ごめんねぇ~アンタは最高のコーディネイターでもなんでもないってさあ!   作:皐月莢

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平和の歌姫

 ミラージュコロイドを解除し、姿を現した漆黒のモビルスーツ——“ブリッツ”は、混乱の渦に巻き込まれた防衛部隊に攻撃を繰り出していた。

 どうやらヘリオポリスを襲ったザフト軍が、アルテミス要塞に攻撃を開始したらしい。

 鉄壁を誇る防御システム“アルテミスの傘”も、常に展開しているわけではない。

 ミラージュコロイドを用いた侵入を阻止することは出来ないし、無防備な内部からの攻撃には何の意味もないのだ。

 コクピットの脇にキラを強引に押し込んだリデラードは、即座に玩具を発見した子供のように操作パネルへ視線を走らせる。

 

「遊んであげる」

 

 先程から胸に過るモヤモヤは誰のせいなのか。

 リデラードは目の前に現れた漆黒の機影を見て、狂喜にも似た笑顔を浮かべた。

 戦場で求められるのは、ただ敵を圧倒する力だけ。

 最大の特性はミラージュコロイドによる奇襲能力だが、右腕に多数の新型兵器を搭載した複合武装を、左腕に多機能のロケットアンカーを装備したその機体は、既存の機動兵器を凌駕する戦闘能力を誇るモビルスーツだ。

 むしろその完成度は、実戦を度外視した欠陥機に過ぎないカラミティを大きく上回るだろう。

 整備の都合なのか、それとも強奪される可能性を警戒したのか。

 カラミティは武装の大半が取り外されていたが、敵が少数なら何の問題もない。むしろ余計な装備を削ぎ落としたことで、継戦能力と運動性能は向上しているだろう。

 その気になれば、ガンバレルだろうとドラグーンだろうと扱えるが、自分はこういうシンプルな装備の方が慣れている。

 リデラードは背部に唯一残されたシュベルトゲーベルを抜くと、獲物を狙う捕食者のように機体を前進させた。

 鋭く迫るロケットアンカーの影が視界に入った瞬間、素早く操縦桿を動かして強引に機体を切り返す。

 強烈な慣性に晒されてコクピット全体が激しく揺れる中、体勢を崩して倒れ込んできたキラの手がリデラードに触れた。

 

「どこ触ってんの!?」

「ご、ごめん!」

 

 慌てて手を引っ込めるキラの顔には、どこか赤みが差している。

 リデラードはその姿を横目に見ながら再び集中すると、即座に体勢を立て直ながらメインスラスターを全開で起動する。

 弾丸のように加速したカラミティは、その勢いのままにブリッツの横腹に斬りかかった。

 金属が擦れる音が空気を切り裂き、眩い火花が宙を舞う。

 目にも止まらぬ速度で振るわれたシュベルトゲーベルの刃が、ブリッツのシールドに大きく食い込んだ。

 強烈な衝撃で後退を強いられたブリッツは辛うじて態勢を維持しながら、カラミティを狙ってビームライフルを発射する。

 

「ざんねーん」

 

 リデラードは笑いながら機体を横に捻り、シールドの裏側から伸びたビームを紙一重で回避する。

 そのまま一回転してシュベルトゲーベルを振り抜くと、ブリッツが咄嗟に発射したロケットアンカーを両断する。

 パイロットの唖然としている姿が、精神感応能力とは無関係に感じられる。

 クルーゼ隊だかなんだか知らないが、しょせん素人のキラを倒せなかった雑魚の寄せ集めだ。

 先天的な才能はもちろん、後天的に獲得した技量においても圧倒的に上回る自分に敵うはずがない。

 

「これで終わり!」

 

 ブリッツとの距離を一気に詰めようとしていたリデラードは機体を上昇させると、不意に射出されたロケット弾を鮮やかに回避した。

 弾薬が炸裂し、強烈な衝撃が周囲に広がる中、反応が遅れたブリッツにシュベルトゲーベルを振り下ろす。

 実体剣から伸びたビーム刃がコクピットに迫る直前、不意に何かを見つけたキラが立ち上がった。

 

「アスラン!」

 

 その意外な名前にリデラードは咄嗟に反応し、急制動を掛けた。

 視界の端に映った赤い機影が発射した光弾がカラミティを掠め、装甲の一部をわずかに焦がす。 

 

