S4活動日誌   作:暁真

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毎回思うことだけど先生とのファーストコンタクト、結構悩みます。


Page2.先生、着任

 

 

「え、シャーレの先生ってもう着任してたんですか!?」

「うん、どうもこっちがドタバタしてる間にね。会長と連邦生徒会の交通局から情報を貰った」

「じゃあなんで私にも……ってああ……多分その時私たちは……」

「うん、三回目の試験走行ができなくなっててんやわんやしてた時だね。まさかPTC(列車運行管理システム)がイかれるとは思ってなかった」

「あれのせいで静波号どころかD.U.地区の路線が軒並み機能停止してましたもんね……今回ばかりは派閥が分かれてることに感謝しましたよ」

「PTCイかれてるのに無断であれこれ調整してるのもそれはそれでどうかと思うけどね……やっぱガサ入れは必要かな」

「そもそもそのためのS⁴じゃないですか。あ、でも表向きの目的もちゃんとしますよ?先生は大事なお客様ですもんね!」

「……その切り替えの早さ、君CCC向いてるよ」

「それ褒めてます?」

「どうかな……さて、先生が着任したということだし僕たちも挨拶に行こうかハヤテ」

「はぐらかさないでくださいミズホ先輩!」

 

 S⁴結成から早いもので数週間。各メンバーとの交流もできたし二度の試験走行で静波号のスペックもある程度把握できた、表向きの役割は充分に遂行できるだろう。

そういえばハヤテが思ったより融通が効くのは嬉しい誤算だった。Tラインから来たって言うからどんな真面目ちゃんかと思ったら意外とあれこれ計算した上で行動できる、成程会長がサブリーダーに任命するわけだ。S⁴の役目が終わったら僕の方からCCCに推薦しておこう。

 

「確かシャーレまでの最寄り路線は……アビドス中央線か。あの路線話題に出すたびに会長がしかめっ面するんだよな」

「なんでです?」

「なんでもアビドスの砂漠横断鉄についてセイント・ネフティス社と業務提携する代わりにあっちの御令嬢がハイランダーに来るはずだったんだってさ。でもその令嬢様がハイランダーを蹴ってアビドスの方に行っちゃったせいで計画は頓挫。ネフティスとの提携は無事白紙ってわけ」

「そんなことが……でもアビドスってあの砂漠以外ほぼなにもない土地でしょう?そんなところに鉄道網を敷いたってこっちが大損する可能性の方が高いですし……寧ろ白紙になってよかったんじゃないですか?」

「僕もそう思う、当時のネフティスは落ち目ってのもあったし当時の資料を見る限りこっちのメリットが皆無だったからね。ただまあ、そのせいで結構色々あったらしくて……」

「なるほど……」

 

結構色々、というのははぐらかしているわけではなく会長が話したがらないから詳細を聞けていないんだ。

 

「まあ2年前のことだからあんまり関係ないよ、会長がしかめっ面してるのも苦い思い出がある以外にないだろうし特に現地との軋轢があるわけでもない、寧ろアビドス方面の子達はいい子なんだよな」

「要するにあんまり気にしなくていいってことなんですね」

「そういうこと。んじゃ話も終わったし改めて行こうかハヤテ」

「あれ、私も行くんですか?」

「君はS⁴のサブリーダーだろ?だったら先生と顔合わせはしといたほうがいいだろ」

「確かにミズホ先輩だけだと万が一に支障が出ても困るし……納得しました」

「納得したならよろしい、それじゃあ乗るよ、アビドス中央線」

「はい!あ、先輩。これって経費に計上されるんですかね?」

「そもそも僕らにはハイランダー生専用のフリーパスがあるでしょ」

「完全に存在を忘れてました」

「君もしかしてちょっと抜けてる?」

「かもしれません」

「自分で認めちゃうんだ……」

 

少しハヤテのことが不安になってきたがまあそれはそれとして。これからのお得意先であるシャーレに挨拶をしに行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「意外と空いてましたね、アビドス中央線」

