クラスメイトの花寺さん 作:のどかの彼氏になりたい(迫真)
細かいことを気にした人間にはメガパーツを埋め込んで回る
自分は『すこやか高等学校』という高校に入学した
秘められし力がー、とか実は平和を守るヒーローでー、とか……中学生がするような妄想からも縁遠くなった、何の変哲もない高校生だ
実はすこやか市には越してきたばかりで、この街の詳しいことは知らない。知り合いなんかもいない
越してきた理由は……まぁ、特に面白みは無い
所謂『親の都合』という奴だ。所詮は高校生でしか無い自分は従うことしか出来ない。一人暮らしをする程の地盤も無いし
中学までの人間関係を絶って、高校からまた新しく構築するというのは……やっぱり、少し憂鬱だ
何でもすこやか高校はすこやか中学からの進学生が多いらしく、人間関係が既に出来ていることが多いらしい。らしいらしいと言うのは伝聞でしか無いからだ
今日、ようやく初登校だと言うのに友達なんて居るはずが無い……しかも、新入生だから転校生とかでも無いし
周りには既に友人が居るようで、教室に入ってすらいないのに仲睦まじく話している様子が見える
ふと、仲睦まじく話しているグループの中に目を引く3人組を見かけた
ツインテールの茶髪を揺らしながら笑っている……ほんの少し落ち着かない雰囲気の、可愛い系の女子。天真爛漫、と言うのだろうか
サイドテールの、灰色がった黒髪を揺らしながら微笑んでいる……落ち着いた雰囲気の、美人系の女子。才色兼備……だろうか、四字熟語は詳しくない
……セミロングで、ピンクブラウンの髪
あどけなく笑っている。儚いという言葉が似合うのか、それとも可憐という言葉が似合うのか……とにかく、不思議な雰囲気を纏った少女。彼女を表す適切な言葉は、少なくとも自分の
ピンクブラウンの少女に、目を奪われた
とても失礼だが、絶世の美女……という訳では無いだろう。しかし、等身大と言うべきか?親しみやすい、人として好ましい雰囲気が彼女にはあるように思えた
きっと、優しい人だ
話した訳でもないのに、自分はそう結論づけた。傍から見れば滑稽この上無いだろう
それでも、彼女にはそんな雰囲気があった
そう、思ってしまう
「……?」
「どしたの、のどかっちー」
のどか、と言うらしい
視線を向けていたのに気づかれたのか、ふいに彼女がこちらを見た。咄嗟に目を逸らして進行方向を見る。……気づかれて、いないだろうか
一緒に居た女子2人が不思議そうに首を傾げているが、やがて彼女は何でもないと再び笑顔になった
……可愛い
入学式の前に、それぞれの教室に向かう
3人の女子は、花寺さん(座席表で苗字を知った)だけが離れ離れになってしまったらしく、とても残念そうな様子だった
……かく言う自分は、花寺さんと同じクラスなのだが
それにしても、仲良し3人組の1人だけが別のクラスになってしまうとは……中々、酷い話もあるものだ。先生方はそんなことを知らないので、仕方が無いのかもしれないが
仕方が無いとは思うが、少ししょんぼりしている花寺さんを見ると可哀想に思えてしまう。現実的に考えれば、それぞれのクラスで新しい人間関係を構築して疎遠に……なんてことも有り得ると言うのに
……彼女達は、そうならないように思えるが
「……あっ、そうだ。よろしくね、〇〇くん」
「……あ、うん。よろしく、花寺さん」
ふと、思い返したように彼女は自分に笑いかけてきた。先程までしょんほりとしていたとは思えない程、見惚れてしまうような笑顔だ
一瞬、自分に話しかけてきたのだと理解出来ずに言葉が詰まった。そのせいで、少しぶっきらぼうな返しになってしまった
気を悪くしてしまったかと思ったが、彼女にそんな素振りは無く、寧ろ少し嬉しそうに更に話しかけてくる
「高校ってどんな所なんだろうね!私、初めてだから楽しみなの!」
「……あまり、中学と変わらないと思うよ」
……多分皆初めてだと思うよ、とツッコむのは野暮だろう。ツッコめば、もしかしたら少し恥じらう彼女が見れたかもしれないが……それは、流石に気持ち悪い。我ながら
自分が無難にそう返すと、花寺さんは何が嬉しいのか笑みを深めた
……やっぱり、可愛い
「確かに、中学と似てるかもしれないけど……〇〇くんみたいに、初めて会えた人もいるから」
「……そう、だね。新しい人間関係も高校の醍醐味かもしれない」
「うん、だから仲良くしようね!」
「……花寺さんが、良ければ」
眩しい
本当に自分と同じ人間なのか疑ってしまう程に、彼女の純真さが眩しい。今時こんな女子高生、探しても数人しかいないだろう
高校生活初日、しかも隣の席とかどんな運命力をしてるんだ自分は
「……実は、少し前にすこやか市に引っ越してきたばかりで。花寺さんが仲良くしてくれれば、ちょっと安心できるかも」
「そうなんだ……うん、私で良ければ色々教えるね!」
「……あっ、と……」
……純真さに当てられたのか、つい変なことを口走ってしまった。花寺さんが快く了承してくれなければ、心が折れていたかもしれない
改めて、彼女が眩しい
しかし隣の席とはいえ、初対面の男に変なことを言われて快く了承するのは、少し心配なのだが。彼女の友人達はちゃんとしていると良いのだが
「私も中学の時にすこやか市に引っ越してきたの。同じだね」
「そうなんだ。じゃあ、花寺さんはすこやか市での先輩かな」
「先輩……!」
