幼い頃から憧れている女性は母の親友   作:雅鳳飛恋

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第2話 卑怯な女

◆ ◆ ◆

 

 ――わたしは卑怯な女だ。

 

 人によるかもしれないけれど、多くの人はわたしのことを女誑(おんなたら)しの男に利用されている可哀想な女の子だと思うだろう。

 

 しかし、それは間違いである。

 むしろ利用しているのはわたしのほうだ。

 

 罪悪感が全くないと言ったら嘘になる。

 だけれど、わたしは今の関係に溺れてしまっていた。

 

 もちろん不純な関係ではなく、恥じ入ることなく堂々と人前で触れ合える仲になりたいという想いはある。

 でも、それが難しいことだというのは痛いほどわかっているの。

 

 だからわたしは人の苦悩につけ込んで渇いた心を潤している。

 あわよくば、このまま身も心もわたしの(とりこ)になってほしいと願いながら……。

 

 ――本当にわたしは悪い女だ。

 

 クラスメイトはわたしのことを高嶺の花と言って持て(はや)してくれるけれど、実際はそんなに美しいものじゃない。以前のわたしならみんなの期待に応えられていたかもしれない。きっとわたしが今していることをみんなが知ったら幻滅すると思う。

 

 勝手に幻想を(いだ)いておいて、勝手に裏切られた気分になられても迷惑極まりないのだけれども……。

 

 まあ、それはともかくとして、なぜわたしが卑怯な女になってしまったのか――今は二月中旬だから、(さかのぼ)ること五カ月。その時の出来事が起因している。

 

◇ ◇ ◇

 

 少しずつ真夏の暑さから解放され始め、秋の訪れを知らせるような肌寒い日が度々顔を覗かせるようになった九月のこと。

 

 その日は、いつもと変わらない日常だった。

 唯一違うことと言えば、一段と風が強くて寒かったことくらいで、制服の上にカーディガンやパーカーを着込んでいる人が多かったかな。

 

 いつも通り朝のホームルームを終えると、一時間目の授業から順に受けた。

 好きな科目なら集中力が増してノートに書き込む手が軽くなり、好きじゃない科目なら惰性で先生の言葉に耳を傾ける。

 

 授業と授業の合間の僅かな休み時間には、クラスメイトと生産性のない他愛もない会話に興じて、クラスの和を乱さないように立ち回った。

 

 お昼には食事を摂って午後の授業に備える。

 本当になんの変哲もないありふれた日常だ。

 

 だけれど、放課後になるといつもとは違うことがあった。

 

 ううん、違うと言ったら他人事になっちゃうかな。

 わたしが自分でいつもと違う特別な日にしたんだ。

 

 それがいいことだったのか、良くないことだったのか、正直今でもわからない。

 でも、これだけは声を大にして言える――後悔はないと。

 

 だって、あの日あの時、行動に移らなければ今のわたしはいないのだから……。

 

 わたしがなにをしたのか、それは今も鮮明に覚えている。発した言葉を一言一句覚えているくらいだ。

 

 放課後の学校で特にやることがなかったわたしは帰宅しようと思い、荷物をまとめた鞄を肩に掛けて廊下を歩いていた。

 既に帰宅している人や部活に励んでいる人が多かったので、校内は静まり返っていたと思う。

 

 いつもなら下足室までの道程(みちのり)は最短距離で移動していたのだけれど、この日はなんの気なしに遠回りした。

 

 そうそう、どうでもいいことだけれど、中学時代は正面玄関や生徒玄関と呼んでいたから、高校に入ってから呼称が下足室になって違和感があったんだよね。今はもう慣れたけれど。

 

 本当にどうでもいいことだったわ……。

 

 ――話を戻すと、わたしは時折聞こえてくる運動部の声に耳を傾けながら廊下を歩いていた。

 そして普段から人気(ひとけ)の少ない校舎の(はし)にあるエントランスに差し掛かった時、ベンチに腰掛けて窓の外を哀愁漂う表情で眺める一人の男の子を見掛けたの。

 

 良く知っている男子だったから自然と足を止めてしまったのよね。

 クラスメイトだから知っていたというのはもちろんだけれど、別の理由もあった。

 

 それは――彼のことが好きだったから。

 

 わたしだって恋する乙女なんだから、片想いしている男の子が寂しそうな顔をしていたら気になってしまうの。だから、なんであんな表情をしているのか勘繰(かんぐ)ってしまうのは仕方ないよね?

 

 そもそもなんでわたしが彼のことを好きになったのか。

 なにか特別な出来事があったわけではない。

 

 自分で言うのは烏滸(おこ)がましいけれど、私は昔から男子に良くモテた。

 人並み以上に容貌とスタイルが優れている自覚はある。

 娘のわたしから見ても両親は美男美女だ。その遺伝子を受け継いだわたしが恵まれた容姿をしているのは必然なのかもしれない。

 

 だからなのか、わたしは幼い頃から男子に持て(はや)され、女子には(ねた)(そね)みの標的にされてきた。

 昔は今よりも積極的に人と関わろうとしたし、活発なところもあったと思う。

 でも、それ故に下心や、やっかみの視線を向けられることが多く、まだ幼かったわたしは精神的に参ってしまった。

 

 そういった経験から、わたしは小学校の高学年になった頃から積極的に人と関わることを避けるようになり、口数も減って孤立することが多くなったのよね。

 

 幸いにも存在感を消すことでわたしの心は穏やかになった。

 しかし、中学生になると今度は高嶺の花として一目置かれるようになってしまう。

 

 入学当初は小学生時代より気が楽だったから良かったのだけれど、日を追うごとに特別視されるようになっていくのがわかって辟易してしまった。

 

 男子には下心丸出しの視線を日常的に向けられ、望んでもいないのに告白される。

 断る度にわたしは罪悪感に(さいな)まれるし、強引な人の時は身の危険を感じたこともあった。

 

 小学生の頃よりは(ねた)(そね)みを向けられることは減ったけれど、完全に無くなったわけではない。

 なにより、女子の憧れとして勝手に偶像化されてしまったのが一番辛かった。

 幻滅させないような立ち居振舞いを心掛けないと、勝手に裏切られた気分になった人たちからどんな仕打ちを受けるかわからなかったから……。

 

 容姿が優れていることも、異性にモテることも、同性に憧憬(しょうけい)の念を(いだ)かれることも、誰もが得られるものではないし、もしかしたら贅沢な悩みなのかもしれない。

 

 でも、わたしは自分の境遇を素直に喜んで甘受(かんじゅ)できるような性格ではなかった。

 

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