嗚呼、トスカよ。慈母の恐ろしき愛に生きよ。   作:ぱる@鏡崎琴春夜

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なんか彼女に申し訳ないので歌劇トスカをAmazonさんに届けてもらうことにしました。
書き終わった頃には届いていて、内容も見ました。

オペラって面白いですね。


愛おしき我が母君

 どこから話始めましょうか、えぇそうです。初めからにいたしましょう。最初から、全ての始まりから、けれどもワットまで遡るなんてことは致しません。それは非効率です。そう、リヴァプールの大地を鉄輪の車が走った日のように言葉を囀りましょう。

 

 冷たい地面の上をトスカは歩いていました。ヒタヒタヒタヒタと、それ以前の記憶は無いです。ただただ冷たい石の上で過ごし、粘ついた赤色が滴るのを啜っていましたの。

 でも、でも! ある日、トスカは母を得たのです。白い白いドレスに、真っ赤な身体、がれきの傍で横たわるトスカをお母さまの靴が蹴飛ばしたのです。トスカはそのまま地面を転がりました。その時見上げたお母さまの驚いた顔、その顔がゆっくりと笑顔に変わっていくのを見たのです。それは、まさに蕾が花開くように、お母さまが笑ってくださったのです。

 トスカはそのまま拾い上げられて、お母さまの元に連れてこられました。床の冷たさはそのまま変わらず……けれど、雨も風もない部屋の中はとてもとても快適で、これだけでも感謝しきれないのですが、さらにお母さまは食事をくださったのです。施しを与え、トスカはその施しに報いようと思いました。だから、お母さまのお願いなら何でも聞くことにしています。それが報いるということでしょう? それが子供という者でしょう? あぁ、少し脱線しましたね。トスカは、お母さまのお手伝いをいっぱいしてきました。お母さまの研究にトスカは最適だったそうですよ? トスカの神秘は反転、この体に受けたダメージをそのままそっくり周りにまき散らす神秘……研究の内容は難しくてトスカには理解できませんでしたが、お母さまが喜んでくれるなら何でもいいのです。血を喜んで渡しました。ナイフも銃弾も爆弾もいっぱい浴びました。お母さまの研究に協力出来てこの上ない幸福をトスカは貰いました。でも、研究がひと段落して、トスカの役目は亡くなりそうになったのです。

 えぇ、えぇ、えぇ! トスカの良い所は神秘だけですから、必要が無くなればそうもなりましょう。ですが、優しいお母さまはトスカに新しい役目をくださったのです。それは、お母さまを裏切った者の粛清。そして、お母さまの盾になること。もう役目の無かったトスカにそんな役目を与えてくれるお母さまのなんて優しいことか……

 

というわけで、何故貴女の前にトスカが現れたのかは分かりましたか?

 

 椅子の上で縛られた少女は必死に暴れます。えぇ、その生きるのに必死な所はトスカからしても好印象だったのですけれど、お母さまが殺せと申されましたので……貴女を殺します。

「待てよ、なぁ! 待ってくれよ、トスカ! アタシとお前の仲じゃないか!」

 えぇ、貴女にはよくしてもらいました。トスカにご飯をくれたこともあります。お母さまからのお仕事でなんどもご一緒しました。けれども? お母さまの元を去ってどこへ行く気なのですか? 新天地、どこかのブラックマートで旗揚げが関の山でしょうが、貴女の語る夢はとても心地がいいのをトスカも知っていますよ。そして、貴女は現実を見ている人でもありましたから、お母さまの研究資料などを持ち出してしまったのでしょう? それが許されると、本当に思うのですか?

「おいおいおい! お前も不満があるんじゃないのか!? いくら愛してるたって、敵に向かって爆弾と一緒に飛び込ませたり、腹ン中見るために自分で自分の腹切らされたりよ! それのどこにも不満はねぇのか!?」

 ギャンギャンと怯えた犬のように吠えて、騒いで……どれも必要と有効活用の結果でしょう? トスカの神秘の反転は範囲全てに降りかかるのですから、トスカが相手の中で爆弾のダメージをばら蒔いた方が早いです。それにトスカを切れば、切った者は同じように切られるのですから、トスカが自分で切るしか方法はないのです。それを不満だなんて、トスカは悲しいです。嗚呼、先ほどの話も全てお忘れになったのかしら? トスカがいかに幸せで、トスカがいかに恩義を感じているのか……そんなことも分かって下さらないなんて、貴女のことをトスカは見誤ったのですね。ふふっお母さまの言う通りです。トスカは人を見る目が無いようです。