「そりゃあD.U.地区一番の稼ぎ頭Tラインと比べるとどうしてもね。単純にアビドス自治区の過疎化が進んでいるせいってのもあるだろうけど」

「それでもまだ電車は通ってる方なんですね、20分に1本とかですけど」

「1時間1本とかじゃないだけまだ採算取れるって判断されてるんじゃないかな……にしても何時の間にシャーレの前に駅なんてできてたんだ」

「少なくともアビドス中央線で静波号を運行するときはだいぶ楽になりそうじゃないですか?」

「だいぶ限定的だね……基本的にはシラトリ駅まで足を運んでもらうことになりそうだけど」

「それもそうです……で、此処がシャーレでしたっけ?でっかいなぁ……」

「なんでもビル一本丸々シャーレの施設なんだってさ。にしてもここまでデカいとは思わなかった」

「先生はオフィスにいるんでしたっけ?何階だろう……」

「流石に案内はあるでしょ、それ見て行こう」

 

 この時間帯ということもあるがスッカスカだったアビドス中央線に乗っていつの間にかできていたシャーレ前の駅を出る。成程シャーレ前と言うこともあって出てみればすぐにシャーレのビルが眼前だ、交通アクセスは思ったよりしっかりしているらしい。こちらとしては立地上仕方ないとはいえシラトリ駅まで少し時間がかかるのが気になるが……まあ足を運ぶのは先生の方だし問題ないか。

 

「……随分と高いところにあるな、オフィス」

「なんか不便な気がしますね、エレベーター結構待つじゃないですか」

「下の方に色々詰め込みすぎてるだけじゃないかなぁこれ。なんでゲームセンターとかあるんだ」

「さぁ……?あ、エレベーター来ましたよ」

「やっぱり遅いなぁ……よし、乗ろう」

 

無駄に巨大なシャーレのビルを見て(連邦生徒会は予算の使い方が斜め上だなぁ)と思ったことは黙っておこう、バレたら何を言われるかわかったもんじゃない。

 

「しかし先生……どんな人なんでしょうね?怖くないといいんですけど……」

「少なくとも連邦生徒会直々に任命されるってことはそこまでやばい人ではないでしょ、こっちとしてはお得意様になるわけだしいい関係を築けるといいんだけど」

「もし怖い人だったら全部先輩に任せちゃって構いませんよね?」

「ダメ、僕が居ないときどうするのさ」

「それは……うぅ、やっぱりやらなきゃだめですかぁ……」

「というか僕は多分ガサ入れの方に集中することになるし先生関連はハヤテに任せることになると思うよ?」

「えっ」

「えって言われても……」

 

なんだろう、ハヤテは頭は回るし機転も聞くんだけどどうにも抜けている感が否めない。基本的には任せて大丈夫だと思うけど……万が一が怖いな、最悪フォローに回れるようにしておこう。

 

「お、着いたみたいだよハヤテ」

「あのぉ……やっぱり怖いので後ろから付いていくことはできませんか?」

「ダメ、初手で弱弱しい印象与えちゃそれこそそこに付け込まれるかもしれないよ?」

「やっぱりダメですか……」

「何ハヤテ、君怖いもの苦手?」

「お客様の「対応」自体は慣れてますけど……先生はお得意先になる訳でしょう?もしものことを考えると……」

「成程理解した。まあ最悪僕の方で引き受けるよ、そうなった場合君にガサ入れの業務が降りかかる訳だけど……できる?」

「……すいません、ミズホ先輩程あっちこっちの路線に詳しいわけじゃないので務まらないかもしれません」

「そんなことだろうと思った。というわけでしっかりと先生に対応すること、心配はいいことだけど心配しすぎは業務に支障がでるからね」

「はい……」

「とりあえずアポは取ってるしあとはノックすれば……すみません、ハイランダーの者ですが……」

 

抜けているというよりは心配性だったらしいハヤテをどうにかして並ばせ、シャーレの扉をノックする。一応アポは取ってるはずだから先生とやらの返事待ちなんだが……

 

