人類史初の魔法使い(仮)   作:ねうしとら

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調子に乗った。が、反省はしていない

 異世界転生。それは、輪廻転生という概念を基にした創作におけるジャンルの一つである。前世の知識を持ったまま、別の世界――大体は科学技術が発達していないファンタジーの世界――に転生し、強くてニューゲーム。あるいは怠惰に過ごしてきた前世の贖罪や抑圧されてきた世の中からのやり直しというテーマで描かれることが多い。

 

 俺はそんな異世界転生をこの身で体感した。生まれなおすという感覚は筆舌に尽くしがたい感覚だったが、ここが地球ではなく俺は赤ん坊になっていたのだと知った時はテンションが最高潮だった。

 

 よっしゃ!異世界に転生して知識チートやら転生特典(あるか分からない)やらを使って有象無象共をぶっちぎってハーレム築くで!

 

 なんてあまりにも低俗な俺の願いは一瞬にして崩れ去った。

 

 そもそも、科学技術が発達していない前世でもレオナルドダヴィンチのような天才は中世でも誕生していたし、科学が発展していないからと言って一人の凡人が介入できる余地などないことを知った。

 それに加え、俺に実践的に活用できるような現代知識は皆無だと言うことを思い知った。所詮はインプットだけしてアウトプットをしてこなかった、先人の知恵を詰め込んだだけで応用性皆無の俺の知識量では、テンプレ異世界俺TUEEEEEなんてできるはずもなく。

 

 やべ、考えると悲しくなってくる。

 

 そんなこんなで、俺は一度の挫折を経験した。誕生一年のことである。しかし、前世の知識が生かせないのならせめてこの世界特有の何かで頭角を現せばいいだけのこと!

 

 と、思考を切り替えた。

 

 そう、ファンタジーの世界には必ずと言って良いほど存在する人類の憧れ『魔法』である。

 異世界転生物の定番と言えば、前世の科学知識を生かした転生者ならではの視点から繰り広げられる魔法で、現地人を圧倒するという物が挙げられるだろう。

 

 そうだ。知識チートがダメなら魔法で。転生者として魔法で……!

 

 そんな希望は俺が五歳となったある日唐突に潰えることとなる。

 俺が生まれた家はかなりの権力者であり、この国の伯爵の位を戴く人。そんな家の長男として誕生した俺は、無駄に造形が整っている両親の下蝶よ花よと大切に育てられた。

 

 当然ながら、そんな俺には専属の付き人が多数おり、執事から侍女まで幅広い。血の繋がった両親よりも従者のフィンの方が関わりが深いほどだ。

 

 蝶よ花よと大切に扱われている長男の俺は、屋敷の敷地外に外出することは許されず、この無駄に広い虫かごで退屈な日々を過ごしていたのだ。世間一般で言葉を流暢に話しても違和感がない年齢まで、俺は無知なままファンタジーあるあるである魔力を知覚できないかと試行錯誤していた。

 

 そして、比較的言葉を話しても問題ないであろう五歳の時に、俺は信頼する従者であるフィンに聞いた。

 

「フィン。魔法ってあるのかな?」

 

 この時の俺はあると疑っていなかった。何を馬鹿なと思うかもしれないが盲目になった人間というものは大概人の話を聞かない。どこまでも凡人である俺は話のきっかけとして、そう言う話題を投げかけたのだ。

 

 すると、何を勘違いしたのか――いや勘違いしていたのは俺の方なのだが――フィンは俺のことを御伽噺を真に受けた子供だと思ったようで、なんとも慈愛と思いやりに満ちた瞳で諭すように言った。

 

「そうですね。あるといいですね」

 

 この一言で俺の幻想は跡形もなく崩れ去った。この五年間信じ続けていた魔法への憧れを壊すほど、フィンの言葉には様々な意味が込められていた。

 

 慈愛、愛おしさ、微笑ましさ、そして何より俺の夢を壊さないようにと気を遣った様子が感じられたのだ。

 その言葉に、俺は否が応にも理解せざるを得なかったのだ。そもそも、魔法が本当にあるのであれば、無いなどという嘘をつく必要などないのだ。

 

 俺はこの時初めて現実という物を知った。

 

 晴れて有象無象の仲間入りである。

 

 だが俺は諦めきれなかった。現実逃避とも言う。

 とは言え、現実として魔法が存在していないと言うことを知ってしまった俺は、普段我流で特訓していた魔力(笑)の知覚をアホ臭くなってやめてしまったのだ。

 

 端的に言えば萎えていた。これだけ心の中で啖呵を切ったというのに、俺には大した転生チートなどなかったのだ。なんとも惨め。なんとも愚か。なんだか不特定多数の人間にこの滑稽な姿を笑われているような感覚がして、俺は一年ほど意気消沈していた。

 

 勿論、最初の頃は諦めきれなかったのもあって家の人間に片っ端から魔法について聞いて回ったものだ。だが、誰も彼もがフィンのような反応をするのだ。流石の俺でも色々と察するというものである。

 

 この世界に魔法はありません!終わり、閉廷!

