視点ごちゃ混ぜですが、仕様です。
休日の土曜日。理央は、散歩を兼ねて新作の漫画を買いにニジタウンのTAZUYAまで向かっていた。
「色は匂へど 散りぬるを」
天気は快晴。少し暖かい日差しが気分を高揚させる。いろは歌を口遊むほどに麗らかな気分で歩いていた。そんな気分も束の間、ガヤガヤと人の声が聴こえる。
「何だ⋯やけに騒がしいな」
道中、何やら前方で小騒ぎが起きているようで人集りが出来ていた。理央は、ふと気になり、興味本位で現場へと向かった。
「あれは樋口楓の姉御!?」
なんと、にじさんじタレントの一人であるにじさんじ1期生の樋口楓がナンパ男二人組にナンパされていた。楓は、嫌そうにナンパを断るがナンパ男二人が楓の断りをのらりくらりと受け流し、しつこくナンパしていた。このままでは危険なので助けに行くべきと思い、人集りに足を踏み入れた瞬間、怒声が聞こえた。
「ええ加減にせや!しつこいんじゃ!嫌がる女をナンパして楽しいんかお前等は!」
(おぉう、流石にじさんじの姉御。圧が凄いや。
完全にブチギレてらっしゃる。チンピラさんがタジタジやないか)
理央は、大丈夫なのかと疑問に思い、様子見していた。
「だから、さっきから言うとるけどな。アンタ等の相手してる暇はないんや!あ⋯」
(やっべ、目が合いました。何か大丈夫そうなので、ここは退散退散⋯何て事も楓さんからの無言の圧で逃走は許されず。“お前、早く助けに来んかい!”と睨まれたので、救出に行きます。男はつらいよ)
後が怖いので、理央は大人しく向かう。
理央がナンパ男二人組と楓の間に入ると、楓のつり上がっていた目が嬉し涙の目に変わった。
樋口楓、中々の演技派である。と胸の中に仕舞いながら場を収める。
「六道さん!」
「あ、あー大丈夫だったか。心配していたぞー。
アンタ等もナンパは迷惑防止条例違反で度が過ぎれば精神を傷つけた事による傷害罪だ。1年間のムショ行きか100万の罰金、科料、拘留されて前科つくかもしれないぞー?」
「な、何だ男がいたんか」
「つ、次に見つけた女ナンパすんぞ。もう行こうぜ」
「オイ、もう家に帰って寝んねしな。次ナンパしているの見掛けたらタマ潰すぞ」
「「ヒィ〜〜!?ごめんなさーい!!」」
楓の凄味ある顔とドスの効いた声にビビり散らかしたナンパ男二人組は、冷や汗をダラダラと流しながら逃げ出した。間近で圧を受けた理央も冷や汗を流した。
ナンパ男達が逃げ出したことを皮切りに野次馬は去り、人が疎らな状態となる。
「これからわたしとデートやデート!理央さんの行きたい所とかある?」
「本屋で漫画を買う予定だったから、先ずは本屋に行かないか?」
「勿論ええで!」
(ムフフ、理央さんと二人っきりで即日デートや!今日は理央さんを一人占め!競争率高いからラッキーやで)
楓は、理央の腕に抱き着く。理央は、気にせず歩き出した。本屋で目当ての本を購入した理央達は、辺りを散歩する。
「そういえば、昨日、でびさんが寝ぼけてレタスとユーカリの葉を間違えて食べたみたいでな」
「ぶっは!何やそれ」
「マネさんによれば、今も木の上で気絶してるらしい。まんまコアラだよな」
「アハハハハ!悪魔に見えへんもんな!」
楓は、楽しそうに笑う。
「そういや、舞元さんから石が排出されたみたいやな」
「おじさんじの面々とリスナーの盛り上がりが凄かったよな」
にじさんじのライバーに関する話題で談笑していたとき、後ろから二つの視線が楓と理央を見つめていた。
ここからは、彼等をずっと観察していた者達に視点を向ける。理央と楓のやり取りをずっと観察していた奴らがいた。殺気や気配の探知に優れている理央でさえ、気付かなかった。何故なら、奴らの正体は!
チュンチュン!チュンチュン!
鳥類の雀だからだ!ここからは、雀の視点も交えてお送りしよう!
