可愛ければ変則的でも好きになってくれますか?   作:不名誉

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ぽ ガッ

ちなみにタイトルはドイツ語。


ぬる

 

 

 

 

 

『“探しに行こう”って歌詞あるじゃん。あんまり好きになれなくてさ〜』

 

 

 ナイトコードに集まって作業をしている中、何の前触れもなく唐突に瑞希──Amiaがそう口火を切った。それに対して俺は特に言葉を返す訳でもなく、唐突に話のタネが湧いて出てきたことを無感動に受け入れていた。

 

 しかしその呟きにも似たソレを拾う者が居た。非常に珍しいことに、口数が多いとはお世辞にも言えない作詞担当、雪だった。

 

『…詳しく聞かせてくれる?』

『お、珍しく乗り気だね〜?それでは聞かせてしんぜよう』

『うざ』

『あれ?なんか悪口言われた?』

『気のせい』

『気のせいでしょ』

「気のせいだろ」

『そっかあ』

 

 聴力検査で流される音に匹敵する小ささの悪態が雪の口から放たれた。Amiaがそれに対して曖昧に言及するも雪、えななん、俺ことcitrusが否定の言葉を入れる。Amiaは納得していない様子ではあるものの3対1は流石に分が悪いため大人しく引き下がる。

 

 態とらしく咳払いを入れて脱線気味だった流れを元に戻す。講義を行う教授のように苦手意識のある歌詞についての講釈を垂れ流し始めた。

 

『別に“探しに行こう”って歌詞を使うのに否定的って訳でもないんだ。手を引いて元気づけてくれるみたいで、それはそれで良いんだよね』

『アンタ言ってること支離滅裂じゃない』

『そう急がないでよえななん。ボクが言いたいのはねえ、探しに行った()をもっと掘り下げて欲しいってことなんだよ』

 

 あー…そういう。確かに「一緒に探しに行こうぜ!」って言ったはいいものの、そのまま放置なんてことザラにある。よく考えれば確かに後のことを疑問に感じる。そう考えると、Amiaの好きになれない理由もなんとなく分かる気がする。

 

『何を、何処へ探しに行くのか。探しても見つからなかった時はどうするのか。見つけたとしてそこからどうなるのか?感動的な曲に冷水をかける疑問だったとしてもボクはその先の話が聞きたい』

『ふーん。確かに言われてみればそうね。どうしてそういう先を見せる歌詞が少ないのかしら』

 

 力説するAmiaに同調して、次いでえななんが新たな疑問を提示する。探しに行った先を聞きたい人だって沢山居るだろうに、何故それを歌詞に盛り込もうとしないのか。

 

 語感が悪いだとか、指摘する人が居ないだとか。Amiaとえななんが意見を出して、偶に雪が口を挟む。そんな風にして様々な推測がナイトコードを飛び交う。割と白熱する議論を作業用のBGMにしながら、譜面を作成したり楽器の構成を決めたりしていく。

 

 

 色々な音をアレンジしたり、エフェクトを付けたり。産みの苦しみには届かないだろうが編曲もまた大切な楽曲作成のプロセスだ。重要なことはそれぞれの音が担っている役割を理解すること。合わない役回りをさせると途端に不協和音になって耳障りになってしまう。

 

 良くも悪くもバランサーたる存在が編曲担当だ。遊び心は作曲段階に隠し味程度に入れるから良いのであって、俺の()じゃない。

 

『ここは一旦黙ってる2人にも意見を仰いでみよう』

『そうね、ってことでcitrus。意見ちょうだい』

「…えーっと、悪い。全然話聞いてなかった」

 

 唐突に話を振られたもので頭が真っ白になってしまった。作業に集中していたもので話の流れが分からずなんと言うべき言葉が見つからない。

 

 溜め息混じりに教えて貰う。先程の“探しに行こう”という歌詞が云々についての議論を交わすも納得のいく結論が出ず、黙々と作業していた俺やKからの意見を求めているとのこと。で、先手に選ばれたのは俺でしたと。

 

『音を作る人間としてはそこんとこどうなのよ?』

「そうだな…。それこそAmiaの言ってた冷水ってのは的を射た表現なんじゃねえかと思う」

『と、言うと…どゆこと?』

「んー…言い方が難しい。前提として、これはこういった疑問を抱く人を貶している訳じゃないってのを頭に入れといてだな」

 

 そう一応断りを入れておいてから自分の考えを話し出した。

 

 

「色んなこと経験する内に効率と結果を求めるようになるだろ?探しに行った先を求めてしまうのは多分、効率と結果の探求の延長線上にあって…。人の心に染み渡る音楽を作っているのに、それを求めるのは純粋な心で音楽と向き合っていなんじゃないかって不安になるんじゃないか?」

