S4活動日誌   作:暁真

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割と難産でした


VOL1.対策委員会編
Page3.出張、アビドス


 

「先輩、凄い眉間に皺寄ってますけど大丈夫ですか?何か問題でも……」

「いや、ない……とは言い切れないんだよね」

 

 記念すべきS⁴の最初の仕事ということで喜べるなら喜びたいものなのだが、今回に限っては眉間に皺を寄せることしかできなかった。

 

「随分とお茶を濁した言い方しますね?」

「正確に言えば「S⁴」としては問題ないが「シャーレ」としては問題が起きかねない、と言う話になる」

「どういうことです?」

 

なんだろうな、会長の気持ちが今ならわかる気がする。

 

「前に話しただろ?ウチ(ハイランダー)がネフティスと提携してアビドス砂漠で鉄道開発しようとしてたって」

「はい、でも確か此処に入学する予定だったネフティスの令嬢さんが……あ」

「そういうことだ、相変わらず物分かりがよくて助かる」

 

「つまるところ今のアビドスにはその「ネフティスの御令嬢様」が居るわけだ。さてここで状況を整理しよう」

「はい」

「今回の出張における目的は「各種弾薬及び支援物資の補給支援、及び近辺の暴力団鎮圧」だったね?……アビドス高校の」

「そうですね、だから今回は客車を外して貨物車両を追加で連結、現地の輸送車もついでにチャーターする予定ですけど」

「そうだ、ここまでは問題ない……問題は護衛任務の方だ」

「そこまで問題になりますかね?」

「その御令嬢様の目線になって考えてみて欲しい、自分の都合で進学を蹴った高校の生徒を護衛として連れてきた初対面な外部の人間。どう映ると思う?」

「……ちょっと警戒しますね、もしかしたら事情を知ってるんじゃないかとか、他の案件で連れ戻そうとしてきてるんじゃないかとか」

「だろうね。つまりそういうことさ」

 

先生はこの銃弾飛び交うキヴォトスにおいてあまりにも脆い。こちらとしてもお得意先を失うわけにはいかないし護衛まで請け負っておきながらもし重傷なんて負わせてしまえば文字通り学園の存在すら危ぶまれる可能性だってある。だから護衛を付けるのはある意味絶対条件のようなものなんだが……

 

「どうしたものかなぁ……情報ではアビドスの生徒総数は6人、その中に間違いなくネフティスの御令嬢はいるだろうから遭遇しないなんてことはあり得ない。かといって護衛を外せばどうなることやら……」

「み、ミズホ先輩本当に大丈夫ですか……?明らかに纏う雰囲気がどんよりし始めてるんですけど……」

「……いつも胃薬を常備している会長の気持ちが少しわかった気がする」

「そんなにですか!?」

「まさか一番最初でここまで躓くとは思ってなかったからね……ハヤテ、何か良い案ある?」

「なにかいい案と言われましても……あ」

「何か思いついた?」

 

ハヤテは機転が利く奴だが、もう良いアイデアが思いついたのだろうか。

 

「……要するに「ハイランダーの生徒が護衛」って思われなきゃいいんですね?」

「護衛を付けるのならそうなる。けどどうするのさ、他の学校の制服着ます!は論外だよ?寧ろ外交的にはそっちの方がバレたらまずい」

「それは分かってますって、まあ変装するまでは決定事項なんですけど……」

「うん」

「……一応シャーレも連邦生徒会直轄の組織です、制服とかあると思いませんか?」

「……なるほどね」

 

シャーレが活動開始してからあまり日が経っていないし若干分の悪い賭けになるが……まあ、乗ってみる価値はあるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2日後、アビドス中央線シャーレビル前駅。

 

「どうですミズホ先輩!似合ってますか?」

「まあ似合ってると思うよ。あとはその帽子を外せば完璧だ」

「……やっぱり外さなきゃダメですか」

 

静波号をガラガラのホームに停車し操縦席で先生を待っているとハヤテがノリノリで先日受け取ったシャーレの制服を見せつけてきた。変装という割には帽子はそのままなのが相変わらず少し抜けている。

 

「そりゃそうだ、ちょっと改造してるとはいえそれハイランダーの制服。変装だっていうのなら絶対バレないようにすること」

「お気に入りだったのに……」

「お気に入りと必要かどうかは別問題、それは預かっておくから安心して」

「勝手に被ったりしないでくださいよ?」

「しないっての。というか暇ならさっさと先生迎えに行きな、何番ホームかは伝えたけど着任して間もないんだからきっと迷うでしょ」

「分かりました……あれ、ミズホ先輩も輸送車運転するんですよね?」

「ああ、そこはちゃんと業者から制服を借りてきたから安心してほしい、多分バレないから……君がヘマしなきゃ」

「ヘマってなんですヘマって!?」

「やらないとは言い切れないだろ?ほらわかったら行った行った」

「なんか釈然としません……」

 

少し……いやかなり文句を言いたそうな眼をしながらハヤテは操縦席を出て行った……それほどこの帽子がお気に入りだったんだろうな。せめてもの責任としてこれは従業員車両に戻しておこう、後で。

 

「……にしても随分と快適だな、この椅子……」

 

ハヤテが先生を連れてくるまで暇なのもあるが、ついついこの椅子の座り心地に気を取られて寝そうになってしまう。多分これブランド物の最高級品だよなぁ……こんなところまで金がかかっているとは流石連邦生徒会との提携プロジェクト、本気度合いがいつものキャンペーンだとか何とかより数段上……いや乗組員が使う設備に金を使うのは本気度と言っていいのか?まあいいか。

 

さて、そろそろ時間的に先生を連れてきてくれないとマズいんだが……お、モモトーク?