一羽の雀が木の上で趣味の人間観察に明け暮れていた。
よう、オレの名はスギタ。自由な空を生きるオス雀だ!今日は、ある人間の一日を観察してみようと思う。最近、本格的に冬寒くなったから冬毛を膨らませているぜ。人間は、冬毛のオレ等をスズメボールって呼ぶらしいな。幾らボールみたいだからって蹴るなよ?オレとの約束だ!
「おい、スギタ。お前何ブツブツ独り言言ってんだ?」
コイツはナカムラ。オレの親友ともいえる雀仲間だ。
お!どうやら、馬の尻尾みてえな髪型の銀髪姉ちゃんと短髪の兄ちゃんが歩き出したぞ。ちょっくら尾行してみるか。
「ナカムラ、暇だからあの人間達を尾行しようぜ」
「ええ〜?スギタよぉ〜それ面白そうじゃねえか!」
「よし、そうと決まれば行くか」
「おう!」
スギタとナカムラは、楓達の後を尾行するために羽ばたいた。
雀の視点から樋口楓の視点に変わる。
樋口楓は、理央とのデートにウキウキしていた。
偶々見つけた事務所設立と同時に開催されるタレントオーディションのチラシを見つけ、興味本位でオーディションに応募。オンラインエントリーしてからオーディション会場でオーディションを受け、無事に1期生タレントとして所属。配信活動から二ヶ月が経った頃に、彼はアルバイトとして入社してきた。
最初は、モデルみたいに整った顔とタッパが高いだけの男性と思っていた。
(顔はかっこええけど。所詮、顔だけの男やろうな)
ユニークな性格で彼の周りにはよく人が集まる。彼女自身も彼の個性的な優しさを受け、次第に心惹かれた。
にじさんじは、個性的なライバーが沢山所属している事務所だ。故に、多様性溢れた事務所として世間から認知されている。コアラみたいな悪魔のでびでび・でびる、白い二足歩行の自称猛獣のるんるん、挙句の果てには、柴犬の黒井しばなど動物もライバーとして所属しており、子供や癒やしを求める女性から人気が高い。
「この近くに良いカフェがある。そこに行こう」
理央は、裏通りのとある場所を目指して、路地裏を歩く。小綺麗な道の側には、居酒屋やスナックなどの飲み屋が目に見える。
「ここが俺のおすすめの喫茶店の一つ」
「雰囲気ある場所やな」
二人がやって来たのは、路地裏にひっそりと佇む喫茶店nascita。
ユーモアのある店だが、珈琲が不味く、客足は少ないのが難点な迷店。しかし、珈琲以外は普通に美味しいため、カフェマニアから奇特な喫茶店と認知されている。
喫茶店nascitaに入店する。扉のベルがチリンチリンと鳴り、喫茶店の雰囲気をより高める。
店長の石動惣一は、ここのマスターを務める四十路の男性。一見温厚そうな見た目だが、腹黒そうな顔をしている為、人狼ゲームで遊ぶ時は毎度勘違いされている。
「いらっしゃい」
「二人です」
「好きな席にどうぞ」
二人は席に座る。石動店長がお冷や二杯を持ってきた。頼みたい品が決まり、店長に注文する。
「店長のオリジナルブレンド珈琲セットを一つ」
「私は、シフォンケーキセットをください。飲み物はオレンジジュースで」
「あいよ。お兄さん、砂糖とミルクはいるかい?」
「お願いします」
珈琲を一口啜る。いつも通り、味は不味い。嫌味ではなく、ガチで不味い。苦すぎるわけでも酸味が強すぎるわけでもなく、ただただ不味い。しかし、理央は、精神修行に最適である為、偶に訪れては、此処の珈琲を嗜んでいる。飲み干した理央は、シフォンケーキを食べる
「彼奴がこの世界の仮面ライダーか。くっくっ、面白いじゃねえか。昔の俺なら、この星を滅ぼそうと目論んでいたが、ひっそりと珈琲淹れる余生が案外楽しくて滅ぼす気なんか今更、興味ないしな。さて、今日の珈琲の出来栄えはどうかなっと、ズズズッ⋯不味ッ!?」
石動は、誰もいない店内で一人、自身の淹れた不味い珈琲を噴き出した。
二羽の雀は、nascitaから漏れ出る気配に怯え、近づかなかった。
