幼い頃から憧れている女性は母の親友   作:雅鳳飛恋

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第2話 制服

◆ ◆ ◆

 

「――氷室君」

 

 放課後、早々に帰宅しようとして下足室まで来ていた俺を呼び止める声がかかった。

 振り返らなくても声で誰かわかる。

 

「どうした?」

 

 そう言いながら振り返ると、そこには思っていた通りの人物――有坂がいた。

 急いで追いかけて来たのか肩で息をしており、なぜか制服が乱れてしまっている。

 

 制服は白いブラウスの上にベージュのジャケットを羽織っており、赤を基調としたチェック柄のスカートと、黒のニーハイソックスの間に広がる絶対領域が存在感を放つ、いつも通りのスタイルだ。――制服だからいつも通りなのは当たり前なのだが、うちの高校はカーディガンとパーカーとソックスに関しては自由なので、生徒によって種類と色が異なる。

 

 彼女の制服姿を見慣れているからか、違和感がはっきりとわかった。

 いや、見慣れていなくてもわかると思う。

 

 なぜなら、ジャケットがずり落ちて両肘に引っ掛かっているし、いつも身に付けている首元にあるはずのリボンが見当たらない。

 

 しかもブラウスがはだけおり、ブラジャーの肩紐と胸元が(かすか)かに見えていた。

 そのことを指摘するか迷ったが、何事も知らないほうがいいこともあるだろうし黙っておこう。

 

 今さら俺に見られることは気にしないだろうけど、他の男に見られたかもしれないと思ったら有坂は気が気じゃないだろうしな。

 

 ちなみに、女子はリボンだが、男子はネクタイだ。――俺は邪魔だからしていないが。

 そして男女ともに学年によって色が異なり、俺たち一年は赤だ。これを三年間身に付けることになる。

 

 話が逸れたが、そもそもいったいなにがあって制服が乱れてしまったのか謎である。

 着替えている途中だったのだろうか? と胸中で首を傾げるも、ホームルームの時はしっかりと制服を着ていたから違うな、と思い至る。俺はホームルームが終わってすぐに帰路に着いたから、有坂がほかのことをしている暇などなかったはずだ。

 

 急いでいたから人にぶつかってしまったのだろうか? 

 本当になにがあったらそのような有り様になってしまうのか、(はなは)だ疑問である。

 

 なんてあれこれ考えていると、息を整えた有坂がジャケットだけ着直して口を開いた。

 

「ちょっと話があるんだけど、いま時間ある?」

「……ああ」

 

 正直言うと今すぐ帰って舞さんに会いたい。アプローチしたい。

 まあ、今日も舞さんがうちに来るかはわからないんだけど……。昨日来たばかりだし、さすがに今日は来ないかもしれないな。

 

 でも可能性がある以上は早く帰りたい。またハグしたい。

 昨日、抱き締めた感触の余韻がまだ残っていて、なんか無性に物足りなく感じるんだよな。身体と心が舞さんを求めてやまないんだと訴えかけているかのような感覚だ。

 

 しかし、有坂のことを都合良く利用しているという負い目があるので、拒否する選択肢は存在しなかった。

 

「ありがとう」

 

 有坂はそう言った後、周囲に視線を向けながら――

 

「……場所変えてもいい?」

 

 と憂鬱(ゆううつ)な影が漂う表情で提案してきた。

 

 その表情と帰宅する生徒が周囲にいるのを気にしている様子から察するに、おそらくほかの人に聞かれたくない話なのだろう。なにか悩みがあるのかもしれない。

 

 いや、そもそも彼女の好意につけ込んで都合良く利用している俺が原因の種では?  恋人にしてほしいと願っている彼女をセフレにしているんだし……。

 

 うん、なにか悩みがあるなら十中八九、俺が原因だな。――全く見当違いの可能性もあるが。

 

 いずれにしろ、可能性がある以上は舞さんに会いたいとか浮かれたことを言っていないで、ちゃんと彼女の話を聞かないといけないな。それが今の俺がすべきことだ。

 

「どこ行くんだ?」

「ん~、どうしよう……?」

 

 有坂は困ったように首を傾げる。

 

「未定だったのか……」

「急いで追いかけたから……」

 

 俺の溜息交じりの呟きに苦笑しながら答える有坂。

 

 考えるよりも先に身体が動いたということなのだろうか。

 焦って追いかけたようだし、もしかしたら見切り発車だったのかもしれない。

 

「あまり人がいないところがいいんだろ?」

「うん」

「それなら、とりあえずカラオケでも行くか?」

 

 他人に話を聞かれたくないのなら、防音がしっかりしていて二人きりになれるカラオケが最適だろう。

 

「確かにカラオケなら安心だね」

 

 納得したように頷く有坂の表情が少しだけ明るくなった。

 

「早速行こう!」

 

 俺を促すように一歩踏み出した有坂の気勢を()ぐようで申し訳ないが、これだけは言わせてほしい――。

 

(かばん)はどうした?」

 

 有坂は手ぶらだったのだ。

 焦っていたようだし無理もない。鞄の存在を忘れてしまうほど必死だったのだろう。

 

「――あ」

 

 呆けた声を漏らした有坂は苦笑しながら「あはは、忘れてた」と呟く。

 

「ごめん。すぐ戻るからちょっと待ってて!」

「別に逃げたりしないから慌てなくていいぞ。危ないし気をつけろよ」

 

 今の時間は帰宅する生徒や、部活に向かう者で人通りが激しいから急ぐと危ないので、手を合わせて謝る有坂に注意を促す。

 

「うん!」

 

 先程よりも更に明るくなった表情――あくまでも多少はマシになった程度の話であって、今も顔に影が差している――で頷いた有坂は、早歩きで教室へ向かう。

 

「あと、ついでに行方不明のリボンを探してこい」

 

 去っていく背中に向かってそう声をかけると、有坂は「ほえ?」と声を漏らしながら立ち止まって首を傾げた。

 

「――ほ、ほんとだ! リボンがない! しかもブラウスが乱れてるし!!」

 

 彼女の慌てぶりから察するに、どうやら故意に外していたわけではないようだ。

 

 というか、ブラウスも乱れていたことに気づいていなかったのか……。今さら乱れを正しても手遅れ感満載だな……。

 やっぱりさっき指摘したほうが良かったか……? まあ、もう過ぎたことだし気にしても仕方ないか。

 

「そ、それじゃ探してくる!」

「ああ。ちゃんと待ってるから落ち着いて探せ」

 

 道中で落としたのなら教室に戻る途中で見つかるだろうし、もしかしたら鞄に入っているかもしれないから、そんなに慌てるほどではないだろう。

 冷静に探せばすぐに見つかるはずだ。誰かが拾って職員室に届けてくれているかもしれないしな。

 

 探すのを手伝ってもいいが、すぐに見つかったら入れ違いになってしまって面倒なことになるだろうし、俺はここで大人しく待つことにするよ。

 

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