⚠こちらは後編です。
作者の思う恋する勇音ちゃんはコ↓レ↑
藍染との激戦の末、重傷を負って長らく床に伏していた可城丸秀朝は、虎徹勇音が昼夜を問わず看病してくれていたことを、後になって人づてに知った。
その献身的な行動に、彼の胸には深い感謝の念が湧き上がった。が、同時に、多忙を極める彼女に余計な負担をかけてしまったという申し訳なさもまた、強く感じていた。
勇音が指導する月例回道教室で受けた数々の恩義も感じる中で、今こそ、その恩返しをすべき時だと心を決めた可城丸は、勇音にこう声をかけたのだ。
「勇音副隊長、何か欲しいものや、手伝ってほしいことはありませんか? 僕にできることなら、どんなことでもお申し付けください」
可城丸からの突然の申し出に、勇音はぱちくりと目を瞬かせると、みるみる顔を真っ赤に染めて狼狽した。
「えっ、な、何でも!? はわっ、はわわっ……え、え〜と、え〜と、その……う、うう……」
言葉にならない言葉が口をついて出ては引っ込み、まるで小動物のように手足をばたつかせて慌てふためく勇音。そんな彼女の様子に、可城丸のほうもなぜかそわそわと落ち着かなくなり、空気はどんどんぎこちなくなっていく。
そんな二人の様子を少し離れた場所から見守っていた卯ノ花烈は、救いの手を差し伸べるようにして、二人に言った。
「それなら勇音、買い出しを手伝ってもらったらどうですか? ほら、近々、真央霊術院に提供する滋養スープの材料を買い出す予定がありましたし」
「はっ、なるほど!」
「滋養スープ……?」
真央霊術院で提供される特別食。そのための食材を揃える買い出しが近く予定されており、本来なら数名の隊士たちで手分けして行うはずだったのだが、普段の業務に追われ、買い出しまで手が回らなくなっているという。
備品や通常の食材は業者からの定期納入で事足りているが、今回使用するのは契約外の特殊な素材ばかりで、どうしても足を運んで仕入れねばならないらしい。
そこで卯ノ花は、感謝の気持ちを返したいという可城丸の申し出を、この買い出しという形で活かしてはどうかと提案したのだった。
──と、いうわけで。
「えーっと、これと、これと……あとは何が足りなかったかな……」
手にしたリストを見つめながら、勇音が小声で呟く。目の前には、整然と並ぶ調味料の棚。
「仕入れはまだ先なんですよね? でしたら、先週お邪魔したときに、醤油のストックが残りわずかだったのを見たので、一応買っておいたほうがいいかもしれません」
「あっ……! そ、そうでした! ありがとうございます、秀朝さんっ」
流魂街の各所に点在する瀞霊廷の領地、その一つのうちの商店市場にやってきた二人は、順々に店を周りながらリストにチェック印を書き連ねていく。
濃口醤油と減塩醤油のボトルを見比べて、どちらにしようかと真剣に悩む勇音の横顔を、可城丸はどこか楽しげに眺めていた。
やがて決まった減塩醤油を含む大量の食材を購入した彼らは、それを袋に詰め、可城丸がそれを軽々と肩に担ぐ。
「すみません、秀朝さん。荷物を持たせてしまって……」
「いえいえ、元よりこういうつもりでしたし、なにより、女性に荷物を持たせるわけにもいかないですから」
「じょ、女性……はっ、いえ! あたしも結構、力持ちなんですよ!」
ふんふんと意気込みながら力こぶを作る彼女へ、可城丸は僅かに苦笑する。
確かに、病室で暴れる患者を力ずくで押さえつけている彼女の姿を見たことはあるが、まあそれとこれとは話が別だろう。
──そんな取り留めのない会話を繰り返しながら、仲良く連れ立つ連れ立つ二人。
しかし、そんな穏やかな時間を破るようにして、突如、通りの向こうから威勢のいい声が飛んできた。
「よっ、そこの素敵なアベックさん! サンマが安いから買ってかないかい?」
「アベッ!?!?!?!?」
「クゥッッッ!!!!!!」
突如として耳に入った「アベック」呼ばわりに、可城丸と勇音は、悲鳴のような声を上げる。
二人の動揺など意にも介さず、爆弾発言をした魚屋の店主は、ピカピカのサンマを手にしてニコニコと笑っていた。
「あっあの、アベックって……!」
「ん? アァ、すまんすまん、
「めっ、めおとッッッ」
「いえっ、いえ違くてそのッ、同僚です、職場の同僚!!」
ワタワタと訂正する可城丸と、その隣でどこか残念そうな顔をする勇音。そんな二人の様子を見た店主は一度大きく瞬きをすると、ごめんのポーズをして弁明した。
