人類史初の魔法使い(仮)   作:ねうしとら

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冒険者の体と魔物の関係について

「ということで師匠。師匠と共に狂狼を倒した方々も強くなったのかというお話をお聞きしたいのですが!」

 

 フィンによって師匠とのアポを取り、彼が体験したという狂狼の討伐隊に関する話を伺いにやってきた。

 師匠は嫌な顔一つせずに、俺との対話に臨んでくれている。なんて良い人なのだろうか。

 

「イザーク様は好奇心旺盛でいらっしゃる。狂狼についての話であれば、私で良ければいくらでもお話ししましょう」

 

 師匠は俺の用件を半ば察しながら焦る俺を落ち着かせるようにゆっくり丁寧に話しかけてくる。そのペースに俺も乗じて、熱くなっていた思考を落ち着かせる。

 師匠のお付きのメイドによって入れられた紅茶を一度嗜み……って美味いなこれ。

 

「……コホン。えっとですね、師匠と共に狂狼を倒したという勇士たちは師匠のように身体能力の大幅な上昇という現象が現れたのかどうかということをお聞きしたいのです」

 

「ふむ……。なるほど、そういうことですか。そうですね、私としても随分と前の出来事ですから記憶が曖昧となっているかもしれません。しかし、確かにあの一戦以降私を含む仲間たちの力が増したように思いますな」

 

 と、師匠は言った。

 これでサンプルは一応増えた形になる。まあ又聞きにすらなっていないような情報だが、有るに越したことは無い。これで、恐らく魔力の流れは一方向に流れるものではないという可能性が高くなったわけだ。

 

 貴重な話を伺えてテンションが上がってきたので、もう一度紅茶を口にする。……いや本当に美味しいなこれ。口に含んだときは上品な甘さが広がっていくのに後味スッキリで。

 

「どうやらお気に召したご様子。その紅茶は貴族の子息令嬢たちに人気がある茶葉を使用しているのですよ」

 

 ……つまり子供舌ってこと?

 

 なんか転生者としてのプライドにダイレクトアタックを受けたような気がするが……。ま、まあ子供の味覚は敏感で苦みや酸味を感じやすいというしな。そう、年齢による嗜好の変化さ。そうに違いない。

 

「……貴重なお話、ありがとうございます」

 

「いえいえ、お気になさらず。……一つお聞きしたいのですが、イザーク様は人間の身体に興味がおられるので?」

 

「はい。そうですね」

 

「それでしたら、専門の方に話を伺ってみるのは如何でしょうか。丁度、私の知人にそのような研究を行っている物好きがいましてね」

 

 え、是非聞きたい。

 

「……その方とは?」

 

「ヴォルフガング・オブ・ヨーク卿。王国におけるヨーク男爵家の現当主です。彼は主に人体に関する研究と並行して、魔物に関する研究も行っているとか」

 

「ほう!」

 

「私も彼から話を聞かれたことがありましてね。冒険者や騎士たちに多く共通して見られる、魔物を倒した際に発生する身体能力の上昇についての研究も行っているとか」

 

 ふぁああああああ!?

 

 行くしかないじゃないか。そのヨーク卿とやらの所に!

 

「是非お会いしたいです!そのヨーク卿という方に!」

 

 なんて、テンションが最高潮となった俺の発言に異を唱えるのが俺の後ろに控えていたフィンだった。

 

「無礼を承知で、この場で発言させて頂きたく……」

 

「ん?ああ、構わないよ」

 

 一度断りを入れて発言したフィンに許可を出す。何か言いたいことがあるのだろう。俺は次の言葉を待つ。

 

「お言葉ですが、ヨーク卿とお会いするためには恐らく彼の領地まで足を運ぶ必要があるのではと愚考いたします。イザーク様はまだ幼い身……当主様が許可をお出しくださるか分かりません」

 

 あああああああ!そうじゃん。俺って年齢のせいで行動範囲が劇的に狭められているから研究が滞っているんじゃないか。父上が許可を出すかね。

 

 そんな俺の懸念は、師匠の助け舟によって希望の光が差し込むことになった。

 

