可愛ければ変則的でも好きになってくれますか?   作:不名誉

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えー、お久しぶりです。

忙しい中で色々考えてはいたものの中々納得できるような展開が思い付かず、書いては消してを繰り返していたら気付けば3月25日。約4ヶ月ぶりの更新ですね。気が狂う…ッ!

まふゆを書くのは難しいですね。もっと良い展開がある筈だと思いつつも、私の貧相な想像力ではこれが限界でした。本文も5,000文字いかないし、夢に出てくるくらいには悩まされました…。





戦慄の朝比奈まふゆ

 

 

 

 もしもの話。

 もしもあの時、あの場所で、あの選択を。人はそんな()()()()()()()()()()()()()を想像する。

 

 でも、私はその「もしも」を考えない。積み重なった幾つもの選択の上に成り立った今が、とても幸せだから。

 

 「もしもあなたが居なかったら」なんて想像、虚し過ぎるから。

 

 

 

 

 

 

「…ぅう、ん…?」

 

 ぷかぷかと海に揺蕩うような、ボンヤリとしていた意識が少しずつ醒めていく。

 

 酷く痛む頭。波打つ視界。苛む耳鳴り。不調という不調をコンプリートしそうな勢いの重怠さを訴えかける身体に鞭打って寝返りをし、やけに重たい瞼を開いた。

 

「おはよう」

「……おはよう、ございます」

 

 此方を見つめる、吸い込まれそうな紫目とバッチリ目が合う。綺麗に手入れされている紫髪の尾が鼻に触れ、仄かに甘い匂いが鼻腔を擽る。空は全て彼女の上下が反転した美貌で隠れていた。

 

 彼女が──朝比奈まふゆが極めて自然に起き抜けの挨拶をするから、ぎこちないながらも返答する。おはようなんて言い合って、当たり前のような温かさを享受する。

 そして思い出す。俺は確か帰りの電車でまふゆに遭遇し強く手を引かれ、それから……。はたとそこで記憶が途切れている。そこから先は何も思い出せない。

 

 まずは状況の確認。寝起きで上手く回らない頭で辛うじてするべきことを考えついた。

 

「俺、寝てたのか」

「うん。急に気絶するように眠り始めちゃって。放置しておくなんてできないから、セカイに連れて来た。…ほんとにビックリした」

「ご迷惑をお掛けしました」

 

 

 ここは『誰もいないセカイ』。

 

 朝比奈まふゆを取り巻く環境、背景、及びそれに準ずる想いによって形作られた現実とは異なる空間。全体的に暗い雰囲気のセカイ。言ってしまえばまふゆの心象風景を具現化した場所だ。まふゆは謂わば、このセカイの親であり主である。だからここに入れるのはまふゆが許可した人物のみだ。

 現実からこのセカイに干渉するのは難しい。詰まる所、外界からシャットアウトされた安全地帯とも言えるワケだ。俺はそんな場所でスヤスヤと呑気に寝ていたということである。

 

 マジに申し訳ない。気絶してしまった俺を運ぶのは骨が折れたろう。底知れない恐怖を感じただろう。親しい仲の人間が突然気絶したように眠り始めるんだから。誰だって恐怖を感じる、俺だって感じる。

 

 支えてやりたいだなんて考えながら、自分から心配事の種を蒔くなんて恥以外の何ものでもない。それ以上に無力感や悔しさが頭を苛んでいる。

 今すぐにでも土下座して謝りたい。もうマジに土の中に埋まるくらいに頭を下げたい。そのまま裏側へと消えてしまいたい。

 

 …うむ。自責の念に駆られるのはもう少し後でもいいだろう。今は置かれている状況を知るのが先決だある。俺が枕にしているこの柔い感触の正体についてとか、ね。

 

「一応聞くけど、後頭部から伝わるこの絶妙な感触は…クッションだよな?」

「ううん、私の膝。加減はどう?」

「……柔らかい」

「なら良かった」

 

 なんということでしょう。この不肖夕凪柚、畏れ多くもまふゆサマの膝を枕にして眠りこけていたのだ。罰当たりにも程がある。

 

「クッションは、ミクとリンが使ってるから。かと言って硬い地面に寝かせるのは悪いでしょ」

「だからって何も膝を枕にしないでも」

「でも、こうした方が喜ぶって。ルカが」

「男の子の夢でしょう?」

「余計なこと吹き込みやがってんな」

 

 ふふふ、と上品なような愉悦が混じったような笑い声が聞こえてくる。面と向かって文句を言ってやりたいが、それには寝返りを打つ必要がある。まふゆの膝の上で、だ。スカートの布越しとは言え色々と意識してしまいそうで嫌だ。

