ジェネリック藍染が生き足掻く話   作:榛眞

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てゆんぬさん、カレー大使さん、huntfieldさんリクエストありがとうございます!【メガネクッキー騒動に巻き込まれる主人公】です。
雛森を安易なヤンデレキャラにしたくないと思いつつ、初期雛森ならこのぐらいあり得るか……? という自分の解釈と戦いながら書き上げました。

作者、何を隠そう雛森桃が大好きです。
初期の頃の苛烈な彼女が特に好きで……平子と関わっているときの姿が彼女の素かと言われれば、まあそうなんでしょうけども、霊術院時代の行動や彼女の斬魄刀を見るに、上司や幼馴染みへと刀を向けたあの時の行動も、間違いなく雛森の一面なのだと思います。生き様が正しく弾ける火球の如し!


追記
カラブリ本編だとメガネクッキー事変にはネムと清音も居るのですが、作者の執筆技量的に登場させるのが難しいので、二人は別の場所でアンケートを取っているということにします。済まぬ……


閑話 梅の花言葉には「忠実」というものがあり、これは菅原道真の飛梅伝説に由来しているという事は知っているね?

 

 真夏の残暑が未だ猛威を振るう、蒸し暑い午後。

 汗で湿った書類を片手に、五番隊隊舎の入り口前に佇む可城丸は、心底憂鬱そうに深い溜め息を吐き出した。

 

 ──ああ、やだなぁ。本当に来たくなかったのに。

 

 内心、そうひとりごちる彼。その思いには、単なる気まぐれや暑さへの不満ではない、もっと複雑な理由があった。

 

 それは、つい先日、謝罪に訪れた日番谷隊長から語られた話に起因している。

 

「雛森は未だに、藍染が裏切ったという現実を、完全には受け入れられていない。頭の中では理解しているつもりかもしれねえが、心が追いついていないみたいでな……それどころか、アンタと藍染を一緒くたにして考えている節があるような── ……いや、なんでもねえ。忘れてくれ」

 

 と、まあ、そういうわけで。

 彼は可能な限り雛森との接触を避け、彼女の心の傷を深めないようにと気を遣ってきた。

 が、しかし。今回は火急の用事が生じ、可城丸自身が直接五番隊舎まで出向かなければならなくなってしまったのである。

 

「ああ〜、面倒なことになりそうな予感がする。 ……けど、こうして二の足を踏んでいても仕方がないし、そろそろ覚悟を決めるか」

 

 そう自分に言い聞かせながら、念のため眼鏡を外して胸元にしまう。「これで少なくとも外見上は藍染に間違われることはないだろう」と自答し、彼は重い足取りで一歩を踏み出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します。先日の合同演習の報告書なんですが、ここに五番隊の公印が必要で──」

 

 五番隊の職務室の扉を開けた可城丸は、次の瞬間、目の前の光景に言葉を失った。

 

「……何してるんですか?」

 

 床には雛森桃が倒れ伏し、そんな彼女を松本乱菊と伊勢七緒が慌てた様子で介抱している。その傍らでは、草鹿やちるが、粉々になった物体──おそらくクッキーだろうか──を、楽しげに口に運んでいた。

 

 異様な光景に立ちすくみ、頬をひきつらせながら困惑する可城丸。そんな彼を見上げたやちるは、天真爛漫な笑顔を浮かべて、元気に挨拶を返す。

 

「あっ、トモチン! やっほー♡」

「はっ! 可城丸三席、どうしてここに……!」

「ヤダ、最悪なタイミングじゃない! ダメよ雛森、この人の顔を見ちゃ!!」

 

「人の顔を呪物扱い……?」

 

 悲喜こもごもな彼女たちの挙動を視界に納めながら、可城丸は眉をひそめポツリと言葉を溢したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「あの、それで一体全体何があってこんなことに……?」

 

 一つのテーブルを挟むようにして、置かれた二つのソファー。

 片方には、気絶した雛森が横たわっており、他の女性陣は向かいのソファーへ身を寄せ合うようにして腰を下ろしている。

 可城丸は椅子を一脚借りて、テーブルの横に座っていた。いわゆる誕生日席だ。

 

 投げ掛けられた問いに、七緒は困ったように眉を下げると、吃りつつ説明を試みる。

 

「え、ええと、その、各隊長に聞きながら、企画の案を練っていまして……、その、雛森副隊長が……メガネ型のクッキーを……」

 