カラオケで歌うことになり、3時間コースで部屋に入った。楓は、次々と曲を入れ、話題のJポップやアニソンを歌いまくる。理央は、それを聴きながら合いの手を入れていた。自分だ歌うのは悪いと楓は、理央にマイクとタッチパネル機を渡す。
理央は、『詠人』『うい麦畑でつかまえて』を歌い、『レッツゴー!陰陽師』を熱唱。歌い終わり、楓が入れた次の曲に理央は驚いた。
曲名は、『3年目の浮気』である。
「え?この歌?選曲渋すぎないか?」
「ええからええから!はよ歌うで!」
個室のスピーカから曲が流れる。理央は、右手にマイクを持ち、楓のマイクとマイクハウリングが起きない距離まで離れ、喉のチューニングを行う。
歌の出だしは、男性パートである理央からだ。
理央〈馬鹿言ってんじゃないよ お前と俺は
喧嘩もしたけど一つ屋根の下暮らしてきたんだぜ
馬鹿言ってんじゃないよ お前の事だけは1日たりとも忘れたことなどなかった俺だぜ〉
楓〈よく言うわ いつも騙してばかりで
私が何も知らないとでも 思っているのね〉
理央〈よく言うよ 惚れたお前の負けだよ
モテない男が好きなら 俺も考え直すぜ〉
楓〈馬鹿言ってんじゃないわ〉
理央〈馬鹿言ってんじゃないよ〉
楓〈遊ばれてるの分からないなんて可哀想だわ〉
理央〈三年目の浮気ぐらい大目に見ろよ〉
楓〈開き直るその態度が気に入らないのよ〉
理央〈三年目の浮気ぐらい大目に見てよ〉
楓〈両手を付いて謝ったって許してあげない〉
その後、2番まで歌い切り、喉の渇きを癒やす為にドリンクを飲む。楓がコクコクとジュースを喉に流し込んでいる姿を見ながら、先程の曲について言及する。
「まさか、楓ちゃんがヒ〇シ&キ〇ボーを知っていたとは⋯俺の親戚の叔父さんが若い頃の曲だぞ」
「ヒスイちゃんとンゴちゃんがカバーしている動画を見つけてな。試しに聴いてみたら歌いやすい思って密かに練習してたんや」
二人で『Finger on the Trigger』をデュエットしながら熱唱し、楓による『Maple Step』の本人歌唱で盛り上がり、『学園天国』を歌う時は、肩を組みながら歌った。
理央は、アグナルス所属のVtuber六辻獄也として出したオリジナル曲『六界ナラカ節』を披露する。
〈八大地獄は灼熱過ぎて 閻魔王も汗を掻く
八寒地獄は極寒すぎて 鬼も震えて凍えだす〉
「ハイハイ!」
楓は、リズム良く相槌を打つ。気分がノッてきた理央は、こぶしを強く出す。そして、サビに入る
〈離れ離れになったとしても 来世でまた巡り合う
今世笑顔で参りましょう 皆踊れや歌えや笑え
六界全ても人間界も とかくこの世は住みにくい
輪廻転生 諸行無常 嗚呼、六界ナラカ節〉
歌が終わり、楓は拍手する。理央は内心、自身が作詞した曲を配信で歌うことはあれど、人前で披露するのは今回が初であり、珍しく緊張していた。だが、爽快感と達成感に満たされるのを感じた。
一方その頃、スギタとナカムラはカラオケルーム近くの窓で楓と理央が披露した曲に盛り上がりを見せていた。
「フォー!」
「凄えな!人間の女が歌う歌!凄かったな!」
「人間のオスが最後に歌っていた歌さ、何か不思議な気分になったよな!何か目眩と立ち眩みがするけどよ!癖になる歌声だったな」
「ああ、流石は人間だ。侮りがたし」
カラオケを退店した理央達は、公園沿いの道を歩く。二羽は、その後ろ姿を追跡した。
公園道を歩いていると楓は、イベント開催のポスターと看板を発見。理央は、内容を黙読する。
「お、黒須市共催のいちご祭りが開催しているのか」
「調べたら今日は、いちごの日らしいで」
「成程、試しに行ってみるか?」
公園内の会場に到着すると、三人組の男女が小走りでやって来た。
「わあ〜!いちごのお菓子がいっぱいある!待ち切れな〜い!早く行こう!」
