ごめんねぇ~アンタは最高のコーディネイターでもなんでもないってさあ!   作:皐月莢

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消える光

 ユニウスセブンの眠る広大なデブリ・ベルトを抜けた先には、巨大な宇宙戦艦が静かに待ち構えていた。

 一度接近を許せば、アークエンジェルと変わらない速度を有したナスカ級戦艦ヴェサリウスとの戦いは避けられない。

 リデラード・トラドールはカラミティのコクピットで、目の前に広がる果てしない宇宙の闇とその中の光点を一瞥する。

 カラミティは背部に搭載された高推力スラスターをフル稼働させると、キラのストライクをも凌駕する圧倒的な機動力が、虚無の空間を切り裂くように加速させる。

 ビームライフルから放たれた光弾が、ジンの上半身を瞬時に貫いた。

 蒼い閃光に穿たれたジンの装甲は紙のように引き裂かれ、大爆発を起こした。

 圧倒的な射程距離と、それ以上の破壊力——。

 ザフトの既存モビルスーツでは有り得ない、携行式のビーム兵器を搭載したG兵器の本領発揮だ。

 後方に控えていたジンのパイロットたちは、その一瞬の早業に怯んだ。

 リデラードはその僅かな隙を逃さず、即座に第二射を発射した。

 ビームは再び蒼い軌跡を描くと、今度はジンの右半身を呆気なく吹き飛ばした。

 糸を切られた操り人形のように崩れ落ちたジンは次の瞬間、推進剤に引火して大爆発を起こし、無数の破片を周囲に散らばらせる。

 リデラードは唇をわずかに歪めると、視界の端に映る敵機の残骸に目をやった。

 

「クルーゼ隊っての、案外大したことないんじゃない?」

 

 しょせんは既存の兵器に対するモビルスーツの優位性を生かして、これまで勝利してきただけだ。

 たかが素人の出来損ないに苦戦してきた雑魚どもに、この世界を導く存在として生まれた自分が負けるわけがないのだ。

 リデラードは怒りに満ちた敵パイロットたちが放つ銃撃の雨を、まるで見透かしたかのように悠々とかわしながら、そのうちの一機に狙いを定めて突撃した。

 敵の重斬刀を紙一重でかわしながら、真っ直ぐシュベルトゲベールを叩き込む。

 光を纏った剣が装甲を貫き、大きく装甲を抉られたジンは悲鳴をあげることもなく、眩い爆炎に包まれた。

 次の瞬間、リデラードは背後から別のジンが迫っているのを察知すると、カラミティを優雅に操縦しながら踊るように回避した。

 反転と同時に腹部から放たれた真紅の閃光が装甲を貫き、その機体は無に帰す。

 リデラードは微かに微笑を浮かべながら、クルーゼ隊のパイロットたちを次々に撃ち抜き、斬り裂いていった。

 

「そいつは私の獲物!」

 

 リデラードは後方からストライクが放った光弾がジンの頭部を撃ち抜くのを見て、声を張り上げた。

 

「ご、ごめん」

 

 ビームライフルを構えたまま飛び退くストライクを、リデラードは横目で見た。

 カラミティは頭部を喪ったモビルスーツに止めを差すため、再びビームライフルのトリガーを引こうとした。

 

「──これは手厳しいな」

 

 すると、愉しげな男の声が不意に響いた。

 

「──!」

 

 リデラードはその声の主が誰かを考える余裕もなく、機体を反射的に急旋回させる。

 次の瞬間、強烈な銃撃が寸分の狂いもなくカラミティの装甲をかすめ、コクピットを激しく揺らした。

 もしもフェイズシフト装甲が無ければ、確実にダメージを受けていただろう。

 リデラードが目を鋭く細めると、銀灰色に塗られたモビルスーツが獲物を狙う猛禽類のように軽やかな動きで通り過ぎる姿が見えた。

 

「チッ」

 

 リデラードはラウ・ル・クルーゼのパーソナルカラーを見て、思わず舌打ちした。

 後にプラント議長となるギルバート・デュランダルとも個人的な親交があったとされる、謎多き仮面のエースパイロット。

 生まれ持った才能はともかく、実戦経験は間違いなく上だろう。

 僅かな油断が命取りになるのは間違いない。

 しかしその緊張感以上に、高揚感が全身をを突き動かす。

 シグーが背後に回り込もうとした一瞬の隙を狙い、リデラードはカラミティのシュベルトゲベールを勢いよく振り下ろした。

 電光石火の一撃にクルーゼは反応し、重斬刀で鋭く受け止める。

 やはり機体の性能は圧倒的にこちらが上だ。

 両機の間に火花が閃光のように散り、激しい衝撃波が広がる中、リデラードは猛攻を開始した。

 