「メガネ型のクッキー? ……ああ、ジャンプフェスタの!」

 

 しどろもどろな経緯説明を聞いて、彼の頭に浮かんだのは『BLEACH』の番外編であり、Vジャンプで連載されたギャグ漫画『カラブリ!』の一編。

 護廷十三隊がジャンプフェスタに参加するための出店用企画を、各隊が考案するという、少しメタい内容なのだが……目の前で繰り広げられていた光景がそれなのだろうと、可城丸は納得した。

 しかし、そんな彼の様子に女性陣は困惑した様子を見せる。

 

「ジャンプフェスタ……? 可城丸三席の仰っている催しは存じ上げませんが、これは真央霊術院の生徒たちに護廷十三隊の魅力を伝えるための企画ですよ」

「え?」

 

「霊術院の食事に各隊をイメージした特別メニューを追加することで、そのメニューを通じて隊の特色をアピールするっていうPR企画! その料理案を隊長さんたちに聞いて回ってるんだけどね……雛森がちょっとはっちゃけちゃって……」

「はっちゃけ……」

 

 傷心中の彼女が、元上司モチーフのメガネ型クッキーを作ってくる事を、はっちゃけの一言で済ませて良いのだろうか?

 ……とにかく、どうやらこの催しは、前世の記憶とは異なり、まったく別の目的で行われているらしい。

 記憶と現実の齟齬に戸惑う可城丸を、怪訝な表情で七緒と乱菊は見つめていた。その微妙な空気を切り裂くように、突如として、やちるの弾ける声が響き渡る。

 

「そーだ! トモチン、これあげるよ!」

「え? 急に何ですか、やちる副隊ちょ……「えい!」う゛!」

 

 彼が言葉を終える前に、やちるはまるで弾丸のように飛び出して、その小さな手で何かを可城丸の顔面に勢いよくベチンと振り下ろした。

 

「ちょっ、ちょっとやちる、アンタ何してンのよ!!」

「会長、暴力は駄目ですよ!」

「きゃははは! トモチン、わたてんにソックリ!」

「イテテ、一体何を僕の顔に……」

 

 喧騒が部屋中に響き渡る中、可城丸はじんじんと痛む目元に手を当てる。顔に叩き付けられた何かの、ざらつく手触りと甘い香りの正体を確かめようとした次の瞬間──

 

「う、ううん……」

 

 かすかな呻き声が空気を震わせる。

 

「あっ、雛森副隊長! 目を覚まされたんですね!?」

 

 ソファーに横たわっていた雛森が微かに動いたのを、真っ先に気づいた七緒が心配そうに声をかける。それを合図に、可城丸、乱菊、やちるも我先にとばかりに雛森の顔を覗き込んだ。

 未だに覚醒しきれていないであろう彼女は、何度かぱちぱちと瞬きを繰り返した後、ゆっくりと目を開く。

 覗き込む彼女彼らの顔を、霞がかった視界に納めていく雛森は、可城丸の顔をみたとき、その茶色の瞳を大きく見開いた。

 

「あ、ああ……」

「ん?」

「……アッ」

「ハッ!」

 

 

「あ、藍染隊長……!」

 

 

 恍惚とした表情で発せられたその一言に部屋中の空気が凍りつく。

 

「ひ、雛森……アンタ、今なんて──」

「隊長!」

「う゛ッ」

 

 動揺する一同を無視するように、ガバリと体を起こした彼女は、その勢いのままに傍で控えていた可城丸の襟をぎりりと掴んだ。

 その華奢な体つきからは想像もつかないほどの強さで、戸惑う彼の上体を引き寄せる。

 

「ああ、藍染隊長……帰ってきてくれたんですね! 嬉しい、とても嬉しいです……!!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 歓喜にうち震える彼女の目は、可城丸の顔を見ているようで見ていない。その甘美さと狂気が入り混じった瞳を間近で直視する可城丸は、思わず背筋に大量の冷や汗を流した。

 

「私、シロちゃんに言われてもやっぱり信じられなくて……。 だってあの時、藍染隊長は私のことを抱き締めようとしてくれたじゃないですか。亡くなった筈の隊長が、私の目の前で両手を広げて……! ……でも、結局、可城丸さんに引き離されて──、 ……私、考えたんです。本当は全部、可城丸さんが悪いんじゃないかって。全部、可城丸さんが仕組んだんじゃないかって……。 だって、藍染隊長が護廷を裏切るわけがないんです! 私たちを裏切るはずがないんです!! きっと、可城丸さんに脅された藍染隊長は、私たちを守るためにひとりで虚圏に、だから……だからッ藍染隊長は裏切ってなんかない!! ね? ね? そうですよね? そうなんですよね? 藍染隊長が私を裏切ったなんて、そんなのあり得ません。絶対に違います。きっと、きっと全部、可城丸さんのせ──「えいっ!」う゛ッ」