何気なく発した言葉は、どうやら彼女の琴線に触れてしまったらしい。余計に心配になってくる
軽く苦笑してみても、花寺さんには届かないようだ。……まぁ、上手く話せたようだから良いだろうか
その後は、『先輩に何でも聞いてね!』と胸を張った花寺さんから目を逸らしつつ、入学式の為に体育館に向かった
……番号順で座ったせいで、花寺さんとは少し離れてしまった
校長先生の長い話も終わり、担任……は既に入学式の前のHRで分かっていたので、他のクラスの担任や学年主任などの発表を聞いた
案の定と言うか、優しそうな先生や厳しそうな先生、性格の悪そうな先生まで色々な先生がいた。幸いにも、担任は優しそうな先生だ
花寺さんも、『優しそうな人で良かったね』、なんて言っていた。怒らせたら怖そうだよね、と返したら少し震えていた
……可愛い
「……〇〇くんは、何か部活入る?」
「今のところは特に……中学よりも多いし、色々見てから決めようかな」
「中学の時は、何か部活やってたの?」
花寺さんにそう聞かれ、中学の時のことを思い返す。やっていた……にはやっていたのだが、自分の中学は所謂『強制入部』だった
そのせいで、部活動に対してあまりモチベーションが持てずに、無難な部活で潰した覚えがある。今になって思えば、もう少し真剣にやっても良かったかもしれないと思う
……真剣にやっていれば、花寺さんに結構上手い方だったと自慢できたかと思うと……
……そんな思考を振り払って、自分の部活を伝える
「……だったよ。あまり上手く無かったけど」
「そうなんだ。私もちょっとだけ体験したけど、全然ダメで……」
「意外と難しいからね」
聞けば、中学時代の彼女は帰宅部だったらしい。入部が自由なのは、少し羨ましい
色々あって運動が苦手で、まずは体力作りからしていたそうだ。部活体験では、どの運動部もからっきしだったとか……
……色々、の部分は多分聞かない方が良いのだろう
とりあえずは、そんな事情で高校では運動部に入ってみたいらしい
「……運動部かぁ。この学校、陸上部が強いらしいけど……」
「陸上部……ちゆちゃんと同じ部活だ」
「ちゆ……中学からの友達?」
多分、黒髪の女子だろう
もう1人の方は……うん、あまり陸上部という雰囲気では無かった。逆という可能性もあるかもしれないが、黒髪の女子なら陸上部がしっくりと来る
今朝、見つめていたことがバレないようにする為に、知らないフリをしながら聞く。花寺さんは頷いて、『ちゆ』という人物について聞かせてくれた
「うん、私の友達でね。すっごく綺麗でカッコイイ子なの!」
「そうなんだ。それなら陸上部も納得かも」
「走り高跳びが得意でね、県大会の記録よりも高く跳べるんだよ!」
え、凄いな。いや本当に凄い
県大会の記録は、そう簡単に塗り替えられるものでは無い気がするのだが……ちゆさんが特別なのだろうか。話を聞く限り、中学陸上部のエースだったようだ
その後も花寺さんの友達自慢は続く
ちゆさんが旅館の娘で手伝いをしているとか、勉強も得意だとか。とにかく凄い人らしい
嬉しそうに話している花寺さんを見ると、止める気は起きない。それどころか、もっと嬉しそうな様子を見たいと思うくらいだ
「……はっ!ご、ごめんね!私ばっかり話しちゃって……!」
「いや、大丈夫だよ。凄い人なんだね、ちゆって人」
10分程話した所で、ハッとした花寺さんが慌てて謝ってくる。特に嫌な気分だったと言う訳では無いので、自分は首を振る
あんなに楽しそうに語られて悪い気分になるのは、相当捻くれている自己中心的な人間だろう
少なくとも、自分は好きだ
「……部活動見学は自由だし、友達と回ってきたら?」
だからふと、そんなことを言う
そんなに仲の良い友達なら、自分ではなく友達と部活動見学をしてきた方が楽しいだろう
ちゆさんの方はもう決まっているにせよ、もう1人の方はきっと決まっていないだろうし……
……あれ、花寺さんの様子がおかしい?
何故か笑顔が曇ってしまった。失言をしてしまったのかと勘繰るが……分からない。この数時間だけでも相当なお人好しだと分かる彼女が曇るなら、かなり酷いことを言ったと思うのだが……
さっきの短い発言に、そんな要素は無いように思える
……ん?あれ?
「……あ、ああ!ご、ごめん花寺さん。別に花寺さんと回りたくない訳じゃなくて、中学からの友達がいるなら一緒に回る約束とかしてるんじゃないかと……!」
「……よ、良かったぁ〜……てっきり迷惑だったのかと……」
「そんなこと無いよ。こっちこそ、ごめんね」
そうだ、さっきの言い方だとまるで花寺さんと回りたくないかのように聞こえる
……彼女との付き合いの浅さを考えると、別に失言ではないような気もするが失言になってしまったのは確かだ
安心した彼女に平謝りしながら、どうにも狂う調子を整えようと心を落ち着かせようとする
「……あ、じゃあ」
「……じゃあ?」
「〇〇くんも、一緒に回らない?」
「…………花寺さんの友達と一緒に?」
「うん!」
……花寺さんの言葉を断る術を、自分は持っていなかった。荒ぶる鼓動を落ち着かせる術も、持っていなかった
……その後は、初対面の花寺さんの友人達と必死に会話をする羽目になった。悪い人達で無かったのは幸いだったのだが……
若干、花寺さんに関わる人間として見定められていたような気もする。いやきっと気の所為だろうが
……憂鬱だった高校生活も、悪くないのかもしれない。そう思えた