穏やかな人の内面が騒がしかったら嬉しい。
陽気な人の過去が重かったら嬉しい。 ──違いますか?
今回も文字数が多いです。
始解会得の為の修行をしたよ。もう出来るのにね。
「そこまでキツいのはやらせねぇって。お互い病み上がりだからな」とかほざいてた海燕。まあズタズタのボッコンボッコンにされたよね~。
許せない!!
あの絶妙な修行を考えたのは誰なんだろう? 海燕じゃ、あんなに器用な修行法を編み出せないだろうから、バックに誰かが居ると思うんだよね。*1
……「そんなに修行が嫌なら始解が出来るって言えば良かったんじゃないか」って? 俺だってそう考えたんだけど、肝心の相即不離が【リハビリに丁度良いんじゃないかな】とか言って、始解の許可を下ろしてくれなくてェ……
──ああ、そうそう。その斬魄刀についてなんだけど……俺の始解は、『
全部教えても良いんじゃないかって思ったんだけど、相即不離に、【どこから情報が漏れるか分からないだろう?】って諭されたからこうしたんだよね。
相即不離の懸念も分かるよ。壁に耳あり障子に目あり尸魂界にヨン様ありだもんね。てか、メタスタシアの時もヨン様たちは見てたのかな? だとしたら相当怖い。
まあそんなこんなで始解を会得してしまった(していた)俺は、
嘘だ!
この席次、虎徹清音と小椿仙太郎のはずだったろ!? どうして……? あまりにも死が近すぎる……!
「「俺/私は第四席兼副隊長代理補佐ですので」」
嘆く俺を尻目に、毅然とした態度でそう言う二人。……代理補佐って、何? そう言えば、二人とも浮竹隊長のシンパじゃんか、どっちか俺と代わろうぜ。そうすれば四六時中浮竹隊長と一緒にいれるよ!
「「確かにそれは美味し……ゴホン! 誉れ多い提案ですが、これを決められたのは浮竹隊長なので、俺/私達はそれに従うまでです」」
だいぶ欲に引きずられながらも、やはり揃って断ってくる二人。忠誠心が欲望に勝っている……だと……?
……そもそもさぁ、三ヶ月間って席官決められてる頃じゃん? 何でわざわざ俺を巻き込んだワケ?
「本当は二人を据える予定だったんだが、職務復帰した君が思ったよりもピンピンしているのを見てな、考えを改めたんだ!」
俺の大疑に、軽快と笑いながらそう答える浮竹隊長。
畜生……! 自分の頑丈さが憎いッ……!!
「というより、あの様なボロ雑巾になっても、後遺症の一つも無いのが不思議と言うか、ちょっと不気味と言うか……」
「あんなボロ雑巾状態で、メンタルが変わらないってのが、不気味と言うか、怖いと言うか……」
畳に崩れ落ちる俺を横目に、浮竹隊長ガチ勢共がコソコソと呟く。そこっ、聞こえてるからな! 人を化物みたいに言いやがって……俺は純死神だ!!
「そんなに三席が嫌なら副隊長でも良かったんだぞ?」
顔を伏せる俺の背を擦りながら、浮竹隊長は酷く優しげな声で意味のない代案を出す。……隊長、ずっとそれ言ってきますよね。
何遍言われても
「……そうか。君は海燕の事を随分と信頼しているんだな」
……改めて言われると恥ずかしいな。
静寂が支配する隊長室。虎徹清音と小椿仙太郎が静かに退出した後、浮竹隊長に呼び止められた俺は、重厚な木製の机を挟んで向かい合わせに座っている。目の前に置かれた深緑色の玉露を一口すすり、舌に広がる独特な甘みと渋みに思わず顔をしかめた。
浮竹隊長は深いため息をつき、疲れた表情で口を開いた。
「復帰したばかりの君に頼むのは心苦しいのだが……朽木のことを頼んでも良いだろうか」
重々しく紡がれた言葉に、俺は顔を上げ、隊長の憂慮に満ちた瞳と視線を合わせる。
メタスタシアの一件以来、ルキアの様子が明らかにおかしいという。確かに、最近のルキアの雰囲気は重く沈んでおり、どこか海燕との仲もぎくしゃくしているように感じられる。
……いや、正確に言えば、ルキアが意図的に海燕を避けているのだろう。
──話を聞いてみます。ルキアの慰めになるかは分かりませんが。
俺の言葉に、頭を下げようとする隊長を制しながら、残った玉露をゆっくりと飲み干した。静寂の中、隊長室に漂うのはルキアへの深い心配と、言葉にできない微妙な空気だけだった。
