「し、失礼します~」
私は少し……緊張しながら音楽室の扉を開けた。
中には誰もいなかったが、恐る恐る、という感じで私は中へ入っていった。
音楽室は若干変わったところもあったが、私たちが活動していたときとほぼ遜色ないレベルで残っていた。
驚いたのはあの頃使っていた、食器や棚まであったことだ。
「まだ残ってたんだねぇ」
懐かしさに思わずぽろっと口に出してしまう。
埃もなく綺麗に残っているところをみると誰かが定期的に掃除してくれているのだろう。
「誰かいるの~?」
外から声がした。
一瞬どきっとしたがその声は聞き覚えのあるものだった。
がちゃ、と入ってきたのは、
「さわちゃん!!」
「まぁ、唯ちゃん!?」
少し老けたさわちゃんだった。
「さわちゃんも残ってたんだね!」
食器類のことを考えていたのでついついそんなことを口に出してしまった。
「失礼な。誰がカップやらお皿やらを守ってきてあげたかもしらないでー」
「えへへ~」
「しっかし、変わらないわねぇ。あなたも……。もう……10年くらいにはなるんじゃないかしら?」
「9年だよ、さわちゃん!あ、でもさわちゃんは……少し変わったね」
「どこが、とは絶対聞かないわよ!」
そういえば、高校生のときにはこういう会話もしてたっけ。
こうしてみるとこの場にあるもの全てが懐かしい。
「唯ちゃん、今はソロで歌手やってるものねぇ」
「うん!そうだよ~」
「私、CDは全部持ってるわよ」
「わぁ~。ありがと~。さわちゃ~~ん」
私は、大学を卒業してから、歌手になることに決めた。
ギターを弾きながら、ということはなくなったけど、今も大事に持っている。
ギー太はずーっと、私の相棒なのだ。
「いや~、でも最近で言ったらあの絡みはほんとに面白かったわよ」
「あの絡みって?」
「ほら、このまえテレビのインタビューでー」
「あぁ~!あの時か~。まさか和ちゃんがアナウンサーになっていたとはねぇ~」
先日のことだ。
私は、なにかの番組で使う、インタビューの収録に来ていた。
そのインタビュアーがなんと和ちゃんだったのだ。
大学を卒業してから、連絡を取らなくなっていたのでまさかこんなかたちで会うとは思ってもいなかった。
「さて、今日のゲストは平沢唯さんです、どうも、こんにちは」
「ほんとに久しぶりだよね、和ちゃん!元気してた?あ、私も憂も元気で過ごしてるよ~?」
「唯、話は後でするから今は番組に…!」
「でも和ちゃんがこんなことしてるなんてねぇ、すごいよ、和ちゃん!」
「いや、唯の方こそ。今や有名アーティストだもの。唯の方が……ってちゃんとやらないと」
こんな感じのものが放映されたらしい。
なぜこんなものを使うことになったのかは本当に謎だが、だいぶウケたらしい……。
あの時から、和ちゃんとは連絡をとるようになった。
「あれ、ちゃんと録画してあるのよ~?」
「いやん、見ないで~~」
自分で見直してみると、ちょっと恥ずかしかったりする。
ここら辺は昔よりも成長したな、って自分でも分かる、数少ない部分だったりもするのだ。
「あ、そうだ。折角だし、お茶でもいれましょうか。安っぽいのしかないけど」
「あ、さわちゃん、私がやるよ!さわちゃんは座ってて」
これでも料理やらなんやらは上手くなったほう。
と、言ってもティーパックをお湯の中に入れるくらいしかしないんだけど。
お茶を運んでいったときのさわちゃんの顔は少し失礼だなと思いました。
だって、あんなに驚いたような顔するんだもん。
お茶を一口飲んださわちゃんはなにか言いたそうな顔をしていた。
私はなんとなく内容が分かっていた。
「ムギちゃんのいれてくれてたお茶のほうが美味しかったね~。やっぱりムギちゃんには適わないや」
「……そうね」
現在、ムギちゃんは琴吹家の社長をしている。