直江紅子が破滅するまで 作:スノードロップ
評判が良ければ続きを書きますし、評判が悪ければ書きません。
直江紅子という楽をする為に生きてきた少女が、高育に入学して1人の天才と出会い、破滅に向かっていくお話です。
直江紅子は高育に入学する
「さて、最後は君の番だ。君は良い子?それとも悪い子?」
真っ白で何も無い、清潔で無機質で生活感のない部屋は、悪臭を放ち不潔で様々なモノが散乱した真っ赤な部屋へと変化した。真っ赤な部屋の真ん中で少女はただじっと赤い鼻のピエロを見つめる。
「私は……悪い子。お母さんの言うことを聞かなくて、頭も悪くて、お姉ちゃんやお兄ちゃんにも嫌われた要らない子なんだ」
「そう、君は悪い子。だから、お母さんに怒られて、お父さんにも殴られてしまう。……でも大丈夫。僕は君を愛してあげるから」
「本当?お母さんもお父さんもお兄ちゃんもお姉ちゃんも私を嫌いになったのに?」
「本当だよ。僕は君だけを愛しているから」
「そっかぁ……嬉しいな……」
少女はピエロに抱きついた。ピエロは優しく少女を抱きしめると、その小さな頭に手を置いた。
「さぁ、目を閉じて。次に目を覚ましたら、君はきっとみんなに愛される。奇跡の子だと呼ばれるんだ」
「うん……」
少女はピエロの言葉に頷き、ゆっくりと目を閉じた。その目からは一筋の涙が流れる。
「だから、今はお休み」
ピエロがその言葉と共に手を叩くと、少女から力が抜け、ピクリとも動かなくなった。ピエロは嬉しそうに笑いながら少女の体を抱き上げる。
「さぁ行こうか……君の新しい世界に」
ピエロはそう言って部屋から出て行った。
「……あれ、ここ、どこ?」
次に少女が目覚めた時、彼女は真っ白な清潔で生活感のある部屋のベッドの上だった。少女がキョロキョロと見回すと、部屋の扉がガラリと開く。そこには、黒いスーツを着た見知らぬ男が立っていた。
「おや、気が付いたようだね?大丈夫かい?……ああ、そんなに怯えて。まあ、あんな惨劇が起きたんだから当然か」
男は怯える少女を慰めるように頭を撫でようと手を伸ばす。しかし───
「や、やめて、来ないで!」
少女は男の手を払い除け、頭を抱えて丸くなる。
「は?俺は警察だぞ?大丈夫、君の味方だ。安心して」
男がそう言い警察手帳を見せるが、少女はさらに力強く手足をバタつかせて暴れる。
「や、やだ、怖い……許して!許して、……お父さん!お母さん!お姉ちゃん!お兄ちゃん!……助けて、助けてピエロさん!」
「お、おい!」
少女はベッドから飛び降りると部屋から飛び出して行った。男は慌ててその後を追う。しかし、少女の姿はどこにもなかった。
「そんな馬鹿な……」
男は呆然として呟くと、携帯を取り出す。そしてどこかに電話をかけた。
「もしもし?こちら田中実。被害者が病室から消えた。至急、応援を頼む」
それから、少女が発見されるとすぐに精神科医による診察が行われ、一般病棟から精神科の病棟へと移された。そして時は流れ、少女が病院を退院する頃には精神は落ち着いており、事件の事情聴取を受けることになった。
「あなたが、大場紅子……いえ、直江紅子さんね。初めまして、私は警視庁捜査一課の平岡です」
「…初めまして。直江紅子です」
紅子は不安そうな顔で名乗ると、また俯く。
「……今日は、あなたが唯一の生存者、奇跡の子と呼ばれたきっかけとなった……『港区ピエロ誘拐殺人事件』について、詳しい話を聞かせ欲しくてね。覚えていることを、話して欲しいの」
「ああ、そんなことですか。覚えていることを話せば良いんですね?」
紅子は首を傾げる。平岡はそんな紅子の様子に少し面食らったように瞬きをした後、言葉を続ける。
「え、ええ、何でもいいわ。何でもいいから話してくれれば」
「……分かりました。あの日は、確か……そう、雨が降っていました。今日みたいな土砂降りでした。我が家の軒下に小さな黒い猫がいたんですが、足を怪我していたのです。私は猫を憐れみ同情しました。だから─────────────猫の後を追いかけたんです」
◇◇◇
この世は平等か不平等かと問われれば、私は当然不平等だと答える。
世の中には努力では超えられない才能や能力の差、身体や精神的な生まれ持った肉体の健康状態の差、両親から遺伝した遺伝子の差と様々なところに差が存在する。こんな世界で、天才以下の凡人が無い物ねだりをし、無様に足掻く様は滑稽で醜い。しかしそれでも手を伸ばし渇望してしまうのは、この世が不平等だからだ。
