がんばれ聖騎士さん 作:アへ顔ダブルシールド
なるべく全員に返す努力はしますが、抜けがあったらごめんなさい。
ビーストマンによって占領された二つ目の城塞都市。
そこにいるのは二千を越えるビーストマン達と、罪人用の檻に囚われ、食料として喰われるのを待つばかりの人間達のみ。
人間にとっては地獄とも言える都市の、すぐ傍にある森の中。
そこで、アルフォスはとある者の帰りを待っていた。
「───ただいま戻りました」
アルフォスの前に、音もなく一体の人型が現れた。
闇に溶け込むような特徴的な衣装。顔は布で隠れており、その布にはとある国の文字で『忍』と書かれている。
「報告いたします」
「頼む」
「……都市内部には
「その施設以外に人間はいなかったか?」
「いません。ビーストマン達はこの都市から撤収する準備を進めているようですので、そのせいかと思われます」
つまり、撤収するから食料を一か所に集めた、ということなのだろう。この都市の指揮官は、先の戦いで受けた損害を正しく認識しているらしい。
一度撤退し、残ったもう一つの都市にいる戦力と合流しようというのだろう。
「急いだほうがいいな……準備は整っているか?」
アルフォスは傍らに控えていた、もう一体の人型に声をかける。
その人型の背後には、百近い数の盗賊のような恰好をした者達が微動だにせず立っていた。
「問題ない。いつでも行ける」
「よし……ではこれより、目標の城塞都市の奪還と、囚われている人間の救出を開始する!」
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ことの始まりは、ほんの数日前に遡る。
「───では、人類救済のために、早速行動を開始する」
そう言ってアルフォスは立ち上がった。
陽光聖典の三人から話を聞き、人類救済のために行動を起こすことを決断したのだ。
「どちらに向かわれるのですか?」
「無論、ビーストマンに占領された他二つの城塞都市を奪還しに行く」
「い、今からでございますか!?」
陽光聖典の三人は慌てた。
今の時間帯は夜。
それも、日付も変わろうとしている深夜である。兵士達は見張りを除いて交代で休息をとっているが、昼間の戦いの疲れはまだ取れていない。彼等の協力を得るのは難しいだろう。
もちろん、アルフォスはそれを承知の上で言っているのだが。
「そうだ、私一人で行く。君達は休んでいてくれて構わない」
「え、いや、それは……」
「まずは竜王国国内からビーストマンを一掃し、その後、ビーストマン本国へ乗り込み、侵攻を止めるように国王と交渉してこよう」
「ふぁ!?」
「交渉事の経験はないが……最善を尽くそう。それが終わった後、他の問題に対処する。確か、エルフ国との戦争と、
「か、神よ、どうかお待ちください!」
陽光聖典隊員は慌てて呼び止めた。
まだ本国の神官長達へはおろか、自分達の直属の上司である陽光聖典隊長にすら、神の降臨を報告出来ていない。
神が積極的に協力してくれるのは嬉しいが、決断と行動に移すまでがあまりにも早すぎる。
しかも、国家間の問題に深くかかわるのはマズい。
派手に動けば、アーグランド評議国の竜王が出て来る可能性がある。真なる竜王にして永久評議員の
最悪の場合、スレイン法国とアーグランド評議国との間で戦争が始まってしまう。そうならないためにも、慎重に行動する必要があった。
「城塞都市には市民が囚われているはずです!しかし、現状では人手が足りておりません!」
「まずは本国の神官長達へ連絡し、援軍を派遣して貰いましょう!」
「ビーストマン本国との交渉も、我が国から専門の交渉員を派遣します!」
「いや、その前に竜王国の女王にも話を通さなければ───」
三人の慌てようを見て、アルフォスは一旦冷静になって考える。
「(む……確かに、言われてみればそうだな。交渉事の経験はほとんどないし、万が一失敗してしまえば、後々に国家レベルの問題に発展するかもしれない。ここは彼等の言う事に従った方が得策か?しかし、囚われている市民の救出は急務……これを試してみるか)」
アルフォスは、左手の薬指にはめられている指輪を見た。
聖女はユグドラシルを去る際、アルフォスに自身が所有するアイテムの多くを授けてくれた。その中でも、この指輪は他のアイテムとは一線を画す力を持つ。
「───君達の話はわかった。私も焦り過ぎていたようだ。すまない」
「い、いえ。わかっていただけたのなら幸いです……」
「しかし、人手が足りないのは承知しているが、市民の救出だけは早急に行わなければならない……そのためにも───」
そう言ってアルフォスは、左手を机の上に翳した。
「───指輪よ、我が望みを叶えたまえ……」
アルフォスが指輪を使用する。
すると、机の上の何もない空間から、キラキラと輝くものが出て来た。
それらは机の上に落ち、金属と木がぶつかる際の硬質的な音を鳴らす。
「これは……金貨、ですか?」
「ああ。ユグドラシルで使われている金貨だ。使えるかどうか不安だったが、成功したようだ」
アルフォスが手を離した後も、虚空から金貨が生まれ落ちていく。
あっという間に、机の上に金貨の山が出来た。
次第に机の上からあふれ出し、足元を埋めていく。それでもなお、金貨は虚空から生まれ落ち続け……その勢いは止まらない。むしろ、どんどん増していく。
「神よ、これはいったい?」
「……傭兵モンスターを召喚するアイテムをいくつか持っているんだ。召喚出来るモンスターは、難度で言えば200を優に超える強さだ」