 その頃、別の戦場ではキラ・ヤマトが二度目の実戦に臨んでいた。

 操縦桿を強く握り込んだ手には、冷たい汗が滲んでいる。

 赤いイージスがビームサーベルを振りかざし、迫り来る度にキラはビームライフルを放つが、その攻撃はことごとく躱される。

 その鬼神のような姿に、アスラン・ザラ──かつての幼馴染の姿は、どこにもなかった。

 

「──どうしてお前がこんなところにいるッ!?」

 

 イージスの鋭い斬撃がストライクのシールドを殴りつける。

 機体こそ無事だが衝撃で視界が揺れる中、キラは歯を食いしばりながら叫んだ。

 

「君がそれを言うのかッ!」

 

 ザフトの攻撃に晒されたヘリオポリスは崩壊し、両親も、避難ポッドに押し込んだ謎の少女の安否も分からない。

 無事だった友人たちも今ではアークエンジェルの一員だし、自分より年下の女の子まで戦っているのだ。

 キラは再びビームライフルを連射するも、イージスはそれを見切ったような動きで避ける。

 

「くそっ!」

 

 どうして友人と戦わなければならないのか。

 キラが苛立ち混じりに叫んだ瞬間、モニターに赤い警告ランプが点灯した。

 

「しまった! パワーが……!」

 

 ストライクの鮮やかなトリコロールカラーが徐々に失われ、無防備な灰色が露わになっていく。

 パワーダウンだ。

 バッテリーを消費せずに使用出来るアーマーシュナイダーやイーゲルシュテルンでは、同じフェイズシフト装甲を採用しているイージスに対抗できない。

 最初からアスランは、まともにキラと戦うつもりはなかったのだ。

 このままでは負ける──そう思った瞬間、イージスは海月のような形状に変形すると、ストライクを拘束しようと迫ってきた。

 

「ヴェサリウスに来てもらう!」

 

 抵抗も虚しく、ストライクの胴体がイージスの四肢に絡め取られる。

 イージスの胴体に取り付けられた砲口が、ストライクのコクピットに突き付けられる。

 たとえバッテリーが奇跡的に回復したとしても、既にイージスの攻撃を防ぐ手段は残されていない。

 

「お前はコーディネイターだ! 俺たちの仲間なんだ!」

「違う! 僕は君たちの仲間なんかじゃ──」

 

 キラは逃れられないことを理解し、敗北感に包まれながら虚しい声を上げた。

 

 

 

 

 リデラードは不機嫌さを隠すことなく、鼻を鳴らした。

 クルーゼ隊の目的は、初めから強奪に失敗したストライクの捕獲だったのだ。

 その事実がはっきりした今、リデラードの苛立ちはさらに増していた。

 

「……最悪」

 

 型式番号から考えれば、カラミティはストライクの後継機にあたるが、実際には完全に別物と見る方が正確だ。

 むしろストライクの方が換装機として新機軸を持つ分、奪取の優先度は高いだろう。

 まして、パイロット同士の因縁や自分とキラの圧倒的な技量差を考えれば、クルーゼ隊の作戦は十分に予想出来たはずだ。

 リデラードは怒りを込めた瞳で、沈黙が支配する作戦室に緊急招集された士官たちを見渡した。

 軽薄そうな金髪の男ーームウ・ラ・フラガが平然とした表情で肩をすくめると、黒髪を伸ばした妙齢の女性、マリュー・ラミアスは溜息を漏らした。

 

「キラくんにとっては、不幸中の幸いだったのかもしれないけれど」

 「ですが、これでは……」

 

 ナタル・バジルールが咎めるような声を上げると、リデラードは冷ややかな視線を向けた。

 どうやらカラミティは第8艦隊の司令官であるデュエイン・ハルバートンの計画に便乗する形で造られた機体らしい。

 だからこの機体だけを持ち帰った場合、今後地球軍内部のパワーバランスに大きな影響が出る、とのことだ。

 ナチュラルの分際でーーあるいはナチュラルだからこそ、こうした権力闘争は重要なのかもしれない。

 

「だったらヴェサリウスにカチ込めっての? それは流石に自殺行為だぜ?」

 

 ムウは軽口を叩いた。

 メビウス・ゼロの攻撃で機関部に損傷を受けたヴェサリウスは、修理が終わり次第再びアークエンジェルを追い掛けてくるだろう。

 それだけでなく、どこかに消えたもう一隻——ガモフと挟み撃ちにしようとする可能性もある。

 いずれにせよ、アークエンジェルが第8艦隊に合流する前に決着を付けようと攻撃を仕掛けてくるのは明らかだった。

 

「じゃ、あとは勝手にやっといて」

 

