ジェネリック藍染が生き足掻く話   作:榛眞

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人並みに苦悩する主人公と、切り替えの早さにビビる相即不離の話です。

短いです。ぶっちゃけ読まなくても良い!




閑話 …解ったかい?俺達の背負ってるものが、どれだけ罪深いものなのか。

 

 目蓋を開けた可城丸の視界に映り込んだのは、古びた木目の天井だった。薄暗い部屋に漂う僅かな埃が、微かな光の筋の中でゆらゆらと舞っている。

 

 上体を起こした彼は、自身がふかふかとした布団に身を預けていたことに気が付く。温かな布に足を挟みながら、キョロキョロと辺りを見回すうちに、ここが見覚えのある場所だと思い当たった。薄い襖越しに漏れる光、風に運ばれる木々の匂い。ああ、ここは俺の精神世界か、と認識が遅れて追いついてくる。

 

【やっと目を覚ましたんだね】

 

 声に導かれるように顔を向けると、開かれた障子の向こうで、鉛色の重苦しい空を背負いながら相即不離が静かに佇んでいた。

 

「相即不離? なんで俺ここに……」

 

 掠れた声で問いかける。ボンヤリとする頭で必死に思考を回す。俺はついさっきまで、外で修行をしていた筈なんだが……と。断片的な記憶が、シャボン玉のように浮かんでは消えていく。

 

【その修行のせいで気絶したんだよ】

 

 淡々と告げられた事実に可城丸は苦笑した。またやらかしたらしい。面目ないなと思いながら、ボリボリと後頭部を掻く。

 

 卍解を会得し、その活用方法に思い至った時から始めたこの修行。それはあまりにも危険で、耐えがたい苦痛を伴うものだった。

 太い管が無理矢理皮膚の中を割いていくような、内部に走る激痛。思わず血が出るほど皮膚を掻きむしってしまう、そんな筆舌に尽くしがたい痛み。

 体内に入り込む異物が体中を巡り出す。侵されていく様な、身体の境界が曖昧になっていく様な感覚。その不快感は吐き気として表れる。

 

 ──けれど、この苦しみを乗り越えなければ先には進めない。そう自分に何度も言い聞かせ、可城丸は堪え忍んできた。

 

【最近の君の行動は、些か目に余る】

 

 酷く冷えた声色。ビクリと身体を震わせた可城丸は、恐る恐る相即不離の顔を見上げた。冷たい口調とは裏腹に、その表情には心配の色が乗っている。

 

「ごめん。……けど、あと数十年もすれば全てが始まってしまうんだ。だから俺は強くならないと──」

【──僕には、自罰に見えるけれど】

 

 相即不離の言葉が、静かな部屋に響き渡る。

 ピタリと、可城丸は動きを静止させた。

 

「自罰だなんて……」

 

 かすれた声で否定する。じっと見つめる相即不離の視線から逃れるように、顔を少し横にそらし、掛け布団を強く握りしめた。

 

「……」

【……】

 

 無言が続く重い空気。

 うろうろとさ迷う可城丸の視線は、心の奥底にある本当の感情を隠そうとしているかのようだった。

 

「……何も、しなかった」

 

 重い吐息が、静寂を裂く。

 震える声で絞り出されるその言葉は、告白であり、同時に自らの罪を糾弾する自己弾劾だった。

 

「……俺は、志波一心がああなることを知っていたのに、何もしなかったんだ」

 

 銀城の時とは違う。今回は明確に、事が起こる時期を知っていた。にも関わらず、彼は何もしなかったのだ。

 

「……自分の意思で、あの人を見捨てた」

 

 吐き出された言葉、その一つ一つに後悔が滲み出ている。相即不離は苦々しい表情を浮かべながら可城丸に言った。

 

【……仕方のないことだよ。彼が現世に行かなければ、黒崎一護が産まれない】

【それに、志波一心は死んだわけではない。彼は一時的に死神の力を失っただけで、それもいずれ取り戻すだろう】

 

 発せられた言葉は、慰めとどうしようもない現実への厳しさの両面を併せ持っていた。その言葉に、可城丸は頭を横に振ると、小さく呟く。

 

「それは結果論だ。俺という異物が存在する時点で、この世界が原作通りに進む保証はどこにもない。一心隊長が死んでしまう可能性だって、十分にあったはずだ」

 

 志波海燕と志波都。本来ならば死すべき運命にあった二人を目の当たりにするたび、彼の胸には深い不安が泥の様に溜まっていく。

 

 本来、死を迎えるはずだった二人が、奇しくも今の今まで生き延びている。

 

 可城丸はその事について、一つも後悔していない。いや、むしろ逆だ。二人が生きている事が嬉しい。無かったはずの未来を、二人が共に歩めている事が何よりも嬉しい。それは紛れもない彼の本心だ。それでも。

 

 原作からの乖離。その事実が、どうしようもなく彼の心を押しつぶしていた。

 

 びゅうっと、冷たい風が隙間から吹き込む。古びた社殿が軋むような音を立て、外ではザアザアと木葉が鳴る。

 障子の隙間から覗く鉛色の空は、雨粒一つ落とさない。ただ、重く澱んだ空気だけが、息苦しいほどに部屋を覆っていて──

 

 

 バチンッ!

 

 

 突如として、その重い空気を鋭音が切り裂いていく。

 

 可城丸が自分の両頬を容赦なく叩いたのだ。掌の衝撃が脳天まで響き、じんじんとした頬の痛みに涙目になりながら、彼は大声をあげる。

 

「あーっやめだ、やめだ! 落ち込むのはやめだ! しょうに合わねぇ!」

 

 何でこんなにナイーブになってんだ、俺。この暗い空気のせいだな、うん。

 自分に言い聞かせるように呟く可城丸の姿に、相即不離は呆気にとられる。むしろ、その切り替えの早さに若干の恐怖を感じていた。

 

「ありがとうな、相即不離。おかげで目ぇ覚めたわ」

【いや、僕は何も……】

「いいや、俺は無駄な気持ちで修行してた。それを相即不離が気付かせてくれたんだ」

 

 暗い気持ちじゃ、強くなれるもんもなれねぇだろうしな。

 先程までの憂いの表情はどこへやら、軽やかな調子で彼はそう言い放つ。そうして、真剣な顔をした可城丸は一人呟いた。

 

「俺は神様じゃない。救える人も、変えられる未来も限られている」

「俺はただの凡人だ。それでも俺は、俺が出来る事をする」

 

 諦めと決意が混じったその宣誓。

 それは、抑えきれない感情の奔流、そして、かすかな希望の混ざり合った可城丸秀朝の叫びだった。

 

「相即不離、俺は強くなりたい。だから」

【──ああ、勿論。僕は君の力だからね】

 

 相即不離は可城丸の言葉を遮ると、優しさを湛えた微笑みを浮かべて、そう応えたのだった。

 

 

 

 

 






いつか、何もかもを明かせる日が来るのなら。
その時はちゃんと

斬魄刀異聞篇を書くにあたり、アンケートというより質問があります。本エピソードは破面篇の途中で挟まれたアニメオリジナルですが、私の執筆技量ではそのような高度な構成は難しいと感じています。そこで、尸魂界篇の後、破面篇の後、あるいは物語完結後の番外編として書く案を考えているのですが、読者の皆様としてはどのタイミングが最適だと思われますか? ぜひご意見をお聞かせいただけると幸いです。

  • 尸魂界篇後
  • 破面篇後
  • 本編終了後
  • 斬魄刀異聞篇を書かない
  • 他に何かご意見があれば活動報告の方へ
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