「─────驚いた、貴方本当に何も知らないのね…」
「まぁな」
あれから、色々教えてもらった。
まず魔法について。
俺の予測どうり、魔法はこの世界では一般化された技術であり、人々はそれを使い生活しているようだ。
『魔法には4つと2つの属性がある、基本属性である火、水、風、土』
『それと光と闇、これらは属性魔法と呼ばれるわ』
『基本属性は誰でも鍛えれば使えるけど…光と闇は才能がない限り相当な修練が必要になるわ』
『まぁ基本属性自体にも才能の善し悪しは出るんだけどね』
『けど、やっぱり魔法の才能が重要視されるのは”固有魔法(オルドマギア)”があるからかしら』
────────固有魔法(オルドマギア)。
誰一人として同じ能力は発現せず、そして発現するかどうかは完全に才能次第。
一生発現しない人もいれば5歳10歳の頃に突然発現する事もあると言う。
固有魔法に属性は存在せず、概念に干渉するものさえある、らしい。
『固有魔法を使う者…固有魔法保有者(オルドマギリア)はあまりいないわ、それこそ100万人に一人ぐらいじゃないかしら』
ベネットもその保有者の1人なのだという。
因みに、この世界には俗に言うギルドのようなものがあり、固有魔法保有者は好待遇が約束されるらしい。
固有魔法保有者だけのパーティーやギルドなんかもあるのだろうか。
閑話休題
さて、色々話をしてきたけど、ここからが本題だ。
俺がここに来た理由、妹を探すのと魔王を倒す。
ぶっちゃけ魔王の方はどうでもよくはあるのだが、せっかくだし一緒に聞いてみた。
「なぁベネット、真川百合(まがわ ゆり)って言う名前のやつ知らないか」
「真川百合…ごめんなさい、記憶にないわ」
(まぁそうだよなぁ…そもそもこの世界に居るのかすら分かんねぇし…)
「…貴方も人探し?」
「あぁ、そうだけど」
「そう」
…貴方も、か。
ベネットについてはまだわからないことが多い。
時折、何処か遠くを見つめている時もあるし、所謂電波系ってやつなのか?
魔法があるこの世界だったらワンチャンほんとに何かの信号をキャッチしてそうなのが怖い所なのだが。
「じゃあ、魔王について知っているか」
「…貴方、この世界に魔王が居ることを知っているの?」
「あぁ、それが俺がここに来た理由の1つだからな」
────────魔王については、ベネットも詳しくは知らないらしい。
曰く、魔獣や魔族といった魔物を作り出した存在。
曰く、魔物の王。
曰く、世界に闇をもたらすもの。
曰く───────10年前に復活した闇。
魔王自体、約千年前に勇者を名乗るものとその仲間達に1度倒されているらしいのだ。
なぜ今復活したのか、復活して何を成すのか。
「分からないのが魔王が復活してからの10年間、人間に対して攻撃とかはしてないのよ」
確かに、中々に不自然だ。
もしかしたら魔王は人間なんて滅ぼす気なんて無いのかもしれない。
でも、魔王は倒された、倒される理由があったのか?
とにかく、俺はそいつを倒さないといけないのだ。胃が痛いよ。
◆◆◆◆◆
「魔法を教えてくれないか」
「無理よ」
あちゃー、振られちゃった。
一晩たって翌朝、俺はベネットに魔法について教わろうとしていた。
けどこのザマだ、笑っちゃうね。
まぁそもそも自分自身の技術と呼べるものを他者に教える事自体があまりしたくない事ではあるか。
「教えること自体は出来るわ」
出来るんかい。
「でも私が使う魔法はかなり特殊なの、だから教えれても使えないというのが正しいかしら」
「それに…魔法というのはかなり危険なの」
「今でこそ人の生活の一部にはなっているけど…大昔は魔法大戦と言って、魔法を使う者たちの戦争が起きた事もある」
「貴方は…魔法と言う力をどう見てるの?」
…なるほど、一理、いや千里位はある。
この世界で生きた人ですら力に溺れることがあるのだ、平和な世界、力を持つ責任を知ることの無い世界から来た俺は魔法という力に溺れる可能性が高い、ってわけか。
けど、ここで引き下がる訳にはいかない。
力、その責任、確かに俺にはまだ何も知らないかもしれないけど。
「───俺、妹を探してるんだ」
「世界でたった一人だけの、大切な妹なんだ、この世界に居るかもしれないんだよ、そいつが」
「探すだけなら魔法なんて…」
そうだ、探すだけなら魔法なんて使わなくても探せる、けどこの世界には魔王がいる。
「この世界には魔王が居るんだろ?約千年前、倒されたのはなにか理由があったはずだ、人を蹂躙したとか、世界を闇に閉ざしたとかな」
「そうなると話は変わる、魔王が復活した今、この世は絶対安心じゃない」
「だから、倒す。妹を…百合を守れる力が欲しい、それが、俺にとっての魔法だ」
「だから頼む…」
懇願、ただそれだけがあった。
もう二度と妹を失わないための力、何かあった時に守れる力。
それが要ると、少年は言っているのだ。
「……もし、例えばよ」
「貴方の妹がこの世界に転移していたとするわ」
「別世界の人間…それをこの世界は信じると思う?」
「逆にそれが災いして妹さんが街や村で人間から迫害を受けていたら貴方はどうするつもりなの?」
少女は、淡々と言った。
いや、淡々とというのは違うかもしれない。
だって、少女の目は僅かな曇りをしていたからだ。
「…そうなったら貴方は人々を殺すかもしれないわ、そんなことは許されないの」
「それが力の持つ事の責任か?」
「えぇ、力を持つものは持たざる者を傷つけてはならない、自分の力に溺れてはだめ」
「力を持つ者は高潔でなければならないの」
…確かにそうだ。
俺には、まだその力を使うに値しない赤子なのかもしれない。
実際、妹がそんな状況なら何をするか確かに俺自身も分からない。
けど
けど
けど
だけど、これだけは言える。
最初に会った魔法使いが、お前でよかったって。
だって、だってお前は
「俺を、助けてくれたじゃないか」
「え?」
「俺が埋まってた時、俺を魔法で助けてくれたじゃないか」
「お前にとっては当たり前で、別になんともなかったことかもしれないけど、俺はもう知ってるよ」
「魔法ってのは、人を殺せる力じゃなくて、人を助けれる力だって」
「だから、確信した──────俺は”止まれる”」
例えば初めて見た魔法が誰かを傷つける魔法だったのなら、俺に人を殺す選択肢が出来ただろう。
けど、それはただの妄想だ。
少女に目を合わせて、少年は言った。
「見ず知らずの俺を助けてくれた優しい魔女を見たんだ、俺にはもう、魔法は少なくとも人殺しには使えない」
だって、そうしたら俺を助けてくれたお前を否定する事になる、それは…嫌だ。
そう思ったから、少年は、真川光輝は確信した。
続けて少年は前に踏み込んで言った。
「だから教えてくれ、何も知らない俺に、妹を、誰かを守れる力を!」
…沈黙、ただそれだけだった。
数秒後、少女は言った。
「…あの時、殺す気はなかったとはいえ、脅しを掛けたことを謝罪するわ。ごめんなさい」
「え、あ、うん」
あれで殺す気が無いってまじかよ…!
年に見合わぬ威圧感…
「…そしてありがとう、この力を誰かを助けれる力と言ってくれて」
「そこまで言われたら仕方ないわね…うん、いいわ」
「魔法、教えてあげる」
そう言った少女の目は僅かな曇りもなく。
何処か救われたような…そんな目をしていた。