ブルアカの先生がレイヴンの火を選択した621だったら   作:寺水 風味

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このお話は、某掲示板で落ちてしまったとあるスレで形成された概念を元に個人的な解釈を足して作られています


初出勤

 

 

 

 

D.U.地区──それはキヴォトスの中心地であり

連邦生徒会やヴァルキューレ警察学校等、公共機関を担う施設が集い、それに相応しくビルが一面を埋め尽くすように林立した場所

 

土地柄、いつもならあまり荒事が起きない区画にも関わらず

今の居る郊外に敷設された大通りには、乾いた発砲音、身を隠した遮蔽物への着弾音、頭上を掠める弾丸の飛翔音

その全てにより途切れることなく埋め尽くされていた

 

<先生!大丈夫ですか!>

"大丈夫、平気だよ"

 

携帯している無線から先生の安否を確かめるリン首席行政官の声が聞こえる

これほど彼女が取り乱している様子を見るのは初めてだが、それも無理はないだろう

今回の戦闘は通常とは異なり、とある大きなリスクが伴っていた

 

(今、ヒナ委員長が居てくれたら、今頃には……なんでこんな事に)

 

遮蔽物の裏、隣で身を潜める大人の気配を背中で感じながらどうしてこうなったかを思い返す

 

 

 

 

 

 

 

 

──時は巻き戻り、連邦生徒会執務室

 

今日、私はただの一生徒としてではなく"ゲヘナ学園風紀委員代表 火宮チナツ"として生徒会長代行の元へと訪れていた

 

仰々しい肩書きとだと思えるものの、そもそも訪問の理由が

『連邦生徒会長の失踪以来、日に日に悪化していく治安についてヒナ委員長の求める回答を連邦生徒会から引き出すため』というもの

業務遂行の要を失った連邦生徒会の実情を考えれば、納得できる答えを得るために仕方ない肩書きだった

 

委員長を始め風紀委員のメンバーは治安維持で手一杯

ゲヘナ内に置ける事件数の増加量を鑑みても、今回で解決の目処が立たなければ風紀委員の処理能力的に後はない

 

たらい回しや歯切れの悪い回答ではなく改善の確約を持ち帰る

 

今さらながら、自分の両肩にかかった責任の重さにため息を漏らしつつ、今の連邦生徒会の指揮が取られている首席行政官執務室へと向かう

 

様々な窓口、エレベーター、各部署の事務室が入ったフロア、大小の会議室が並ぶ廊下

そこかしこで繰り広げられている阿鼻叫喚を尻目に世話しない往来を潜り抜けて数分

うず高く積まれた書類や足取りのおぼつかない行政官達と身体が当たらないよう注意して進んでいたからか、周りに居る数名が同じ方向へ進んでいる事に気がついた

 

顔を見てみれば見覚えのあるものばかり

どうやら、皆さん同じ様な目的らしい

 

ならば最初に部屋に踏み込んだ方が交渉は有利……

脳裏に浮かんだ思惑にちらりと似た者同士(ライバル)の様子を伺うと、丁度自分がしているであろう目付きと同じ瞳がこちらを見ていた

 

そこからは一瞬で、半ば競走の域に突入した順位争いの勢いのまま執務室へと転がり込み

すったもんだの一悶着を経て、あれよあれよと言うまに連邦生徒会長の失踪により失われた『サンクトゥムタワー』の制御権を再取得するため

件の人が任命した『先生』を、新たに創設された連邦捜査部『S.C.H.A.L.Eシャーレ』の入居するビルへと送り届ける作戦に参加することになった

 

何てことはない、ただ近くで暴れている不良から先生を守るだけの簡単な作戦

それで今の問題が片付くな大助かりも良いところだ

 

 

 

 

 

 

 

 

──しかし、いざ蓋を開けてみれば現実は厳しいものだった

 

現在、シャーレが入居予定のビルはどこから嗅ぎ付けたのか連邦生徒会への鬱憤が爆発した不良生徒達が大挙して押し寄せ

私達はそのただ中に取り込まれてしまっている

 

