前世とは比べ物にならないほどの身体能力を駆使して、生物兵器もかくやというほどのファンタジー生物と戦闘を繰り広げていた冒険者を見た。
そして、確信した。この世界はファンタジーだと。前世ではあり得なかったことが現実になっているのだと。だが、釈然としないのがこんな世界でも魔法は存在しないと言うことだ。
人類の歴史上、まだ発見されていないものというのはまだまだ沢山存在する。魔法もそれの一種なのだろうと考えることは容易だ。
俺は魔法が使いたい。だが、一年前のあの日、魔法が存在しないと告げられた日の絶望感を思い出すとあるかどうかすら分からない存在を追い求めることに消極的になっていた。
しかし、やはりその程度で俺が歩みを止めることはない。これから始める努力が全て徒労に終わるかもしれないという恐怖があるのなら、まずは少しずつ進めて行けばいいのだ。ギャンブルでまずは百円から賭けるように、希望が無いのであればすぐに損切りできるような労力で手掛かりを掴む。当面の目標はこれだろう。
では、魔法が存在していたとしてそれはどのようにすれば人類が扱える技術として確立することが可能なのか。
俺が現在持ち得ている情報は、あのバカげた身体能力を持っていた王国最高峰の冒険者とその冒険者相手に一切引けを取っていなかったドラゴンだろう。
そこから仮説を立ててみる。
仮説1.この世界の人間は、地球の人類と異なり身体能力に上限は存在しない。
この仮説はそもそも人類という種として、俺が知っている地球の人間とこの世界の人間とでは隔絶したスペック差があるという説だ。
まずはこの仮説が正しいのかどうかを確認することが優先だろう。
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「あの冒険者はどうやってあれほどの実力を身に付けたのか。ですか……」
最初に俺が頼ったのは、我らが頼れる従者フィンである。彼になら何を聞いても答えてくれるだろうし、変に秘密にする必要もない。
「うん。あのドラゴンと渡り合えるほどの実力。男なら憧れるものでしょ?」
「坊ちゃんはどこでそのような言い回しを覚えて来るんでしょうか……」
「まあまあ、女は秘密を着飾るものだよ」
「……たまに坊ちゃんが分からなくなりますが、そうですね。血のにじむような努力をしていると言うことは聞いたことがあります」
ふむ。血のにじむような努力ね。なんとも漠然としているが、魔法的な何かで身体能力を底上げしているようではなさそうだ。
「あまり詳しくはありませんが……」と付け加えたフィンの様子を見て、俺は一つ聞いてみたいことを思いついた。
「フィンは、一生を懸けて血のにじむような努力すればあれくらい強くなれると思う?」
そもそも、人類としてのスペックが皆あれだけの可能性を秘めている世界なら、俺のこの質問に対しての回答は恐らく『なれるかもしれないし、なれないかもしれない』というものになるはずだ。少なくとも、皆あれだけの潜在能力を持っている世界なら『絶対に無理』とは答えないはずだ。
前世で例えるなら、俺がした質問は『経済的な観点を一切無視して、君は毎日血のにじむような努力を続ければ、オリンピックで金メダル取れると思う?』というようなものだ。競技は得意なもので良い。
この問いに『絶対にできる』と答える人間はいないだろう。しかし、『まあ、銅メダルくらいならいけなくもないんじゃないかなぁ……?』みたいな反応をする人は沢山いるだろうことが推測できる。そこまでいかずとも、出場程度なら行けると考える人は多いはずだ。
そんな思惑を秘めた俺の質問に、フィンはこう答えた。
「え?いや絶対無理ですよ。逆立ちしたってできっこないです」
「ほんとに?金銭的な理由とかは一切除去して考えても?」
「まあ無理ですね。想像できないです」
……これで確信した。あれほどの実力の持ち主はこの世界基準でも人間を辞めているという認識である。つまり、何らかの外的要因が作用している。
仮説1.この世界の人間は、地球の人類と異なり身体能力に上限は存在しない。
この仮説は棄却された。だが、新たに見えてきたこともある。
この世界の人間の上限値は恐らく前世とそう変わらない。これはこの世界と前の世界を経験した俺の感覚としても正しいものだと思う。しかし、この世界には上限を突破できるだけの何かがあることは明白。このことから、俺は新たな仮説を立てる。
仮説2.身体能力の上限を取っ払うことができる『何か』こそが魔力である。
当分はこの仮説に則って調査する必要があるだろう。
この仮説の調査には、実際に冒険者に話を聞く必要があることと、俺自身が体験する必要もあるだろう。
あの領域に到達することができるかは分からないが、これから俺自身も実力を身に付ける必要があるかもしれない。仮説2が正しかった場合、魔力の存在を知覚するには身体能力の上限を取っ払う必要がある可能性も捨てきれないからな。
と言うことで、俺の人生における大目標は『魔法を開発すること』で、現在の小目標が『人の域を超えた身体能力を手に入れること』となる。
それに、あれほど超人的な身体能力なら技術で魔法の領域に到達するというどこぞのNOUMINみたいなことができるかもしれない。肉体改造は必須だな。
「坊ちゃん……?そんなに考え込んでどうしたんですか?」
「……ん?ああ、いや何でもない。俺もあれくらい強くなりたいなって思っただけさ」
「そうですか。確かに、魔物から領地を守るのは貴族の役目ですからね。ですが、坊ちゃんはこの伯爵家の跡取りとなるお方ですから、あまり危険なことをしてほしくないものです」
あー。確かに、今世の俺は伯爵家の長男だったなって待て。
魔物?魔物だと!?ああいや、ドラゴンが存在しているんだから何もおかしな話じゃないことは分かるが、やはりファンタジーじゃないか!
俺は歓喜した。やはりこの世界はファンタジー。伯爵家の嫡男と言う立場と魔法の開発を両立する方法を考える必要があるか。いや、まだ見ぬ弟妹たちに領地を継承してもらうという手もある。流石にこの時代の貴族が一人っ子ということはあるまい。期待しています、父上母上!
そうして、割と下種なことを考えながら俺は今後の展望について考えるのであった。
「ですが、坊ちゃんが強くなるのは私も賛成です。そうですね……伯爵家が所有している騎士団の団長に指南していただくなんてどうでしょうか。ご主人様には私から提案しておきますが」
「騎士団の団長?」
「はい。ご存知ありませんでしたか?この伯爵領の治安維持や要人警護などを行っている組織の長です。伯爵直属の武力集団ということになりますね」
「その人は強いの?」
「流石にかの冒険者ほどではないでしょうが、彼もかなりの実力派な御仁です。彼も大概、人の域から外れた方ですよ」
それを早く言わんかい!
と、俺はすぐさま騎士団長とコンタクトを取るべく、父上の仕事部屋へと向かうのであった。