさっさとどけやがれっ」

「そう思うなら、ちょっと手伝ってくれません?」

「あぁ!?」

「あ、やっぱ無しで。流石に女子寮に入れちゃうのはちょっと……不二さんは?」

「アイツは炎寮に帰ったつの!」

 よじよじと、荷物の隙間に潜り込んで、次郎丸はエントランスに侵入した。

 

「うーん、じゃあなんかこーパパッと、運んでくれるヒト紹介してくれません? 引っ越し蕎麦も配りたいですし」

「寮違いでも良ければ、今いちおう魔法科の生徒が遊びに来てるけど……彼女に頼むのは……止した方が良いな、うん。あとで余った蕎麦だけお裾分けしようか」

 シンクローがその荷解きを手伝いながら、しみじみとした口調で彼女を説く。

 そんな彼の背後に、黒い影が伸びた。

 黒々とした木肌に金をあしらえた、異形の仮面を顔に張り付かせ、両腕をいからせ広げ、今まさに飛びかからんとする。

 

「あっ! 曲者が! すわ怪人かッ」

 と広子が声を発すると同時に、

「あぁ、帰ってたんですね……先生。お帰りなさい」

 驚きも振り返りもせず、シンクローは言った。

 

「もうちょっとリアクションが欲しいなぁ、そのコみたいに」

 と、その仮面の内から声と苦笑が盛れる。

 そしてそれを外すと、朗らかな男の笑みが溢れた。

 

 見たところ、三十そこそこと言ったところか。いや、童顔でもう少し歳はいっているのかもしれない。

 首から下はカジュアルな服装で、何処か抜け目ない感じのシンクローと比して、切れ物というよりは篤実さ善良さが前面に押し出された表情。

 怪しむべきところは何処もない。

 周囲の反応を見ても、どうやら不審者では無さそうだ。

 

(でも、あれ?)

 広子は彼に、首を傾げる。

 人の良い笑みを屈託なく浮かべる彼に、見覚えがあった。

 面識というよりかは、知識として。

 

「君は、新顔? はい、これインドネシアのお土産。挨拶代わりにどうぞ」

 そう言って彼は、自身の仮面を広子に手渡した。

「あの、あなたは」

「デラさんじゃないスか!?」

 名を尋ねる前に、飛び出てきた次郎丸が明るい表情で割って入ってきた。

 

「おっ、次郎。九堂(くどう)先生から聞いたよ。今日、お前また不二ちゃんとやらかしたんんだって?」

「やらかしたのは、そっちのガキっすよ! つか聴いてくださいって」

 あの猪が、まるで身の丈相応の子どもだ。

 それをあやすようにあしらいつつ、『デラさん』と呼ばれたは改めて広子に目を向けた。

 

「……まぁ、こんな感じでさ。色々な世界を冒険してる合間に、時折この学園で非常勤講師として世話になってる、しがない旅人だ。短い間だが、よろしく頼む」

「はぁ。それは……どうも?」

 

 譲り受けた民芸品を両手で抱き込むようにしながら、広子は漫然と首肯した。

「……」

 シンクローは、しばし彼らを見守っていたが、

「次郎丸、やっぱ彼女の荷物、行けるところまで持って行ってくれないか」

 と頼む。

「はァ? なんでオレが」

「寮長命令」

 当然次郎丸は不平を鳴らすが、シンクローの有無を言わさない様子に、渋々呑んだようだった。

 

「おら、ついてこい」

「ありがとうございます……ってあぁっ!? その中身フィギュアケースなんだから、大事に扱ってくださいってば!」

「うっせ、注文つけんな! その図々しさ、不二と良い勝負だ!」

 そんな丁々発止と共に、両者が遠ざかっていくのを確かめてから、あらためてシンクローは『デラさん』と向き直った。

 

「それで?」

「ん?」

「俺にまで惚けないでください。貴方がここに戻ってきたことの意味、察せないわけないでしょ」

「流石のキレっぷりだな」

 社交辞令的にそう褒めた後、ややあって、教師はにこやかな表情と口調を引き締め直し、答えた。

 

()()が動き出した……それを報せに来た」

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