 

 タラタラと愛言葉を綴る雛森。その首裏に、壊れたテレビを直すがごとく、鋭い手刀が打ち下ろされた。

 意識を失い、再度ソファーへと体を沈ませた雛森を尻目に、下手人であるやちるは「話が長いよ!」と盛大に毒を吐き捨てる。

 

「やちる、アンタ、荒療治が過ぎるわよ……」

「だ、大丈夫ですか可城丸さん?」

「ゲホッ、ゲホゲホッ、は、はい……ん?」

 

 女性陣に慰められながら、激しく咳き込む可城丸。その瞬間、ポトリ。と、何かが彼の膝元に落ちた。

 疑問符を浮かべながら顔を向けた彼の視界に、“メガネ型のクッキー″が映り込む。

 そこで初めて、可城丸は自身の顔に、メガネ型クッキーが張りついていたことに気が付いたのだ。

 

「(ああ、なるほど。雛森副隊長はこれをかけた俺を藍染惣右介と見間違えたのか……そんなことある?)」

 

 可城丸は虚ろな目でメガネ型クッキーを握りしめる。周囲の人々は、そんな彼に声をかけようとしながらも、その哀愁漂う雰囲気になんと言葉を掛ければ良いのか決めあぐねていた。

 

「……可城丸さん、あの、なんと言うか、その…………」

「実は、雛森副隊長の精神状態はまだ完全には回復していなくて、今日は特に不安定だったみたいで……」

 

「──俺、整形しようかな」

「「──!?」」

 

 ポツリと溢された言葉。その予想外の発言に、部屋の空気は一瞬にして凍り付き、次の瞬間、部屋は騒然となった。

 

「はっ、早まらないでください、可城丸三席!! これは決して貴方のせいでは──!」

「そ、そうですよ~可城丸さんの顔は関係ないですよ! 多分……」

 

 そんな彼女たちの制止を無視して「確か涅隊長がクリニックを開いてたような……よしっ、頼むか」と呟きながら、ふらふらと歩き出す可城丸。そんな呆然自失とした彼の様子に、女性陣はあわてふためく。

 

「アンタ正気!? あの白玉に身を任せたあかつきには、顔どころか命が無くなるわよ!!」

「可城丸三席、なんかヤケクソになっていませんか? 一旦落ち着きましょう、ね?!」

「トモチン、そのクッキーを砕きながら私が天に立つって言ってよ」

「やちるッッッ!!」

 

 騒然とした部屋の中心で、残されたクッキーだけが、ただ静かに湿気てしまっていた。

 

 

 

 

 

蛇足

「──ということがありまして。せっかくの日番谷隊長の忠告を無為にしてしまい、申し訳ありませんでした……」

「いや、あー……可城丸は悪くねぇよ、うん。……なんつうか、その、……災難、だったな」

「はい。本当に」

「食い気味で返事を……」






解説
雛森は目の前にいる人物が表面的には藍染惣右介の姿をしているものの、その正体が可城丸秀朝であることに、潜在的に気付いています(敬愛する藍染隊長の胸ぐらを掴むなど、通常ではあり得ない行動を取っている)。
しかし、彼女は意識的にその認識を抑え込み、可城丸に対して藍染に向けた言葉を投げかけました。理由としては、夢を見させてくれなかった可城丸に対して、わずかな八つ当たりのような感情を抱いているからです

斬魄刀異聞篇を書くにあたり、アンケートというより質問があります。本エピソードは破面篇の途中で挟まれたアニメオリジナルですが、私の執筆技量ではそのような高度な構成は難しいと感じています。そこで、尸魂界篇の後、破面篇の後、あるいは物語完結後の番外編として書く案を考えているのですが、読者の皆様としてはどのタイミングが最適だと思われますか? ぜひご意見をお聞かせいただけると幸いです。

  • 尸魂界篇後
  • 破面篇後
  • 本編終了後
  • 斬魄刀異聞篇を書かない
  • 他に何かご意見があれば活動報告の方へ
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