もうさァッ無理だよ畳み方わからないんだからさァッ
マジにどうやって収集付けようか悩みました。
生半可な刺激では興奮し申し上げられない。
いつからだろうか。思い返しても心当たりが無いくらいに
国宝級イケメンだとか称される俳優の人を見ても興味が湧かない。誰かを好きになって心も身体も交わりたいだなんて馬鹿げている。SNSで無造作に流れてくる憧れのシチュエーションとか、どんなファッションがえっち且つ格好良いだとか、微塵も共感できない文字列に目が滑るばかりだった。
少しだけ嫌だったんだ。人並みに恋に恋することができない自分が。「何人たりとも取り零すことなく救う曲」を作りたい人間が、どんどん人としての普通から離れて行っているような気がして。こんな私で良いわけが無いってずっと…自分を責めてた。
そんな私だけど…たった一人。この人となら恋をしてみたいと思える人ができた。誰かのために何かしてあげられる勇気と、誰かのために叱ってあげられる優しさを持っていて。それを自己満足だなんて言って誇ろうともしない。優しくて不器用で、でも何処か等身大な男の子のことをいつの間にか気になってた。
舞い上がっていなかったとは言わないよ。でも、それはただ一人に向けられた期待って訳でもなかったから…。だからこの胸の高鳴りはきっと嘘でも勘違いでもないって思えたんだ。
でも、同時に臆病だった。この想いが一時的なものだとしたら?私自身も気付かないほどに精一杯に嘘で塗り固められたものだとしたら?優しい声を聞く度にそう自問自答しては、微風でも空高く飛んで行く綿毛のような感覚がずっと私の中に「居る」。
明らかに「好き」だって思えるようになった時のこと、今でも思い出せるよ。どうにも思い通りにならなくって自暴自棄っぽくなって…。皆んなが心配してくれたのに放っておいてって、突き放しちゃった時に。優しく諭すように…叱ってくれたこと。
『無理をするなとは言ってない。良いものってのはやっぱり、何処かに無理がなきゃ作れないからな。…して良いがな。勢い余ってお前の事情を押し付けるようなモン作るんじゃないぞ。お前の義務だか呪いだか知らねーが“救わなきゃならない”じゃなくて“救われて欲しい”っつー想いを込めてこそ、音楽ってのは綺麗なんだ。救われることを押し付ける曲なんてつまんねー。…行き詰まったら俺たちを頼れ。心の底からお前のことを思ってる奴が周りに居る。ここにも居る。そこんとこ忘れるなよ』
「何を上から目線に」って思った。でもそれ以上に反論の余地が無かった。音楽っていうのは作った人の心や考え方が伝播していくもの…だから押し付けがましい曲に忌避感を覚える。それに、救われるかどうかを決めるのだって聴いている人自身だし。
それを踏まえて真摯に、細やかに、また一歩を踏み出せるように願うような曲。私が作りたかったのはそういう曲だって思い出させてくれたあの時の言葉をきっと忘れる事はないよ。
「そんなこと言ったっけ…?」
何か言った?
