やはり俺が自己犠牲をやめられないのはまちがっている   作:星電輝

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第一話 やはり捻くれボッチは傷つき腐っていた

『高校生活を振り返って』

2年F組 比企谷八幡

 

青春とは嘘であり、悪である。

青春を謳歌せし者達は常に自己と周囲を欺く。

自らを取り巻く環境すべてを肯定的に捉える。

何か致命的な失敗をしても、それすら青春の証とし、思い出の1ページに刻むのだ。

 

例を挙げよう。彼らは万引きや集団暴走という犯罪行為に手を染めてはそれを若気の至りと呼ぶ。

試験で赤点を取れば、学校は勉強するためだけの場所ではないと言い出す。

都合の悪いことはすべて他人に押し付け、自分は関わっていないと周りにアピールをする。もしくは自らを正義のヒーローか何かに仕立て上げる。

 

彼らは青春の二文字の前ならばどんな一般的な解釈も社会通念も捻じ曲げて見せる。

彼らにかかれば嘘も秘密も、罪科も失敗も、ましてや他者の犠牲さえも青春のスパイスでしかないのだ。

そして彼らはその悪に、その失敗に特別性を見出だす。

自分達の失敗は遍く青春の一部分であるが、他者の失敗は青春でなくただの失敗にして敗北であると断じるのだ。

仮に失敗することが青春の証であるのなら、友達作りに失敗した人間もまた青春ど真ん中でなければおかしいではないか。しかし、彼らはそれを認めないだろう。

なんのことはない。すべて彼らのご都合主義でしかない。

なら、それは欺瞞だろう。嘘も欺瞞も秘密も詐術も糾弾されるべきものだ。

彼らは悪だ。

ということは、逆説的に青春を謳歌していない者の方が正しく真の正義である。

結論を言おう。

 

 

青春を楽しむ愚か者どもよ、

 

 

砕け散れ。

 

 

* * *

 

「なぁ、比企谷。私が授業で出した課題はなんだったかな?」

「……はぁ、『高校生活を振り返って』というテーマの作文でしたが」

「それでなぜ君は犯行声明を書き上げてるんだ? テロリストなのか? それとも馬鹿なのか?」

 

 国語の教師である平塚静、平塚先生は額に手を当てて深々にため息を吐いた。

 

「君の目はあれだな、腐った目のようだな」

「幾度も死線を越えてきた勇敢な目って言ってほしいですね」

 

 呆れたか、それとも引いてるのか。ひくっと平塚先生の口角を吊り上がった。

 

「で? 比企谷。この舐めた作文はなんだ? 一応言い訳くらいは聞いてやる」

 

 平塚先生がギロリと音がするほどにこちらを睨みつけてきた。こっわ、マジ怖え……

 

「ひ、ひや、い、言い訳も何も、俺は事実しか書いてませんよ。近頃の高校生なんて大体こんな感じじゃないですか?……まぁ、俺も書き終わった後この作文を見て、何書いてるんだろうとは思いましたけど……」

「自覚があってこれを書いてるのであれば、余計にタチが悪いな」

「しょうがないじゃないですか。昔からある人の影響で自分の信念に関わることは絶対に嘘をつかないって決めてるんです。文句を言うならその人に言ってください」

「小僧、言い訳をするな」

 

 えぇ……言い訳くらい聞いてやるって言ったの先生じゃないですか………

 

「てか、小僧って……いや確かに先生の年齢からしたら俺は小僧ですけど……」

 

 風が吹いた。否、空が裂けた。

 これでもかというぐらい見事な握り拳が俺の頬を掠めていった。

 

「次は当てるぞ」

 

 目がマジだった。

 

「す、すいませんでした」

「はぁ……大体こういう時は自分の生活を省みるものだろう」

「それ俺に言いますか? 昔にあったことを今の今までずっと引きずってきて、性格は捻くれ、友達は一人もおらず、ただ学校と家を行き来する日々の俺に?」

「……すまなかった」

 

 そんな深刻そうな顔で謝罪しないで……八幡、悲しくなる。

 

「い、いえ……とにかく書き直してきます。それじゃあ……」

 

 俺はガラスのメンタルをこれ以上すり減らさないために今すぐこの場から離れるべきだと判断した。だがそんな考えはすぐに撤廃され、平塚先生は追い討ちをかけてくる。

 

「待て、比企谷。君は部活をやっていなかったよな?」

「はい」

「……最確認だが、友達や彼女はいるか?」

「……帰っていいですか?」

 

 俺に友達や恋人がいないこと前提で聞かれていた。いや、さっきも言った通りいないんだけどね? いじめかな? いじめなんですね、分かります。

 