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Side 朽木ルキア
──西流魂街 三地区北端 鯉伏山。
私が初めて、海燕殿に修行をつけて貰った場所。職務中、秀朝殿に声を掛けられた私は、再びこの地へと足を踏み入れていた。
秀朝殿は木陰に腰掛けると、私を隣へと招く。手拭いの敷かれたその場所に座して、私達は会話を始めた。
穏やかに続く談笑は、優しい風と共に流れていき、話題はいつの間にか、あの日の事へと移り変わっていた。
「そう言えば、浮竹隊長から聞いたよ。海燕相手に啖呵を切ったんだってね」
「『都三席を未亡人にする気か!』って。 それを聞いた時、思わず声を出して笑ってしまったよ」
クスクスと笑いながら言われたその言葉に、頬が熱くなる。うろうろと目を泳がせる私に、秀朝殿は微笑みながら言った。
「命を懸けて闘っていた海燕をこの世に引き留めたのは、ルキアくんの言葉のおかげだろう」
「そう、でしょうか。私はただ……」
「そうだよ! 僕は海燕の親友だからね、アイツの気持ちは良く分かっているつもりさ」
言い淀む私を尻目に、秀朝殿は冗談交じりに言い放つ。その堂々たる姿に、私は思わず目を細めて笑みを溢した。……しかし、その穏やかな微笑みと励みの言葉にズキリと胸が痛んだ私は遂に、──汚ない言葉を吐き出してしまったのだ。
「私は、海燕殿の誇りを汚してしまったのではないでしょうか」
ドロリと溢れた懺悔の言葉が、穏やかな空気を切り裂く。
隣から注がれる視線を避けるように、私は地面へと目を落とした。柔らかな木漏れ日が揺らめく様を視界に納め、遠くから響く鳥の囀ずりに耳を傾ける。──私は、この思い出深い場所で、胸に秘めた罪を告白した。
「
私たちが虚の元へと向かい、相対したあの日。海燕殿の身体に幾つもの触手が巻き付いたあの瞬間。
浮竹隊長の制止の声も耳に入らず、私は虚の巨体に向かって突進した。(今思えば、何と無謀で愚かな行動だったことか)
結局、斬魄刀を虚めがけて突き立てたその瞬間、私は無様に、呆気なく弾き飛ばされたのだ。
背中から木に叩きつけられ、呼吸もままならぬ中、今度は私の体に触手が絡みつき、締め上げた。嗚咽を漏らすだけの、足手まといとなった私……
そんな私を助ける為に、海燕殿は──!
両手を強く握りしめ、まぶたが痛む程きつく瞼を閉じる。
「わ、私が手出しをしたせいで、海燕殿の斬魄刀が……! 右腕が……!」
私のせいだ。海燕殿に秀朝殿の
私のせいだ。海燕殿の斬魄刀が奪われてしまったのは。
私のせいだ。海燕殿の右腕が失くなってしまったのは。
私のせいだ。海燕殿が自身の誇りを汚してしまったのは。
この身にのしかかる罪悪感を、心に降り積もる後悔を、全て吐き出すように私は、秀朝殿へ懺悔し続けた。
「ルキアくん、君は──、僕に
そんな私の有り様を見たであろう秀朝殿は、ポツリと、酷く優しい声でそう溢した。
その言葉に私は頷く。頷いてしまう。
そうだ。私は結局、誰かに責められることで赦されたいと思っている。
思わず自嘲が漏れる。何て身勝手な願いだろうか。汚い。醜い。自分の下劣さに吐き気がする。それでも私は、罰せられたい。
グズグズと膿み続けるこの罪を、私は誰かに抉って欲しいのだ。
──暗い視界の中、断罪の言葉を今か今かと待ちわびていた私に、秀朝殿は言った。
「そうか。 ……じゃあ、──僕と一緒に強くなろう」
「……え?」
思わぬ言葉に目を見開いた私へ、秀朝殿は言葉を続ける。
「要するに、ルキアくんは自分の実力不足で海燕の足を引っ張ってしまった事を悔いているんだろう? なら、今度は海燕を支えられるくらい強くなれば良いのさ」
まるで、それが全てを解決する万能の答えであるかのように、あっけらかんと言い放つ秀朝殿。
私は頭を振るった。違う、私に海燕殿を支える資格はない。私のせいでこうなったのだ。だから、どうか、どうか私に罰を──
「僕はそもそも、君の行いが悪いとは思わない」
そんな私の思考を遮るように、秀朝殿は言った。真綿の様な柔らかい声、それでも確かな力強さを含ませながら彼は私に告げる。