「イエ、ナニモ」
☆
そんな訳で随分と遅めの初恋になった。
恋というのは彩りを与える。少し熱を持った感情が高鳴るだけで世界がこんなに間違って見えるものなんだって吃驚しちゃった。
だけどその遅めの初恋に何の代償も無いなんてことはなく。今まで自分に誰かを好きになる資格なんて無いと抑圧してきた結果として──。
ちょっとばかり性癖が歪んだ。
「ひ、悲痛な言葉だ…」
一体どんな所をどれくらい好きなのか。私は相手に何を求めているのか。好きになったからには真摯に向き合いたい。
そんな風に考えて、考えて、私が好きだと自覚した時のことを振り返って、自問自答を繰り返した末に完成した性癖は──。
厳しく心に突き刺さる言葉で叱って、それでも見捨てずに最後には肯定して甘やかしてくれる私大きくなったらパパと結婚するー❤︎って言われてしょうがないなぁって満更でもない顔しながら困ったように笑う姿が思い浮かぶこと間違いなしの激甘バブみ特濃ボイスを欲しがるようになってしまった。
ただのバブみでは無い…。ド級のバブみ、“ドバブみ”を求めていたの。
今なら分かる。好きな人に精一杯甘やかされたいって気持ちが。私の場合はそこに余りある父性を求めているだけで。ただ小さい頃に戻ったような気持ちになって、身の回りや下の世話もしてもらいながら甘やかされて、時には叱られたい。そんな細やかな希いが──。
「お前きっと疲れてんだよ」
だけどその声や優しさは私だけの物じゃない。そのことが腹立たしいやら誇らしいやら、どっちつかずな気持ちを抱かせる蠱惑的な雰囲気もまた魅力。
夕凪柚、貴方は魔性の男。あらゆる角度から好きを自覚させるガチ恋生成機…或いは劣情の坩堝、情欲生成モンスター。
但し…それは深く関わった人に限る。それなり程度の関わりの異性からは善い人止まりだろうね。*1
詰まるところ柚はメンヘラを生み出し易いって感じかもしれないね。警戒感こそあるもののいつの間にか懐いてて、厳しい言葉を投げ掛けはするものの、そこにはいつも苦しい時はそばに居てくれる優しさがある。かなりタチの悪い男の子なんじゃないかな?
そんな夕凪柚の人物像を表現するならば。ドスケベメンヘラ特攻バブみマシマシポメラニアンと言ったところか…。
余りに面倒臭い女の子に対して大弱点。夕凪柚を野晒しにしておくと危ないと判じた私は迷子の犬を匿うという名目で包囲網を作ろうとした。蛙を悼む大山椒魚みたくなってしまう前に…と考えたが必要ないという結論に至った。
そんなもの作るまでもなくニーゴは夕凪柚という人間を離そうとはしない。私たちの音楽には柚の力が必要不可欠であり、全員が柚に対してどこか変則的な形で想いの矢印を向けているということが分かったからね。恋する乙女のセンサー的な何かで。
「えっ」
☆
今まで語ってきたことは然程重要じゃない。身の回りのことについて鈍感過ぎる
問題はここからで…。初恋の人に面と向かってドバブみを求めてるなんて啖呵を切れる訳はなく。今の今まで必死に音声を拾っては切り貼りしてを繰り返し、ボイスロイド夕凪柚に色んな台詞を喋らせてきた訳だけど…。
本人の許可無しに声を弄ってることを秘密にして思う存分楽しむことなんてできない。否定されたって筋を通さなきゃならないとずっと考えてた。
だから今日は家に呼んだ。この秘密を打ち明ける為に。
穂波が用事で来れなくなったって言ったよね。実は嘘なんだ。給金は払うからオフにしてくれて良いって言ったんだ。穂波は戸惑いながらも少し嬉しそうに了承してくれた。柚を呼ぶ口実にしたなんて口が裂けても言えないね。
覚悟を決めたつもりでも、やっぱり正直に言って嫌われたくないとは思っちゃう。打ち明ける決意が揺らいでいるところで、柚は家族の事情について話してくれた。
だからね。柚が勇気を出してくれたのに私だけが足踏みしてる訳には行かないと思って、この癖を打ち明けた。
凄く困惑してたよね。キリッとした顔立ちなのにとても可愛いらしい表情で首を傾げるんだから興奮しゲフンゲフン。
でも、柚は終ぞ否定しなかった。あまつさえ理解しようとする姿勢すら向けてくれる。それはまるで無知シチュエーションで致す時のようで──。
夕凪柚…なんてすけべ!
そんな柚の姿勢にどうしようもなくエロスを感じてしまった。病的なまでに好意と劣情が入り混じっている。でも、これが今の私の心の底から出たホンネ。伝えたかったこと。寧ろ隠す方が柚に対しては不義理だと思ったから、恥ずかしいし怖かったけど勢いのまま言った方が良いって判断した。
だから全部、全部…。言っておけば良かったって後悔しちゃう前に、全部言うよ。それで嫌われちゃったら元も子もないかも知れないけど…ずっと隠しているなんて無理だから今、この場で全部。
柚。貴方のパパみ溢れる声を目一杯聞かせて。明日に行けるように。傷を呪ってばかりじゃなく、振り返らず前を向けるように…!
