いくつかの駅を通り過ぎて、私たちは戻ってきました。
「不思議だよね、わざわざ遠くまで行って戻ってくるなんて」
「それは言っちゃ駄目だ。唯」
コイバナから始まった私たちの会話も、歩き続ける毎に段々と減っていき気づいたら無言になっていた。
りっちゃんはこんな風に緊張で無言になることを避けるためにあえて話し出したんだろう。
今までも、気づかないうちに助けられていたのかもしれない。
「ここか?」
[中野]の表札の前で立ち止まった澪ちゃんがムギちゃんに聞いた。
「(……そういえば、私も憂と一緒に来たことがあったっけ。今思い出したけど)」
あずにゃんの家は前と変わっていなかった。
なんでこんなに近いのにまったくこなかったんだろうと少し後悔もした。
「ここで合ってる……はずよ」
「おいおい、なんで自信なさげなんだよ」
ははは、と笑うりっちゃんの顔も少し強張っていて緊張してるのがわかった。
「いや、ここで合ってるよ」
そう、付け加えて私はインターホンを鳴らした。
数秒沈黙が続いて。
「………でないな」
再び鳴らす。
するとガチャという音がなって。
頭までフードを被ったあずにゃんが顔を出した。
「誰です………………っ先輩方!!?」
昔に比べてちょっと痩せてて見慣れたあずにゃんとは少し変わっていたけどそれでもすぐにあずにゃんだってわかった。
「よ、よ!久しぶりだな、あ、梓」
舌が回らないのかちょっとつっかえながら、りっちゃんはそう答えた。
「なにしに来たんですか」
「メールみただろ?みんなでまた集まって、それでまた演奏しようって……」
「止めてください」
あずにゃんが示したのは明確な拒絶だった。
「なんで私の家に直接きたのかは知りませんけど、来たってことは、私のお父さんがどうなったかわかってるってことじゃないですか?」
「詳しいことまでは知らないけど、バンドを解散したって聞いた」
澪ちゃんは私たちが知ってることを告げた。
「そうですか。じゃあ知らないんですね」
私たちはあずにゃんが言った言葉がどういう意味なのか分からず沈黙していた。
「まぁ。折角来たんですから上がってっても良いですよ」
そうだな、と久しぶりのあずにゃんの家にみんなではいった。
「お父さんのことですけどね。昔にも話したことありませんでしたっけ。ロックは全然売れないって」
たしかに聞いた覚えがある。
みんなもそれらしい顔はしていた。
「結局売れないままをその原因押し付けあってバンドは解散。そしてお母さんとはその1ヶ月後に離婚しました。それ自体は言っちゃうと当然の流れでした」
思い出すようにあずにゃんは下を向きながら話す。
「私はその頃大学行ってました。けど離婚してお母さんからの収入もなくなった我が家には部費を払うのも大変になってきました。大学だけは行き続けることもできていましたが、食事も大そうなものは食べれなくなっていって」
私たちはあずにゃんの話しを聞きながら何も反応できなかった。
私が歌を歌っている間。あずにゃんはずっと苦しんで……。
「お父さんは毎日お酒を飲んでいました。それが原因で お父さんは癌で2年前、亡くなりました」
あずにゃんは私たちが能天気に話をしている間も……きっと。
「だから、私は音楽なんて大嫌いです。人を楽しませるために歌っています、なんてみんな言います。けど私からみたらそんなの売れるために言ってるだけの……ただの偽善です。だから……」
聞きながら思っていたことがあった。
なんで私たちにここまでちゃんと話すんだろうって。
私たちはほんとになにも知らないであずにゃんの家に押しかけた。
だから教えてくれてるんだろうって最初は思ってた。
けど。違う。
あずにゃんはきっと。
きっと。
「あずにゃん」
「ごめんね」