一体どうしてこんなことに

 

そう出かけた言葉を飲み込みつつ

弾幕の切れ間に反撃のチャンスを伺っていると、どこからか投げ込まれた手榴弾が身を隠しているコンクリート製の車止めの真裏で爆発した

 

「……っ!これはまずいですね」

 

その衝撃は並みではなく、破片が音速でコンクリートを叩き、爆炎にいたっては遮蔽物を隔てていても爆風と共にその熱を感じることができる程の威力

 

キヴォトス有数の治安の悪さを誇るゲヘナ学園、ことさらにその治安維持を担当する風紀委員会に所属している身からすればこの程度慣れっこではあるが

その余裕は隣にいる大人の存在によって完全に打ち消されていた

 

"これはまた手厚い歓迎だね"

 

すぐ隣から聞こえてくる声にちらりと横へ視線を送る

そこには一緒に車止めの陰へと身を隠しているシャーレの先生の姿があった

 

羽織られた真新しい白い外套からは、シワのない黒色のワイシャツが覗き

腕につけられた新品の腕章がきらきらと光を反射させ

埃交じりに吹き付ける風は、短く整えられた髪がさらさらと揺れていた

 

そんな先生は、話によればキヴォトスの外から来た方らしい

 

自分が所属する自治区の日常を考えれば信じられないが

キヴォトスの外で生まれた人々は、銃弾を一発でも被弾してしまえば命に関わる傷になるのだという

 

……だというのに、何故だろうか

目の前に居る大人、『先生』は微動だにせず

飄々とした態度で不良生徒の銃撃をやり過ごしていた

 

「先生、ここは危険です!今すぐ退避しましょう!」

 

普段の治安維持活動で幾度となく体験してきた銃撃戦

 

いつもなら考えもしない生命への危機が、今はどうしようもなく脳裏にちらつき

その事実が急に恐ろしくなって、気がついた時にはその恐怖から逃れるように先生の肩を揺すっていた

 

"チナツ、落ち着いて。今逃げると蜂の巣になっちゃうよ"

 

周りから銃弾が跳弾する音が鳴り響くなか、先生から返ってきたのは

あっけらかんとした返事と、困ったような笑顔だった

 

まるで他人事のように緊張感を感じないそれに言い返そうと口を開くも、言葉に詰まる

 

冷静に考えてみれば当たり前だ

この弾幕であれば、遮蔽物から一歩でも外に出た時点で被弾は避けられないだろう

 

「そう……ですね……」

 

緊張を吐き出すように深呼吸をして、ゆっくりと先生の肩から手を離そうと掌に意識を向けると

自分の思っていた数倍の力で先生の肩を掴んでいたことに気がついた

 

慌てて手を離すのとほぼ同時に、反射的に謝罪の言葉が漏れる

今冷静になって思えば先生の困り顔も、原因は必死にしがみついた自分にあったのかもしれない

 

それを認識した途端

風紀を守る者の端くれとして、最も必要とされている時に十全な行動を取れない未熟さ、そして現状をどうすることもできないもどかしさが急に実態となって現れ身が竦み

いつの間にか未だに強ばる感覚が残る右手で、共に行き場を失った感情を覆い隠すように風紀委員の左腕に留めた腕章を強く握りしめていた

 

ヒナ委員長が居てくれたら、今頃きっと──

 

 

"さてと、どうしようか"

 

頭の中で、一番頼りになる人の背中を思い出していると

隣から落ち着き払った声が聞こえた

 

気がつくと、隣で身を屈めていた先生がいつの間にか完全に車止めへと体を預け地面へ腰を下ろし周りを見渡している

 

何かを探しているようすだが、辺りには不良生徒の攻撃で生じた瓦礫が散らばっているだけだ

 

"お、これは丁度良いものが"

「先生……?あの、何を……?」

 

不思議に思って先生を見つめていると、その視線がすぐそばの道端で炎上している車両に目が止まったのに気がついた

 

不可解な行動を前に声をかけようとするも、先生は息つく暇もなく姿勢を低くしたまま、器用に遮蔽物の陰を縫い車両に近づくと

何かををもぎ取って素早く隣に戻ってきた

 

「……それは?」

"これ?サイドミラーだよ。これがあれば安全に向こうを見れるでしょ?"