『ふむん?分かるような分からないような』

「俺も何言ってんのか分からなくなってきた」

 

 どうやって表現すれば良いんだろうか。自分の中で答えは出ているんだが言葉にしようとすると途端にぎこちなくなる。結局俺って何が言いたいんだっけ…。

 

『好きな音楽に効率や結果を求めちゃうと嫌になってしまいそう…ってこと?』

「それだ。流石いい表現力」

『成程、そゆこと?頑張って作った好きな音楽にサイテーなマジレスしてる気分になるみたいなコトね』

「いい纏め方だえななん。言葉の切れ味がスゴいのは置いといて」

 

 歯の間に挟まった肉の筋や野菜の皮が採れた時のようなスカッとした爽快感。自分では限界があることだってフォローしてくれる。まったく、ニーゴは最高だぜ!

 

 割と自信のあった考察だったがウケはイマイチだ。全く分からないことはないが納得のいく答えかどうかと尋ねられれば首を捻る。そんな雰囲気がナイトコードに流れる。

 

『結構良い線行ってるとは思うけど、柚が言うと“コレじゃない感”が強いわね』

『分かるー』

 

 とか言われる始末。かなり真面目に考えたのにこんな扱いとか泣いても許されるんじゃねえかな。

 

 

『それじゃあ本命の意見を聞こっか。Kはどう思う?』

『…citrusと殆ど同じ』

『ならこの意見がニーゴの総意ということで?』

『いいんじゃない』

『異議なし』

「この扱いの差はなんだテメーらオイ」

 

 

 言うに事欠いて俺の意見を前座扱い!?その上Kが「右に同じく」と発言しやがったら掌返しやがって…ッ!こんなの許せねえよなあ?

 

 キレ気味にツッコミを返すと三者三様ならぬ四者四様…それぞれ違いつつも調和の取れた笑い声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 これは俺がパンティー付きラブレターを貰う数ヶ月前の会話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瑞希からのお兄ちゃん呼びを限定的に受け入れたその日も、【25時、ナイトコードで。】は活動する。ぐっすりと眠りこけてやると言ったな。アレは嘘だ。

 ナイトコードに集まる日はできる限り欠席しないようにしているので、エナジードリンクを片手にPCと睨み合うこととなった。ブルーライトカットの眼鏡を装着するのも忘れない。

 

 しかし、メンバーに瑞希との余り良くない関係についてバレないものかと非常に焦ったが…つい数時間前まで猫撫で声で俺のことを「お兄ちゃん大好きだにゃん♡(意訳)」とか言っていたとは思えない程に“いつもの瑞希”がそこに居た。俺との会話になるとほんの少しだけ声のトーンが高くなったような気がするだけ。

 

 演技に造詣があると言われても驚かないほどの名演に戦慄した。瑞希の心配をしている暇があったら、俺自身ボロが出ないように心掛けた方が良いのではないかと思った。隠し事したり嘘をついたりするのは余り好きではない俺は、いつか自分からゲロっちまいそうだから尚更だ。

 

 

 さて。逆に怖くなってしまうほどいつも通りに作業をして、そのまま流れで解散となった訳だが。ナイトコードを閉じた後に個別のチャットにて連絡を取りたいと言われたので、今度はまた別のアプリケーションで通話を繋ぐ。

 

 解散したというのに皆んなに秘密で2人きりでまた集まる。その事に別に問題なんてない筈なのに、言い知れぬ背徳感のようなものが背筋を撫でるのは何故だろう。我々はその謎を解き明かすためにアマゾンの奥地へ向かった…。

 

 入室するためのコードを入力してEnterを押す。ポロン、という音がPCから流れる。トークルームに入った時の音だ。俺を個別チャットへと誘った奴が部屋を作って待機していた。

 

「態々呼び出してまで何の用だ、奏?」

『待ってたよ、柚』

 

 無機質なアイコンが2つ並ぶ。呼び出した張本人たる宵崎奏は抑揚のない声で迎えた。

 

 時刻は深夜を回り、空も若干青白くなる頃。今日もあと3時間後くらいには学校へ向かわなければならないのでさっさと仮眠を取りたいが、やはりこの夕凪柚は一方的であっても頼まれれば断れない男。文句を垂れながらも俺たちは個チャで話をしながら朝を迎える訳だ。

 

 

 しかし解散後の召集にも慣れたものだ。この場合は慣れさせられたと言った方が正しいか。

 “作曲組”だなんて外野の呼び名の通り、俺と奏は下地であるコードの進行等を考えるのが主だった役割。コードを組み立てるにあたり使うべき楽器の種類であったり、納得のいかないアレンジ部分だったりを、個別のチャットで話し合っている訳だ。

 