隣の芝は青く見えるという言葉があるが、世の中はこの言葉通りに感じる人間が大多数だ。人は下を見て愉悦感に浸り、上をみて絶望に打ちひしがれる生き物だ。生物が持つ生存本能故に、より優秀な遺伝子を持つ個体を残そうとするのも、自分というものを世の中の歴史に刻む為であり、種の存続には優秀な遺伝子が必要なのである。
かくいう私も、自分以下の凡人と交わり、劣性遺伝を持つ子を成したいとは思わない。人類の数が減ればその限りではない。種が繁栄し続ける限り、我々は延々と優秀な遺伝子を残すことに執着し、自分と他者とを比べ、愉悦感に浸り、差に絶望し、板挟みの感情を持ちながらこの歴史を繰り返していく。
世の中は、不平等を訴える声で常に溢れている。富裕層ですら、隣の芝が青く見えるのだから、貧困層はもっと大きな問題を抱えているはずだ。だから私は声を大にして言いたい。この世は不平等だ、と。
人を見た目や能力だけで判断してはいけないと言うが、なら何で判断すれば良いと言うのだろうか。
服を買う金すらないホームレスが全裸で踊っていても、裸だけど変態ではないと考えなければいけないのか。でっぷりと太った男が悪臭を放ち、涎を垂らしながら肉を食べていても、その人物に嫌悪感を顕にしてはいけないのか。内面は優しい人だから許せと、そう言うのだろうか。
いいや、それは間違っている。人としての常識が欠如している人間に施しなんぞ必要ない。裸で踊るホームレスは憐れむことすらせずに通報し、悪臭を放つ太った男には注意をする。それが正しい世の中なのだ。だから区別は必要だ。
しかし、区別は必要でも不平等は必要ない。そもそも、平等や公平等の言葉がより我々に差別をさせようとしてくるのだ。平等、不平等と言われれば、我々は自分に置き換えて現状について考える。もちろんそこで問題を提起し、解決に導こうとするのならそれは正解の行動である。だが、そんな正しい行動を全員がすると思っては大間違いだ。
現に私は面倒事は嫌いだ。如何に楽をして、如何に少ない行動で完結できるかを考えて生きてきた。能力、容姿、思考という全てを否定されてきたのだから、これ以上否定されないように上手く立ち回る必要があった。
そこで、私は人と関わらなければ非難されることは少ないという事実に気付いた。気付いてからは、簡単だ。人との関わりを最小限に抑え、最短コースで物事を完結させるだけだ。だから私は時に賢く、時に狡猾に立ち回るようになった。
不平等を、差別を、区別を差別と呼び反対する人々を嫌った私は全てを諦めた。この世には絶望しか存在しない。こんな世界で平等や公平を謳う人間は、政治家と詐欺師だけで十分だ。
しかし、私は政治家が最も嫌いな職業である。
◇◇◇
それから約5年の月日が経ち、少女──直江紅子は少しずつ成長し、大人と子供のちょうど中間に立つ頃、東京都にある国立の高度育成高等学校に入学する。
桜並木が美しいと評判の町を歩き、高度育成高等学校の門が見えてきた。紅子はその門をくぐり、校舎を目指す。
「あの」
しかし、紅子が門をくぐってからすぐに後ろから声をかけられた。振り返るとそこには、誰もが羨み、みとれてしまうような美しい少女が立っていた。
「これ、落としたよ?」
「……綺麗」
紅子はそう言うと目の前の美少女に向き直り、彼女が差し出したハンカチを受け取る。
「ありがとうございます」
「どういたしまして!あなたも新入生の人、かな?私も同じ新入生なんだ!名前は一之瀬帆波。良かったら仲良くして」
「私は直江紅子。こちらこそよろしくお願いします」
紅子はそう言って握手をする。それから、2人は校舎へと向かい歩き出した。
「この学校って凄く広いんだね……迷子になりそう」
「そうですね。私も今同じ気持ちです」
2人揃って生徒玄関へと向かい、中央に貼られたクラス表を確認する。この学校はA〜Dの4クラスが存在し、それぞれのクラスの人員は40人と定められている。日本ではアルファベットのクラス名は非常に珍しいが、果たして紅子たちはどのクラスに組み分けられるのだろうか。
「……あ!あった!私のクラスはBクラスみたいだね」
一之瀬がそう言うと、紅子も自分が属するクラスを見つける。
「私もBクラスでした。これからよろしくお願いします、一之瀬さん」
「こちらこそよろしくね、直江さん」
2人はもう一度握手をし合うと、Bクラスへと向かった。Bクラスの教室の扉を開けると、既にいくつかのグループができており、それぞれ雑談に勤しんでいた。そんな中紅子たちは自分の席を確認し、それぞれの席に着く。
