ブルアカの先生がレイヴンの火を選択した621だったら 作:寺水 風味
"じゃあ、作戦を伝えるよ"
じんじんと痛む頬を擦るのを止め、目の前を囲む生徒に目配せする
若干1名目を合わせてくれないが、なんとも言えない神妙な表情を見るに
今はそっとしておくのが最良なのだと信じて話を進める
"とりあえず今の目標はシャーレに到達すること、そのためにはあの集団をどうにかしないといけない訳だね"
そう話ながら背後を親指で指し示す
指の先には遮蔽物越しに真っ直ぐ通りが伸び、その奥に目的地のビルまでが一望できていた
そんな通りの中すがらに柄の悪そうな一団は陣地を構築し、大通りを占領していた
リンが言うには不良集団らしいが、外の世界基準だと立派な武装集団並みの戦力はあると見た方が良いだろう
"相手はおおよそ40人、ほとんどがアサルトライフルかサブマシンガンで武装してる。今は小康状態だけど顔を出せば……"
向こうの配置を思い出しながら、用済みになったサイドミラーの根本を持って遮蔽物からおもむろに持ち上げる
すると間髪いれずに今までの静寂が嘘のような弾幕が叩き込まれ、一瞬にしてサイドミラーはスクラップに成り果てた
"こうなる"
手に握られたサイドミラーだった物をみんなの前に差し出すと、分かりやすく顔がこわばっていくのが見てとれた
「……やはりこの人数差では無理があるのではないですか?安全策を取って増援を待ってから反撃に出た方が……」
やっぱり痛いものは痛いんだな、などと頭の中で考えているとスズミから疑問の声が上がった
その真剣な眼差しを前に、腕を組み小さく息を吐く
"そうしたいのは山々なんだけど、向こうの目的は時間稼ぎ。だからこっちに攻めてこないし、そうである以上は悠長なことは出来ないんだ"
リンの情報を元に作戦を立案するために組み立てた理屈を説明する
戦況はあちらの方が数的に有利
しかしやろうと思えばこちらを無力化するのは容易なはずなのに、ある一線からは頑なに前に出ることはない
いわゆる防衛戦の構えを見せている
防衛戦を選択した理由はいくつかあるのだろうが、結果的にはシャーレ
厳密にはビルの地下に存在する連邦生徒会長が残した物品の危機であることに変わりはない
そのことにスズミも納得してくれたようでこれ以上の質問が返ってくることはなかったが、改めて見渡した皆の顔は暗かった
眼前には圧倒的に有利な敵、そしてそれを今から相手にしなければならない
無策であればもはや負け戦に付き合わされると言っても過言ではないのだから無理もないだろう
そう、だがそれは『無策であれば』の話
ルビコンの火以降、弱体化したベイラムやアーキバスの座を狙う企業達による泥沼の争いを経験した身として既にいくつかの策は浮かんでいる
"それに、さっきの弾幕もこっちにとっては有利だよ"
「有利……ですか……?」
"そう、見てもらった通り少しでも身を晒せば全力で火力を投射してくる。それこそ過剰なくらいね"
未だに不安そうな生徒達を安心させるため、今までの戦闘で感じた相手の弱点を告げると、皆を代表するようにハスミが眉をひそめて怪訝な声をあげた
どうも信じられない、という様子だが
その疑問は期待どおりのものであり、未だ不安そうな3人に胸を張って言葉を続ける
"多分だけど、向こうには明確な指揮系統がなくて目につくものを片っ端から撃ってるんだと思う。気を引くことができれば自ずと隙が生まれるはずだよ"
「なるほど、しかしそうなると囮役が必要になると思いますが……」
言いたい事を察したのか、ハスミは感心した様子で次の言葉を待っている
理解が早いのは大変助かったが、ハスミの質問には少々答えずらい事情があり、答えを言い淀んでしまう
なにを隠そうこの中で一番囮役に適切なのは──
"それは、ほら……"
「え、私ですか!?」
恐る恐るユウカへと視線を向けると、目があったユウカは面食らった様子で自分を指差した