「へぇ……」

 

 新しい獲物を見つけたリデラードは笑うと、戦闘能力を喪失したブリッツを放置して斬り掛かる。

 二度、三度と剣戟を繰り返すと、リデラードは上段から振り下ろすような一撃でイージスを強引に仰け反らせた。

 しかしその瞬間、イージスの脚部から伸びたビームサーベルが交錯し、激しい火花と共にシュベルトゲベールが両断される。

 

「なんだこいつ……!?」

 

 リデラードは歯を食いしばりながら機体を後退させるが、剣舞のような斬撃が立て続けに襲い掛かる。

 この反応速度と正確無比な操縦技術は、キラ・ヤマトやシン・アスカを差し置いて自分達を除けば最強だと評された事実を理解させた。

 

「今日はここまでにしてあげる!」

 

 遠くではバスターの発射した対装甲用の散弾がユーラシア軍の迎撃部隊を次々葬り去り、デュエルがその撃ち漏らしを片っ端から撃破している。

 このまま戦っても勝算は十分にあるだろうが、もしもアークエンジェルが沈めば地球に戻る術を失う。

 ここは身動きの取れないユーラシア連邦軍を囮にするべきだ。

 リデラードはイージスに意識を集中させたまま吐き捨てると、隣で硬直しているキラに叫んだ。

 

「あんたもボケっとするなっての!」

 

 キラが驚きながらも頷くと、リデラードはその場で停止しているブリッツ目掛けて複列位相エネルギー砲を発射した。

 絶大な真紅の閃光がブリッツを呑み込み、シールドを掲げて立ち塞がったイージスごと薙ぎ払う。

 これでしばらくはこちらを追撃出来ないだろう。

 

「ばいばーい!」

 

 自らの力を示すように嘲笑すると、リデラードは猛烈な爆炎を背にカラミティを翻した。

 

 

 

 

 リデラードは不満そうに、コクピットの中で唇を尖らせる。

 

「水の使用制限って言うけどさぁ、私のシャワーより重要なことってあるわけ?」

「あるんじゃないかな」

 

 キラは苦笑すると、目の前の廃墟と化したコロニーの内部に視線を向ける。

 

「ないって言ってんの」

 

 リデラードは一歩も譲らない調子で言い返す。

 少なくとも第二の故郷──ファウンデーション王国では、美しい湖の畔に位置することもあって水不足に悩まされた経験など1度もなかった。

 そもそもファウンデーションでは、ブラックナイツの一員である自分はどんな贅沢だろうと許されていた。

 自分は誰よりも優秀な存在なのだから、どんな状況だろうと優先されて当然なのだ。

 

「……アスランのことは」

 

 キラは視線を落とすと、つぶやくように言った。

 

「あんたの交友関係なんてどーでも良くない? そりゃそういうこともあるでしょ」

 

 なんなら、イージスに乗ってたこと以外は知ってたし。

 男の友情に興味などないが、後にギルバート・デュランダルが敗北した原因はあの2人の存在だと言えるだろう。

 とはいえこの時点で下手に動けば、おそらくオペレーション・スピットブレイクの失敗に伴う情勢の変化で、数で上回る地球連合軍がプラントを滅ぼすだろう。

 そうなれば現在ユーラシア連邦の属国に過ぎないファウンデーション王国でも反コーディネイター運動が盛んになり、独立運動を起こしたとしても失敗に終わる可能性が高い。

 どれだけブラックナイツが精強だろうと、ザフトの支援を受けられない状況下でユーラシア軍を退けられる可能性は限りなくゼロなのだから。

 キラはリデラードの冷淡さに小さく息を吐いた。

 

「そう、かな。ここは何十万人もの人が亡くなった場所なのに……」

 

 キラの返答に、リデラードはうんざりした表情を浮かべながら目の前のコンテナを乱雑に確認する。

 このコロニー・ユニウスセブンはブルーコスモスに所属する地球連合軍人が起こした核攻撃で、現国防長官パトリック・ザラの妻を含む全住民が死亡したとされる地だ。

 後に思わぬ形で再び注目されることになるこの廃棄コロニーに、深刻な物資不足に悩まされていたアークエンジェルは足を運んでいたのだ。

 