「……返事、来ませんね?」

「うーん、この時間に来ることは伝えたし居ないってことはないはずだけど……あ、鍵空いてる。多分中には居るね」

「入っちゃいます?外より中の方が声も通りますし」

「そうだね、入っちゃおうか」

 

ハヤテと一度顔を見合わせ、意を決して扉を開ける。こうやって鍵も開いてるし、やっぱり居ないってことはないはずなんだけ……ど……

 

「……ミズホ先輩」

「うん」

「山ですね、書類の」

「そうだね」

「埋まってますね、人」

「埋まってるね、見事に」

「……どうします?」

「どうしますって……ひとまず救助活動じゃない?」

「……」

 

……先生とやらとのファーストコンタクトは、酷く締まらないものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやーごめんごめん、ちょっと仮眠を取ってるうちに書類が倒れちゃったみたいでさ、ものの見事に下敷きに……」

「無事ならよかったんですが……何故デスクで仮眠を……?」

「やってもやっても書類の束が減らなくて……少しでも時短になればって」

「効率的に論外なので普通に横になった方が良いかと」

「だよねぇ……あ、君たちが連絡のあった……」

「ええ」

 

「シャーレの先生着任につき本日より正式に稼働となりましたハイランダーのプロジェクト「S.C.H.A.L.EShipping&SupportService(シャーレ専任輸送兼支援サービス)」、通称S⁴の者です。僕はチームリーダー兼運転士の加古川ミズホ、そしてこっちが……」

「サブリーダー兼車掌の塚本ハヤテです、これからよろしくお願いしますね先生!」

「うん、これからよろしくね。ミズホ、ハヤテ」

 

 幸いと言うかなんというか、先生はハヤテの思っていたような怖い人じゃなくて普通に人当たりのよさそうな人だった。これならハヤテも安心して先生の補助に入れるだろう……多分。

 

「それでS⁴……だっけ?私はまだ詳細とか聞いてないから説明をお願いできるかな?」

「分かりました。ハヤテ、できる?」

「そりゃあもう、任せてください!」

 

先生の性格を把握した途端これだ。どうも彼女は情報に流されやすい節がある、やっぱり万が一が気になるな。

 

「S⁴はその名の通りシャーレ専属の輸送兼支援組織……具体的に言えばシャーレが各自治区への出張が必要になった場合に申請さえして頂ければ現地まで快適な鉄道旅をお届けします。無論アフターサービスも」

「アフターサービス?」

「ええ、先生は謂わばお得意先。もしもを防ぐために先生の出張に一人護衛として我々の中から付くことになります」

「まあ基本的にはハヤテが付くことになると思ってもらえれば。車両の点検とか諸々の都合があるので基本彼女以外の人員は回せないんです」

 

流石に先生に本来の目的を明かすわけにもいかないのでガサ入れどうこうは程々にぼかしておく。彼女がうっかりしなければ綺麗に秘匿できるはずだ、そこらへんは任せたよハヤテ。

 

「なるほど……でも大丈夫なの?一応君たちはハイランダーの生徒なんでしょ?」

「まあそうなんですが……S⁴は連邦生徒会との提携プロジェクト。扱いとしてはシャーレ直轄になります、ハイランダーからの引き抜き、という体と言った方が良いでしょうか」

「理由としては各自治区との軋轢を防ぐため。超法規的機関であるシャーレの直轄ということにしておけば余計な問題を引き起こさずに先生のサポートに集中できますから」

「シャーレの直轄っていうのがそこまで重要なの?」

「そりゃあもう。もしS⁴がハイランダー所属だった場合主に外交的な問題で護衛を先生に付けることはできません。なんせもし重大な問題が発生した場合それが「ハイランダー」の問題になるわけですから」

「しかし「シャーレ」所属の場合超法規的機関である以上外交問題になることは限りなく少ない……言ってしまえば法の抜け道のようなものです」

「ふむふむ」

「まあつまり、先生は安心してS⁴を使ってくださいってことです!あ、勿論当日行けますか?はダメですよ?私たちだって常日頃暇と言うわけじゃないんです、ちゃんと申請をしてもらわないと用意は間に合いません」

