ジェネリック藍染が生き足掻く話   作:榛眞

37 / 46


難産過ぎてこのままエタるかと思ったぜ~!(遅くなってしまい、大変申し訳ありませんでした)




頭が良い人は考えすぎると知っているね?

 

【えっ、それは危険なんじゃないか? 君一人で二人と対峙することになるよ?】

 

「うん、まあ危ないは危ないんだけどさ、見過ごすわけにも行かなくない?」

 

【ううん、でも……】

 

「それに一応、策はあるから」

 

【策?】

 

「そう。絶対に死なないためのとびっきりの策があるからね。大丈夫、大丈夫! そこまで心配しないでよ。俺たち二人が揃えば最強でしょ?」

 

【……そうだね】

 

 

 

 

 

 

 

 

・・

・・・

・・・・

・・・・・

 

 

 

 

 

「──どういうことだ……」

 

 日番谷冬獅郎が息を切らせながらその場に再び戻ってきた時、そこは修羅場と化していた。

 

 目を伏せ脱力している雛森桃。その儚げな姿を左腕に抱え込みながら、鋭い眼光で相手を睨み、斬魄刀を抜き構えている可城丸秀朝。

 その冷たく光る刀先は、悠然と佇む藍染惣右介と、彼の背後で不敵な笑みを浮かべる市丸ギンへと向けられている。

 

 ──何故、死んだ筈の藍染が、目の前に立っているのか。

 ──何故、可城丸は刀を抜き、その切先を二人に向けているのか。

 ──何故、雛森は気絶し、可城丸の腕の中に居るのか。

 

 日番谷の脳裏を疑問が渦を巻くように次々と駆け巡る。そんな彼の動揺を置き去りにして、藍染とギンは淡々と会話を始めた。

 

「予想より随分と早いご帰還だね、日番谷隊長は」

「すんません、イヅルの引き付けが甘かったみたいですわ」

 

「……何の話をしてやがる、てめえら……」

 

 藍染の言葉に対して、ギンは蛇のような冷たい瞳を細め、やや気怠そうに返事をする。

 未だに状況を掴めない日番谷は、額に浮かぶ冷や汗を拭うことも忘れ、困惑の表情を浮かべ疑問を呈した。

 その様子を静かに見つめながら、藍染は穏やかな微笑みを浮かべると。淡々と、しかしその声音に確かな冷酷さを滲ませて言った。

 

「何の話? ただの戦術の話さ。敵戦力の分散は戦術の初歩だろう?」

「敵……だと!?」

 

 驚愕の声を上げる日番谷。

 そうして明かされたのは、藍染が護廷十三隊を裏切ったという衝撃的な事実。長年信頼していた味方の正体に、日番谷の心は激しく揺さぶられた。

 

「良い機会だ 一つ憶えておくといい日番谷くん」

「憧れは 理解から最も遠い感情だよ」

 

 その一言で、砕氷の如く、日番谷冬獅郎の怒りは頂点に達した。幼馴染みの想いを踏みにじり、無下にした藍染への怒りに燃えた日番谷。その感情の揺らぎ全てが、彼の卍解へと昇華した。

 

「大紅蓮氷輪丸」

 

 辺りの気温が氷点下に急降下する。空気は凍りつき、景色は白銀の牢獄と化した。

 怒りと失望が凝縮された一撃が、藍染へと向けられようとした、その瞬間──

 

 ギインッ!

 

 金属の鋭い摩擦音が、張り詰めた静寂を断ち切った。

 

「ほう……」

 

 藍染の感嘆の声が、凍てつく空気の中で不気味に響く。

 日番谷の首筋を目掛けて振り下ろされた刃を、可城丸が受け止めていた。 日番谷の刃が藍染に届くよりも早く、藍染の攻撃は繰り出され、それを可城丸が防いでいたのだ。

 

「いつの間に……!」

 

 気付かぬうちに、己の命が可城丸に庇われていたという事実に日番谷は驚きを隠せない。

 可城丸は、日番谷の動揺を横目で捉えながら、鋼鉄のような意志を込めた、冷静沈着な声で告げた。

 

「藍染は私が相手をします。日番谷隊長は、市丸ギンを」

 

 緊迫した空気の中、四人の死神たちの間で、新たな戦いの構図が形成される。

 それぞれの覚悟と、秘められた思惑が交錯する戦場で、死闘の火蓋が切られようとしていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「フッ──!」

 

 キインッ

 

 切り詰めた呼吸と共に、鋭い金属音が響き渡る。刃と刃が激しくぶつかり合い、散った火花が視界を赤く染め上げた。

 

 ギインッ!