「それこそどうでも良くない? どうせ消滅するんだし」

 

 あと2年も経てば、トチ狂ったコーディネイターたちが地球にユニウスセブンを落下させる。

 イカれた連中に戦争の引き金として使われるくらいなら、不謹慎だろうと誰かの役に立った方がよほどマシだと断言出来るだろう。

 

「消滅する?」

 

 リデラードは怪訝な表情を浮かべたキラに、即興で言葉を続けた。

 

「……何十億年も経てば、全部太陽に呑み込まれるって聞いたことがあるでしょ? だから、どうせ最期は同じ」

「それは、そうだけど」

 

 キラはあまりにも壮大なリデラードの話に首をかしげるが、それ以上は追及しなかった。

 リデラードは安堵の息を漏らすと、再び物資の回収作業に戻った。

 戦闘に巻き込まれたのか放棄された民間船を発見した直後、奇妙な感覚に包まれたリデラードは作業の手を止め、その船の影にモビルスーツを止めた。

 リデラードは目を閉じてその感覚に集中しようとしたが、キラの視線が自分に注がれていることに気付いた。

 

「君は本当にそれでいいの?」

 

 リデラードは目を開けると、冷笑を浮かべながら肩をすくめた。

 

「戦うことが、私の使命だから」

 

 定められた運命に身を委ね、目の前の敵と戦うこと。

 そして勝利することが唯一の使命だ。それ以外の生き方を、自分は知らない。

 

「……君だって、誰かを守るために戦っているんじゃないの?」

「私は使命を果たすだけ。……ま、あんたに分かってもらうつもりはないけど」

 

 奇妙な感覚の正体にリデラードは小さく笑うと、肩を竦めながらカラミティを再起動する。

 強行偵察型のジンがアークエンジェルの方角に向かっている姿を捉え、320mm超高インパルス砲を発射した。

 眩い真紅の閃光が発見した地球連合軍の位置情報を送ろうとしていたジンを瞬時に呑み込み、跡形もなく消滅させる。

 リデラードは一息つくと、再び物資の確認に戻った。

 しかしこの胸騒ぎのような感覚は、消えるどころかさらに強まる一方だ。

 その正体に答えを出すことができないまま作業を進めていると、カラミティのセンサーが微かな反応を捉えた。

 

「……何だ?」

 

 すると先程発見した民間船から脱出したらしい、宇宙空間を漂う緊急避難用のポッドを捕らえた。

 リデラードは目を細めると、怪訝そうなキラに指示を出す。

 

「何が入っているか見てみましょう」

 

 民間船に乗り込んでいた避難民か、あるいは別の存在か。

 

「大丈夫かな、勝手に見て」

 

 キラが心配そうに問うが、リデラードは断固として言い放つ。

 後でマリューたちに文句を言われるかもしれないが、今ここで中身を確認しなければならないと確信した。

 

「私がいいと言ってるからいいの」

 

 警戒を怠らず、リデラードはストライクに抱え込ませたポッドに近付いた。

 右手に拳銃を構えながらハッチを開いた瞬間、見覚えのある人影が目に飛び込んできた。

 

「……うそ」

 

 桃色の髪を伸ばした絶世の美少女が、座席に腰掛けたまま無防備に眠っている。

 現プラント議長シーゲル・クラインの娘にして、プラント全土どころか火星圏に至るまで熱狂的なファンを持つとされる“平和の歌姫”。

 そして世界を統べる王──オルフェ・ラム・タオの対として、万人に愛される女王の運命を定められた少女──ラクス・クライン。

 しかしポッドの中で眠るラクスの姿は、そんな大層な肩書きとは無縁の存在のように無垢なものだった。




へぇ~ ラクス・クラインとキラ・ヤマトってこんな時から接点があったんだ~ マジウケる~

次回予告

歌姫との出会いは、運命に翻弄される少女を弄ぶ。
遂に現れた仮面の騎士は、戦場に新たな災厄をもたらすのか。

第4話「廻り始めた運命」(11/9更新予定


なんとSEED FREEDOM ZEROが公開されるようです。(OVAとかかもしれませんが)
つまりリデラードちゃんの掘り下げもある……?

リデラードちゃんは(自主規制)

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