……よし、どうやら無事に連れてきたようだ。せっかくだしホームで挨拶でもしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが……」

「はい!我らがハイランダーの誇る最新鋭車両「静波号」です!」

「おお……カッコいい……!」

「でしょう!何せこの子はですね……」

 

 ……そろそろ時間も迫ってきているので挨拶だけして出発しようと思ってたらハヤテと先生が二人揃って静波号に目を輝かせていた。やっぱりこの二人どことなくというかかなり波長合ってるんじゃないか?

 

「元は昔頓挫した高速鉄道計画に使われる予定だった子だったらしいんですけど、紆余曲折あって今回ベースとして採用されることになって……私としてもこの子を埃被ったままにしておくのは勿体ないと思ってまして!」

「むしろこんなカッコいいのを眠らせておくつもりだったんだ……」

「あー……ちょっと色々複雑な事情がありまして……」

 

……ダメだ、完全に二人の世界に入り込んでいる。どうにかして引き戻さないとダイヤに乱れが出るぞ。

 

「……あー、二人とも?」

「……謂わばこの子は「夢の超特急」になる筈だった子だったわけです。ちょっと本来の予定とはかけ離れちゃいましたが……これでようやく一緒にキヴォトス中を走り回ることができます!」

「本当に好きなんだね、この列車が」

「はい!これは一目ぼれ、いや運命の」

 

「 二 人 と も ? 」

 

 

「で……あ、あの、ミズホ先輩?顔……怖い、ですよ?」

「そりゃあ怖くもなるよ、後3分くらいで発車しないとダイヤ的にマズいんだからさ」

「……あっ、ほんとだ……ご、ごめんなさい先生!続きはまた車内で!」

「うん、よろしく。ミズホもごめんね、説明の時にああいっておきながら早速ダイヤ乱しちゃう所だった……」

「今回は本数も少ないアビドスだったからまあいいですけど……これがトリニティとかミレニアムになった瞬間秒単位でダイヤを管理しないとマズくなります。肝に銘じておいてください」

「い、イエスマム!」

「誰が上官ですか……ひとまず3号車から乗ってください、ハヤテが案内してくれるはずです。というわけでよろしく」

「はい!……あれ、私の帽子は?」

「従業員用車両のロッカーに置いといた。仕事が終わったら取りに戻るといい」

「ありがとうございます!さ、行きましょう先生!」

「うん、案内よろしく」

「はい!乗り込んだら改めて……」

 

うーん、仲が良い分には別に構わないんだが二人して変なのに気を取られたり騙されたりしそうでやっぱり不安が残るな。移動中に少し喝でも入れ……いや、運転士は私だ。他の乗務員に頼むわけにもいかないし……

……不安だ、そこはかとなくというレベルではなくやらかしたらどうしようレベルで不安だ……

まあそれはそれとして。今はS⁴としての業務を遂行しなければならない、切り替えは大事だ。

 

「信号確認よし、動作確認よし、安全確認よし……出発進行」

 

いつものように流れ作業で各種確認を済ませマスコンをフルスロットル。特に劇的な何かがあるわけでもなく、静波号は静かに初運行を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばアビドスってどんな場所なんだろう」

「え、全く知らずに仕事引き受けたんですか!?」

「いやぁだって困ってるなんて言われちゃあね……」

「……随分とお人よしなんですね、先生は。じゃあそんな先生のために私が少し説明と解説をしてあげましょう……ほぼ先輩からの又聞きですけど」

「それ言っちゃっていいやつ?」

「下手に隠して何でも知ってる人って思われても困りますから……」

 

 この先生という人は義理人情家……というよりは困っている人を放っておけないタチらしい、それが出会ってから数日時点での私の感想。

超法規的機関の長ということもあって最初はおっかなびっくりで対応してたけど……話してみるとこれがなかなかどうして面白い人で、趣味も合うし好みも合う、最初の怖そうな人だったどうしようって不安もどこへやら、結果的にこの数日ですっかり仲良くなってしまった。プロジェクトの為……ってのも勿論あるけど、この人とは個人的に交友を持っておきたいなーっていうのは本当だし、これからも良い関係で居たいものだと思う。