 皆んなが居るナイトコードではなく個別のチャットで意見を投げ合っている理由としては、他のメンバーの妨げになってしまう可能性があるから。

 

 曲を作る身としては柔軟な思考を持つべきなのだろうが、作り上げた物に対する自信なんかもある訳で。そこら辺のデリケートな部分を指摘し合うとなるとやはり、互いにヒートアップしてしまうこともしばしばある。

 そうなった場合に其々の作業に集中している他のメンバーの邪魔をしたくない。アイツらなら「気にしなくていい」と言ってくれそうだが、俺たちが気にする。そんな俺と奏のそんな思惑は一致して、互いに言いたい内容があれば個別チャットへ召集をかけるようにしている。

 

 他のメンバーにはこのことについて話していない。一度解散の温度を取っている関係上、再度集まっているところを勘付かれるのは格好が付かないからだ。

 

 

『…声が眠たそう』

「いや、まあ眠てーけど…そんな事まで分かんの?」

『今日はいつもよりちょっと分かりやすいよ』

「マジでか。ちょっと疲れが声にも出てきてんのかな」

 

 隠し事や嘘をつくのが好きではないと言ったが苦手ではない。極力バレないように立ち回っている筈なんだが、どうしてか奏には即座にバレた。昨日今日と考えることが一気に押し寄せてきたためか、脳が少し疲れて重だるい。そんな微々たる不調が声に滲み出してしまっていたのだろうか。

 

『何か悩み事?聞くことしかできないけど、しんどかったら言って』

「いや、別に何も無い。強いて言うなら晩飯の献立に悩んでっけど」

『…そっか』

 

 十中八九誤魔化されてはくれていないだろう。しかし深く追求はしてこない。そのことに有難いやら申し訳ないやら微妙な気持ちになりつつ、話題を変えるように口を開いた。

 

「まさか近況報告の為に召集かけた訳じゃないだろ。別にそれでも良いけど、なんか言いたいことでもあったんじゃねえの?」

『あ、そうだったね。実はちょっと柚に頼まれて欲しいことがあって』

「頼まれて欲しいこと」

 

 鸚鵡返しにそう言うと肯定が返ってくる。言い方からして作成中の楽曲のことについてでは無さそうだ。一体何を頼まれるのだろうか。しんどい依頼は御免被りたいが余り断ることはしたくない。

 

『明日、学校が終わったら私の家に来て欲しい』

 

 うん。その言い方はちょっと危ないね。ヤラシイ解釈されたって仕方がない言い方だ。もっと危機感を持ってもらわなければ。

 

「それは…家デートのお誘いって解釈で良いか?」

『──えっ』

 

 声しか聞こえないというのに何故だろう。思い切り面食らって言葉に詰まっている姿が見えるようだった。ヘッドフォンを付けて、薄いジャージの姿で、PCの液晶を見て固まっている。自分の勝手な妄想とは思えないほどに解像度の高い情景が思い浮かぶ。

 

 しどろもどろな声が聞こえてきた。次第に尻すぼみになって弱々しくなっていく声に、寝不足気味のせいか自分の中に生まれた小さい嗜虐的な欲求の壺に、水が静かに注がれていく。

 面白いくらいに狼狽える声を聞いて、慌てふためく姿を想像して声を押し殺して笑う。一頻り笑うと若干の罪悪感が生まれた。

 

「悪い、冗談だ。忘れてくれ。…奏?」

でも…柚とならそれで…あ、じょ、冗談だよね。分かってるよ』

「なんか言ってたみたいだけど」

『な、何でもない!何も言ってない!』

 

 何か気に障ったのか、ぷりぷりと怒り出した。怒り慣れていないのか全く怖さを感じない。何か聞こえたので追求してみるも本人が何も言っていないというのであれば、そういうことなのだろう。

 

 

 

 

 とでも言うと思ったか。地獄耳なんで褒め言葉だろうがチクチク言葉だろうがちゃんと聞こえるんですよ。

 

お前の言葉をずっと聞いていたぞ。

本当によく頑張ったな?