 

 オタクの自意識過剰が空回りした結果がやる気の低下とは何という喜劇。最早笑いものにもならないだろう。

 

 そんなこんなでこの五年間のバイタリティを一瞬にして失った燃え尽き症候群な俺が活力を取り戻したのはそれから一年経ったある日のことである。

 

 これまでの生き生きとした様子から一変して、なんだか落ち込んでいる様子の俺を見かねてか両親が俺を街に連れて行ってくれたのだ。とは言っても、馬車の中から移り行く街並みを眺めるという気分転換程度のものであったが、生まれて初めて異世界の街並みを見ることができると言うことで俺のテンションは急上昇。

 

 我ながらチョロいやつだと思うが、人間というのは大体こんなものだろう。

 

 そんなこんなで、護衛を引き連れ異世界の街並みを観察した。 

 産業革命以前の自然が豊かだった地球ってこんな感じだったんだろうか。みたいな感想を胸に抱きつつ、中世ヨーロッパ風の世界に俺は目を輝かせていた。

 

 唯一の問題点は、俺が乗っている馬車が通るたびに人々が道を開けていくことだろう。この時代なら権力者の言うことは絶対なのだろうし、当然と言えば当然なのだろうが如何せん罪悪感を感じるのだ。しかし、同時に優越感も湧き出てくるという複雑な心境であった。そうして、リフレッシュしている中、突然事件が起こった。

 

 俺たちが乗っていた馬車が何者かに襲われたのだ。前世でも経験したことのない衝撃が俺の身を襲い、上下左右が分からなくなるほどの揺れの中、辛うじて俺の瞳に映ったのは、俺が恋焦がれていて求めてやまないファンタジーだった。

 

 ウェールズの赤き竜。

 

 そんな単語が俺の脳裏をよぎった。

 十メートルはあろうかという巨体に、全身を覆う鱗。返り血を浴びたような爛々とした赤い肉体は、太陽に照らされていることも相俟って、神話の光景なのではないかと錯覚するくらい神秘的だった。

 

 俺が乗っていた馬車はかの竜の羽ばたきによって発生した気流によってバランスを崩しただけだったのだ。

 

 襲われてすらいない。竜にとってはただ通りがかっただけに過ぎなかった。

 

 俺はその様子に目を輝かせて馬車から身を乗り出す勢いでかの竜を一瞬たりとも見逃すものかと目を皿にして見つめた。そんな俺を危険だからという至極真っ当な理由でフィンは押さえていたが、その時の俺はそんなことなど一切気にせずにただ現実となった空想に手を伸ばしていた。

 

 周りの護衛や大人たちは、「なんでこんなところにドラゴンが……」だとか、「母ちゃん、親不孝な息子でごめん……」なんて言いながら絶望にまみれていた。実際、竜はすぐに俺たちに対して攻撃を仕掛けてきた。

 

 死が目前に迫っていたというのに、その時の俺は恐怖も絶望も感じられなくなっていた。その時の俺は洗脳状態に近しかったのだろう。正常な感覚が麻痺していた。

 

 二度目の人生の幕が閉じようとしていたその瞬間、小さな影が竜の前に現れた。それは、一人の人間だった。後から聞いたら、彼は冒険者という職に就いている王国最高峰の人間らしい。

 

 そんな彼は、竜の前に立つとおもむろに背中に担いでいた太刀を引き抜いた。

 剣というにはあまりに大きく太く大雑把なそれは、剣というより盾なのではないかという疑問を俺に抱かせながらも、彼はそんな何キロもありそうな太刀を軽々振り回し、人間とは思えない超人的な身体能力を駆使してかの竜に向かっていった。

 

 その隙に、俺たちはその場から離れ屋敷に戻ってきたのだが、俺はあの光景を思い出してはずっと思っていた。

 

 ファンタジーあるやんけ!!!

 

 おい!誰だよ魔法が無いなんて言った奴!あれのどこが人間やねん。てかドラゴンもおるしドラゴンと渡り合える人間もおるやんけ!一騎当千の英雄がおるやんけ!

 

 そうして、俺は六歳にしてかつてのバイタリティを取り戻した。

 

 そうだ。ないというのなら作ればいいだけ。あんなに物理法則を無視したような戦いを繰り広げる人間がいる世界で、魔法がないなんてあり得ない。まだ世に出てきていないだけだ。そうに決まっている。

 

 そうして、俺の今世での目標は魔法の発見、または開発となる。

 

 ファンタジーがある世界に転生したのなら、誰もが夢を見ることができるということだ。何が何でも魔法を見つけてやる。

 

 そんな思いを抱き、俺は歩み始める。六歳での転換期であった。

 

 

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