「ルキアくん。僕の懺悔を聞いてくれないかい?」
「……?」
「僕は仲間を見殺しにした」
「──ッ!」
その言葉に、私は思わず息を呑んだ。
「僕は、彼らはもう助からないと判断して、都三席だけを抱えて虚の前から逃げ出したんだ」
「仲間の仇も取れず、逃げ回ることしか出来ず、親友の伴侶さえ満足に助けられなかった。……挙げ句の果てには、虚に慈悲を掛けられたよ」
淡々と告げられた言葉には、重苦しい後悔と自責の念が滲み、瞳は酷く伽藍堂で、私を通り越し、遠い何かを見つめているようだった。
言葉を詰まらせた私に、秀朝殿は淡々とした声色で問い掛けた。
「──ルキアくんは、そんな僕を罰するかい?」
「ッいいえ! 秀朝殿は十分最善を尽くされました……! 罰など、そんな──!」
私は即座に答えた。 罰するわけがない。罰せられるわけがない。私は秀朝殿の献身を知っている。秀朝殿が都三席を救うためにどれほど身を削ったのかを知っている。今も尚、その身体を膿む傷の大きさを知っている。
「──僕も、ルキアくんに同じ事を思っている」
「……!」
諭すように続けられたその言葉。秀朝殿の穏やかで凪いた瞳が、私を真っ直ぐに見つめ返す。
「確かに、君の行いは蛮勇だったのかもしれない。愚かだったのかもしれない」
「それでも、海燕の為に、誰かの為に一歩を踏み出したルキアくんの勇気は、誇るべき事なんだよ」
「皆が最善を尽くした結果がこれだ。誰も責められるべきでは無いし、責めるべきでも無い」
「起きてしまった事は変わらない。もしもの事を考えたって仕方がない」
「僕たちは、この後悔も、苦しみも、怒りも──全て抱えて生きていくしか無いんだ」
向けられた秀朝殿の言葉に、私は思わず目を伏せる。
それは、深い悲しみを孕んだ言葉だった。遺された者の切実な叫びだった。
「正直言ってね、僕は、海燕と浮竹隊長の思想が理解できない」
予想外の言葉に、思わず驚愕の声を漏らし、空を見上げている秀朝殿の横顔を見つめた。
「心を、誇りを護り、そうして託して逝く……格好良いとは思うよ。けれど、置いて逝かれる者はたまったものじゃない」
穏やかな笑みを湛えるこの人が、こんなにも力強く、そして切実な言葉を吐露している。私は内心の動揺を隠せなかった。
「大切な人にはね、どんなに無様でも、どんなに醜くても、最後まで生き足掻いてほしいんだ」
「勿論、この考えをルキアくんに押し付けるつもりもないよ。これは僕の勝手な願いで、傲慢な思考だ」
「人の数だけ思いがあり、思いの数だけ生き方がある。ルキアくんが、自分らしい答えを見つけられたらそれでいい」
秀朝殿はいつもの笑顔を浮かべてそう締め括り、そうして、私の方へと向き直る。
「……ああ、そうだ。だから君に、これだけは伝えておきたかったんだ」
少し間を置いて、静かに、しかし力強く、秀朝殿は言った。
「──ありがとう、ルキア」
「
御兄様「……」スッ(100点と書かれた札)
次回
蛇と大樹
斬魄刀異聞篇を書くにあたり、アンケートというより質問があります。本エピソードは破面篇の途中で挟まれたアニメオリジナルですが、私の執筆技量ではそのような高度な構成は難しいと感じています。そこで、尸魂界篇の後、破面篇の後、あるいは物語完結後の番外編として書く案を考えているのですが、読者の皆様としてはどのタイミングが最適だと思われますか? ぜひご意見をお聞かせいただけると幸いです。
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尸魂界篇後
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破面篇後
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本編終了後
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斬魄刀異聞篇を書かない
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他に何かご意見があれば活動報告の方へ