「転属?」
「ええ、正確には転属というより新規プロジェクトのチームリーダーを貴方に任せたいのよ」
「僕が、ですか」
「貴方以外に適任が居るとは思えないわ。何せ連邦生徒会と提携したこの企画、下手に動いてしまえば
「なるほど、事情は理解しました」
キヴォトス広域都市鉄道D.U.シラトリ駅。実質的なハイランダー鉄道学園の本校舎となっているこの駅の関係者区域の奥の奥、CCC会長室にて僕、加古川ミズホは直々の呼び出しを受けていた。
「しかし連邦生徒会と提携とは……どういうプロジェクトなんです?一応はCCC所属の僕を転属させるとなると文字通り「余程」のことだと判断しますが」
「転属と言っても一応CCCに貴方の席は残るわ、左遷でも解任でもないからそこは安心して」
「ならいいんですが……ひとまず詳細をお願いします」
「わかってるわ……と言っても文字通りの極秘プロジェクトだから紙の資料しかないの。詳しくはこれを見て頂戴」
わざわざ僕を呼び出した上司ことCCC会長から手渡された資料を受け取り一読。寧ろ僕としては一々スライドやタップしないと次のページが見れない電子資料よりこういう自分のペースでさっと次のページが見れる紙媒体の方がありがたかったりする……えっと、なるほど。
「つまりは連邦生徒会に新しく設立される「シャーレ」なる組織の移動手段としてハイランダーが車両を提供、それを運用するためのサポートチームが新たに発足する、と」
「ええ、
「そんなことだろうと思ってました」
いくら連邦生徒会から協力を仰がれたと言っても
「立場上S⁴はシャーレ直轄……つまりはシャーレと同じく超法規的機関という扱いを受けることになるわ。貴方の事だからここまで言えば本当の目的はわかるわね?」
「ええ、シャーレのサポートがてら各自治区鉄道のガサ入れをしたいんですね?」
「大当たり、というかあちこちで好き勝手やってた弊害を一番被ってたのは貴方だったかしら、ミズホ」
「一時期は振替輸送すらまともにできない状態に陥ってましたからね、何とかしようにも派閥意識が強くなりすぎて下手に首を突っ込めば内戦に発展する恐れもありました」
「そうね……まあ「一応」CCCに席は残ると言ったのはそういうこと。立場上「CCC」ではなく「シャーレ」の介入ということにしておかないと色々と面倒くさいでしょう?」
「そうですね、というか会長はそこまで考えてこの案件を承諾したんですか?」
「貴方ねぇ……最近各所の統制が取れてないせいで監理室から相当睨まれてるのは知っての通りでしょう?今のままの状態が続けば理事会から何を言われるか分かったもんじゃないわ」
「それはごもっともです。そういえばガサ入れだけでいいんですか?超法規的機関というのなら無理やり統制を取ることもできると思いますが」
「下手にその強権を振るえば最悪ハイランダーが連邦生徒会に吸収されることになるわよ?」
「……そうですね、出過ぎた真似でした」
「分かればよろしい」
淡々と会話を続けているが明らかに頭を抱えた様子の会長に内心ご愁傷様と祈る。最近のハイランダーは派閥争いが激化していて下手に手を出せばあちこち誘爆しかねない火薬庫、それを半ば放任しているCCCは生徒会としての体を為していないのではないかと監理室から苦言を呈されたのもそこそこ前の話だ。そう考えるとこの案件は渡りに船であっただろうことは想像に難くない。
「で、やってくれるかしら?責任重大な案件ではあるけれども……」
「任せられるのが僕しかいないって話なんでしょう?だったらやりますよ会長。僕だってハイランダーの現状は憂いていますし知っていて何もしないほど愚鈍でもありません、この機に正常に戻せるのならやらないという選択肢はありません」
「そう言ってくれると思ってたわ。やり遂げた暁には次期CCC会長の椅子でも約束してあげましょうか?」
「いや別にいいです。僕は会長みたいに胃薬を常備する生活にはなりたくないので」
「そこはうっすら笑いながら承諾するところでしょうが!?」
「知りませんよそんなこと……で、プロジェクトリーダーは僕として他の面子は?流石に僕一人で列車の運行なんてできませんよ」
「はあぁ……ああそれに関しては安心しなさい、既に招集自体は終わっているわ。今はS⁴用の特別車両で訓練中かしら」
「……逆に困るんですけどそれ、どうせなら僕が直々に選抜したかった」
「文句言わないの、貴方かなり拘りが強いんだから絶対月単位を要するのはわかりきってる。普段ならば別にそれでも良いけど今回は連邦生徒会との提携プロジェクトよ?モタモタしてたら間に合うわけないじゃない」
「それは……そうなんですが」
「その正論に文句を言いたそうな目線と言い方をやめなさい。ひとまず話は以上よ、質問は受け付けないから不明瞭な点は後から資料で確認して頂戴」
まったくこの生徒会長は……僕の癖をよく理解している分余計にタチが悪い。