「ウマショー、そんなに急がなくてもお菓子は逃げないよ。ハンティーも早く早く」
「絆斗だ。ハンティーはやめろ!って、待ってくれショウマ、社長」
「あの三人は⋯もしや」
「あの人達のこと、知ってるんか?」
「あ、あぁ。『ハピハレ』っていう何でも屋がいたから、気になっただけだよ」
「ふぅん、そうなんや」
誤魔化す理央に小首を傾げる楓。理央は、楓に耳打ちをして、広場に入った。広場は、人の賑わいに溢れていた。
「イチゴワッフルサンドめちゃ美味」
「景さん、このイチゴミルクも絶品っすよ!」
「マジで?あとで俺も買おう」
長尾景と葛葉は、仲良くイチゴのジュースやフードを食べていた。
「イチゴ美味しいな〜ちゅんちゅん」
「るりはちゃん、落とさないように気を付けてね」
ラトナが、妹分のるりはと出店を巡っている。
大道芸人がイベントを盛り上げ、子供達は笑顔ではしゃいでいた。楓は、苺飴を齧り、苺の酸味と飴の甘味に歓喜していた。理央も苺サイダーをストローで飲みながら、喉を潤した。
ベンチの近くで『はぴはれ』の面々も祭りを楽しんでいる様子を見つける。
「あむっ!ストロベリークレープ甘酸っぱくて美味しいー」
ショウマは、初めて食べるストロベリークレープの甘酸っぱい苺の酸味とホイップクリームの甘味のベストマッチな味わいに頬を緩め、幸せそうに食べている。絆斗は、甘いものが苦手な為、珈琲屋の出店コーヒーを飲んでいた。幸果もストロベリーサンドを食べ、笑顔になっていた。
〈イートクレープ!〉
〈わにゃわにゃ!〉
その時、ショウマの赤ガヴからゴチゾウが生成される。幸果と絆斗は、ぎょっとした。
「うおっ!」
「は、早く隠して」
ショウマから生み出された眷属ゴチゾウが人目について騒ぎになることを恐れた幸果と絆斗は、即座にゴチゾウを掴み、ショウマのポッケに隠した。
理央は、三人のやり取りを見て優しく微笑んだ。
暫く、歩いていると、楓は雑貨屋の屋台を見つけ、イチゴモチーフの商品に夢中となった。
「わぁ!このイチゴのイヤリングにポーチごっつ可愛いやん!でも、わたしには似合わんか」
「すいません。この耳飾りとポーチください」
「はーい、毎度あり」
「え!?ちょ、理央さん」
理央は、楓が見て気に入った髪飾りとポーチの購入意思を売り子に伝え、自然に買い上げた。売り子から商品を受け取り、楓に渡す。
楓は、渡された袋を見て慌てふためく。それを見た理央は、朗らかに笑う。
「楓ちゃんに似合わない物なんてない。俺が保証する」
「⋯こういう時だけ無自覚天然の女誑しやで、ホンマに」
楓は 、ボソリと小声で呟いた。雑多する人の声に紛れて、彼の耳に入らずに済んだことが今の彼女にとって、都合が良かった。
更に露店を周っていると、鉢巻きを巻いた出店の店主が売り込みをしていた。
「そこのお兄さんお姉さん!いちごをブレンドした闇菓子はいらんかね〜?舌が蕩ける程美味しいよ〜」
「うわあ、栗羊羹みたいな色のお菓子やな。闇菓子って名前も不気味でオモロイやんけ」
キューブ型の見た目で禍々しく怪しいお菓子が出店で売られていた。闇菓子と呼ばれる単語に嫌な予感を感じた理央は、楓を連れて、いち早く退散することにした。
「あはは、また後で来ますね。行くぞ楓」
「え、あ、うん」
「また寄ってくださいよ〜」
店主は、去っていく二人に手を振った。
「さて、次の仕込みをしないとな」
そう言って裏側を向いた店主は、朗らかな笑みから不機嫌に顔を顰めた。
「くそっ!新しい材料を逃がしちまった。だが、まぁいい、結構材料も集まったから良しとするか」
出店の店主の正体は、人間界に潜入していたストマック社アルバイトにしてイソギンチャクタイプのグラニュート・ソギンだった。
グラニュート・ソギンの目線の先には、ヒトプレスにされた人達が詰められたダンボールが映っている。