「ならば私が付いて行くとしましょう。さすればレオンハルト卿も許可を下さるかと」

 

 この鶴の一声によって、フィンも納得せざるを得なかった。満足したように頷くと、一礼してから従者としての作法を整える。

 

 これで、ヨーク卿とお会いするための布石は整ったわけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそお越しくださいました。ささ、そちらへどうぞ」

 

 あれからの半年の月日が流れ、師匠の説得と俺の懇願もあってか父上はヨーク卿へと手紙を出してくれた。内容は、俺が会いたいと言っているから付き合ってくれないかというもの。

 

 手紙の輸送手段が乏しいこの世界では、情報のやり取りにかなり時間が掛かる。父上の手紙が向こうへ届くまで一ヶ月。返事が届いたときには既に手紙を出してから三ヵ月が経った時だった。それからヨーク卿の領地へと向かうために色々と準備をして、気づけば師匠との話合いから半年が経過してしまっている。

 

 道中は特に何事もなく過ごすことができた。

 

 護衛のために冒険者を雇うのはどうかと──俺がインタビューをしたかっただけだが──それとなく提案したのだが、騎士たちだけで充分だとやんわり断られた。無念。

 

 そうしてお尻を痛めながら到着したヨーク家では、当主のヴォルフガング卿が態々俺たちを出迎えてくれた。眼鏡をかけた優しそうな男の人だった。

 

 今は客室へと案内され、労いがてら世間話を嗜んでいるところだ。

 俺は師匠とヨーク卿の貴族のお話に然程興味もないので、出されたお茶とお菓子をボリボリ食べている。

 

 子供は甘いものに目が無いのだ。覚えて帰ってね。

 

 話もひと段落着いたところを見計らって、俺は本題を切り出すことにする。

 

「ヨーク卿は人体や魔物の研究を主に行っているとお聞きしました。僕はそんなヨーク卿にお話を伺いたいのです」

 

「ほう。君のような若い子が私の研究に興味を持ってもらえると……。いやはや、なんとも嬉しいものだね。それで?何が聞きたいのかな。人間の臓器に関して?それとも魔物の構造について?」

 

 ぶっちゃけどれもすごく聞きたいのだが、何から聞いていいのか分からない。そこで、師匠が言っていた魔物を倒した時に発生する身体能力の上昇について聞くことにした。

 

「僕が気になっているのは、師匠のように強くなるための秘訣です。師匠に話を聞いたとき、狂狼という魔物を倒してから力が大幅に増加したということを聞いたことが……」

 

「ほう!その話ですか。まさか君のような小さい子がそこまでたどり着くとは!ええいいでしょう。私の現在の研究テーマの一つでもある魔物と人間の関係について、小さな研究者さんにお伝えすることにいたしましょう!」

 

 ……テンション高いなこの人。研究者って変わり者が多いって話を聞いたことがあるけど本当にそうなんだな。

 

「え、ええ……。僕が気になっているのはそこなんです。でも、人間と魔物の関係についてですか?人間の解剖書を読みましたけど、特筆すべきところは何も……」

 

「なるほど。あれを読んだのですか。あれは私が論文として国に提出したものですが、もう何年も前の物でしてね。現在の私は騎士や冒険者の体を解剖して論文を執筆している最中なのですよ」

 

「冒険者や騎士の……?というか、あの解剖書はヨーク卿が書いたものだったんですか……!」

 

「ええ。まあこの国では死体を解剖するという行為は唾棄すべき悪行と見なされることが多く、中々解剖の許可を頂けないために研究が滞っていたのです。騎士や冒険者という強大な敵と戦った勇士の死体を徒に辱めることは許されないと」

 

 平民の死体を家族に許可を取ってから解剖することが限度だったと彼は言う。

 しかし、ここ数年でヨーク卿の功績が認められたのか、金さえ払ってくれるなら自分の死後を売り渡しても良いと考える冒険者が増えてきたのだという。

 

「それから、私は冒険者の肉体を解剖することができるようになったのです。……ここからがかなり面白い話になってくるのですが、ある一定以上の実力を持った冒険者の心臓には、魔物の心臓と類似した役割が不明な器官が発見されたのです」

 

