けいおん!10年後の放課後ティータイム   作:紫冬

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第2話

 

 ムギちゃんは大学3年生の秋くらいに、学校を辞めた。

 理由はお父さんが倒れたこと。

 

 倒れた時は、そんなに心配しなくても大丈夫だよ、と言っていた。

 社長枠を空けることはできないので、一応、一番信頼できる執事に仮社長をさせていたが。

 なのでムギちゃん自身にそれほど影響があったわけではなかったのだ。

 

 文化祭前日、私たちは学校に泊まって練習していた。

 

 高校のときもこんなことをしていたよね~などという軽い雑談を交えて、普通に楽しくやっていた時。確かちょどそんなことを考えていたときだ。

 

 ムギちゃんのお父さんが入院している病院からムギちゃんに電話がかかってきた。

 

 明日には退院できそうよ、とか元気でやってるみたいよ、というその場に合った言葉がムギちゃんから出ることをみんなが願っていた。

 

 しかし

 

 

 「お父さん、もう……そろそろ……なんだって」

 

 「え?なに?」

 

 りっちゃんが聞き返したその返答は返答になっていなかった。

 だが、それだけでも私たちは察することができていた。

 

 「お父さん……お父さんっ!」

 

 涙声で、呼んでいた。

 

 大きな声で。

 

 今まで、聞いたことない声で。

 

 

 「ぁ………」

 

 

 みんな言葉がでてこない。

 詳しく聞いていないこともあってかかける言葉もまったく見つからない。

 

 数秒、ムギちゃんの声だけになっていた。

 状況を色で表すなら黄色から青だ。

 そのくらいに豹変した状況に、私も含めて、誰も喋ることができなかった。

 

 

 「……みんな」

 

 

 「私、お父さんのところ、行ってくるね」

 

 「文化祭ライブ……できないわ。ごめんなさい」

 

 

 きれきれで喋るムギちゃんからは、私たちのこととお父さんのことを同じくらい、考えているかが分かった。

 

 

 「なに、言ってんだよ。はやく行ってこい!ライブなんて、また来年もあるんだから!」

 

 「そうだ!パパが……その、大変なんだろ?行ってこいよ」

 

 「ムギちゃん。私たちは大丈夫だから……行って来て」

 

 「ありがとう……みんな……」

 

 

 そう言い残すと、ムギちゃんは部室を飛び出すように出て行った。

 

 ムギちゃんのいなくなった部室はただの沈黙だった。

 

 

 「ライブ……どうする?」

 

 私が二人に聞くと。

 

 「止める。ムギがいないのに放課後ティータイムを名乗って演奏するのは嫌だ」

 

 「賛成だ……私も、それがいい」

 

 「うん、私も。じゃあ今日はどうしよっか」

 

 「とりあえず寝ようぜ」

 

 

 電気を消して寝袋にはいってもムギちゃんの顔がわすれなかった。

 すすり泣く音も聞こえるし、ぶつぶつ言う音も聞こえる。

 

  

 (もしも…私がムギちゃんだったら私たちのことをちゃんと心配できたのかな…)

 

 そんなことを考えてるうちに、私は眠ってしまっていた。

 

  

 

 

 

 

 

 そして、それから一週間後、ムギちゃんが学校を辞めたことを先生から聞いた。

 

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