まあそれはそれとしてまだまだキヴォトスの地理とか文化に関しては結構疎いのでこうして説明をしてあげる必要がある訳なんだけど。

 

「コホン、では改めて説明しましょうか。先生はコーヒー片手にでも聞いててください」

「片手にというか座ったら勝手に出てきた気もするけど……しかも缶コーヒー」

「先輩の差し入れの余りです。あ、在庫処分じゃありませんよ?こんなに早く申請が来ると思ってなくて食材の準備が……」

「ああ……なんかごめん」

「先生が特に不満を持たれてないようなら何よりです。それではアビドス自治区について……」

 

 

……さっき先生に言った通りアビドスについての知識はほぼほぼ先輩からの又聞きだけど……なんとかなるよね、うん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「間もなくアビドス中央駅、アビドス中央駅です。先生は降車準備をお願いします……ふぅ」

 

 駅という駅を無視してノンストップで線路を駆け抜ける何気に初めてな体験もそろそろ終わりだ。危うく忘れるところだったアナウンスを急いで終え、停車の為に徐々に速度を落としていく。なんだかんだ260km/hも中々の速さだ。実際には220km/hくらいだろうけど途中停車がないせいで車で高速道路を走っている感覚、成程車好きが感じているのはこういう感触なのかと勝手に一人納得してしまった。一応車の免許は持ってるし今度一人高速でも走って……いやぁ流石にダメか。どう考えてもヴァルキューレのお世話になる未来しか見えない。

 

「……ふぅ、停車完了。やっぱりこいつの反応速度は手に馴染む」

 

特にギリギリだとかブレーキが利かないだとかそういうアニメとかでありがちなハプニングもなく静波号は無事アビドス中央駅に停車した。此処からは先生とハヤテは歩きだし見送りの挨拶くらいはしておくか。

 

「あ、ミズホ先輩!ここまでの運転お疲れ様です!」

「ハヤテもお疲れ様……いや、長距離移動は旅客列車で慣れてるだろうしお疲れ様ってほどでもないかな?」

「いやぁこんなに途中停車しないのも初めてなんでちょっと疲れたかもしれません……」

「なら改めてお疲れ様。先生の方も何かあったら言ってね、次回の参考にするから」

「椅子がふわふわ過ぎてずっと快適だった……」

「私も座らせてもらいましたけど凄かったですよ!今度ミズホ先輩もどうですか?」

 

なにやってんだこの後輩。

 

「……あのねぇ、流石に客席に座るのはダメでしょ」

「えっ」

「まあまあ……私が良かったらどうぞってやっただけだし多めに見てくれないかな?」

「……はぁ、まあ今回は見なかったことにできますけど先生も公私の区別ははっきり付けてくださいね?公私混同されてシャーレの権力を使われちゃ僕たちも困りますから」

「それは勿論気を付けるよ。今も、これからも」

「じゃあハヤテに椅子を譲らないでください」

「あはは……」

 

あははじゃないが。

 

「……それじゃあ僕たちはこれから物資の積み替え作業に入る。二人は先にアビドス高校へ行ってくれ」

「はい!しっかりナビゲーションしますので安心してください!」

「おお、心強い」

「一応言っておくけど道に迷わないようにね」

「何をどうしたらマップのナビ付で迷うっていうんです!?」

「電池切れとか」

「それは……ないとは言い切れませんね」

「冗談のつもりだったんだけど……」

「え」

「……はあ、もしダメそうだったらこっちに電話してくれ、対応するから」

「わ、わかりました……では行きましょう先生!」

「うん、任せたよハヤテ」

 

そこはかとなく不安な雰囲気を纏って先生とハヤテは一足先にアビドス高校へと向かった。流石に道に迷うなんてことはないはずだけど……保険でもかけておいた方がよかったのだろうか?まあいいや、過ぎたことを気にしても今はしょうがない、さっさと弾薬とかを積み替えて車を出そう。着替えるのも忘れずに。

……あ、ハヤテにネフティスの御令嬢の詳細話すの忘れてた。まあ最初から自分がハイランダーなんてしゃべる訳ないし大丈夫か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「り、リーダー!」

「どうしたの?そろそろ積み替えも着替えも終わるし車を出そうと思うんだけど」

「そ、それが……」

「とりあえず勿体ぶらなくていいから話してくれ、報告は迅速にね。それで?」

「……大変言いにくいことなんですが……」

「だから勿体ぶらなくていいっての、何?」

「……せ、先生とサブリーダーのGPSが途切れました……電話も応答ありません……どうしましょう……」

「……なんて?」

 

どうしてこうなった。

 




『加古川ミズホ』
ハイランダー鉄道学園2年生、CCC所属。現場からの叩き上げで運転士としての腕前はピカイチ。その技術を見込まれてS⁴のリーダーに抜擢された、本人曰く「責任の押し付け」。
あまり何かに打ち込むこともないしかといってサボることもないよくある性格、振られた仕事はとりあえずこなすタイプ。常に余裕があるのでもしもの事態にはわりと強い。
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