「200以上ですか!?」
「魔神すら容易く上回る力……確かに、それほど強力なモンスターを複数体呼べるのであれば、市民の救出も可能かもしれません」
「私もそう思う。ただ、アイテムを使用するには莫大な金貨が必要になる。私の手持ちでは足りないから、それを補うためにこれを使ったのだ。しかし……」
困惑しつつ指輪を見る。
この指輪は『アンドヴァリの指輪』という。
世界一つに匹敵すると言われている、ワールドアイテムの一つだ。
使用した時点での所有者のユグドラシル金貨の総量を参照し、総量の約10%の量のユグドラシル金貨を生み出す、という効果を持っている。
一日一回だけしか使用できないが、特にデメリットもなく、代価も必要としない。所有者が膨大な金貨を持っていれば、その分だけ生み出す金貨の量も増える。
他のワールドアイテムと比べると少々地味な効果だが、今回のような傭兵モンスターの召喚、ギルド拠点の維持、アイテムの作成や店での買い物など、何かと金貨が必要となるユグドラシルでは非常に有益な効果と言えるだろう。
……まぁ、強制的に奪取された際に発動する呪いの方が、色んな意味で有名だったのだが。
「(これは……どういうことだ?私の所有する金貨の総量をとっくに超えているのに、効果が終わらない……?)」
アルフォスは傭兵NPCである。
プレイヤーと比べると、NPCのアイテムボックスの容量は少ないため、アルフォスの所有しているユグドラシル金貨の数は多くない。
ほとんどの枠が他のアイテムで埋め尽くされており、アンドヴァリの指輪の効果を一度発動しただけでは、これほど大量の金貨は出現しないはずだった。
「か、神よ。これはいつまで続くのですか……?」
さすがに困惑し始めた三人。
金貨が出る勢いは増すばかりで、もはや足首が埋まりつつあった。
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「「「「………………」」」」
部屋の外で、四人全員が立ち尽くしていた。
開いたドアからは黄金の山が溢れ出し、廊下の一部を塞いでしまっている。
部屋の中は金貨で埋め尽くされていた。
あまりの重量に床が抜け、壁の一部が崩壊して隣の部屋まで金貨が溢れている。この家が石造りだったからこの程度で済んでいるが、もしも木製だったら大変なことになっていただろう。
「……この量は想定外だったが、これなら必要な金貨は足りるはずだ。早速、傭兵モンスターを召喚するとしよう」
そう言って取り出したのは二つの大きな巻物。
この巻物は普通の召喚用アイテムより高価なもので、召喚する際に儀式を必要としない。金貨さえあれば誰でも使用可能となっている。
巻物を地面に置くと、黄金の山がドロドロと溶けながら巻物に吸い込まれていく。
黄金の山のほとんどが吸い込まれ、そして一人でに宙に浮いた二つの巻物から、小規模な煙と共に二体の人型が現れた。
「ハンゾウと申します。何なりとご命令ください」
「ジンナイだ。命令があるなら言ってくれ」
二体ともレベル80を超える
アルフォスは召喚が成功したことを確認すると、陽光聖典の三人に向き直る。
「これで人手は足りるだろう。私はこの二体と共に先行し、都市を奪還、市民を救出する。作戦が成功したら知らせを送ろう。それまでの間、兵士達へ事情を説明しておいてくれ……それと、部屋の修繕も頼む」
───こうしてアルフォスは、城塞都市奪還へ向けて出立したのである。
【モンスター紹介】
・ハンゾウ
レベル80台の召喚モンスター。忍者。
隠密能力に優れ、潜入、偵察を得意とする。
戦闘では徒手空拳、暗器、忍術と幅広い手数を持ち、同ランク帯の忍者系モンスターの中では最も癖のない能力を持つ。
忍者系モンスターの中でも、一番忍者らしいモンスター。
原作では、有能すぎるせいでちょっとした問題になっている。
・ジンナイ
レベル80台の召喚モンスター。本作オリジナル。
ちょっとぶっきらぼうな口調の忍者。風貌は忍者と言うより盗賊風。
指揮官系であり、多数の下位忍者系モンスターを召喚、使役する。
さらに治癒系の
サポート役としては優秀だが、同ランクの他の忍者系モンスターより戦闘力が低く、忍術はほとんど使えない。
戦闘では主に二刀流の小太刀で戦う。
範囲攻撃が使えるので多数の雑魚相手には強いが、同格以上が相手だと力不足。
同じ忍者系モンスターのフウマとは犬猿の仲らしい。
元ネタは向崎甚内*1。
【アイテム紹介】
・アンドヴァリの指輪
指輪型のワールドアイテム。効果は本文中にある通り。
転移後の世界ではフレーバーテキストが現実のものとなっているため、その影響で効果が変質している。
参照するのは金貨の総量ではなく、財産の総量。
ワールドアイテム以外の所持アイテム、装備等も全て参照し、同時に価値を鑑定。それらを含めた財産全ての総量の内、10%の財産を生み出す。
生み出すものは金貨以外も可能であり、生き物や高ランクのアイテムを除けば、素材や消費アイテムも生み出すことが出来る。
強制的に奪取されると呪いが発動する。
こちらの効果の方が遥かに有名であり、ユグドラシル中期にこのアイテムが初めて見つかった際には、多くのプレイヤーやギルドを巻き込んだ大騒動が起きたことがある。
他者に譲る際には専用のウィンドウが現れ、そこで選択肢を選ばないと正式な譲渡にはならず、呪いが発動する。
NPCが所有していた場合は、そのNPCのAIが譲渡するかどうかをランダムで選択する。