「はぁ……わかりましたよ。それじゃあひとまず顔合わせに行ってきます」
「ええ、頑張ってね?ハイランダーの未来は貴方にかかってると言っても過言じゃないわ」
「だったらもう少し心配してくれてもいいと思いますが」
「ポーカーフェイスよポーカーフェイス」
「さっき頭を抱えてた人がいう言葉じゃありませんね」
「細かいこと気にしてると禿げるわよ?」
「先に会長の毛が抜けそうですね」
「黙らっしゃい、少なくともシャーレではその売り言葉に買い言葉は控えること、いい?」
「善処します」
「そこははいって言いなさいよはいって!」
善処しますでは不満だったのだろうか、退室間際にみたこちらに苦言を呈する会長の顔は残念な美人のそれだった。
にしても「シャーレ」ねぇ……本当の目的がガサ入れとはいえ一応はビジネスパートナー、ないし大事なお客様になる相手だ、活動が始まったら失礼のないようにしておこう。
まあ今やるべきはシャーレについて考えることでも会長はどうすればもう少し眉間の皺が少なくなるだろうと考えることでもなくS⁴のメンバー……僕の部下になる生徒達との顔合わせ。
資料の通りならどうも専用の車庫があるらしい。きっと車両はそこにあるだろう、ついでにS⁴の面子も。
ほぼほぼ初対面だろうし差し入れでコーヒーくらいは持って行った方が良いだろうか、そんな呑気なことを考えながら僕は帽子を深く被りなおして車庫へと向かった。
「おー……やってるやってる」
行きがけに缶コーヒーを1ケース程買い、まあ少し遅れてもいいかとのんびり歩いて20分ほど。目的の車庫に辿り着くとそこでは一部の生徒達が車両を用いてシミュレーションを行っていた。
「よーし一旦休憩!話の通りならもうすぐチームリーダーが来るはずだからそれまでゆっくりしててね!」
いやそのチームリーダーもう君たちの様子見てるんだけど……というのは野暮なんだろうか。
あちらが気付くのを待つのもいいけど流石にそれじゃあ可哀そうな気もするのでこっちから声をかけてみることにしよう。
「あー……ごめん、君たちがS⁴のメンバーってことでいいのかな?」
「えーっとどちら様……その服はCCCの?ってことは……」
「うん、僕がS⁴のチームリーダー加古川ミズホ。改めて聞くけど僕以外のS⁴のメンバーってのは君たちであってるかい?」
「はい!あ、私も自己紹介がまだでしたね!」
纏め役っぽい車掌服の子に話かけるとどうやらビンゴだったらしく姿勢を正して敬礼された。まあ僕もCCCとはいえそこまでされる程偉いってわけでもないんだが……
「元Tライン方面所属、塚本ハヤテです!主に観光列車のサーヴィスを担当してました!S⁴ではサブリーダーに任命されました……なんで私なんでしょう?」
「さあ?少なくともわざわざサブリーダーに任命されたってことは余程会長は君を買ってるんじゃないかな。勿論Tラインは他の路線と比べてCCCが干渉しやすいってのもあるだろうけど」
「成程……つまり此処で頑張れば私もCCCに……?」
「かもね。あ、これ差し入れの缶コーヒー。皆で分けて」
「ありがとうございます!……結構持て余しちゃうなこれ、冷蔵庫に入れとこうかな……?」
「……あーその、僕会長に言われてすぐここにきたから面子の把握とかしてなくてさ。教えてくれないかな、色々と」
「あ、はい!他の皆は休憩中なので私が説明しますね!」
随分と元気がある子だ。多分派閥争いとかに巻き込まれずに伸び伸びやって来たんだろう、ちょっと眩しい。
「じゃあひとまず車両に案内しますね!」
「助かる……あれ、こいつどっかで見たことあるな」
「あー……確か昔頓挫した高速鉄道計画に使われる予定だった車両を流用したとか」
「あれか……うん、よく覚えてるよ。自治区間での提携がまともにできなくて頓挫したんだ」
「なんかさらっと凄いことを聞いちゃった気がしますが……まあそれはそれこれはこれ。今のこの子は私たちの大切な仲間です!」
「そうだね、名前はもう決まってるの?」
「はい!」
「この子の名前は「静波号」!運行補助AIを含め最新技術を多数搭載したハイランダー最新鋭の高速列車です!」
「静波号……随分と渋い名前だね」
「なんかしっくりきたので!」
「なんかって……いやまあいいけどさ」
「ひとまず乗ってください、先頭車両から順に案内しますね!」
「わかった」
さて拝ませてもらおうか、ハイランダー最新鋭の車両とやらを。
「まずは先頭車両……操縦席です。基本的にはミズホ先輩が操縦することになるんですかね?」
「だろうね、会長からマスコンハンドルも預かってるし。ただ一応予備の子もいるよね?」
「はい、Mライン方面から引き抜かれた子が一人。動かしたがってましたけど……まあもしもの時くらいですかね?」
「そうなるかな、そういや全部で何人?」
