続きはまた気が向いたら書きます。
ザザ…ン────と。
波の音が辺りに響く。
時刻はもう6時を超え、空が茜色に焦げてきた頃。
海岸に立っていた少年の耳にもう一度波の音が響いた。
「すぅ……」
深呼吸をして、息を吐く。
海の香りが鼻をつきぬけた。
同時に、覚悟を決めた。
─────────────覚悟。
それは死の覚悟。
自分を殺す覚悟、である。
いつからだろうか、人生に対して意味を求めなくなったのは。
いつからだろうか、生きたいと思えなくなったのは。
──────────きっかけは多分、妹が病気で死んでからだ。
妹が死んで、妹を中心とした家族だった少年の家庭は一気に崩壊した。
仕事に逃げた父親。
サボり癖があり、仕事にすらろくに行かなくなって遊び放題の母。
その現状を変えようと思いはするが話し合う勇気もない自分。
家族との会話は喧嘩かそもそも話さないかが大半だった。
長く使ってない皿やフォーク。
その代わりに増えたのはコンビニ弁当の容器だった。
学校も、可もなく不可もなく。
バイトも、可もなく不可もなく。
何か服や物を買う度にマイナスな事を父親から言われ続けたおかげで欲はあまりなく、金だけはあるのだが。
それもまぁ、所詮は1学生が貯めれるような額である。
ともかく─────だ。
”その日”は急に来た。
ある日プツンと、頭の中で何かの糸が切れる音がした。
少年は擦り切れたのだ。
そこからは早かった。
少年は1歩、踏み出した。
限りなく、悪い方向に。
どぷん────と。
下半身が水に入った。
顔を上げると水平線が見える。
何故かそれが眩しいと思って顔を下に向けた。
もしかしたら、輝いている世界を見ると未練が残るからなのかもしれないけど。
少年はもう一歩踏み出した。
どぷん───────と。
顔以外が入った。
死が全身を撫でる。
「…はは」
笑いが込み上げてくる。
恐怖も苦しみも、死よりもあの日常の方が上だとでも言うような声で少年は笑った。
どぷん───────…
全身が沈む。
息が出来ない。
色々なものが蘇る。
友人とか、大事にしてたゲームとか。
妹や、両親の事とか。
好きな曲、好きだった人。
良い思い出も悪い思い出も、等しくあって。
少年の中でそれらは弾けた。
弾けて
弾けて
弾けて
………全てが真っ白になっていって、
死が目を覆った。
▼
………………までが俺の記憶の全てだ。
そう、そのはずだ。
俺は何故か意識がある。
辺りには白しかない、もしかしたら空間ですらないのかもしれない。
白い世界には人間が1人。
…………死後の世界?
「まぁ一応合ってますね」
!!!!?!?!!?!???!!!?!!????!!!!!?!
「いや驚きすぎでしょ」
仕方ないだろう、人は予想外の事が起きるとこうなる。
「そういうもんですか」
そういうもんです。
「まぁそんな事どうでもいいです、つーわけでおはようございます」
「おはようございます、じゃないです」
「ここは一体?あなたは?」
「まぁ最もな質問ですね、平凡過ぎて私は嫌いですが」
理不尽だ。
「さて、私が誰かをお話しましょう」
「私は神です、女神です」
目の前の三角帽子を被った黄金色の髪を持つ美女は自身を女神と言った。
そっくりそのまま信じる訳でもないが、ひとまずここは死後の世界ということらしい。
「I’mLovin’it(その通りです)」
「Exactlyでは」
「そうとも言います」
なんだそれ。
「コホン…さて本題です。あなたは死にました、それはお分かりですね?」
「まぁ、はい」
その為にあそこに来たんだから、死んでないと困る。
「本来自分から死を選んだ者には罰を与えないといけないんです」
「それはそれはこわーい罰をね」
「例えば…私が今ハマってるゲームの素材クエストを10000回して貰うとか」
「それ罰なんです?」
「舐めないで下さい、そのゲーム必殺技演出のスキップが無いんで1回5分ぐらい掛かるんですよ」
「それは辛い」
つーか神様もゲームなんてするのか。
「辛いでしょう?…とまぁそんな事をしてもらおうかなぁなんて思ってたんですけど」
?
「あなたが死んだ原因って、まぁ結構遠回しにいえばあなたの妹様が病死されたからじゃないですか」
「それなんですけど、こちらの手違いだったみたいで」
「…は?」
つまり、妹が死んだのはこの神とかいう奴のせいって訳か?
「いやまぁ正確には私の前任なんですけども」
「本当はそのような手違いがあった場合、何らかの救済が本人かその家族に与えられるんです」
「しかしこれまた前任がプライドの高い奴でして」
「今までその失敗を隠し続けてたんですね〜」
そんな。
そんな事が、あっていいのか?