 

「ぐッ!」

 

 鍔迫り合いに押し負けた可城丸は、わずかに上体を崩してしまう。その隙を逃さぬよう、藍染は刀を振りかぶる。

 風切り音をたてながら下ろされるその太刀筋を、可城丸は髪の毛一本の差でかわし、後方へ跳んで体勢を立て直す。

 

「はぁ……はぁ……」

「ふむ。まだ動けるのか」

 

 致命傷こそ免れているものの、可城丸の首筋や脇腹、腕や足には、浅くとも痛ましい傷が刻まれている。

 対する藍染はただ悠然とそこに立ち、その装いもまた、一片の乱れもなければ、激しい戦いの跡も見受けられなかった。

 

「(チクショ~! 全く隙がないんですけど……!!)」

 

 息を切らし汗を滲ませる可城丸は、内心で毒づきながら、この圧倒的な力量差に押し潰されそうになっていた。

 

「(くそっ、なんで藍染は俺にトドメを刺さないんだ? 俺なんて瞬殺だろうにさぁ。……もしかして、遊ばれてる? カーッみんね相即不離! いじえすか男ばい!!)」

【長崎弁?】

 

 この緊迫した心理戦に可城丸の精神は徐々に摩耗していく。苛立ちが募るにつれ、彼の動きにも乱れが生じ始めていた。

 

 「もういっそ黒棺でも詠唱してもらえれば、上手い具合に戦線を離脱できるんだけどな」と一瞬考え、すぐさま「いや、そんなことをされたらここら一帯が消し飛んで、日番谷隊長も危ないぞ」と再考する。

 

 そうして緊張感が漂う空気の中、静寂を切り裂くように、藍染がポツリと呟いた。

 

「喰えない男だな、君は」

「……?」

 

 構えを崩さずに、怪訝な表情で眉を顰める可城丸を見て、藍染はわずかに唇の端を吊り上げた。

 

「白々しいなあ。──君は初めから、僕の事を警戒していただろう?」

「……!」

 

 可城丸の瞳が僅かに見開かれ、その反応に藍染の笑みが更に深まる。まるで獲物を追い詰める捕食者のように、彼は淡々と語り始めた。

 

「僕と対峙する時、君は態とらしく半歩下がり、決して正面から向き合おうとはしなかった」

「そして、僕の『死体』を見た時でさえ、君は動揺することなく、ただ冷静に周りを注視していた。あの時から既に、僕の死が偽造されたものであると勘づいていたんだろう?」

 

「は──」

 

 半歩? ……死体? ……!? いや、いやそれは──!

 

 藍染惣右介の勘違いである。

 

 可城丸は確かに、藍染の死が鏡花水月によって偽装されたものだと知っていた。しかしそれは、彼自身の推論や洞察によるものではなく、専ら原作の知識によるもので……実際、藍染の「死体」を目にした時も、可城丸はただ無表情で状況を見守っていただけだった。

 それに、可城丸は意図的に警戒心を見せていたわけではない。むしろ、それを悟られないよう必死に努めていたつもりなのだ。

 

 そう。──大変皮肉なことに、可城丸の未熟さが原因で、藍染からの過大評価を招く結果となってしまっていたのである。

 

「(アッ、アッ、アッ、は、恥ずかしい~~~!!)」

 

 そのことに気づいた可城丸は、顔面から赤火砲が出そうになるほどの恥ずかしさに襲われた。これ以上恥を重ねないよう必死に耐えてはいるものの、もしこの場に誰もいなければ、地面に穴を掘って潜り込んでしまいたいくらいには居たたまれなかった。

 

 過去の恥態に苛まれる彼の脳裏に、突如としてギンの言葉が蘇る。

 

『秀朝くんって、腹芸が苦手なんやな。考えとることが丸分かりやわ』

 

 当時は単なる冗談だろうと軽く受け流していたが、藍染からの指摘で初めて、アレは冗談に見せかけた真剣(ガチ)な忠告だったのだと、気がついたのである。

 

 藍染の勘違いに否定も訂正もできず、過去の出来事を思い返しては一時的な思考逃避を図るばかりの可城丸。

 

 そんな彼に追い討ちをかけるように、藍染は芝居がかった調子で言葉を紡ぐ。

 

「ああ、今思い返してみれば、君が些末な仕事を押し付けてきたのは、僕の行動を制限するために練った策だったんだね。──実に巧妙な手段だ、感心せざるを得ないな」

「(チギャウ、チギャウ……!!)」

 

 可城丸は心の中で絶叫した。

 その顔には、苦悶と困惑が入り混じり、まるで複雑な感情を表現した抽象画のような様相を呈している。

 皮肉にも、その複雑な表情こそが、藍染の誤解をさらに深める触媒となっていることに、可城丸自身が気づいていない。

 

「──策と言えば、隊首会後、わざわざ雛森副隊長の目の前で僕を呼び止めたのは、彼女に僕への疑念を植え付けるためですよね?」

 

 藍染惣右介からの過剰な評価の重圧で押し潰されそうになった可城丸は、この話題を逸らそうと、強引に話をすり替える。

 絞り出された可城丸の質問に、藍染は「その通りだよ」と答えた。

 