こちらの提案が信じられないといった様子で訴えてくる目線に無言で首を縦に振り答えると、言葉にしたくても声が出ないのか何度も口をパクパクさせて尚も抗議を続けようとしていた
そうしてユウカの言葉を待っていると、不意に生まれた静寂に無線機からノイズ響いた
<ユウカさん、たしかミレニアム製のシールド発生装置をお持ちでしたね?>
「代行!?いや、持ってますけど私こう見えてもミレニアムではそこそこの待遇で……」
無線越しにリンから無茶振りをされたユウカが、慌てた様子で言葉を並べる
身を隠している間、リンが無線越しにここに居る生徒がどのような戦術を好んでいるのかを教えてくれた
その中で気に留まったのがユウカの持っているガジェットだった
聞けばそれは銃弾を弾くことが可能な程の出力を持つシールドを展開することができる代物らしい
それを聞いたとき、ここに居る面子だけでシャーレへと到達することは可能だと直感的に感じた
つまり、この話をした時点でユウカの囮役への割り当ては確定事項だった訳で
現在進行形でつらつらと列挙されているユウカの説得は、既定路線のものだということを意味していた
"ユウカ、私もついてるから安心して──"
「……」
"──ごめんなさい"
押し付けるような真似をしてしまったことに申し訳なさを感じ、せめても元気付けようと声をかけるも
ユウカから凄まれてつい縮こまる
ついさっき無神経なことをしてしまったのだから無理もないだろう
そう自分の不甲斐なさを悔いていると、ユウカが深いため息と共に肩をがっくりと落とした
「…………あーもう!分かりましたやりますよ!ただ、その分かかった費用はきっちり請求しますからね!」
"えっ本当?ありがとうユウカ!"
「だから近いですって!」
半ば諦めて別の案を練ろうとしていると、ユウカが渋々といった様子で了承してくれた
予想外の返答に思わず飛び付く勢いで手を取って腕を振ると、ユウカはまたそっぽを向いてしまった
レッドガンをはじめとした傭兵相手ならこのくらいの距離感が適切だったのだが、年頃の子供相手には少々過激な距離感らしい
「……では、囮役はユウカさんにお任せするとして。具体的にはどうするんですか?」
"あぁ、ごめんごめん"
手を離しても相変わらず恥ずかしそうにしているユウカを前に、これからの距離感を考えていると
半ば呆れ顔のチナツから話の続きの催促がかかった
そのじっとりとした視線を受け、話が逸れたことに謝りつつ姿勢を正し
一呼吸おいて口を開く
"とりあえず相手は有利だと思って油断しているはず、だからまずはスズミに手榴弾を投擲して貰ってこっちが先手を取る。でもそれくらいじゃ相手は怯みはしないだろうね、むしろ刺激になってより攻撃が過激になると思う"
一番攻撃が通りやすい初動はやはりできる限りの大火力をぶつけたい
ならばそれを今実行するにはスズミの持っている手榴弾が適当だろう
"そこでユウカがシールドを展開して、射線を釘付けにする。恐らく勢い任せに撃ってくるはずだからハスミとチナツはその隙をついて出来るだけ相手を無力化して"
各々の役割を伝えながら様子を伺うと、先程までの暗い顔とは打って変わり
皆やる気に満ちた表情になっていた
"そして、ある程度相手を減らしたらスズミが突撃、それまでには相手も怯んでるはずだから近寄る影があればそれだけで総崩れになるはずだよ"
スズミが頷きながら、抱えている銃を握りしめる
十分に準備するとはいえ突撃という行為は群を抜いて危険な行動であることには変わりない
それを承知の上で首を縦に振ってくれるのは、さすがは自警団員というべきだろうか
"ただ、注意するべきなのはここから1時方向、距離700m位と11時方向500m位にそれぞれ一人づついるスナイパーだね、数は不明だけど大雑把に正面700m以遠にもまだいると思うからハスミは見つけしだい最優先で対処して"
戦場において狙撃されるかもしれないという懸念は、行動するに際してそれが存在する時点で大きな障害になる