俺は神を詳しく知らない、しかし、しかしだ。
罰を与える側が、自らの過ちを罰せないと言うのは如何なものか。
「ですよね、ですので私にこうして人類を裁くという面倒…げふん、素晴らしい役目が回ってきたんです」
今面倒って言いかけたろ。
「バレてーら!…じゃなくて」
「話を戻しますと、つまるところ間違いが発覚したんであなたには今回、罰じゃなく救済をさせてもらうって訳です」
…………ふむ。
正直に言うと、だ。
怒りしかないと言いたい。
そんな馬鹿げた事があっていいのかと。
原因がもう裁かれたというのだから文句も言えない。
それに結局救済と言うのはなんなのだろうか。
なんにせよ、だ。
あいつはもう居ないのだ、妹は、もう居ない。
救済とやらを受ける理由がないのだ。
───────────つまり、こう言う他ない。
「嫌だね」
「はい?」
「救済の内容がなんだか知らんが、俺は死ぬ為に死んだんだ」
「さっさと輪廻転生でも何でもしてくれ」
「あちゃー、そう来ましたかー」
「行きたくないです?異世界転生ですよ?ベネット・パラダイスですよ?祝福された楽園ですよ?」
「今さらっと重要な事言ったな!異世界かなんか知らんけど行きたくねぇつってんだろ!」
ほんとにサラッと言っていたけど結構重要じゃない?
俺異世界転生させられようとしてたの?
「うわマジかー、まぁそうだよなぁ…うげぇ、これ最高神様に怒られるんじゃ……あ」
「?」
「あぁ!今思い出しました!」
「貴方の妹様なんですけどね」
「多分異世界にいますよ」
はい?異世界?さっきの?
「はいそうです、異世界です」
「人が居て、魔物が居て、魔王が居て」
「そして魔法がある、そんな平凡な異世界です」
なんで妹がそこに?
「異世界には異世界の神がいます」
「そして魂を輪廻転生させる時には転生させる世界の最高神に魂の書類が送られるんです」
「そしてどの世界に送るのか判断するのはこの審判の間の神だけ」
つまりその神はこの世界の最高神に書類が送られないよう、異世界へと妹を転生させたというわけか。
「そうです………………………多分」
「おい」
「あ、いや!違います!絶対です、絶対!」
「ですので何とか救済を受けて異世界へ行ってください!そしてついでに問題解決したり魔王を殺してください!」
「絶対そっちが目的だろ!」
「バレたか!お願いしますよぉ異世界の神から最近めっちゃ手紙が来るんですよぉ!」
「手紙?」
「そうです!まぁ具体的には「こっちの世界ちょっと人死にすぎて少なくなってるからさ、そっちで死んだ人こっちくれんか」的な」
「ノリ軽!?いやまぁ同情はするが…」
「お願いしますよぉ!
…それにほら、妹様に会えるかもしれませんし!」
………妹に?
「…」
思い出すのは暖かな記憶。
頭を撫でてもらった時の思い出。
凄いね、と褒めてもらった時の思い出。
妹の癖に、変に大人びた奴、けど。
自分の全てとも言えた。
もしかしたら転生方法によっては異世界の妹は自分の事など覚えてないかもしれない、が。
「─────────分かった」
「仕方ない、行ってやる」
「チョロ…じゃなかった、ありがとうございます!」
「お前ほんと」
「はいはい、では準備を始めますよ」
「あ、後ついでに特典もあげます」
「えぇ…」
そんな簡単に神からの貰い物って貰ってもいいものなのか…?
「いいんですよ、貴方が死にたいと思うまで追い詰められた責任はある意味、我々神にあると言えますし」
「本当に、貴方やご家族には申し訳ないと思ってるんですよ」
…ならまぁ、ありがたく受け取っておこう。
「出来ました」
女神がそう言った瞬間、足の下に魔法陣らしきものが出来、辺りが金色に輝く。
「さて、これから貴方は異世界へと旅立ちます」
「そこでは色んな困難が…まぁとりま」
─────瞬間。
ズオ!と何か空気が圧された音が背後からしたその瞬間、少年の体が勢いよく背後に出現した穴に吸い込まれる。
「へ」
「行ってらっしゃい♪」
「ちょ、おま、お前えええええええええええええええ!!!!!!!」
せめて心の準備位はさせろよぉぉぉぉぉぉ!
断末魔の様な声が審判の間に響き続け、そして数秒もしない内にそれは途切れた。
審判の間には女神が1柱。
「……まぁ、祈りぐらいはしておきましょうか」
補足
普通は審判の間で輪廻転生するのか異世界行くのか天国行くのかとか決めます。
救済を受ける場合はどの世界に行くのかとか自分で決めれますし何かそこの世界で人生が楽になる特典を受けれます。
ちなみにどの世界でも害にしかならないと判断された人間は問答無用で地獄行きです。