 

 ()()()()()()()はこういうところがあるから油断ならない。ただ只管に面白くなりそうな選択をする。膝枕の提案だって、迷惑をかけたくない気持ちと膝枕に憧れる気持ちが同居しているところに付け込んで、葛藤している様を外野から揶揄うためのものに違いない。

 

 …すっかり受け入れてしまっていたが、セカイには何故かルカさんやミクやリンやら、バーチャルシンガーと呼ばれる非実在の筈の奴らが生えてくるという不思議すぎる現象が起きる。しかもセカイにも色々あって、その数だけバーチャルシンガーも存在するらしい。この『誰もいないセカイ』に居るバーチャルシンガーたちもこのセカイ特別仕様になっているらしい。

 

 なんでだろうね。

 

「それに、絵名と手を繋いでたくらいなら、膝枕したって別に良いでしょ」

 

 不貞腐れたようにそう言うまふゆ。そう言えば絵名とパンケーキ食った帰りに捕まったんだっけか、なんてことを今更思い出す。

 

 てゆーか嫉妬してくれてんのかな。そんな表情してくれるってことは。なんか嬉しいような恥ずかしいような。

 

「………」

「あ、だめ。無言で起きあがろうとしちゃ」

「じゃあ許可取るわ。起きても良いかい?」

「受け入れられない、ね」

「どうしろってんねん」

 

 考えが早く回りだすにつれて恥ずかしさが込み上げてくる。寝起き特有の不快感も薄まってきたために、羞恥心から逃れようと起きあがるが、それにまふゆは待ったを掛けた。

 

 折角の膝枕を堪能したいという気持ちも無いとは言い切れない。でもそれは、まふゆに少なく無い負担を掛けることになる。そうまでして膝枕をして欲しいとは思えないのだ。

 そう説明してもまふゆは納得せず膝枕をやめない。半ば押さえつける形で起き上がらせようとしてくれない。

 

「30分もしないうちに起きた。もうちょっと寝たって罰は当たらないから」

「自分の部屋のベットで寝るよ」

「信用ならない。寝る間も惜しんで作業してるってKAITOから聞いてる。この五日間くらい寝てないことも」

「何言っちゃってくれてんだよKAITOさん…」

 

 黙っといてくれ、って男と男の約束だったのにメチャクチャ破られてる…。まあこのセカイのKAITOさんはまふゆ優先だからね仕方ないね。

 

 

 一つのことに集中し出すと他のことが疎かになってしまう。作業し始めると色々試したいことができて終わりが見えないなんてこともある。

 自分にできることは全てやっておきたい性分なんでね。俺は平々凡々だから誰よりも頑張らなきゃいけないし、妥協はしたくない。

 

 安定なんて無いのが音楽の世界だ。「もしも何々だったら違った」「もっと時間があれば良いのができた」なんて言い訳が通じない。

 突然理不尽が襲ってきて心が折れ掛けることだってある。だからこそ俺が取り除ける苦痛はできるだけ取り除きたいし、自然に分かる苦難は避けられるように道を舗装しておきたい。

 

 故に妥協は許されない。

 

 断っておくが、俺はそれを自己犠牲だなんて思ったことはない。奉仕だとか代償だとか酔いしれることもない。全てが必要なことであり俺にとっての幸せなのだ。結局のところ自分の幸せになるから頑張れる。

 

 だから俺の幸せを止めないでくれ、というのが本心である。勿論まふゆを気遣う気持ちも嘘ではないが。

 

「関係ない。ここで寝て」

 

 上記のような言い訳をつらつら並べ立ててどうにか抜け出そうとしたが、関係ないの言葉で一蹴されてしまった。有無を言わさない威圧感がある。

 

 こうなったまふゆは頑固だ。そう簡単に俺を離そうとはしないだろうし、ここにいるバーチャルシンガー全員彼女の意思に従い動き、俺の身柄を取り抑えようとするに決まっている。加えてここはまふゆの心象風景と言っても差し支えない場所なので、抜け出せないようにすることもできなくはないだろう。

 

 結論、詰みである。対戦ありがとうございました。

 

「…分かった。寝はするけど膝枕はしてくれなくてもいいぞ」

「なに、私の膝は不満?」

「ちげーよ。しんどいだろ」

 

 しんどくないとは言わせない。子どもの頃に飼っていたトイプードルが膝で丸まる冬の頃、十数分で足が痺れて暫くの間動かせなかった記憶がある。

 

