それは自業が織り成した 巡る因果の縁に過ぎず
時にそれは縄として 嗟傷を締め上げ吊り下ろす
それは 必ず軋轢を膿み
故にそれは 決して僕たちを赦さない
この世で最も醜い感情は罪悪感だと考えている。
それは自らの手で編み上げた鎖のように、逃れられない苦しみを永遠に与え続ける、錆びついた罪の証だから。
──生命を断ち切らんとする裂傷、擦過傷、挫創、切創……それらは凡て、熟したトマトを
命を奪わんとする大きな傷と、生命を生命たらしめるそのアンバランスな光景は、酷い矛盾を孕んでおり、可城丸の視界には酷くおぞましいものに映った。
皮膚というテクスチャで、綺麗にラッピングされた脂肪、筋肉、骨、臓腑。
普段見ることの無い、
しかし、どれだけ嘆こうとも、目の前の現実が変わることは、決してない。可城丸は
痛みで喘ぎ、のたうちまわる身体を押さえ込み、必要な治療を施していく。痛みに耐えかねた彼の拳が頬を打った時も、生かすための痛みだと心を無にして対処した。自身の痛みなど、彼に比べれば些細なものだと、可城丸はよく
回道を当てながら、皮膚を縫い合わせ、ガーゼで傷口を覆い、包帯で丁寧に包み、くるむ。
そうして、いつの間にか、──手の震えは収まっていた。
現在、十三番隊第三席兼副隊長代理として、日々の職務に忙殺されている可城丸秀朝。今でこそ戦線に出る機会はめっきり減ったが、かつて無名の一般隊士であった彼の脳には、人が只の肉塊へと変貌する凄惨な光景がファイリングされている。
水面に揺れる
怪腕を振り乱す虚の猿叫が、木々へと架かった腸が風に漂うあの様が、草履を経て足袋へと染みる生命の温かみが、口内まで迫り上がる胃液の
その
しかし、可城丸はこの生々しい記憶の海に溺れるまいと、必死に
何度も、何度も何度も何度も。見送り、見送り見送り見送り。そして、
この世に
その結論は、ある種の諦念を含んだ悟りであり、逃避行の末に至った適応、つまりは
「慣れ」とは、シナプスの
肉体、思考、感情、そして精神という、複雑で繊細な
即ち、「慣れ」とは──思考生物の生存手段に他ならない。
故に、可城丸の順応は本能に刻まれたものであり、自然な変化だった。──凡庸で臆病な彼は、自身のその変化を恐ろしく思い、微かな嫌悪感すら抱いていた訳だが。
虚孔を埋めるように
しかし、厠を胃液で
つまり可城丸は、数百年の時を経て、人の死に、そしてその痛みに鈍感になり、和順し、慣れた。
──慣れた、と
何故か、黒崎一護が倒れている様を見た瞬間、可城丸は酷く
黒崎一護よりも幼い子供が、命を落としていく悲劇的な光景を彼は何度も目にしてきた。実際に小さな遺体を処理したこともあったが、その悲惨な状況でも彼は努めて冷静に振る舞うことができたし、気持ちの整理がついた今では、「あれはどうしようもなかった」と区切りをつける事も出来ている。
──しかし、今回だけは違った。黒崎一護の血塗れの姿を目の当たりにした瞬間、彼の両手は小刻みに震え、口の中は酷く乾き、心の奥底から湧き上がる不安や恐怖が、可城丸の首に手を掛け締めつけた。
黒崎一護の怪我が全快した今でさえ、その
「何故、俺はここまで恐怖を覚えているのだろう?」
彼は自問していた。一体何に対して、ここまで怯えているのか。思考は迷路のように彷徨い続け、やがて一つの可能性に辿り着く。
おそらく──自分が抱える
黒崎一護の誕生は、可城丸が見過ごしてきた業の成れの果てである。彼の出生に纏わる凶行を、可城丸が意図的に関与せず、自身の部下を死地に向かわせた結果、黒崎一護は無情にも戦場に踏み込むことになり、今こうして、刀を握り
「原作のため」
可城丸が自らを律する為に言い聞かせた言葉だった。しかし、まだ成人にも達しない若き高校生が、目の前で無惨にも倒れる姿を直視して、重苦しい現実感が彼の心を圧迫する。
「主人公だから」「そういう運命だから」
違う。ここは
可城丸にとって、この世界に住まう人々にとって、ここは縦と横、そして奥行きのある三次元の現実だった。彼らが抱える痛みも、苦しみも、すべて実存し、実在する事実だった。
そんな当たり前の現実が、黒崎一護にも適用されるのだと、可城丸はしっかりと知覚して、自覚して、
そうして彼は、この世で一等醜い感情に押しつぶされながら、深く、深く、深く、──後悔したのである。
意訳→主人公「グロゴア慣れた! けど、俺が関与してるグロゴアは罪悪感で心が死ぬ。慣れんし、慣れたらアカン。ホントにゴメン一護……」
Pied little birdさん、ネタ提供ありがとうございます!
【可城丸と相即不離のポエム】です。
初めてポエムを書いたけど、これで良いのか……? これセンスが問われるな。
本当は間に一話を挟む予定でしたが、こちらの方が先に書き終わったので、投稿します。今回は文体をがらりと変えたため、少々読みづらかったかもしれません。スマンな、思ったより筆が乗ったんや。
次回「ドキドキ! 一護と可城丸の修行篇~ポロリ(虚化)もあるよ~」 ※明日か明後日には投稿できる予定です。
斬魄刀異聞篇を書くにあたり、アンケートというより質問があります。本エピソードは破面篇の途中で挟まれたアニメオリジナルですが、私の執筆技量ではそのような高度な構成は難しいと感じています。そこで、尸魂界篇の後、破面篇の後、あるいは物語完結後の番外編として書く案を考えているのですが、読者の皆様としてはどのタイミングが最適だと思われますか? ぜひご意見をお聞かせいただけると幸いです。
-
尸魂界篇後
-
破面篇後
-
本編終了後
-
斬魄刀異聞篇を書かない
-
他に何かご意見があれば活動報告の方へ