「流石にそれは大丈夫だよ、間に合いそうにない時は最悪普通に鉄道使わせてもらうから」

「あ、別に護衛なら後から申請でも大丈夫ですよ?車両は簡単に動かせませんが人は簡単に動かせますから」

「それじゃあ困ったら気軽に呼んじゃおうかな?」

「後からでも大丈夫とは言ったけど「気軽に」は流石に困りますよ、先生」

「あ、ごめん」

 

少し話してみた感じ先生には特に悪感情はないが……なんといえばいいのだろう、ハヤテと似たようなものを感じる。具体的に言えば少し抜けていそうなところが。いや、寧ろハヤテを護衛に付かせるんだから似た者同士相性が良い方が楽ではないか?ああでも少し抜けてるのが組んだところで抜けてるのは変わらないし……

 

「……ミズホ先輩どうしたんですか?なんか急に考えこんで」

「いや、なんでもない。説明はどこまでやったっけ?」

「アフターサービスについてまでです」

「オッケー、そのまま続けてくれ」

「はい!」

 

……まあ今のところは任せて大丈夫だろう、多分。

 

「申請についてですが出張に使う路線と日時を指定してください、その時間帯にS⁴用の特別列車の用意ができますので基本的にそれに乗ってもらうことになります。あ、勿論ですが遅れちゃあ駄目ですよ?いくらS⁴がシャーレ直轄だと言っても路線は間借りさせてもらっているものです、遅れによるダイヤの乱れは惨状を引き起こしますからね?」

「それくらいは流石に弁えるよ。電車遅延の怖さはよーく知ってるからね……はは……」

「……気のせいでしょうかミズホ先輩。先生からどことなく哀愁を感じます」

「気のせいじゃないね、多分」

 

まあこの様子なら遅れるなんてこともないだろう、そこらへんは安心して良さそうだ。問題はその他だけど……今は気にしなくていいかな。

 

「そういうわけでS⁴についての説明は以上です、何か質問とかはありますか?」

「あー……じゃあ一つだけ」

「なんです?」

「護衛を受け持ってくれるのはいいんだけど……宿とかは大丈夫なの?」

「ああ、大丈夫ですよ?余程の僻地でもない限りキヴォトス広域鉄道の駅はありますからそこか特別車両の休憩室を使います。まあ余程の僻地だとか駅からだいぶ離れているとかだと普通に宿泊施設なりを使うことになると思いますが……これ経費で降りるのかな……」

「……だいぶ世知辛いんだね」

「あはは……」

 

なんかこの二人妙に波長があってるな。

 

 

「うん、聞きたいことは以上かな。改めてこれからよろしく、二人とも」

「はい、よろしくお願いしますね先生!」

「こちらこそハヤテをよろしく先生。彼女少し抜けてるところがあるからもしもの時は助けてやって欲しい」

「え、ミズホ先輩って私の事そう思ってたんですか!?」

「うん」

「その2文字がかなりきついんですけどぉ……」

 

 

……まあそんなこんなでS⁴は先生とのファーストコンタクトも無事に終え、ようやくプロジェクトとして正式に始動した。

まあ早々出張とかあるわけでもないししばらくは準備期間かなー、なんて思っていたのだけれど。

 

 

「ミズホ先輩!早速ですが申請来ましたよ!」

「……早いね。それで何処?」

「えーっと……アビドス自治区です!」

「……アビドス……アビドスかぁ……」

 

記念すべき最初の出張先を聞いて頭を抱えた僕の顔は、きっと会長と同じように皺が寄っていた筈だ。

 

 

 

 

 




『塚本ハヤテ』
ハイランダー鉄道学園1年生、元Tライン方面所属。主に観光列車の車掌を担当していた。S⁴ではサブリーダー兼車掌兼護衛と言う中々のハードワーク。
割と合理的な性格であり損得で物事を判断できる。ただし少し抜けているところと目の前の情報に流されやすいのが玉に瑕。
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