 

 さぁ、おしゃべりはここまでです。お仕事を終えなくてはお母さまは大変に怒ってしまうかもしれませんので。

 トスカは手榴弾を数個手に取りました。椅子の上で跳ねて跳ねて。うふふっ、大変滑稽ですね。───あぁ、そんなに跳ねてしまうせいで倒れてしまいました。まぁ、都合はいいです。トスカはそのまま貴女の上にまたがって、手榴弾のピンを外して、そのまま貴女に抱き着きます。爆発とそのダメージの反転。これで二倍になるなんてとってもお得です。流石はお母さま。効率的な使い方を教えてくださいました。

 さぁ、3.2.1...はい、どかぁん。抑え込んで密着したお腹や胸に鉄片が叩きつけられます。何百何千の欠片の一つ一つを感じています? きっと神秘が無ければ体をぐずぐずの肉塊に変えてしまうのでしょうね。けれどもトスカたちはそうではない。そうでしょう? わかっています、これは下ごしらえ。でもまだ予想より足らないんですね。だから追加としましょう。ポケットから追加の爆弾を用意します。次はダイナマイトです。威力はコッチの方が強いですから。きっと満足いくまで……逝けますね?

「まっ」

 嫌です。トスカと貴女の間でダイナマイトは爆発します。先ほどの鉄片はより深くに食い込みます。ズブズブと、肉を切り、抉って内臓の方へ先が届くのではないですか? 特にお腹なんかは守ってくれる骨も無いですから……ごぼごぼと喉の奥から粘つく赤の泡。どうやら十分に届いたでしょうか?あぁ、でもちゃんと殺したかどうかの証拠が必要でした。このまま爆破でも良かったのですが、お母さまのお願いは絶対なのですから、方法を変えなくては。トスカはナイフにしました。今ならじっくり刺せばきちんと刺さって死ぬはず……。

 

Ti Soffoca Il Sangue ?(血で咽ているのね?)

 

 刃を横に倒し、肋骨と肋骨の間を通して、じっくりじっくり差し込んでいく。その間にも貴女は藻掻いて、喉の奥から湧き上がる赤い粘つきに咽て、震えながら、未だに生きようと動いているわ。それはとっても滑稽で、弱弱しくって、トスカは笑ってしまいそうです。あぁ、先ほどの五月蠅さはどこへ行ってしまったのスカルピア? あぁ、先に逝ってしまったのかしら。そうであったら嬉しいわ。

 

「たすっ、け───」

Muori Dannato ! (死んでくださいっ♪)

 

 ズブリと、ストンと、拍子抜けのするようにナイフの刃は体の中へ入っていく。でも、確かな手ごたえはありました。きちんと心臓を突き刺せたという確信があります。それを証明するように貴女はもう動かないのですから。きっと死んでくださいましたよね?さて、お母さまの元までどうやって運ぶことしましょうか。あぁ、そうか体はもう要りませんね? 頸から上もそれなりに重いのですが、証拠は必要という言いつけを守らなくては。

 

 

 

「トスカ、よくやりました。褒めてあげましょう」

 銀のお盆の上に乗る生首。それは確かに私の資料を持ち出した小娘の顔をしている。目の前の(道具)はこう言っておけば満足するので手間が無くて済む。我ながら良い拾い物をしたものだ。だが、少々気の抜けない場面もある。例えば、今この瞬間だ。

「……何を勝手に近づいているのです!」

 傍らに置いていたショットガンを手に取り近寄ってきていたトスカに撃ち込む。

「許しなく範囲内に私を入れないようにと言ったはずですが、何を勘違いしたのですか?」

 この娘は馬鹿だ。ただ使えるから使っているのを愛情と勘違いして、気持ち悪いことこの上ないが、それでも捨てるのには惜しい。かといって私も巻き込まれる都合上、近寄らせたくはない。

「申し訳ありません、お母さま」

 吹っ飛ばされて呻きながらもまず最初の一言が謝罪とは、なかなか健気と言えるでしょう。しかし、馬鹿なのは変わらない事実です。何度教えても近寄ろうとしてくるのですから……まぁ、色彩を調べるのに使い切れば問題は無いでしょう。そうすればこの馬鹿な娘とも永遠の別れ、今のうちにこき使っておきましょうか。




トスカってこんな感じだったっけという感と戦いながら書いてました。気を抜くとイゾルデが顔を出す。いや、いっそそっちに振り切ってもよさそうですね。
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