 人に迷惑掛けてまで俺は寝られない。そう遠回しに言ったのだが、まふゆは頑として膝枕をやめない。

 

「私は色んなものを柚から貰ってきた。だから、少しずつでも良いから返していきたい。柚の為になりたい」

「それは違う。俺の方がずっと、何にも代え難いものを貰ってばかりで…」

「それに、柚の髪を撫でながら、寝顔を見つめながら過ごしたい気分。私が柚に膝枕をしてあげたい。…それでも、だめ?」

「……だめじゃないです」

 

 表情が変わらないままこてんと首を傾げる仕草に胸が締め付けられる。不覚にもときめいてしまいそうになった。

 

 深く息を吐いて早く脈打つ心臓を落ち着かせる。それと同時にまた疲れが襲ってきて身体が重力に負けそうになるほど力が抜けていく。視界がボンヤリとし始めて瞼が途轍もなく重くなった。

 

 この身体は自分が思っているよりもずっと疲れていたらしい。

 

「…おやすみなさい」

 

 ゆっくり、ゆっくりと、意識が眠りの深海へ沈んでいく。身体の芯から溶けてしまいそうな声を最後に、セカイが暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局ちょっとしか寝てない…」

「そう不貞腐れんなって。ベッドで横になるよりよく眠れたから」

 

 家のベッドで寝ても細かく起きて寝た気になれないので、30分程度とは言えぐっすり眠れたので気分が良い。身体も見違えるような身軽さだ。

 まふゆはまだ納得できないと頬を膨らませているが。本当に、ここ一年間で最も質の良い睡眠だったと言える。

 

「帰ってから作業はせずにちゃんと寝ること、ご飯はちゃんと食べること、今月中には私とも出かけること…」

「分かった、分かった。約束な」

「うん、私とあなたとの約束」

 

 過保護かと突っ込みたくなるようなことばかりを言う。こういう所を見ると、まふゆにもちゃんと温かな心があるんだと感じられて、嬉しさが込み上げてくる。

 

 その後も色々と条件をつけてくるまふゆ。心配性な、独占欲強めな女の子と付き合うのってこんな感じなのかも、なんて的外れなことを考えながら空返事をする。

 

「じゃあ、また…明日か?」

「うん。会いに行く。……そう、それと…」

 

 セカイから去ろうとしていた俺を、何かを思い出したかのような表情をしたまふゆの瞳が捉える。

 何か言い残したことでもあるのだろうか。スマートフォンに落としかけていた視線を彼女の方へ向ける。

 

 白魚のようにしなやかで華奢な指で頬を絡め取り、彼女の息を呑むように美麗な(かんばせ)が鼻先が触れ合う距離にまで近づいたかと思えば。

 

 

 

 そっと頬に口付けを落とした。

 

 

 

「好き。柚のこと、ずっと前から」

 

「瑞希と不思議な関係で、奏に弱いところを見せて、絵名と手を繋いで、私と秘密の逢瀬をする。そんな浮気な(ひと)が」

 

 

 

 

 気付いたら家に居た。その過程は覚えていない。まふゆからの唐突の告白に戦慄し、半ば放心したまま帰巣本能に従い帰ってきた。

 

 情報の渋滞に混濁していく頭。

 どうしてこの状況で、とか。一番底の知れない奴が真正面から勝負してくるなんて、とか。面と向かって好きだと言ってくる奴があんな回りくどいことしないよな、とか。頑張って頭を働かせている中で。

 

「…柔らかかったな」

 

 頬に残った彼女の唇の感触だけは、鮮明に残っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「心からの言葉だけど、ヒントにもなってる。頭の回る柚はきっとそれに気付いてくれる。心強い仲間、だね」

 

「けど。今のこの状況がレースとするなら、私が最も抜きん出てるんじゃないかな。私自身そう思う」

 

「献身的で、直線的で、真っ向から勝負する。それが私。素直になれない皆んなとは違ってより印象に焼きつく。それが私。ミステリアスな(ひと)が実は頼りになる。それが私」

 

 

「それってとても変則的でしょう?」

 

 

 

 

 

 





これが私の、「変則的な朝比奈まふゆ」の結論です。

・朝比奈まふゆ
どんなに闇深そうにしても変則的じゃないので、逆に真正面からアタックするガン攻めまふゆになった。正しく変則的…な筈。

・夕凪柚
漸く一歩前進した浮気野郎。次回辺りに掘り下げ予定。


もしも司くんがガチの役者気質だったらという小説の最新話を三月中に投稿する予定です。良かったら読んでいってください。


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