「この祭りで幸福を感じた人間の隙を狙いヒトプレスにして、予定通りに献上すれば、ノルマ達成で闇菓子が沢山貰えるぜ〜!しかも、この闇菓子を模した菓子で売上も上々!ウヒヒヒヒ。オレは何て頭が良いんだ〜」
小声で笑い堪えながら、客が来たので売り込みを開始する。休憩時間にヒトプレスを確認するとダンボールが丸々消えていた。
「あれ?ない!無い!?何処だ!何処にあるんだ〜!」
「おっと、お探し物はコレかな?」
「誰だ貴様は!」
「俺の名か?」
青年は、ヴァレンバスターのクラックジャッキを開閉し、チョコドンをセットする。持ち手のバスターグラスプを握り、トラクショントリガを引く。
「変身」
電気椅子の様に固定され、電気的刺激の作用で痺れたチョコダンは、粒子状に消滅した。
板チョコのような鎧に身を包む戦士が登場する。
「仮面ライダーヴァレン。全てのグラニュートをぶっ倒す男だ」
「貴様は、ストマック社指名手配の仮面ライダーヴァレン!」
〈ホッピングミ!ガヴ!ガヴ!ガヴ!キエァァァ!〉
ガヴガヴとレバーを回す音がグラニュートの背後から響き、振り向けば、此方を冷たい目で見つめる一人の戦士が現れた。
「ま、まさか貴様は、ストマック社最重要指名手配の――」
「どうする?二度と闇菓子に関わらないか。それとも俺に倒されるか」
「あ、赤ガヴだと!?こうなったら、逃げるんだよぉぉ!」
荷物を風呂敷に纏めて逃走を開始したグラニュート・ソギン。逃げ足が速く、ヴァレンは取り逃がしそうになる。
「逃すか!」
ガヴは、逃走したグラニュートを追い掛けるべく駆け出した。
その後、いちご祭りの会場から離れた誰もいない噴水広場で戦闘音が響き渡るが、誰も気付かなかった。
一方、雀共は地面に落ちていた祭りの食べ物を嘴で突いて食べていた。
「いやー落ちてるメシが食えるから、祭りは良いもんだ」
「いつも、爺さん婆さんから貰うパン屑ばかりだもんな」
こいつ等は、食べ物に夢中で当初の目的をすっかり忘れていた。二羽が二人の存在を見逃したことに気付いたのは、腹が膨れ雀になった頃であった。
理央は、楓の手を握りながら、会場から離れる。
「待って、ちょ、待てや、止まれや!」
楓は、理央に掴まれてる腕を引き離す。彼の顔をよく見れば、かなりの汗が流れていた。
「理央さん、いきなりどうしたんや!あの屋台を見た時から、様子が可笑しいって!」
「⋯あれは闇菓子。異世界で密造されている幻覚作用を持つお菓子だ。あの店で売られている闇菓子自体は偽物だけど、売っている人の気配が人間ではなかった。それで嫌な予感を感じて⋯いきなり済まなかった」
「⋯そうなんや」
理央の言葉に楓は、何も言えなかった。二人の空気が静寂に包まれる。その時不思議なことが起こった。
突如、風のいたずらが吹き、楓のロングスカートがフワッと捲り上がる。
「キャアアアア!?」
周囲に人は居なかったものの、楓の正面に立っていた理央は、スカートの中を目撃してしまった。スカートの前面を即座に押さえた楓は、下着を目撃した可能性がある彼を尋問した。
「見たやろ?」
「⋯見てない」
理央は、目を逸らしながらはぐらかす。目を逸らす様子から見たことを確信する楓。
「パンツ何色やった?」
「小紫色だった⋯あ」
楓の顔上は、影で隠れて見えず、紫色に光る眼光が理央を睨み付けていた。
「ふしゅぅぅぅ⋯乙女の下着を見た覚悟ぉ⋯出来てるんやろな?」
「不可抗力!自然の摂理による不可抗力だ!嘘です。すいませんっした!眼福でした!」
「⋯⋯このスケベ。私やなかったら嫌われてたで」
怒られる覚悟で目を瞑った理央は、頬を強く押さえつけられ、両耳を引っ張られる程度のお仕置きを受けた。理央は、楓の優しめなお仕置きに内心仰天した。
「今はこれで許したる。さ、デートの続きや」
楓は、理央の腕を引っ張り、デートを再開させる。
その頃、公園の噴水広場では、激戦が繰り広げられていた。