「彼女を差し向け、ギンにも一計を講じてもらい、周囲へ懐疑心を抱かせる。そうして、君の行動を妨げようとしたんだが……あまり効果はなかったようだね」

「やはりそうですか……いや、かなり動きにくかったですよ。お陰さまで余計ないざこざも起こりましたし」

 

 皮肉げに言った可城丸へ、藍染は薄く笑みを浮かべた。

 

「フフ、慰めにしては随分とお粗末だね。そう言いながら君、副隊長代理でありながら、この危急の際に十三番隊舎を留守にしていたじゃないか」

「ッなぜ、それを──!」

 

 可城丸の不在。それは浮竹と志波海燕しか知らない機密事項のはずだ。それがどうして藍染の口から語られるのか。

 藍染は、可城丸の動揺を愉しむかのように目を細めると、さらりと答えた。

 

「昨晩、十三番隊舎を訪ねたからね」

 

 告げられた言葉に、可城丸は思わず頬をひきつらせた。

 彼の言葉は言外に『昨晩、お前を殺しに行きましたよ』という意味を含んでおり、つまりこれは闇討ち未遂の告白だと彼は悟ったのだ。

 

 冷や汗を垂らす可城丸へ、藍染は穏やかな表情を浮かべると、まるで日常会話を交わすかのように言葉を続ける。

 

「普段から執務室に籠もり、事務仕事に励む君が前線に立たないことを疑問視する者は少なかった。志波海燕が陣頭指揮を執っていたことも要因だろうが……僕の襲撃を予測して、事前に席を外していたんだろう?」

「……」

 

 もちろん、藍染惣右介の勘違いである。

 

 実際は黒崎一護の面倒を見ることになった可城丸が「無断欠勤を誤魔化してください浮竹隊長(ウキえもん)~! 志波海燕(カイえもん)~!」と二人に泣き付いただけ。……つまりこれも偶然の産物だった。

 

 

 続いていく勘違いの連鎖に、可城丸の心は疲弊していった。様々な感情が渦巻き、もう戦いなんて放棄して、自分の墓穴でも掘ろうかと諦めかけていた──その瞬間、

 

 

ドゴォン!!

 

「!?」

 

 背後で鼓膜を揺るがすような轟音が鳴り響き、何かが激しく墜落する。反射的に藍染から視線を逸らした可城丸は、眼前に広がる衝撃的な光景に言葉を失った。

 

「日番谷隊長!!」

 

 そこにあったのは、砕け散った氷の破片を纏いながら、全身血塗れで地に伏せる日番谷冬獅郎。そして、そのすぐ側で立ちすくむ市丸ギンの姿。

 

 悲惨な光景に絶句する可城丸の耳に、藍染の冷酷な声が届く。その声音には、まるで予定通りの出来事を見届けたかのような冷ややかさが滲んでいた。

 

「随分と遅かったねギン」

「すんません藍染隊長。少々手間取りましたわ」

「いや、大丈夫だよ。此方も丁度話が終わったところさ」

 

 市丸ギンは、狐のような笑みを浮かべながら、軽やかな口調で返答する。背後から聞こえてくる藍染の声はこの場にふさわしくないほど穏やかだった。

 

 ギンへと向けていた戸惑いの視線を、藍染へと戻す。そして、微笑む彼の顔を見て、背中に冷や汗が流れた。

 考えうる限り、一番最悪な状況に陥ったと悟った可城丸は、一度舌打ちすると、藍染に向けて刀を構え直す。しかし、それを嘲笑うかのように、藍染は静かに言ったのだ。

 

「ギン、殺せ」

「はい」

 

「──ッ!」

 

 反応する間もなく、冷たい刃が可城丸の胸を貫いた。

 痛みよりも先に、温かい液体が自分の体から流れ出るのを感じる。

 

 そうして、世界が歪み視界が暗くなっていく最中、キラキラと散るあか色と、藍染の嘲笑を眼に焼き付けながら、可城丸の意識は闇の底へと沈んでいった。

 

 

 

 

 






※主人公生きてます

日番谷隊長が来る前に何があったのか……詳しいことはまた次回に。

斬魄刀異聞篇を書くにあたり、アンケートというより質問があります。本エピソードは破面篇の途中で挟まれたアニメオリジナルですが、私の執筆技量ではそのような高度な構成は難しいと感じています。そこで、尸魂界篇の後、破面篇の後、あるいは物語完結後の番外編として書く案を考えているのですが、読者の皆様としてはどのタイミングが最適だと思われますか? ぜひご意見をお聞かせいただけると幸いです。

  • 尸魂界篇後
  • 破面篇後
  • 本編終了後
  • 斬魄刀異聞篇を書かない
  • 他に何かご意見があれば活動報告の方へ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。