「ミズホ先輩と私を含めて8人です。運転士二人、車掌二人、パーサー4人ですね」
「パーサーまで居るのか、随分と豪勢だね」
「それだけ本気ってことじゃないんですか?いろんな意味で」
「あー……そうだね」
「2両目、作戦車両です。シャーレが戦闘行動を行う際は此処を臨時指揮所として運用できます」
「随分とハイテクな……」
「なんでもシャーレの端末と同期できるらしいですよ?演算能力がどうのこうの~……って」
「個人的にはそのシャーレの端末の方が気になるな」
「奇遇ですね、私もそう思ってました」
「3両目、寝台車両です。シャーレの方の簡易ホテルとして機能します、下手なホテルより設備が良いですね」
「凄いVIP待遇だね、シャーレとやらも」
「連邦生徒会直轄って話でしたよね?VIP待遇も当然かと」
「そりゃそうか……此処で休憩とかできないかな?」
「私たちには別に車両が割り当てられてますから」
「そうか……」
「4両目、食堂車です。キッチンも最新式なのが嬉しいですね」
「心なしかちょっとウキウキしてない?」
「あ、わかります?私料理が趣味なんですよ。今度先輩にも何か作ってあげましょうか?」
「機会があったらね。とはいえ君車掌でしょ?食堂車はパーサー任せだと思うけど」
「まあヘルプで入るくらいは許されると……思います……」
「5両目、客車です。シャーレ以外の方を輸送するときに使います」
「まあそういう事態も想定されるか……あ、ハヤテ。この列車はどのくらいの速さで走れるの?」
「確か……550km/hです。ただ平常時は260km/hまでの制限はかかると思いますよ?専用のラインなんてありませんから」
「やっぱり路線は間借りか……面倒だな、色々と」
「ですねぇ……」
「6両目、従業員用車両です。まあ私たちの休憩室ですね」
「自販機に……テーブルにベッド……凄いな、休憩室と言うよりビジネスホテルのそれだ」
「激務になることも予想されますからせめてってことなんでしょうか?ありがたく使わせてもらいましょう。あ、コーヒー冷蔵庫に入れておきますね」
「うん、賞味期限忘れないようにね」
「というわけで以上が静波号の車両です!状況に応じて更に連結したり分離することもありますが基本的にはこの6両編成で運行することになるかと」
「4の倍数じゃないのがちょっと違和感あるけど……確かにこれは凄いね、伊達に最新鋭とかは言ってない」
今まで数々の列車を運転してきたけどこいつは文字通りグレードが違う。連邦生徒会から予算が出たのか会長の見栄かはしらないけど文字通り持てる全てをつぎ込んだ特別仕様と言って差し支えないだろう。
まあそれはそれとしてこれ含めてS⁴の全責任を押し付けられたも同然だからプレッシャーと会長への不満は凄いけど。
「一通り把握は終わった、これならすぐに試験走行に移れそうだ」
「あ、もう試験走行なんですか?もう少し訓練が必要かと思いましたが……」
「要領はいつもと同じだろ?特段特殊な訓練が必要ってわけでもないしもう充分でしょ」
「確かに……あれ、日程はどうなってるんですか?」
「明後日にTラインの旅客列車線路を間借りすることになってる……ああそうか、これからこいつを運行するときは毎回日程の打ち合わせがいるのか、だいぶ面倒だな……」
「あー……私に何かお手伝いとか、できますかね?」
「大丈夫、君たちは列車の運行に集中するといい。運転含めて面倒なあれこれは僕の仕事さ」
「……可能な範囲でなら手助けしますよ?」
「気持ちだけ受け取っておくよ、ありがとう」
思えば僕が明確に部下を持つのはこれが始めてかもしれない。旅客列車の運転をしてた時はあくまで操縦士っていう1ポジションで、CCCは部下上司というよりは同僚の関係だったし。
……先輩として恥ずかしくない行動しなきゃいけないのか、やっぱり面倒だなぁ。
「そういえば「シャーレ」とやらはいつから活動するんでしょうね」
「どうも「先生」って人の着任を待つらしいね、それ以外に情報はないから具体的にいつからとかそういうのはわからない」
「……なんか少し不安になってきました」
「奇遇だね、僕もだ」
あくまでビジネスライクではあるけど……「先生」なるお人とは仕事の前に一回話しておきたいものだ。一度話すと話さないとでは仕事のやりやすさがまるで違う。
「ま、今はただ待つしかないさ。プロジェクトがもうここまで動いてるってことはそこまで時間もかからないと思うし」
「確かにそうですね!それじゃあ皆を呼んできます!」
「オッケー、んじゃこれからの部下の統制は任せたよ、ハヤテ」
「はい!……って、えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
こうして
これはそんな僕たちの少し……いや、かなりドタバタした活動日誌だ。
ハイランダーは不明瞭な点が多いため独自解釈が多めになります、ご容赦を。