幼い頃から憧れている女性は母の親友   作:雅鳳飛恋

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第三章 初めての女
第1話 近況報告


 有坂と付き合うことになった日から二週間後――彼女ができたというのに、俺は性懲りもなくセフレの家に足を運んでいた。

 

 一人暮らしには充分な(ワン)DKの部屋だが、ベースやアンプなどの音楽関係の物が一部を占有しており、心なしか窮屈に感じる。

 だが、しっかりと整理整頓されているから居心地は悪くない。むしろ通い慣れている部屋なので落ち着くくらいだ。

 

 そんな部屋の主である女性は今、一糸纏(いっしまと)わぬ姿で足を組みながらベッドに腰掛けている。

 

「――今更だけど、最近はどう?」

「本当に今更だな……」

 

 裸でベッドに横たわっている俺は彼女の問いに肩を竦める。

 俺たちは部屋に着くなり、これといった会話を交わすことなく男女の営みに興じた。なので、近況報告などは一切していなかった。

 

 少しくらい談笑してから行為に及んだほうが雰囲気が盛り上がるのかもしれないが、俺と彼女の間にそんなロマンチックな展開は必要ない。

 付き合いの長さもあるが、互いに割り切った関係だと認識しているから、ストレスを発散したり、その場を楽しんだりできればいいと思っているからだ。

 

「最近は舞さんにアプローチしている」

「ふ~ん。遂にその気になったんだ」

「ああ。いろいろあって、今がチャンスだと思ったんだ」

「でも、相手の人はまだ既婚者なんでしょ? 面倒なことにならないといいけど」

 

 彼女は俺が舞さんのことが好きなのを知っている。

 舞さんが既婚者なのも、母の親友なのも、俺と親子同然の関係なのも、二十個も年が離れていることも知っている。

 

「まあ、結果がどうなるにせよ、この先もうじうじしてストレスを溜め込むよりは、アタックしたほうがあんたにとってはいいのかもね」

 

 そう口にした彼女は、ローテーブルに置いてあるペットボトルを手に取る。

 そしてペットボトルを口元に運ぶと、中身の水をゴクゴクと喉を鳴らしながら飲み干した。

 

「もし駄目だった時は私が慰めてあげるから、当たって砕けて来なよ」

 

 口の端から僅かに水を垂らしながら俺の頭を撫でる彼女の姿は、包容力と色気に満ちている。

 

 彼女の美形も相まって、男なら誰もが見惚れてしまう幻想的とも思える姿に一瞬目を奪われてしまった俺は、照れを隠すように視線を逸らしながらぶっきらぼうな口調で言い返す。

 

「砕けたら駄目だろ」

「はは、そうだね。上手く行くように応援してるよ」

 

 小さく笑みを零す彼女は、弟を見守るような優しい眼差しを向けてくる。

 

「後悔しないように一生懸命ぶつかってきなさい」

「そのつもりだ」

「うん。その意気だ。頑張れ、男の子」

 

 口元を緩めて小さく笑みを零す彼女はそう言うと、先程の優しい手付きとは違い、今度は雑に俺の頭を撫でる。

 

「男の子って年ではないと思うんだが……」

「なに言ってんの。私と比べてもあんたはまだまだ若いんだから、舞さんからしたら子供にしか思えないでしょ」

 

 呆れたように溜息を吐いた彼女は――

 

「子供にしか思われていない相手を落とそうしてんでしょ? だったらそんなことで不満なんて言っていられないでしょ。いくら背伸びしたって子供は子供なんだから、相手には微笑ましく思われるだけだよ。だからありのままの姿でぶつかるしかないでしょ」

 

 俺にとってはぐうの音も出ない正論を飛ばしてきた。

 

 本当になにも言い返すことのできない正論をぶつけられた俺は自分が情けなくなり、肩を竦める彼女の姿を呆然と眺めることしかできない。

 

「まあ、部外者の私が口出しすることじゃないからこれ以上はなにも言わないけど、自分が納得できる結果に落ち着けるように精一杯頑張りな」

「ああ……善処する」

 

 厳しいことを言いつつも、思いやりのある言葉もかけてくれる彼女の存在は本当に大きい。

 無暗に深入りせず、引き際も(わきま)えている彼女の絶妙な距離感に何度も救われている。

 

 だからこそ、彼女の言葉には素直に耳を傾けることができる。

 時々、弟のような扱いをされることがあるのは少しばかりこそばゆいが、姉のような存在に甘えられることが俺の心を軽くしてくれるから甘んじて受け入れている。

 

「ほかは?」

 

 舞さんの話が一段落したところで彼女は俺に視線を向けてそう口にした。

 言葉足らずの問いだが、数年の付き合いがある俺にはちゃんと意味が通じている。彼女は「ほかになにかイベントはなかったのか?」と尋ねているのだ。

 

「一応、彼女ができた」

 

 俺は基本、彼女にはなんでも話す。

 なので、包み隠さずに事実を告げた。

 

 すると――

 

「……は?」

 

 クールな彼女にしては珍しく呆けた顔を晒した。

 

 まあ、彼女の反応は無理もない。

 彼女は俺が舞さんのことが好きなのを知っているし、今日もこうして恋人ではない女性と身体を重ねているのだから、驚かないほうがおかしい。

 

「ちょっと、頭の整理が追いつかないんだけど……」

 

 悩ましげにこめかみを押す彼女は――

 

「つまり、彼女がいるのに私と()()()()()()をしていたってこと……? それに、その彼女っていうのは舞さんのことじゃないでしょ……?」

 

 そう言葉を絞り出した。

 

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