ガヴは、ザクザクチップスフォームに追い菓子し、チップスラッシャーでグラニュート・イソギの伸びる触手を切り裂き、刃が欠けた瞬間に再生させ、攻撃と回避を繰り返す。間合いを取りながら、クレープを模したマキマキクレープゴチゾウをセットし、ザクザクチップスフォームからマキマキクレープフォームに追い菓子する。
〈マキマキクレープ!キェァァァア!〉
ガヴは、刃が付いたトンボ型の武器クレープレッダーを構え、グラニュート・ソギンに突撃した。ヴァレンもガウの援護として躍り出る。
グラニュート・ソギンは、ストマック社の幹部から派遣された連絡役の下っ端エージェント3体を呼び出し、二人の足止めを命じる。全身黒ずくめの装いをしているエージェントの発光色は、橙色であった。
「赤ガヴ⋯排除開始」
ガヴは、正面に向けたクレープレッダーを時計回りに回転させ、クレープ生地型のシールドを形成し、光線銃の銃撃を防ぐ。透かさず、銃に引っ掛け、エージェントの手から弾き飛ばす。迫り来るエージェント二体の徒手空拳をクレープレッダーで防ぎ、クレープレッダーを身体に引っ掛け、投げ飛ばす。
ヴァレンもエージェントの銃撃をスライディングで掻い潜り、エージェントを蹴り飛ばす。
「ウォォォ!どりゃあ!」
「グゥオ!?」
ガヴは、エージェントの拳撃を受け流し、スラッシュモードのクレープレッダーを振り翳す。しかし、仰向けで回避するエージェント。
彼等の追撃に埒が明かないと感じたガヴは、クレープゴチゾウと一緒に出たゴチゾウを試す。
〈ストロベリークレープ!キェアアア!〉
ガヴは、ストロベリークレープゴチゾウをセットし、レバーを回転させ、マキマキクレープフォームの拡張形態に追い菓子した。
右腕には、苺みたいな形の盾イチゴディフェンダーが装着され、ホイップクリームのような装飾が施されている。
「姿が変わった所で何も変わらん⋯排除する!」
エージェントは、回し蹴りを放つが、ガヴの右腕の盾で防がれ、正拳突きの反撃を喰らう。そして、回転斬りで呆気なく撃破された。
ヴァレンは、ガヴを背後から襲撃しようとする二体のエージェントをラリアットで吹き飛ばす。
ヴァレンの攻撃によって、生垣にまで吹き飛ばされた二体のエージェントは、闇菓子の材料である二人の男女を発見し、拉致しようと襲い掛かる。女は、小さく悲鳴をあげるが、男が冷静に庇った。
「六道流忍法―――」
女を庇った男は、刀印を結び、忍法を発動させる。
「―――水遁・水飛沫の術」
男が呟くと、噴水の水が水飛沫となって、エージェント達をびしょ濡れにする。エージェント達は、突如として襲いかかる水飛沫に困惑する。生身の人間が自分等に対して異常な力を使用している現状に思わず動きを止めた。
男の正体は、理央であった。
「貴様、その異様な力⋯何者だ!」
エージェントの問いに理央は答える。
「見た所、化生の類いか。俺は、通りすがりの獣拳士だ。覚える必要などない」
理央は、白い激気を全身に纏い、拳を構えると背後から白獅子のエネルギー体が具現化される。幻覚ではない白獅子の威迫にたじろぐエージェント。
「何故ならお前達は、今、この場で倒されるのだからな。激気技・哮哮弾」
理央は、腕を前に突き出す。白獅子が吼え、エージェントに向かって突進する。白獅子の気弾がエージェントを噛み付き、被弾した。被弾したエージェントは、肉体的損傷の限界値を大幅に超え、崩壊した。
「マジかよ⋯何だかよく分かんねえが、助かった」
現場に追い付いたヴァレンは、一般人である筈の理央が見せた獣の幻覚によって、脳が思考停止に陥り、普通に礼を述べた。理央は、静かに薬指と小指を緩く曲げた敬礼で返事した。
「祭りを楽しんでいる人達の気持ちを踏み躙るなら、俺はお前を許さない」
「闇菓子としてグラニュートに貢献する程の名誉は他にないだろ!同族殺しが!」
