がんばれ聖騎士さん 作:アへ顔ダブルシールド
ビーストマン達の最期を見届けたアルフォスは、残った村人達と共に街道を進んでいた。向かう先はこの辺りで一番大きな城塞都市であり、対ビーストマン戦線における重要な拠点の一つだ。
一回目の襲撃を受けた後、村人達は村を捨てて城塞都市へ避難する準備を進めていたらしい。本来なら数日後に出発する予定だったそうだが……残念ながら、その前に二回目の襲撃を受けてしまった、というわけだ。
「村の皆を助けてくれただけでなく、道中の護衛までしてくれるなんて……あなたには助けられてばかりだ。いったい、この恩をどうやって返したらいいのか、皆目見当もつきません。申し訳ない……」
「そんなことはありませんよ。私はこの地に来たばかりで、右も左もわかりませんから。皆さんには、この世界の常識を始めとして様々な情報を教えて貰いました。報酬としてはそれで充分です」
「そう言って貰えるとありがたいですが……」
そう言って、隣を歩く村長が頭を下げた。
彼は、先のビーストマン戦の時にアルフォスに村の状況を教えてくれた男だ。
年齢はまだ三十になったばかり。
村長にしては若い気がするが、先代の村長は一回目の襲撃の際に死亡しており、次期村長とされていた彼がなし崩し的にそのまま跡を継いだらしい。
三十ならばもう立派な大人だが、村一つをまとめ上げる村長の立場としてはまだまだ経験が足りていない。本人にもその自覚があり、不安が大きいために常に困り眉毛を作っている。
「それにしても助かりました。先の襲撃で馬が皆逃げてしまいましたからね……城塞都市までは歩いて一週間以上はかかります。手で持っていけるだけの食料では、とてもではありませんが、全員が生きて辿り着くことは出来なかったでしょう」
そう言って村長は、斜め後方にいる荷馬車へ目を向ける。
村人達の数少ない財産や持ち物、食料、一部の女性や老人、赤ん坊など、なんだかんだで積載重量限界まで載せられている。
それらを引いて歩くのは、純白の馬。
たてがみも含め、体毛の全てが真っ白な白馬である。
サイズは一般的な乗馬用の馬より多少大きいが、輸送に使われる馬と比べれば小さい。とてもではないが、これほど大量の荷物を運ぶ力はない筈だ。
しかし、この白馬は違った。
大量の荷物を引き、しかも重厚で立派な馬鎧を身に着けているにもかかわらず、散歩でもしているかのように悠々と歩いている。
この馬はアルフォスが召喚した。
〈
レベルは召喚者の約三分の一。乗騎可能な召喚モンスターを強化する、という職業スキルにより総合的なステータスは40レベル相当まで強化されている。
パラディン専用の乗騎なだけあって、神聖属性であり、〈聖撃〉を使用することも出来る。パラディンにとっては頼れる相棒だ。
……まぁ、高レベル同士の戦いではあっさり死んでしまうので、ユグドラシルではもっぱら移動用としてしか使ったことはないが。
「ビーストマンをあっさり無力化するだけでなく、モンスターまで召喚出来るなんて。聖騎士とは凄いものですねぇ……聖王国には聖騎士がたくさんいると聞きますが、彼等もあなたと同じようなことが出来るのでしょうか?」
「どうでしょうか……聖騎士にも種類がありますから。積極的に悪と戦うため、強さを極めた者。仲間を救うため、神官のような回復能力を高めた者。中には、聖騎士としての正道から外れ、強大な闇の支配者に仕える暗黒の聖騎士もいます」
一口に聖騎士と言っても様々だが、これは他の
例えば信仰系魔法詠唱者。
彼等は後衛として、味方の回復や支援がメイン、というイメージが一般的だが、そこから外れた者達も多い。
自分自身にバフをかけ、神官戦士として前衛でガンガン戦う者もいれば、死霊術でアンデッドを操って戦う神官、なんて者もいる。
そもそも、邪悪な悪魔や不浄なアンデッドが信仰系魔法詠唱者の職業を獲得している……なんてことも珍しくない。
そういった闇の神官は厄介な魔法やスキルを使うので、初見で戦った際は対応に苦労したことを覚えている。
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旅を始めて四日を過ぎた頃。
一行は、城塞都市の目と鼻の先までたどり着いていた。
本来なら一週間以上はかかるはずだったが、アルフォスが襲い掛かって来るモンスターを素早く撃退し、疲弊した村人を魔法やスキルでケアしたため、大幅に時間を短縮することが出来た。
数百メートル先に見える城塞都市。