紅子の席は窓側から3列目、前から3番目の席だった。授業中に落書きをしたり、内職をしてはほぼ必ずといって良いほどバレてしまうだろう。
「ねえねぇ、直江さん!良かったら、少しお喋りしない?」
一之瀬にそう言われ、紅子は少し考える。そして、時計を見るとまだホームルームが始まるまでに時間があることが分かった。紅子は一之瀬に向き直り、小さく頷く。
「良いでしょう」
「やった!」
一之瀬は嬉しそうに笑うと、カバンからお菓子を取り出した。その包装紙にはポップな文字で『グミ』と書かれている。
「……お近付きの印に、よかったらおひとつどうぞ!」
「……申し訳ありません。残念ですが、菓子類は健康に害をもたらすらしく、両親に禁止されているのです」
紅子はそう言って目を伏せる。しかし、一之瀬は笑って言った。
「そっか!それじゃあ仕方ないよね!」
一之瀬はそう言うとグミの包みを開け、口の中に放り込む。そしてしばらく咀嚼し飲み込むと、また新しいグミを口に入れていく。
「直江さんは、中学はどこに通っていたの?」
「夕陽丘女子ですね」
「夕陽丘女子って、あの夕陽丘女子?!凄い!女子校の御三家のひとつだよね?!すごい、頭良いんだね!」
「そう、ですか?……私など、両親に迷惑をかける出来損ないですが」
「そ、そんな事ないよ!」
一之瀬はそう言うと紅子に笑いかけた。
「……部活は何を「みんなおはよう!」あ、戻らなきゃ。またね!」
「ええ」
そんな会話をしていると、教室に一人の女性教師が入ってきた。一之瀬は慌てて自分の席に戻り、机の上から鞄を下ろす。
「新入生のみんな!私はこの学校で養護教諭を務めている星之宮知恵です。普段は保健室にいるよ。何かあったら、すぐに相談に乗るからね!」
ホームルームが始まり、星之宮が自己紹をする間、紅子は少し離れたところにある窓の外を眺めていた。この学校は敷地も広く、桜並木も美しい。もう少し時期が早ければ、春には見事な桜を咲かせるだろう。そんなことを考えていると、突然前の生徒からスマートフォンのような端末とパンフレットが配布された。
「じゃあ、今からこの学校についての説明をしていくわね。その前に、今配ったものについて説明するわ。このスマートフォンのような見た目をした……」
「ああ、眠いな」と紅子は思いながら、ひらりひらりと落ちてゆく桜の花びらを見つめ、時間を潰した。
波乱万丈な人生を歩んできた紅子は、人生を諦めていた。この世の中の腐った人間を嫌っていた。正しくないのに正しさを語る全ての人間を殺したいと思っていた。
紅子は楽に、人との干渉を最低限に抑えて生きてきた。しかし、もううんざりだった。友達ごっこも、優等生も、自分を否定してきた両親と兄姉も死んでしまえば良いと思っていた。しかしそう思う度に、そんな風にしか考えられない自分を強く強く嫌うのだった。
「……あーあ、バーカ、死ね」
紅子の小さな呟きは誰に聞こえることも無く、紅子の胸の内に跳ね返ってくるだけだった。
そんな紅子が1人の天才と出会うまで、残り約3週間。
氏名 直江 紅子(べにこ)
所属 1年Bクラス
誕生日 3月3日
【学力】 B+
【知力】 B
【判断能力】 C+
【身体能力】 C
【協調性】 C
【面接官からのコメント】
10歳の頃に『港区ピエロ誘拐殺人事件にに巻き込まれ、唯一生還を果たした奇跡の少女。保護された後、大量の睡眠薬を飲まされていた為、緊急入院をするもPTSDを発症し、精神科病棟に移る。その後、精神肉体ともに回復し、遠縁の直江家に引き取られる。
中学は都内の名門、夕陽丘女子中学に進学し2年時には学期末テストで学年首席に選ばれるほど優秀な生徒だが、我が校の入試では空欄が多く、記述問題は一切解答していない。
しかし、直近の模擬試験の結果と調査書に記載されている成績を考慮し、Bクラス配属とする。
【担任からのコメント】
真面目で読書が趣味な静かな生徒です。
しかし、過去の傷が癒えておらず、人間関係の構築を苦手としている為、普段の様子を注意深く見守っていきたいと思います。
直江紅子は実は本来、Bクラスに組み分けられる予定ではありませんでした。皆さんはどのクラスに組みわけられる予定だったと思いますか?
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Aクラス
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Cクラス
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Dクラス