「は、はぁ……」

 

突発的なその行動を腰の抜けたままただ唖然と見ていることしかできず

取ってきた獲物を無邪気にヒラヒラと掲げる先生に対して、困惑でうまく返事を返すことはできなかった

 

"じゃあ早速、配置はどんなもんかな"

 

あまりにも拙い会話にも関わらず先生は相も変わらず笑みを浮かべたまま話続け

こちらの胸中を知ってか知らずか、先生は慣れた手付きで遮蔽物からサイドミラーを覗かせると

相手の様子を伺いながらうんうん唸り声をあげ始めた

 

"うーん……なるほどね"

「あの……先生?」

"どうしたの?"

「その……失礼かもしれませんが、もしかしてこういった状況に慣れていらっしゃいます……?」

 

思えば先生はこちらの心配もどこ吹く風といった様子で戦闘に巻き込まれてかららずっと平静で居続けていた

それは話に聞く『キヴォトスの外平和な世界』からやって来た人とは到底思えない振る舞いだった

 

外の世界の認識が間違っているのか

先生の度胸が据わっているのか

もしくは戦闘訓練を受けるような経験があったのか

 

次々浮かんでくる疑問をそのまま一緒くたにしたような質問を投げ掛けると、器用にサイドミラーを操っている先生の手がピタリと止まった

 

"あー……まぁちょっとだけ、かな"

 

そう言うと再び先生はサイドミラーを動かし始めた

 

暫くの間沈黙が流れる

 

先生の言う『ちょっと』に込められた意味を理解するには、返事の言葉数は少なすぎた

 

もちろん更に詳しく話を聞くこともできるのだろう

短い間ではあるも、先生と交わしたやりとりを思えばそう思える

 

しかし、節々から感じる引っ掛かりがそれを行動に移すことを躊躇させた

 

「先生、あの──」

 

もしかして、外の世界もキヴォトスとあまり変わらなかったりするのだろうか

 

先生のこれまでの様子を咀嚼して、浮かび上がったそんな疑問を投げ掛けようとするも

出かかった声は、複数の駆け寄る足音により飲み込まざるを得なくなってしまった

 

「先生!ご無事ですか!?」

「スズミさんは先生の保護をお願いします!私は撤退の援護をします!」

「了解です!」

 

不良の突撃かと急いで愛銃を握るも、足音の方角からは見慣れた人影が近付いているのが見えた

 

どうやら不良集団の強襲によって分断されていた仲間、もとい今回の騒動に巻き込まれた被害者一同

 

ゲヘナ学園に並ぶ三大学園の一角『トリニティ総合学園』の治安維持組織である正義実現委員会、副委員長の羽川ハスミさん

 

同学園の自警団に所属している、守月スズミさん

 

そして残り一つである三大学園『ミレニアムサイエンススクール』の生徒会であるセミナー所属、会計の早瀬ユウカさん

 

その三人が合流したようだ

 

"──ユウカ!伏せて!!"