………。
……。
…。
「──つまり奏にオカズを提供すれば良いということだな」
ん?
☆
「投げ出したい時も、逃げ出したい時もあるよな。…でも、奏は向き合い続けたからここに居る。とっても誇らしいぞ奏。良い子だぞ奏。よーしよしよし」
「あぇっ、ふぇへへ…」
「あーあ。そんな粗相しちゃダメだろう、奏?愛想を尽かすことなんて無いけどあんまり目に余ることをするようなら、ちょっと厳しく叱らなきゃいけないからな?」
「ごめんなさいパパぁ…嫌いにならないでぇ…」
「こんな大きな娘は知らない,姪は居るけど*2」
「過去を振り返ったって虚しいだけだって言うけれど…。逆に虚しさを見つめるからこそ人の痛みや苦しみに寄り添えると思うんだ。だから奏も過去を呪うだけではなく、振り返って教訓や優しさを得るんだよ」
「はぁい!パパがちゅーしてくれたらもっと頑張れるかも!」
「調子乗ってんちゃうぞ」
「ごっ…ごめんにゃふぁい…♡」
「今日は遊び疲れちゃったよね。良い子の奏はぐっすり眠れるかな?ほら、ねーんね。ね〜んね」
「ぉ゛ぎっ…ぎゃっ……ば…*3」
夢*4を見ていた。
怖い顔をした大人が私を散々に責め立てる夢。呪われた忌み子だとか、絵合わせであぶれた存在だとか。蹲る私を囲んで好き勝手に罵詈雑言を吐き続けてくる。
周りの人も好き勝手に言う。「可哀想だと思ってはいけません」「何と醜くか弱い子だ」「その姿だって美しい」。なんて都合のいい道徳心だろうか。誰も救ってくれないクセに。救われたいとも思えないけど。
どんな言葉も理解は出来こそすれど、本当に聞き入れる事なんて無い。だって、私が一番知っているから。私が悪い子だってこと、誰よりも私が。
許されない。愛していた父に対して、私の音楽が牙を剥いた。誰よりも愛していて、幸せになってほしいと願った人をあんな風にした私に、救われる資格なんて無いって、ずっと閉じ籠っていた。
私を一番嫌いだったのは、一番許せなかったのは、一番不幸になってしまえと思っていたのは他でもない私だった。
途端、泣いてばかりいた私の手が誰かに引かれる。暖かい手だ。久しく感じていなかった包容力のある温もり。
怒っている。笑っている。泣いている。どんな風にも見て取れる複雑な表情だ。けど、どれも全部嘘ではない。全部引っくるめて…優しい顔をしていた。
ここから飛び立とう。夢の淵で踊ろうと言って誘い出してくれた。
明るい光の方に誘われていく。私なんかがそこに居て良いのか不安に思って躊躇って、怖くなって振り解く。それでもまた私が歩き出すまでそばに居てくれる。寄り添ってくれる。
その一挙手一投足のみならず、頭の先から目に見えない心の所まで全部好きだと思えるのにそう時間は要らない。羽が生えるような喜びが私を包んだ。
柚。夕凪柚。名前を呼ぶだけで満たされる。
今なら言える。心の底から。
どうやら私たちは──“
☆
「俺は一体何をしていたんだ?」
幸せそうに眠る奏をベッドに運んでやり、溜息を吐く。一人静かな場所でつい先程までのことを振り返ってみると心の底から不思議な感覚に包まれる。まるで白昼夢でも見せられていたような気もすれば、自分じゃない自分が居たような気もする。
一度冷静になって考えてみると恥ずかしくなってきた。最初は本当に渋々と言った感じで慣れないことをやっていた筈なのに、いつの間にか調子に乗って好き勝手やっていた気がする。
なんと言うか…降りてきていたんだ。色んな感情がぐちゃぐちゃに混ざって限界点に達してしまいそうな彼女を、あらん限りの優しさを以って甘やかさねばならないという謎の電波を受信していた。
もしかすると、奏のお父さんの意識が乗り移っていたのかもしれん。愛し合って生まれた我が子は言ってしまえば自分の分身みたいなものに思えるだろうし、大事に思わない親は居ない…筈。彼の心残りが宙を揺蕩って俺の中に降りてきたのだろう。
そうでも思わないとやってられない。“使命感だかなんだかに駆られてやった”という体裁を保たなければ、面白いように甘く惚けていく少女の反応に調子に乗った阿呆になってしまう。実際そうなんだけど、気持ちの持ちようで違うと言うか…。
もう一度溜息。幸せが逃げるだなんてよく言われるが吐かずには居られない。溜息を吐くと胸の中のモヤモヤがスッとして冷静になれる気がするから。
「……うーむ」
平日の夜に俺は何をしているのだろうか。
サークルメンバーの家で父子ロールプレイをしています。ばっかじゃねえの?