「いや、酷なことを聞いてしまった。すまない……」

 

 平塚先生にも良心があったのか、流石にやりすぎたと感じたのだろう。平塚先生のやってきたそれは角度約90度の綺麗で社会を感じさせる謝罪のお辞儀だった。

 ここは職員室で俺や平塚先生以外にも当然人がいる。他の仕事をしている先生達、そんな先生達に質問をしてきたであろう学生達全員に俺は、俺のもっとも嫌いである同情の目を向けられていた。

 き、気まずい……

 

「先生、大丈夫ですから。結局何が言いたいんでしょうか?」

「あぁ、そうだな。話を戻そう」

 

 平塚先生はすぐ切り替え、周りも既に興味がなくなったのか視線を感じることはなくなった。

 

「とりあえずレポートは書き直せ」

「はい」

「だが、君の心ない言葉や態度が私の心を傷つけた確かだ。なので、君には奉仕活動を命じる。ついてきたまえ」

 

 そう言って平塚先生は俺が有無を言う前に職員室の外に出る。その後、平塚先生は立ち尽くしている俺に向かって、早くしろと催促するかのようにこちらに手招きをしてきた。

 まぁ、いいけどね? 『先生も心ない言葉で俺の心を傷つけましたよね』なんて言ってしまえばまたあの目を向けられてしまうかもしれないし、気にもしてないから別にいいんだけどね? ホントダヨ。ハチマン、ウソツカナイ。

 

* * *

 

 平塚先生に連れられてやって来たのは学生の教室がある棟の向かい側にある少し離れた特別棟のとある教室だった。

 

「着いたぞ」

 

 それだけ言うと平塚先生はノックもせず、教室の扉を開け中に入っていく。

 教室の中は端っこの方に机と椅子が無造作に積み上げれている。中央には一つの椅子に座り斜陽の中で本を読んでいる少女がいた。窓を開けているためか風が教室の中に流れ、カーテンが靡いている。

 この絵画じみた光景を見た時、俺の胸辺りがキューって締め付けられるような痛みを感じた。

 見惚れていなかったと言えば嘘になる。だが、この胸の締め付けられるような痛みは一体なんだ?

 

「平塚先生。入る時にはノックを、とお願いしていたはずですが」

「ノックをしても君は返事をした試しがないじゃないか」

「返事をする間もなく、先生が入ってくるんですよ………それで、そこの………あなた、大丈夫?」

「え? あ、ああ……大丈夫だ」

 

 彼女の声によって俺の意識は一気に現実に戻された。現実に戻ってきた意識は改めて目の前の少女を見据える。俺はこの少女を知っていた。

 二年J組、雪ノ下雪乃。

 無論、名前と顔を知っているだけで会話をしたことはない………はず。学校で見かけるたびに先程の胸の痛みではないものの、チクチクと小さくダメージを受けていた。そしてついさっき、彼女の声を聞いて俺はなぜか懐かしさを感じていた。

 それがなぜなのかは分からない。そもそも彼女は俺のことを知らないはず。

 総武高校には普通科の9クラスの他に国際教養科という普通科より二〜三、偏差値が高いクラスがある。そこには帰国子女や留学志望の秀才が多く集まっているのだが、雪ノ下雪乃はその中でもいい意味でひときわ異彩を放っている。

 彼女は常に学年一位に鎮座する成績優秀者であり、学校一と言ってもいいぐらいの類い稀なる優れた容姿を持つ美少女で、誰もが知る有名人だ。

 そんな彼女がステルスヒッキーを極め、なるべく人と関わらないようにしてきたボッチマスターの俺のことを知るはずないのだ………なんか、自分で言ってて悲しくなってきた。

 

「彼は入部希望者だ」

「え? ああ、二年F組比企谷八幡です。えーっと、おい。入部ってなんだよ」

 

 入部希望ってここに? なに? 先生は俺を殺したいの? まだ胸の辺りチクチクしてるんだけど。

 

「君にはペナルティとしてここでの部活動を命じる。異論反論抗議質問口答えは一切認めない。しばらく頭を冷やせ。反省しろ」

 

 質問ぐらいは認めてくれてもいいんじゃないですかね?