「おっと、そうだったのかい? いやー、すまんね。この歳になると、若い男女が二人きりで歩いてるだけで懇ろの仲だと思っちまうのよ」
「はあ……(若いと言っても、俺はもう軽く二百歳を越えてるんだが)」
「アハハ……」
尸魂界では霊圧が高い存在ほど老化速度が遅くなり長寿となる。特に死神は霊圧がある程度の段階に達すると極端に老化が遅くなるため、可城丸自身、百どころか二百をゆうに越えているのだ。
露骨なお世辞に対しいちいち訂正する気もない二人と、そんな事情を知らない目の前の店主は豪快に笑い続ける。……まあ、事情を知っていたとしてもこの商売根性たくましい店主には関係ないのかもしれないが。
「まあまあお二人さん、この脂の乗ったサンマはどうだい? 今なら勘違いのお詫びに、お安くしとくよ!」
「わぁ、本当だ。すごく新鮮なサンマですね……! 食べたいなぁ〜、でもメモには書かれてないし……」
サンマに視線を奪われたまま、むむむ、と小さく唸る勇音。その様子を横目に、可城丸は一瞬だけ思案し、口を開いた。
「では、本日の夕餉にいたしませんか?」
「夕餉、ですか?」
「はい。買い出しが終わりましたら、僕は一度長屋に戻って食事を済ませる予定ですので……その際に、勇音さんの分もご一緒に用意して、夕餉の頃に四番隊の詰所までお持ちしますよ」
「そ、そんな! そこまでしていただくのは……」
「僕は構いませんよ。……もしご迷惑でなければ、ぜひ」
朗らかに笑う秀朝を見て、勇音は一瞬言葉に詰まると、おずおずと問うた。
「……本当に、お願いしても良いんですか?」
「もちろん。煮物や漬物の作り置きもありますし、それもお持ちしますね」
「っありがとうございますっ! 秀朝さんのお料理、好きだからうれしいです!……その、もしよければ、秀朝さんもご一緒に夕餉を……」
そこまで言って、勇音はハッと口を噤む。
「い、今のは、その……ッ」
「──よければ僕も、勇音さんと一緒に夕餉をいただいてもいいですか」
「えっ」
「その、家で一人で食べるより、誰かと食べた方がおいしい気がして……」
「っもちろん! あたしでよければ、全然、大丈夫です!!」
「本当ですか? 良かった……では、四番隊の食堂でいただきましょう」
「はい!」
溌剌とした声で返事を返した勇音に、少し照れたようにしながら、可城丸は財布を取り出して、店主に向かって言った。
「じゃあ、サンマを五匹ください」
「……あんたら、それでただの同僚は、ちょっと無理がないかい?」
「「え?」」
「聞いてまぁすかぁ? ひでともさん!」
間延びした声が、静まり返りつつある食堂に大きく響き渡る。
「聞いてますよ、勇音さん」
可城丸はそう答えながら、思わず小さく息をついた。
目の前にいるのは、顔を林檎のように真っ赤に染め、完全にへべれけになった虎徹勇音だ。
普段のおどおどとした、自信なさげな姿からはとても想像できないほど、今の彼女は距離感というものを忘れている。上半身をぐっと乗り出し、潤んだ瞳でじっと見上げてくるその様子に、可城丸はどうにも視線の置き場に困ってしまう。
──ついさっきまで、二人で穏やかに晩餐を楽しんでいたはずなのに……どうして、こうなっているんだろう。
可城丸は頭を抱えたくなる衝動を必死で堪えながら、サンマの酢漬けを一切れ口に放り込んだ。きりっとした酸味が舌に広がる。しかし、胃の奥に居座る重たさは、まるで動く気配がない。
たぶん、原因はあれだ。
卯ノ花隊長から差し入れされた、あの地酒。
繁盛時よりもだいぶ人の引いた食堂の端で、ちまちまとサンマ料理をつついていた可城丸たち。そんな静かな晩餐の最中、ススス……と、まるで幽霊のように音もなく近づいてきて、なぜかお酌をしてくれた卯ノ花隊長。
その柔らかな微笑みの奥に、どこか得体の知れない企みを感じ取ったものの、上の者からの酌を断れるはずもなく、二人は渋々、盃を受け取ったのだが──それが、予想以上に度数の強い酒だった。
それなりにアルコール耐性のある可城丸ですら、一口含んだだけで舌がビリリと痺れたほどだ。アルコールに弱い勇音にとっては、その刺激はあまりにも強すぎたのだろう。
一杯で顔が赤くなり、二杯目で言動が怪しくなり始め──
その結果が、この有様である。
「もっと、かんしゃされてもいいと、おもうんでしゅよねぇ、あたしたち!」
勇音はグラスを大きく揺らしながら、感情を爆発させるようにして叫んだ。
その大仰な動きに思わず肩を小さく跳ねさせつつ、可城丸はこっそりと彼女のグラスを取り上げようと手を伸ばす。
──ガァァァンッ!