 

 深夜テンションでつい言ってしまった揶揄いの言葉だったが、そこまで悪感情を抱いていないらしい。それどころか割と好感触にも見受けられる。安堵と羞恥が混ざり合った感情は寝不足の頭によく効く。

 

 でももう少し危機感を持って発言して欲しい。女が男を家に上げるってもう据え膳だと思われたって致し方ない。

 そりゃあ手を出す勇気も無ければ機会だって無いクソ雑魚ヘタレ野郎な俺は、間違ったって頂くことは無い……あ、知ってる?だから家に上げても問題無い?そう…(傷心)

 

「でもなんだって俺が?異性の俺よか同性の奴を呼んだ方が良いんじゃねえの」

『そうとも限らないよ。柚を呼んだ理由は穂波が明日来れないからなんだ』

「穂波って…ああ、望月さんか。ハウスキーパーのバイトの」

『明日入ってくれる手筈だったから掃除とか洗濯とか全然やってなくて…。気兼ねなく頼れて、一通りの家事を卒なくこなせそうな人が柚しか居ないの』

 

 確かにまあ、そう言われると納得の人選かも知れない。もしくは俺以外の家事スキルがどうなのかを詳しく知らないか。諸々の理由で俺以外は不在の夕凪家をそこそこ綺麗な状態に保って、昼と夜のご飯を作っているのは俺だ。この前家にけしかけて来た記憶を頼りに当たりをつけて俺に頼んでいるのだろう。

 

 頼られて悪い気はしない。たとえ他に自分の頭を悩ます何かがあったとしても、その人の為に何かできることを率先してやりたくなってしまう。

 誰かを救わなければならないと己を呪いながら、その実誰よりも誰かに必要とされたいと願っていた──脆くも儚い少女が俺を頼ってくれている。その事実を認識する度に高揚してしまう俺がいる。

 

 要するに奏に頼られて凄く嬉しい!寝不足とかどうでも良くなっちまうくらいに!モヤモヤとしていた頭がスカッと爽やかになっていくようだぁアハハハッ!

 

「部活に顔出してくから早くは行けない。それでも良いなら行くよ」

『ほんと?ありがとう、助かる』

 

 俺は俺にできることしかしてやれないんだから、存分に頼ってくれよな。寧ろ推奨。

 

 それに奏があのラブレターの差出人か否かを見極めるチャンスにもなるんだから丁度いい。何気なく話を振ってボロを出させる様に仕向ける。手放しで信用してもらっているところ悪いが、アレの差出人を突き止める為には狡猾に探りを入れさせてもらう。

 

 それに…家にお呼ばれされてそのまま「自分があのラブレターを書きました」なんてカミングアウトをされることもあるかも知れない。エロ同人みたいに。家に呼んで逃げ場を無くしてから告白してそのまま繋がる(暗喩)なんて事もあるかも知れない。エロ同人みたいに!

 夢の見過ぎだと言われればそれまでだが、想像するだけ無料(タダ)なんでね。あらゆる事態を想定させてもらうよ。

 

 

「そんじゃまあ、多分5時半には行けるから」

『わかった』

 

 眠気が急に襲ってきて頭と視界がボンヤリとしてくる。流石に少しくらいは寝ておかないとマズいと感じた俺は、テキトーに切り上げて解散しようとする。

 しかし、まだ伝えたい事があったのか待ったを掛けられた。退出の赤いボタンにカーソルを添わせながら、奏の言葉に耳を傾けた。聞き漏らしがあってはいけないと思って踏み止まってしまった。

 

 これがいけなかった。

 

 

『お家デート……楽しみに、

 

 恥ずかしくなったのか、か細い言葉尻になりながらもそう言い切った。言い切って、脱兎の如き速さでチャットルームを出て行った。

 

 

 頭の中に雄大な銀河が広がった俺は数十秒程フリーズする。たっぷりと時間をかけて再起動をすると同時にチェアの背もたれに寄り掛かって天を仰ぐ。無機質な天井のシミを数えながら自然と吐き出された溜息には、万感の想いが込められている。

 

 

 今「楽しみにしてる」って言ったよね?意趣返しだったとしても、デートって言葉に忌避感があればそんなこと言わないよね?そうだよね?

 

 

 混乱で茹ってしまいそうな頭で考える。さっきまでの眠気は何処かへ吹き飛んで行ってしまった。今は目も鼻も頭も全て覚醒させられた。

 

 数学の分布図の点のように、無造作に散らばったまま纏まらない思考で頭がパンクしそうになりながら…辛うじて精一杯の強がりの言葉が出た。

 

 

 

 

 

……うーむ、マズイのォ〜…。

 

 

 

あいつ ワシのこと好きじゃねー?」

 

 

 

 

 

 独りよがりな妄想でも口にしなければ、あのラブレターの差出人を突き止める前に告白して玉砕してしまいそうだ。

 

 

 …玉砕すんのかい。

 

 

 

 




主人公くんを描写するたびにカミキヒカルの亜種みたいになっていく。まあ吉良吉影(4部)と吉良吉影(8部)みたいなもので全然違うんですけど。

主人公くんは作曲できるっちゃできるけど奏にもまふゆにも余裕で負けるレベル。けどその分アレンジがエグいという設定。
奏が変幻自在の一を生み出す天才とするなら、主人公くんは意図を理解して100に昇華させる天才です。そこに他のメンバーも加われば300は行きます。
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