嗚呼、トスカよ。慈母の恐ろしき愛に生きよ。   作:ぱる@鏡崎琴春夜

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いや、こんな強力な能力をどうやって本編に組み込んだらいいかと悩んだ結果がこれなんですよ。別に嫌いだから殺して回るとかじゃないですからね?

歌劇トスカはReverse:1999のなんちゃって知識と軽く調べたくらいの知識しかありません。


Civitavecchiaの港への道は閉ざされた

 あぁ、終わってしまいました。何もかも、全て、綺麗さっぱりに! トスカの愛しきお母さまは地に横たわり、息も絶え絶えに、けれどまだ諦めていない様に、相対する憎き大人を睨みつけたのです。あの人からすればまだ終わっていないのでしょう。でも、トスカは分かります。もうこの戦いに勝ち目など無く、悪あがきすらも意味が無いことを。

 哀れと思いますか? 憐憫を持って歩むのですか? 嗚呼、それは余りにも……あまりにも恨めしいッ!!!

 

 お母さま、恨めしそうにトスカを睨むお母さま。申し訳ありません。今すぐ貴女の元に駆け寄って、この身をもって報いを果たしたいのです。ですが、貴女の憎悪と愛が無ければトスカは一歩どころか指先一つも動くことが無いのです。悔しい、恨めしい、歯がゆい。これが憎悪、これが怨嗟ッ!

 

「トスカッ! 何をしているのです! 早く母を助けなさいッ!」

 

 嗚呼、本当に命じられるのですね、ベアトリーチェお母さま。はい、貴女のトスカは、この命、この身、この神秘の全てを貴女の為に使いましょう。

 右腕の骨は折れている。足の骨だってそうでしょう。左の肩は外れ、尺骨はその役目を果たすことはできないでしょう。それを明らかに示し、四肢の至る所がそっぽを向いて痛みを訴えます。だからこそトスカは動けないのです。でも、でもッ! トスカに、わたくしにお母さまが助けよと命じられるのであれば、この痛みを全て忘れましょう。這いずってでも進みましょう。あの好色なる警視総監スカルピアに体を支払う歌劇の女のように!

 

「動くなッ! トスカッ! お前はボロ雑巾のように使い捨てられたんだぞ! まだ、マダムに尽くすというのか!?」

 

 サオリが何か言っています。使い捨てられた? それがどうしたと言うのです。あれはお母さまが望まれました。そして今再び望まれたのです。使い捨てられたとしても今もう一度拾われたのです。これが忠節を尽くさずに居られましょうか! トスカは忠に生き、愛に生きるのですッ!

 

「それ以上近づくんじゃないトスカ、私にこれ以上お前を傷つけさせるな!」

 

 半径5m。それがトスカの神秘の範囲。そうサオリは思っています。確かに、普段はそうでしょう。半径5mの短い範囲。けれどもッ! けれども、それは、無駄だと分かってなお行う足掻きの前に考える必要のないことなのです。最後の最後、一片たりとも残さずに、トスカはトスカの神秘を吐き出しましょう。一生使えなくなっても構いません。いえ、それどころか、一生がここで終わっても構いません。

 全てはお母さまのために。そう、何度聞かされてきたのですか。それを忘れるなんて、優等生だった貴女らしくないじゃないですか、サオリ。

 きっとトスカは地獄へ行くでしょう。分かっています。今その一番の近道を歩んでいるのです。トスカは知っています。もう、Civitavecchiaの港(魂を迎える天国)への道は無いと。それでも、分かっていたところで為すべきことは変わらないのです。

 

Questo è il bacio di Tosca !(これがトスカの接吻よ!)

 

 言葉を一つ唱えましょう。これがトスカの最後の愛の囁きです。たった一つだけ残った死を齎す爆弾。その神秘の塊はトスカの愛で火がつくのです!

 

 灼熱、痛み、衝撃。その全てがトスカの身体と神秘を焼き焦がし、その殺意が早馬のようにあたりへ広がって行きました。トスカの神秘、それは反転。受けた痛みをそっくりそのまま周囲にばらまくのです。痛みの原因とトスカの神秘、相手は二倍の痛みを味合うのです! 嗚呼、人を二度も殺す痛みとは、いったいどのようなものなのでしょう!!!!

 


 

 衝撃が、私たちの身体を吹き飛ばす。脳が揺さぶられ、全身にゾワゾワとした悪寒が走り抜ける。まさか、まだあったなんて思いもよらなかったヘイローを破壊する爆弾。しかし、まだこの思考が行えるのならば私は生きているのか? 陽緑トスカの神秘はカウンターの様なものだが、範囲はそれ程でもない。あの時の私たちは範囲にギリギリ居なかったはずだ。であれば、この痛みと爆風は爆弾本来のものだろうと判断する。そうして身体を起こそうとして、とても重たいことに気が付く。

 

「───まさか」

 

 まだよく開かない目を無理くり開き、現実を直視する。そこには、生気のない顔を私に向ける先生の顔があった。

 

「先生ッ!?」

 

 庇われた。そんな必要は無いのに、私よりもよっぽど脆く弱い先生が私の盾になるなど、無駄であり非効率だ。むしろ私が先に庇っておけばと、幾つもの言葉が脳を右から左へ流れていく。いや、それよりも敵を見据えなくては!

 私は力なく被さる先生を動かし、周囲を見渡す。マダム───いや、ベアトリーチェも、彼女もまた爆風によって吹き飛ばされ、さらに距離ができた。では、自爆を行ったトスカは? 私は彼女がいたであろう場所に目を向ける。彼女はうつぶせで倒れ、ヘイローは消灯している。死んだのか、それとも気絶しただけなのか、それは近寄らずには確認できない。だが、少なくとも無力化はされている。

 

「姫ッ! ヒヨリッ!! ミサキッ!!! 動けるか!?」

 

 スクワッドの仲間を呼ぶと、彼女たちはそれぞれ返事を返した。だが、その声にはやはり元気が無い。それなりのダメージは負ったようだ。しかし、事態は刻一刻を争う。先生の負傷は如何ほどのものか、早く確かめ応急処置を施さなくてはならない。

 幸いまだ、息はあった。何とかして彼を起こし、聖園ミカを助けにも行かなくてはならないのだ。こんなところには居られない。マダムに止めを刺す必要も、哀れなる忠義者に最後の憐憫をかけるよりも、まずはここを離れるべきだ。

 私は、そう判断し、先生を担ぐ、彼の壊れてしまったタブレットは置いておこう、少しでも荷物は軽くしたいのだ。ミサキの肩も借り、ヒヨリは姫とともにこの場を離れた。




くふひひひ……こうしてトスカは死にました。でも、ここに至るまでの筋道と、ここから先のお話、知りたいじゃないですか? えぇ、語らせて下さいませんか、観客の皆様。今宵この幕、一幕で、哀れな小夜啼鳥のトスカは、狂い、愛して、憐れまれて死ぬのです。その筋道を、チヴィタベッキアの港という脱出の最短ルートのように短くはありますが、それでも確かなお話ですから。

ですが、その前に、トスカの哀れな死にざまに心ばかりのおひねりを……観客がひそひそと囁く劇に対する批評の言葉と、拍手のような採点が、最高の報酬でございます。
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