 俺に抗弁の余地を許さず、平塚先生は怒涛の勢いで判決を申し渡してきた。

 

「というわけで、見れば分かると思うが彼は腐った目も同様に根性がなかなか腐っている。そのせいでいつも孤独な憐れむべき奴だ。この部で彼の捻くれた孤独体質を更生する。それが私の依頼だ」

 

 先生が雪ノ下に向き合って言うと、彼女は意外な回答を口にした。

 

「えぇ、いいですよ」

「「え?」」

 

 いや、なんで先生まで驚いてるんだよ。

 

「雪ノ下、失礼だが本当に雪ノ下か?」

「本当に失礼ですね、先生。なんですか? 私が依頼を受けるのがそんなに珍しいですか?」

「いや、そういうわけではないが……言っちゃ悪いがこれだぞ?」

 

 平塚先生は俺の方を指差してそう言う。おい、あんたそれでも教師か。

 

「別にいいでしょう、依頼は依頼です。それよりも先生、この後職員会議があったと思うんですが……」

「あ、そうだった! 雪ノ下、あとのことは頼む」

 

 平塚先生は教室を出ていき、俺は取り残される。俺と雪ノ下の二人きりになってしまい、教室内は気まずい空気が流れるかとも思ったがそんなことはなかった。

 

「いつまでそうしているの? 座ったら?」

「え、あ、はい」

 

 俺は後ろの机と椅子が積み上げられているゾーンから一脚取り出し、雪ノ下から少し離れた場所に座る。

 その後はお互い不干渉になり手元の本に目を落とす、こうであればよかったのだが……雪ノ下は何思ったのか、先程まで読んでいた本を裏返しにし膝の上に乗っけて俺の方をじっくり、獲物を冷静に狙う狩人の如く視線を向けてきていた。

 

「あ、あの〜?」

「え? あ、ごめんなさい。あなた、私の昔の知り合いに雰囲気があまりにも似ていたものだったから……」

「い、いやいいんだ。それとなんだけど、ろくに説明もされないでここにやって来たもんだから部活のこともよく分からなくてな。お、教えてくれない?」

 

 雪ノ下は目を見開き、小声で『まったく、あの人は……』と言うと仕切り直すかのようにパチンッと手を叩いた。

 

「そうね、ではゲームをしましょう」

「ゲーム?」

「ええ、ここが何部かを当てるゲーム。さて、ここは何部でしょう?」

「………文芸部か」

「へぇ……その心は?」

「見たところ特殊な環境や特殊な機器なんてのはこの部屋に存在していない。加えて、あんたはさっきまで本を読んでいた。それらの理由からここを文芸部……とまではいかなくとも、何かしらの文化部であると推測したんだが、どうだ?」

「おおむね合っているわ。だけれど、惜しいわね。ここは奉仕部よ」

 

 ほ、奉仕部? 奉仕って……いや、そんなわけねえわ。俺は一体何考えてるんだろうか。

 

「比企谷君、女の子と話したのは何年ぶり?」

「……本当に親しかったやつと最後に話したのは小学生の頃だな。それ以来はごく普通の世間話や家族と話す時ぐらいだ」

「そ、そう……ごめんなさい。触れるべきではなかったわね」

 

 おい、そんな顔して謝るな。虚しくなってくる。

 

「………話を戻すわね。持つ者が持たざる者に慈悲の心をもってこれを与える。人はそれをボランティアと呼ぶの。困っている人に救いの手を差し伸べる。それがこの部の活動よ」

 

 いつの間にか雪ノ下は立ち上がっており、自然と視線は俺を見下ろす形になっていた。

 

「ようこそ、奉仕部へ。歓迎するわ」

 

 顔だけ見なければ雪ノ下が俺に対し、見下しているようなそんな図だったであろう。だけど、雪ノ下の顔は穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「お、おう。よろしく……」

「ええ。よろしく」

 

 

 なんとなくだが分かってしまった。

 

 

 おそらくこいつは……雪ノ下雪乃は、俺を通して俺じゃない別の誰かを見ていやがる………




小学生の時に一年ほど一緒に過ごしていた比企谷八幡と雪ノ下雪乃、由比ヶ浜結衣の三人はある事件を境に離れ離れになり、記憶を失ってしまった。
三人は自身の後悔を胸に抱きながら、総武校の奉仕部で再会することになる。

これは記憶をなくした幼馴染三人が過去を取り戻す青春ラブコメである。

てことで、今回は八幡が奉仕部に入部、雪乃との再会(自覚なし)回でした。
このシリーズは奉仕部組が幼馴染な俺ガイルです。
他作品の他シリーズもありますし、終わってもいないですが書きたくなっちゃったんで書いていきます。
流石に推しの子のシリーズの方を書かないといけないとは思っているんですが、スランプと原作の方の衝撃な真実が重なってしまってそのままずるずると……
まぁ、年内の間に絶対に更新するのでそっちも見てくださってる方は気長にお待ちください。
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