 リデラードは会議室から立ち去ろうとした。

 ナタルが引き留めようとしたが、マリューは表情を固まらせたままだった。

 ある意味でキラ以上に得体の知れない少女兵——リデラードを、マリューたちは戦力として計算しているのだろうが、ナチュラルごときと仲良くするつもりはこれっぽっちもない。

 

「ですが……! ロアノーク中尉も」

「今はそーいう気分じゃないから」

 

 リデラードはナタルを押し退けると、無言でドアを開けた。

 特にアークエンジェルの連中——どうせ敵になることは分かりきっている連中と、深く関わるつもりはなかった。

 

 

 

 

 

「あら、リデラード様」

 

 リデラードが会議室を離れ、廊下を歩いていると、どういうわけか部屋を抜け出したラクスが目の前に現れた。

 外から鍵を掛けていたはずだが、なぜ外を出歩いているのかは分からなかった。

 

「……メンドーだからその名前で呼ぶなって言ったでしょ」

 

 リデラードが冷たい声で言うと、ラクスはまるで無邪気な子供のように小さな微笑みを浮かべた。

 

「だいたいあんた、どうやって出てきたワケ?」

「戦いが終わったようなので」

「そーいうことを言ってるわけじゃないんだけど」

 

 リデラードは苛立ちを隠し切れずに唇を尖らせると、隣にいた桃色の丸い自律機械がわけのわからない声を上げた。

 このピンクちゃんと呼ばれる自律機械の制作者は、どうやら電子ロックを解除するハッキング機能を搭載したようだった。

 いったい何を思ってこんな機能を搭載したのか、まるで見当も付かない。

 

「キラ様はどうされたんですか?」

「さぁねー。今頃あんたのことなんか忘れて、あんたの婚約者と遊んでんじゃない?」

「婚約者? アスランがどうしたのですか?」

 

 リデラードはきょとんとしたラクスに冷ややかな視線を向けた。

 地球連合軍の一員である自分が、ラクスの婚約者について把握していることに違和感を与えるかもしれないが、今はどうでもよかった。

 

「あいつはソイツに連れ去られた。今頃あんたのことを聞いて、顔を真っ青にしてるんじゃない?」

 

 ラクスを部屋に戻らせたリデラードは、煽るような口調で言った。

 

「あら。そうだと嬉しいのですが」

 

 まるで他人事のように答えるラクスに、リデラードは思わず吹き出しそうになった。

 婚約者とはいえラクスとアスランは親同士が対立しているし、アスラン自体もラクスの影武者を容認する程度の関係性だ。

 結局のところ、ラクスはアスランを捨てて、オルフェと同様に自分と遺伝子の相性が良いキラを選んだのだ。

 

「あー、やっぱそうなんだ?」

 

 貴女が自由意志だと信じているものは、決して自ら選択したものではない。

 定められた運命の相手ーーそれに限りなく近い相手を、何一つ文句のつけようがない婚約者を捨てて選んだだけ。

 リデラードは皮肉げに嗤った。

 

「リデラード様は別に構わないのですか?」

「当然でしょ。私がコーディネイターなら、とっくの昔に投降してる」

 

 リデラードは断言した。

 自分がコーディネイターであれば、わざわざ地球連合軍に所属する理由はない。

 ファウンデーション王国に向かうにせよ、地球連合に戻るにせよ、このまま当てもなくアークエンジェルに乗っているよりも投降した方がよほど楽だろう。

 

「別にあんたを連れて投降してもいいんだけどね。運がなかったと思いなさい」

 

 詳細不明だが、この肉体は定期的な投薬によってアコードに匹敵する身体能力を維持している。

 無理にその投薬を断てば、やがて肉体を維持できなくなるだろう。

 遺伝子関連を除いた医学においては、古くから合法・非合法を問わず研究を続けている地球連合に一日の長がある。

 具体的な情報を持たない現段階で不用意に脱走するのは、極めてリスクが高い。

 

「そうですか……。あ、1ついいことを思い付きました」

「いいこと?」

 

 なんとなく、ロクでもない気がする。

 リデラードが尋ねると、ラクスは悪戯っぽい笑みを浮かべた。




次回予告

2人の少女たちは、戦場に新たな混沌を引き起こす。
赤き騎士が選ぶのは正義か、それとも運命か。

第6話「分かたれた2人」(11/25更新予定

プライベートがゴタゴタしてて遅れていますが、来週くらいには解決するので通常ペースに戻れそうです。
また、某作品で予告編の情報をもとにZERO編を書く予定なので、気長にお待ち下さい。
漆黒のムラサメ改で強奪されたジャスティスと戦ったり、ブラックナイツとニアミスしたりする予定です。

リデラードちゃんは(自主規制)

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