「ヒェッ」
しかし、勇音はぐいっとグラスを口に傾けると、次の瞬間、空になったグラスを勢いよく机に叩きつけた。
「だって、ご飯に、ちりょーに、そーじも担当してるんれすよ!? おしごと、こんなにがんばってるのに……み~んなして、弱いもの扱いしてくるんれす!」
「たしかに、あたしたちは他の隊に比べたらせんとー力は低いですけど……でも、その分、裏方として護廷を支えてるんでしゅよ?! だから、もっとかんしゃされてもいいじゃないですかぁ〜……!!」
呂律の回らない口で愚痴をこぼす勇音。酔っているとはいえ、その言葉は、普段、胸の奥に押し込めてきた本音そのものだ。
そんな彼女の訴えを聞いた秀朝は、しばし瞑目してから、静かに箸を置く。
そして、すっと背筋を伸ばし、彼女をまっすぐ見据えた。
「そうですね。──本当に、その通りだと思いますよ」
「ふえ?」
「四番隊の皆さんがいるからこそ、僕たちは安心して前線に立てるんです。怪我をしても、必ず戻れる場所がある。そう思えるだけで、どれだけ心強いか……本当に、頭が上がりません」
「うっ……ひでともさぁん……」
ペコリと頭を下げた可城丸。それを見た勇音の目に、みるみるうちに涙が滲む。
「あたし……あたし、そんなふうに、面と向かって言われると……う、うれしくて……」
「ん?」
「わァ…………あ……」
「泣いちゃった!!!」
ボロボロと涙を流す勇音に、可城丸はハンカチを差し出す。
えぐえぐと泣きじゃくりながら、それを目に押し当ててうつむいていた勇音だったが、その頭は次第に、少しずつ、少しずつ重力に引かれていき──
「ぐぅ」
「ええ……」
やがて、そのまま机に突っ伏して眠りに落ちた。
寝落ちした勇音を四番隊隊舎まで連れて行ってもらおうと、四番隊の女性隊士に声をかけようとして、可城丸はあたりを見回す。
しかし、食堂は思いのほか静まり返っており、人の気配はまるで感じられない。声をかけられそうな相手の姿も見当たらなかった。
食器を片づけるついでに、一度食堂を覗いてみる。だが、やはり誰一人いない。
確かに時間は遅いが、ここまで綺麗に人が引いているのは、かえって不自然に思えた。
ゴミ出しにでも行っているのだろうか──そんな考えが可城丸の頭をよぎるものの、確証はない。
(人を呼びに行くにしても、この状態の勇音さんを一人残していくわけにはいかないしなぁ……)
くうくうと規則正しい寝息を立てる彼女は、呼びかけても起きそうにない。あまりにも無防備なその姿に、可城丸は思わず眉をひそめた。
しばらく逡巡した末、小さく息をつく。
──しょうがない、か。
「すみません、勇音さん」
そう小声で謝ってから、可城丸は慎重に腕を回し、彼女を背負い上げる。
身体が持ち上げられた拍子に、勇音は微かにうめき声を漏らし、もぞもぞと身じろぎをした。が、すぐに落ち着いたのか、可城丸の背に顔を埋めるようにして、再び深い眠りに落ちていく。
その寝息に安堵しつつも、男としてこれはどうなのだろうかという自問が過ぎたが、可城丸はその複雑な心境を振り払うようにして、四番隊隊舎へ歩き出した。
静まり返った廊下に、可城丸の足音だけが響く。
──その最中、背中から小さな声がした。
「……ん、ひ……ともさん……」
「お、起きました? ……なんだ、寝言か」
「むにゃ……ひでともさん……」
「はい」
「んん……ひでともさん……」
「はーい」
「好きです……」
「はいはい……
………………え?」
更新が遅れた挙句、アッサリとしたデート(?)描写ですみません……もっと甘々にしたかったけど、この二人まだ付き合ってないんだよな!! なんで付き合ってないの?
二人で街中を散策し、主人公が桔梗の髪飾りを勇音ちゃんにプレゼントする、という展開を構想していましたが、「まだ恋人でもなく、ましてや同僚である女性に、それなりに値の張る髪飾りを贈るのは不自然かもしれない……」と思い、今回は見送ることにしました。
この場面は、二人がきちんと付き合ってから書きたいです……!
【追記】
活動報告にて、今後の活動方針について触れています。
ご興味のある方は、よろしければ覗いてみてください。
斬魄刀異聞篇を書くにあたり、アンケートというより質問があります。本エピソードは破面篇の途中で挟まれたアニメオリジナルですが、私の執筆技量ではそのような高度な構成は難しいと感じています。そこで、尸魂界篇の後、破面篇の後、あるいは物語完結後の番外編として書く案を考えているのですが、読者の皆様としてはどのタイミングが最適だと思われますか? ぜひご意見をお聞かせいただけると幸いです。
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尸魂界篇後
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破面篇後
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本編終了後
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斬魄刀異聞篇を書かない
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他に何かご意見があれば活動報告の方へ