「確かに、俺はグラニュートを倒している。だが、それもお前達が人に危害を加えているからだ!お菓子も悪も、俺が食べつくす!」
雄叫びを上げたガヴは、クレープレッダーを頭上に持ち上げ、回転させると竜巻が発生し、グラニュート・イソギを巻き込む。
〈マキマキクレープフィニッシュ!〉
クレープレッダーのヘラが分離する。ガヴは、勢い良く振り翳す。ヘラがグラニュート・イソギの触手を全て斬り刻み、竜巻の流れに沿って乱れ斬りが炸裂。そして、ガヴも揚力によって体ごと浮き上がり、真向斬りで一刀両断する。
「馬鹿な⋯俺様が負ける⋯なんて⋯ぐわあああ」
グラニュート・ソギンは、爆死した。
「倒した!これでヒトプレスされた人達を元通りに⋯」
ショウマは、変身を解いた後の姿と変身後のガヴの姿を理央と楓に目撃されたことに焦りを感じた。
毎回、助けた人から〈怪物〉〈化け物〉と蔑まれ、怯えられてきたガヴ。また、蔑まれるのではないかと危惧していた。しかし、彼等の口から出た言葉に耳を疑った。
「この町を守ってくれてありがとう。仮面ライダーガヴ、仮面ライダーヴァレン」
「グミの君もチョコのお兄さんもカッコいいヒーローやで!ありがとー!」
〈ありがとう〉。グラニュートと人間のハーフで仮面ライダーに変身したショウマを人として認め、親身にしてくれる姉の様な存在の甘根幸果以外から初めて聞いた感謝の言葉。一言の感謝に胸に込み上げる熱いナニカを感じ取り、ショウマの目から無意識に涙が流れる。
絆斗は、ショウマが敵であるグラニュートと人間のハーフという出生を知っている為、予想外の反応に驚いた。
そして、二人に向けられた純粋な感謝の気持ちは、幼稚園の子供達以来である。幸果がショウマと絆斗の元に合流する。三人が集まったのを見て、理央は、鞄の中に手を入れ、生成した異空間から煎餅袋を取り出し、ショウマに渡す。
「御礼になるか分かんないけど、俺の婆ちゃんが作っている煎餅。宜しければ、皆さんで召し上がって下さい」
ショウマは、煎餅を貰い、一口囓る。咀嚼して飲み込むとショウマの腹にある赤ガヴが光る。
〈バリバリセンベイ〉
『バリバリセンベイ』と名乗るゴチゾウが赤ガヴの口から出てきた。ショウマは、新たな眷属に興奮する。
ショウマ達と別れた理央と楓は、歩き出す。
既に夕暮れとなった空は、夕陽によって橙色に染まっていた。
「色々あったけど、楽しかったな」
「何言ってんや!デートはまだ終わらないで!」
楓は、理央を自分の家に連れ込み、お家デートを始めた。
翌朝、理央が頬こけた状態で赤マムシを飲んだのは、また別のお話。
後日、事務所の休憩室でジュースを飲みながら談笑していたJK組。その中の一人である月ノ美兎は、樋口楓がいつもの髪結び以外に髪飾りを付けていることに気付き、話しかけた。
「楓ちゃん。その苺のイヤリングとても可愛いですね」
「美兎ちゃん!そう最近付けたばっかのおニューなんよ」
「まるで苺のお姉さんみたいでかわいいね。似合ってるよ〜」
「お姉さんは照れるなぁ〜」
ガチャリと扉の取っ手が開く音が聞こえ、誰かが入室してきた。
「皆〜おやつ持ってきたよ〜」
理央が大量の菓子や煎餅が入った茶請けを持って、休憩室に入室してくる。そして、おやつ目当てにやってくるライバー達の輪が乱れないようにお菓子を分別していた。
「沢山あるから、皆さん順番ね〜」
にじさんじ事務所の変わらない日常風景を眺める楓は、苺の髪飾りを撫で、静かに微笑んだ。
ちなみに、二人を追っていた雀達のその後がどうなったのか
「嗚呼あ゙!このままだと、こんがりと美味しくされちゃううう!」
「スギター!?」
「美味しそうな雀だね〜」
猫又おかゆに捕獲され、鳥籠の中でジタバタしていた。
ガヴガヴしてきたぜ。
次の特撮ネタ
-
トッキュウジャー
-
マジレンジャー
-
ゴーオンジャー
-
ゼンカイジャー