ここからは城壁しか見えないが、表面上はほとんど傷ついていないように見える。城壁の上には、まばらだが数人の兵士が監視の目を光らせており、対ビーストマン用の軍事拠点として、今もまだ稼働していることがわかる。
アルフォスが見たままの情報を村長へ伝えると、彼は力強く頷いた。
「それはそうでしょう。建国から二百年以上の長きに渡って、この竜王国の国防の要として、ビーストマン共から私達を守ってくれている重要な拠点ですから……最近は少々、その……押され気味かもしれませんが。ここが健在ならば、竜王国はまだまだ戦えるはずです」
村長を含め、村人達の目は希望に輝いている。
皆の代表として、村長は意気揚々と門番の兵士の下へと歩いて行くのだった。
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「もうだめだ……この国はおしまいだぁ……」
アルフォスの前では、頭を抱えた村長が地面に両手をついて項垂れている。他の村人達も似たり寄ったりの様子で、沈鬱な空気が辺りを包んでいた。
結論から言ってしまうと、この都市は近い内に放棄される。
この都市は元々、さらに二つの城塞都市と連携することで、ビーストマンの侵攻を食い止めていた。だが、近年になりビーストマンの侵攻が増した結果、他二つの城塞都市が陥落。
この都市だけでは対ビーストマン戦線を支えることが出来ず、さらに後方にある拠点へ下がることが決まったそうだ。
ここの市民の多くは、既に家財一式を抱えて都市を脱出している。
残っているのは、各々の事情により逃げたくとも逃げられない者。あるいは、ここを死に場所と定めた者。
兵士達も、若い者は脱出する民の護衛、という体で逃がされており、残っているのは熟練の兵士……と言えば聞こえは良いが、実際は既に全盛期を過ぎた老兵ばかりである。
既にこちらから打って出る程の力はなく。
可能な限りここに留まり、民達が逃げ切る時間を稼ぐだけの、いわば生贄だ。
一応、この村人達は次に出る最後のキャラバンに同行させてもらうことになったので、とりあえずは助かるのだが……落ち込むのも仕方ないだろう。
なにせ、この都市が陥落したら、ビーストマンはさらに後方へ攻め入ってくるはずなのだ。ここから一旦逃れたところで、結局は追いかけて来るビーストマン達から延々と逃げ続ける羽目になる。
竜王国の戦力は現時点で減りに減っている。
実力ある冒険者達も奮闘してくれているそうだが、ビーストマン達を撃退する程の力はない。
スレイン法国と言う国が、莫大な金銭と引き換えに『陽光聖典』という特殊部隊を派遣してくれている*1そうだが、彼らはつい先ほどこの都市から撤退したらしい。
何でも、次の任務の準備をする必要があるため、一旦竜王国を離れなければいけないそうだ。その任務が終わったら再び竜王国に来てくれるそうだが……彼らが戻る前に、竜王国が残っている保証はない。少なくとも、この都市は滅んでいるだろう。
「(私はいったい、どうするべきなのだろうか)」
アルフォスは悩んだ。
この都市を見捨てて去るのか、それとも……。
………否、本当はもうわかっているのだ。
この世界はユグドラシルとは違う。
異形種狩りをするほどの余裕があったあちらの人間種と違い、この世界の人間種は弱い。ユグドラシルでの力関係が、完全にひっくり返っているのだ。
人間種は一番弱く、寿命も短い。
対して、他の亜人種や異形種は強く、寿命も長い彼らは一方的に人間種を搾取出来る立場にある。
かつて、己が師と仰ぐ
『弱きを助け、強きを挫く。それが理想の聖騎士というものですよ』と。
「(師よ。そして、我が敬愛する聖女様……どうか、私を見守っていてください)」
アルフォスが決意を固めたその時、都市中に鐘の音が響き渡った。
「敵襲!敵襲───!!ビーストマン共が来るぞー!」
【スキル・魔法紹介】
・〈
パラディン専用の召喚魔法。
自身の乗騎となるモンスターを召喚する。
〈
欠点として、一種類のモンスターしか呼び出すことが出来ず、モンスターが殺害されて帰還した場合、一定期間の間は召喚出来なくなってしまう。
アルフォスの場合、呼び出されるのは〈
馬鎧を身に着けた白馬であり、神聖属性。
体格は一般的な乗馬用の馬より一回り大きい。
戦うことも可能で、戦闘では蹄による踏みつけや噛みつき、体当たりを行う。パラディンと同じく、〈聖撃〉を使用可能。
ステータス的には40レベル相当だが、あくまで乗騎なので戦闘力は30レベル代。
初登場時のハムスケにギリギリ負ける程度の強さ。