そんな障害はさっさと潰してしまいたかったため、発砲音と着弾跡から経験上で断定した狙撃主の位置を伝えると
ハスミは少し驚いたような顔をして数回瞬いた後、直ぐに頷いて了承してくれた
"作戦は以上だよ、戦闘中の細かい指示は随時するから安心してね"
「──先生の指示に生徒が従うのが当然なのはそうなんですけど……」
「……やはり後方で待機されていた方がよろしいのではないでしょうか?」
「私もそう思います、わざわざ危険を冒すようなことをする必要はないかと」
この後も戦闘指揮をするために居座る気でいると、みんなから心配する声が上がる
こういうは状況は感情を取り戻した後も幾度となく経験してきたが、正直なところ今回は少し特殊だ
キヴォトスに住む生徒達にとって銃は命を脅かす武器ではなく
日常にありふれた生活必需品の一つにしか過ぎない
現に銃弾が仮に私に命中した場合
それは間違いなく肉体へと大きな損傷を与え、ほぼ確実に生命を脅かすことになるはずだが
彼女達にとっては「痛い」の一言で済む程度の危険度でしかないことはこの目で確認した
そのためか、こういった状況に陥った場合
外では必ずあった独特の緊張感が希薄であるように見える
そしてその事実は恐らく今後、自らにの身に生命の危機という形で降りかかるかもしれない
"生徒が危険な目にあっているのに、先生が何もしないわけにはいかないでしょ?"
しかし、それは『責任と義務』を前にしては些細なことにすぎない
そもそも闘いに身を投じ続けることしかできなかった身だ
今更人生が終わるかもしれないという理由でここから退くことはありえなかった
既に自分の中で出ていた結論を何でもないようにそう答えると
皆が顔を会わせて黙りこくってしまった
<……分かりました、それでは先生に指揮をお願いしましょう>
「しかし……」
<危険は承知しています、しかし今、先生抜きでシャーレを奪還するのは困難です>
静けさに支配された会話に、無線からリンの声が響く
私をここに留めるというリンの判断に、ハスミが反論しようとするも
リンはそれを許さず、ハスミの話を遮るように無線を被せる
<先生は連邦生徒会長が任命された方です、私はそれを信じます>
続けざまに無線から聞こえるリンの声は、ノイズ混じりの音声でも分かるほど震えていた
彼女もまた、私の身を案じてくれている
キヴォトスは発砲音が絶えないとはいえ、戦場ではない
ここで銃を握るのは兵士ではなく、ただ青春を送る子供達だ
もし、ここでシャーレを失えば、その後に訪れるのは力が正義となる無秩序に他ならず
それはキヴォトス全域が泥沼の戦場になることを意味していた
それは是が非でも避けなければならない
その想い汲んでくれたのか、リンは不安を飲み下して全てを託してくれている
"……決まりだね"
ならば全力で答えなければならないだろう
ここに居るみんなには面倒をかけるが、それでも優秀な生徒達だ
きっと無事に作戦を遂行できる
"じゃあ、行こうか"
異論がないことを確認し、立て膝へと姿勢を直して深呼吸すると
今までも死の淵に立った時、幾度となく経験してきた澄んでいくような感覚が吐いた息の後を追うように沸き上がってきた
今や再手術を受け、通常の感性を取り戻した現在では恐怖を抱かないと言えば嘘になる
強化された肉体や機能もほぼほぼ捨て、一時に比べればめっきりと肉体的にも弱くなってしまった
しかし、それでも歩みを止められない理由がある
もう返すことが叶わない恩を、せめて誰かへと与えるために
生徒に憎悪や絶望とは無縁な世界で、その可能性を掴む未来を潰えさせないために
私は歩みを止める訳にはいかない
先生には覚悟ガンギマリであってほしいんですけどちょっとくどすぎかもしれないと思う今日この頃、みなさんいかがお過ごしでしょうか
私はスレに投下していた5万文字程の貯蓄にたどり着けず絶賛悶絶中です
このテンポ感で書き始めた最初の自分が憎いですが始めたもんは仕方ないんでのんびりやっていきます
次回の更新は早くて来週遅くて再来週です