「詳しく!」

 

 なんということでしょう。俺が不要と断じた臓器に前世との違いが現れてしまったのです。……いやマジで盲点だった。別に前世と同じ臓器だからって役割まで同じかどうかは分からないもんな。

 

「便宜上、これをアンノウンと呼称しますが、私の過去の解剖書を振り返るに誰にでも備わっている器官だと言うことが発覚しましてね」

 

「……どういうことです?」

 

「このアンノウンですが、一般人は非常に小さな、それこそ目視が困難なほどに僅かな質量しかなかったのです。しかし、なぜか一定以上の実力を持った冒険者のアンノウンは、目視ができるほど肥大化していたのですよ」

 

 というヨーク卿の発言に俺は今世で一二を争うほどの衝撃を受けた。

 

「そのアンノウンという器官は、魔物にも備わっているということですか……?」

 

 おずおずと俺は問う。彼の話の流れ的にそう言うことなのだろうことは百も承知だが、これが事実とするのならば俺の研究はかなりの進展を見せるだろう。

 

「ええ、ご明察ですイザークくん。そうですよ。魔物にもこのアンノウンは備わっていた。これが何なのかは分かりません。しかし、冒険者や騎士たちの強さの秘訣であると言うことは確かではないかと私は思うのです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヨーク卿との話はひとまず休憩し、俺たちは各々お茶や菓子を嗜んでいる。

 

 現在、ヨーク卿はこの謎の器官に対しての研究を進める方針で行くらしい。俺の仮説と照らし合わせれば、恐らく魔力の貯蔵庫であると考えられるが果たして。

 

 かなり有意義で面白い話を聞くことができたが、ここで少し疑問に思うことがある。何故、この世界の人間は魔力を感知できないのか。このアンノウンという心臓に存在する器官はかなりの高確率で魔力を貯蔵している器官だということは最早疑っていない。

 

 一般人よりも冒険者の方が肥大化して魔物と遜色ないほどに成長しているということから考えると、やはり俺の仮説通り、人間には魔力を吸収する性質があると考えて良いだろう。いや、この場合は人間に限らず魔物にも同様の性質が備わっていると見るべきか。

 

「ヨーク卿。僕も一つ研究というか、調べていることがありまして。聞いていただけますか?」

 

「ええもちろん。イザークくんのような方からのお話であればいつでも大歓迎です」

 

 俺の話に対して、ヨーク卿は笑みを浮かべながら対応してくれる。

 

「笑わないで聞いてほしいんですけど、僕は今魔法の研究をしているんです」

 

「魔法……」

 

「はい。師匠や冒険者が魔物と対等に戦えるのは、この魔法によるものではないかと。いや、魔力ですね。魔力によるものではないかなと考えているのです」

 

 フィン以外には初めて明かした俺の目的。その言葉に師匠とヨーク卿は目を見開いて驚いていた。

 俺のそのカミングアウトに、ヨーク卿はわなわなと震え始めた。

 

 え、こわ。なんて思っていると、バッと顔を上げて歓喜に震えている成人男性の姿が目の前に現れた。彼は俺の肩を両手で掴むとまくし立てる。

 

「素晴らしい!本当に素晴らしい!つまりイザークくん、君はこのアンノウンが魔力を貯蔵している器官だと、そう言いたいのですね!なるほどなるほど。ああ、なぜ私はこの可能性に気づけなかったのでしょうか!やはり若いとはいいですね。時に奇抜で、思いもよらぬ発想を恵んでくれる……!」

 

 完全に目がイってしまったヨーク卿にドン引きしながらも、俺の研究に対して一切マイナスな意見を言わなかった彼に俺は嬉しさがこみあげてくる。

 

「なるほど……。魔法、それに魔力ですか。この歳になってもそのようなお伽噺には憧れるものですが……かなりいい線を突いているのではないかと私も愚考いたしますぞ」

 

 ヨーク卿の奇行にドン引きしていた俺の横から、師匠が少年のような顔を拵えてそのようなことを言う。なんだか照れ臭くなってきてヨーク卿を押しのけると、俺はとりあえず紅茶を飲むことしかできなかった。

 

 

 

 

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