「え?」

 

治安維持に関わる二人に遅れ、ユウカさんが駆けつけたその瞬間

 

合流を果たせた安堵から仄かに緩んだ空気を先生の鋭い声が切り裂き

それを向けられたユウカさんから惚けた声がこぼれると同時に、複数の銃弾が頭上を切り裂き彼女の方へと進んでいくのを感じた

 

本来ならばユウカさんはミレニアムサイエンススクールで生徒会業務を行うセミナーで会計を担当する非戦闘要員

トリニティの二人とは違って戦闘慣れしていないのが仇となり、油断しきった彼女へと銃弾は吸い込まれていく

 

「いっ、痛っ!痛いってば!──って、ちょっと!?これ違法JHP弾じゃない……!」

 

鈍い音と共に銃弾を数発被弾したユウカさんが、逃げるように遮蔽物の陰へと転がり込み

被弾箇所を押さえながら憤りの声をあげる

 

JHP弾、いわゆるホローポイント弾は一般的な銃弾であるメタルジャケット弾とは異なり

着弾時に変形することを考慮された形状で、命中時により効率的に運動エネルギーを人体へと伝播させることを目的とした弾種だ

 

それを証明するようにユウカさんは腹部を押さえて踞っている

いくら銃弾が体内へ侵入しないとはいえ、重く響いていくような独特の痛みがあることには変わりはない

 

"動かないで、安静に"

「あっいえ……特に怪我とかは無いんで大丈夫──って、ちょっ……先生……ち、近……」

 

そんなユウカさんの元へ先生が近寄り、直ぐ側で膝をつくと

慣れた手付きで横へと寝かせて上着を脱ぎ始めた

 

たかだか数発の被弾にしては少し大げさな処置にも見え

それを疑問に思っていると、おもむろに先生はユウカさんに対して手を伸ばし──

 

「ッ!?」

 

──腹部をまさぐり始めた

 

あまりにも一瞬の出来事で、誰もその行動を止めることはできなかった

 

唖然としてその光景を眺めていると、先生が真剣な顔とは対照的にユウカさんの顔がみるみると赤くなっていくのが分かる

 

「ちょっ……どこ触って──」

"出血はしてない……防弾繊維か?いくら神秘があるとはいえこの薄さじゃ皮下出血とか──"

 

我に返ったのかユウカさんが先生の腕を払い除けようともがくも

それよりも早く先生は、淀みなく次の行動に移っていた

 

"…………あっ"

 

勢いよく捲り上げられた衣服の下から、至って健康な身体が顔を出す

強いていえば被弾したと思われる箇所がすこし赤くなっているくらいだろうか

 

それを目にした先生は暫く硬直した後、目に見えて顔色が青くなっていく

 

"…………ユウカ。違うんだ"

 

掴み上げた服の裾をゆっくりと元に戻し、一呼吸おいて先生が口を開いた

 

"私が居た場所だと、こういう時はちゃんと確認しないといけなくてね……?条件反射というか……"

 

いつの間にか正座をしている先生が懸命に説明を試みているようだが

顔を伏せたまま、ゆっくりと起き上がったユウカさんの緩慢な様子を見るに、どうやらその言葉は耳には届いていないようだった

 

"ほら、みんな丈夫って言ってもやっぱり心配で──"

 

そんな状態でも先生は諦めずに言葉を投げかけ続けるも

ユウカさんと顔が合った瞬間、一切声を発しなくなった

 

理由は単純、混乱しきった様子で耳まで真っ赤に染まったユウカさんが音もなく右手を振り上げたからだ

 

「~~~~~~////!!」

"あっ、ちょっと待っ──"

 

ちらりとトリニティの二人へと視線を送り様子を見る

 

悪意がないとはいえ、やはり年頃の乙女に対する遠慮の無さは流石に擁護は難しいのか、ハスミさんは苦い顔をしながら額に手を当て

スズミさんは深いため息を吐いている最中だった

 

あぁ、これはもう止められない

 

二人の反応を見て、全てを諦め

せめてもの情けとして顔を伏せ、心の中で先生の不憫さを嘆く

 

「ふん!」

"ぶぇっ!"

 

目を瞑ってからそう間を置かず、乾いた音が一発と先生の情けない声が、銃撃という喧騒の間を縫ってキヴォトスの日常に溶け込んだ

 

 




定期的な更新を目指したいところではありますが、一週間でこれだけしか書けない現実にわりと絶望してます

毎週更新とか本当に人間なんですかね……?
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