頭が…割れる…裂ける…ッ!
どうしてこう…一昨日、昨日、今日とでクセの強すぎる状況に出会すんだ。どうして悩みのタネは増えていく一方なのだろう。俺はただパンティー付きラブレターの差出人を知りたいだけなのに。何もメンバーの隠された性癖を暴いていきたい訳じゃあ断じてないのに。
理不尽に感じている自分もいれば嬉しく思う自分もいる。どんな変則的な形であれ劣情を向けられている、俺に好かれたい愛されたいと思われている。それが秀麗であり等身大であり、大切だと思える仲間から向けられている。“必要とされている”。
その事実にどうしようもなくゾクゾクとしたものが込み上げてくる。背中がこそばゆい。
「──っと。いけない」
窓から外を見てみると「そろそろ寝なきゃヤバい」と焦ってくる時間帯の空の色になりつつある。後ろめたい優越感に浸っている場合では無い。早く帰って明日の弁当の用意をしなければ。
眠りこける奏に小さな声で別れを告げる。リビングのテーブルに一応書き置きをしておいて、しっかり戸締まりをしてから足早に家路に着く。
静かな夜を歩く。手持ち無沙汰なために色々な考えが頭を過ぎる。一つも片付くことはなく積み積み重なる問題に大した光明を見出せることもなく、何も分かり得ないまま時が過ぎるのだろうかと、漠然とした不安のようなものが胸に渦巻いた。
そんな事になって堪るかと。小さく意気込んでメッセージアプリを開く。虎穴に入らずんば虎子を得ずと言うし、受け身でいては駄目だろう。多少怪しまれても此方も攻めの姿勢を見せねばならない。ならば相手にも焦りが生まれて暴く隙ができる…筈。
俺がやらなきゃ誰がやる。
どんな結末になろうと必ず突き止める。相手方はバレたくないから無記名で明朝体なラブレターを送ったんだろうが、そんなこと知ったこっちゃない。
探し出して、答えを出す。それが俺なりの礼儀というモノだ。もう少しだけ駆け引きに付き合って貰おう。
決意を冷ますような風が吹いた。今夜の風は肌を刺すように冷たい。
──翌朝。宵崎奏は夕凪柚からの置き手紙を読んでいた。
「柚の筆跡…。“冷蔵庫の中に昼食の作り置きをしているので食べて下さい”」
一応声に出して読んでみてはいるが、彼女にとってその内容は重要ではない。この置き手紙があるという事実が重要なのだ。夢見心地だったあの時間は都合の良い夢・妄想の類いではないということの証明なのだから。
「……」
具に思い返して、また溢れた。何がとは明言しない。色んなものがとでも言っておこう。
強引にはなりますが、奏パートはこれで終わりです。お読みいただきありがとうございました。
・宵崎奏
声フェチ気味ってだけでは弱過ぎるという理由で、主人公に父性溢れる甘々ボイスを渇望するモンスターに作者によって仕立て上げられてしまった少女。恐らく奏は自棄気味な自分の音楽に懐疑的であって欲しかったんじゃないかという妄想。
・夕凪柚
そして彼は全ての想いを受け止めた(報いるとは言ってない)正統後継者である。
感想欄でニーゴ家族とか言われてて笑いました。でも家族なる者の出現は打ち止めになります。当初から考えていた性癖がありますので…。
ニーゴ家族概念は読者の皆様に託します。あっ、母親はニゴミクでお願いしますね。