幼い頃から憧れている女性は母の親友   作:雅鳳飛恋

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第4話 アタック

 いや、彼の想い人が亡くなっていたわけじゃないのは良かったよ。好きな人がいなくなるのは悲しいもん。

 

 とはいえ、意中の人がお母さんの親友で既婚者となると、そりゃ告白したくてもできないよね……。

 

 お母さんと親友さんの関係に(ひび)を入れてしまうかもしれないし、なにより親子ほど年の離れた女性に告白するのは相当勇気がいるはずだ。

 仮に想いを告げたとしても、きっと子ども扱いされてまともに取り合ってくれないだろうし……。そんなの自分が(みじ)めになるだけだよね……。

 

「一応誤解がないように言っておくが、俺がガキの頃はまだ独身だったんだ。決して横恋慕したわけじゃないからな」

「う、うん。でも、仮に横恋慕だとしても悪いことだとは思わないよ。好きになってしまうのは仕方がないことだからね。肝心なのはその気持ちにどう折り合いをつけるかだもん」

「そうだな……」

 

 幼い子が身近にいる大人の異性に憧れるのは良くあることだと思う。

 保育園の先生や、親戚のお兄ちゃんお姉ちゃんとかね。

 

 それに幼い子なら既婚者だとか独身だとか、そういった言葉の意味を理解していなくても不思議じゃないし。

 

「折り合いをつけられたらいいんだが、俺は未練がましくも未だにこの感情を捨てられずにいるんだ」

 

 溜息を吐きながら「情けないだろ?」と力なく呟く彼の姿に、わたしの心は締めつけられてしまう。

 

 全然情けなくなんてないよ。

 だって――要するに一途ってことだもんね。

 

 そう伝えたいけれど、思うようにわたしの口から言葉が出てきてくれなかった。

 

 もしかしたら慰めないほうが自分にとって都合のいい展開になるかもしれないと、心の奥底で思っているのかもしれない。

 

 慰めたら彼が自分の気持ちを肯定して、意中の人のことを今後も想い続けるかもしれない。

 だからわたしの中に()んでいる悪魔が邪魔をして、彼が自分の抱えている気持ちに見切りをつけられるように誘導しているのかもしれなかった。

 そうすることで振り向いてくれるかもしれないと狡賢(ずるがしこ)い考えに至ってしまう辺り、わたしは悪い女なのだろう。

 

 でも、わたしはそんな女になりたくない。

 好きな人を正々堂々と支えられる女になりたい。

 

 卑怯なことをして幸せを得たとしてもわたしは納得できないし、それは本当の幸福ではないと思うから。

 

「正直、有坂は美人だし、性格も好ましく思っている。だから付き合ったら楽しくて充実した日々を送れると思う」

 

 彼は今までわたしの容姿に関心を示さなかったけれど、美人だと思ってくれていたんだ……。

 いつもなら容姿のことを言われるのはあまり好きじゃない。でも、彼に美人って言われるのはめちゃくちゃ嬉しい!

 しかも内面もしっかり見てくれていたなんて嬉しすぎてにやけちゃいそう。

 今は真面目な話をしているから頬が緩まないようにしないといけないのがもどかしいよ!!

 

「だが、恋愛対象として好きなわけではないし、別の女性のことを想いながら付き合うのは有坂に失礼だと思うから、ごめんな」

 

 そう言って彼は頭を下げる。

 

 振られたことは悲しい。

 でも、視線を外すことなく気持ちを伝えてくれた姿に誠意を感じる。

 真剣にわたしのことを考えてくれているんだってわかるから、思っていたよりも気落ちはしていない。

 

 だって、告白されたからとりあえず付き合ってみるか、と思っても不思議じゃないしね。

 偏見かもしれないけれど、えっちなことしたいからちょうどいいやって軽く考える人だっていると思う。

 

 正直言うと、もし彼と恋人になれるなら動機はなんだっていい。

 気まぐれでも、遊びでも、身体目当てでも。

 

 付き合ってから努力してわたしに夢中にさせてしまえばいいんだし。――まあ、男性を避けて生きてきたから交際経験は皆無だし、そんな自信は全然ないのだけれど……。

 

 でも、やってみないとわからないでしょ?

 だからわたしから持ちかけてみる。

 

「それでもいいから試しにわたしと付き合ってみない?」

「めちゃくちゃ魅力的な提案だが、どうしても諦めきれなくて有坂に向き合う余裕がないんだ」

「わたしのことを気晴らしに使うくらいの心構えでもいいよ?」

 

 めげずにアタックしてみたけれど、ちょっとしつこかったかな?

 

 彼、困っちゃったのか左右の眉尻が下がってハの字になっているし……。

 

「有坂にはちゃんと伝えておいたほうがいいか……」

 

 彼は頭を掻きながらそう呟く。

 

「なに?」

 

 わたしは首を傾げながら彼の瞳を見つめる。

 

「気晴らしというか……やり場のない感情を紛らわすための相手なら既にいるんだ」

「……というと?」

 

 なんだか彼は言いにくそうにしている。

 慎重に言葉を選んでいるというか、歯切れが悪いというか。

 

 それを疑問に思ったわたしは怪訝な顔になってしまう。

 

所謂(いわゆる)セフレだな」

「……なるほど」

 

 彼が口にした台詞にわたしの思考と感情が目まぐるしく掻き乱されてしまい、相槌を打つのが遅れてしまった。

 

 セフレって……あれだよね?

 セックスフレンドのことだよね?

 

 どうりで言いにくそうにしていたわけだ。

 女のわたしにセフレの話をするのは(はばか)られるもんね。

 

 それはそれとして、彼セフレいるんだ……。

 ちょっとショック……。

 でも男の子だし普通のことなのかな?

 

 相手は誰なんだろう? 同じ学校の子?

 もしかして何人もいたりするのかな……?

 

 あれ? 彼の彼女にはなれなくても、セフレにならなれる可能性ってあったりする?

 

 ……いやいや、なに考えてんのわたし。

 そんな不純なのは駄目でしょ。未成年のわたしがセフレなんて、親にバレたら怒られるだろうし。

 

 わたしは彼の恋人になりたいのであって、えっちなことがしたいわけじゃない。――まあ、彼女として彼とあんなことやこんなことをしたいとは思うけれども……。

 

 と、とにかく! そういう割り切った関係は経験豊富な子とかがやっていることなんだよ!! 多分……。

 

 全く経験のないわたしが相手になっても面倒臭いだけだよね。うん、きっとそうに違いない。

 

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