Side:ハジメ
ハジメが訓練の結果、自分の最弱ぶりと役立たず具合を突きつけられた日から三日経ったある日の事。ハジメはここ最近の日課となった、訓練の休憩時間を利用した王立図書館での勉強中にみんなの頼れる兄貴分的な騎士団長、メルドに声をかけられていた。
「僕に師匠……ですか?」
「ああ」
思わず尋ね返してしまうハジメ。メルドは真面目くさった表情で頷く。
「いやいや。自分で言うのもなんですけど、僕は弱いですよ?天之河君とかみたいな、強い人につけたほうが良いかと……」
「いや、師匠といっても戦闘のじゃない……いや、戦闘も教えられるだろうが。……まあ、錬成師としての師匠になる」
「錬成師としての……ですか」
「ああ。この国……いや、人間族で随一の腕前と謳われている錬成師だ。きっと坊主の為になるだろう」
「向こうも乗り気だしな」と付け加えるメルドに、ハジメは脳裏にドワーフみたいな頑固オヤジの職人を思い浮かべながら、その提案を受け入れた。
そして、二日後。王宮のとある一室にて。
「はじめまして。私が貴方を弟子に取ることになった、シルヴィ=イレイソンと申します」
(同い年ぐらいの美少女さんがキター!?)
目の前で、たおやかに微笑む白髪の女性に、ハジメは思い切り硬直していた。
「手取り足取り、丁寧に教えられればと思いますので、分からない事があったら何でも聞いて下さいね」
「は、はいぃ……」
予想とはかけ離れた師匠を前に、ハジメは情けない返事しか出来なかった。
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Side:シルヴィ
目の前でガチガチに緊張している弟子……ナグモハジメ君を観察しながら思考していた。
(先に聞いていた名前の響きに見た感じの人種的に日本人の可能性が高い。……前世のネタやトークがポロリと出ないように気を付けたほうが良さそうだな)
「……では、早速修行……というか、授業を始めましょうか」
「授業……ですか?」
不思議そうに首を傾げるハジメ君に、私は笑顔で問いかけた。
「ハジメ君は、錬成師には何が必要だと考えますか?」
「えっと……技術?」
「そうですね、技術も必要です。……けど、他にも発想力と知識量も無いと、錬成師としては大成出来ません」
「発想力と知識量……ですか?」
「ええ。錬成師に限らず、創作はアイデアが無ければ始まりません。そして、そのアイデアはどのような分野でも構いませんが、豊富な知識が無ければ生まれる土壌が出来ません。また、そのアイデアが現実的であるか、そうではないか。判断する為にも知識が求められます」
「ふむふむ」
唐突に始めた私の解説を真面目に聞くハジメ君の姿に気分を良くしつつ、さらに解説を続ける。
「ハジメ君が先程挙げてくれた技術は、現実的だと判断されたアイデアを、形にする為のものです。理論上は可能でも、技術が無ければ、机上の空論で終わってしまいますからね。……と、言うことで」
私は持参した本を五冊ほどハジメ君の目の前に置いた。
「これは……」
「私なりに纏めた資料です。内容は、錬成の材料となる各種鉱物の名前と性質。自然現象の原理や再現する為の方法。人体の構造と各種機能。……といったものです。これらの情報を上手く使えれば、簡単な錬成でもそれなりの武器は作れるはずです」
「へぇ……」
「では、スキマ時間などで読んで下さい。全ての内容を理解し覚えられるように暫くの間、貸し出しますので」
「あ、有難うございます……」
ハジメ君はそう言っていそいそと五冊の本を抱えて、部屋を出ていった。しかし、私は見逃さなかったよ。全ての内容を覚えられるようにと私が言った時、「えっ、まじか」って顔をしたのは。