やはり俺が自己犠牲をやめられないのはまちがっている 作:星電輝
「それで?」
「他に何か?」
「いや、この部活のことに関しては一応、理解はした。が、肝心なことを聞いていなかった。俺の更生って一体どうするつもりなんだ?」
正直、俺が一番気になっていた部分がこれだ。
人は成長や更生なんて言葉を聞くとそれは自身のあらゆる変化であると思うことだろう。確かに、人が生きてるうちに変化しないやつなんてそういない。人が大昔から変化を繰り返してきたからこそ今があるのだ。だがそれはあくまで外面的な話で、ここでいう成長や更生は内面の……人の根本的なところを指す。
成長とは勝てるようになるまでレベルアップを繰り返すことを言う。
更生とはレベルドレインをされた後に元よりよい状態、元のレベルより高いレベルになることを言う。
だが、それに対して人に強制された更生とは大した努力もせず、今まで使っていたキャラクターを諦めて別の高レベルキャラクターに乗り変えるというようなことを言う。要は自分を持ってないという意味だ。
まったくと言っていいほどに自分や信念を持っていないから簡単に別の、前とは違う自分になれる。それは縛りプレイしてるはずのに縛りプレイのルールを破ってるのと同じぐらい酷い話だと思う。
つまるところ言いたいのは、人に言われて更生する程度の奴は自分を持ってない、信念がないような奴なのだ。
逆に言ってしまえば、自分や信念を持って生きてる奴に『君は更生をする必要がある』なんて言うのはその人そのものを否定する最低最悪の言葉になる。変わった、もしくは変えられてしまった後に今の方がいい、なんてのはあくまで結果論。
結局のところ、成長や自分の意志でした更生と人に強制された更生はお互い相容れない変化なのだ。
「あら、意外と乗り気なのね。」
「はっ、馬鹿を言え。そもそも俺は更生だなんて求めてないし、自分を変えたいだなんて思ってもいない。聞いたのはこれから起きることにあらかじめ警戒しておくためだ」
だから、自分や信念を大切にしている俺からしてみれば人に強制された更生なんていう言葉は悪魔の言葉。抵抗しないのは負けを認めてるようなものだ。
内容次第ではトップスピードで振り切るぜ!! あ、もう既によろしくされちゃってるんでした。
「はぁ……あなた、先生の言う通りとことん捻くれてるわね。まぁ、そういうところは嫌いじゃないわ」
「そうだろ? 自分でも言うのもなんだが、俺はそこそこ優秀なんだぞ? 友達がいないことと彼女がいないことを除けば、基本的に高スペックだ」
「最後に致命的な欠陥が聞こえたのだけれど……そんなことを自信満々に言えるなんてある意味凄いわね……変な人」
ほう、意外にも話が分かる奴じゃないか。そう俺は感心していると教室の扉が荒々しく開いた。
「雪ノ下。邪魔するぞ」
邪魔するなら帰ってください。なんて言ったらまた殴られそうなのでグッと堪える。
「ノックを……」
「悪い悪い。どうやら比企谷の更生には手こずっているようだな」
「そのことですが、先生。比企谷君を更生させる必要はないかと思われます」
突然の雪ノ下の言葉に俺は感極まってしまった。
だってしょうがないだろ。俺だって自分が捻くれていることを自覚はしていた。だからこそ理解はされてこなかったし、理解されようとも思わなかった。そんな俺の捻くれ体質を変える必要はないと雪ノ下は言った。なんだか認めてくれた気がしたんだ。
「ほう、それはなぜ?」
「彼の捻くれ体質は推測ですが周りの環境から身を守るために出来上がった一種の防衛機能です。私にも……覚えがあるので分かります」
雪ノ下は少し悲しそうに顔を俯かせた。
いや、そうだ。勘違いをするな比企谷八幡。雪ノ下は俺を通して別の誰かを見ていた。それが誰かは分からないが、おそらく俺と同じように腐ってはないにしろ捻くれてはいたんだろう。雪ノ下は俺を認めてくれたのではなく、その誰かを通して認めてくれたに過ぎないのだ。
「続けたまえ」
「つまり、彼を変えるのは彼自身を殺すと言っているのと同義であると私は思います」
「ではどうする?」
「彼を変えるのではなく彼が作り上げた防衛機能を残し、成長させます」
雪ノ下の言葉に平塚先生は顎に手を当て、何かを考えている。やがて、何かいい案を思いついたのか電球のマーク、ゲームのSEで言うならピコンと音がなったかのように声を上げた。
「そうだな! それなら君達には勝負をしてもらおう」
「「勝負?」」
「そうだ。これから君達の元に悩める子羊を導く。彼らを君達なりに救ってみたまえ。そして共に戦い、時には手を取り合い、互いで互いを高め成長していく。どちらが人に奉仕できるか!? 勝負だ!!」
少年雑誌ばっか読んでる平塚先生にとって、こういう展開は大好物なのだろう。
あんまり変なことに巻き込まないでほしいんですけど……
「それ、俺になんかメリットあるんですか?」
「自身の成長をメリットとして考えないあたりやはり捻くれているな、君は。まぁいいだろう。勝った方が負けた方になんでも命令できる、というのはどうだ?」
「なんでもですか……」
特に、特に意味はないけど俺の目線は自然と雪ノ下の方に向かっていた。
端正な顔立ち。流れる黒い髪。そして、決して大きいとはいえない慎ましい胸………
「……いいですよ」
「私も成長するいい機会ですし受けて立ちましょう。それとむっつり谷君、何を考えたのかお聞かせ願えるかしら?」
雪ノ下は鋭く冷めた目つきでこちらを睨みつけてくる。その姿はまるで氷の女王そのものだった。
俺は都合の悪い話に思わず黙ってしまう。どう言おうか考えてたところで完全下校時刻を知らせるチャイムが学校中に鳴り響いた。
となれば俺の取る行動は一つ。
「あ、下校の時間だ。てことは部活も終わりだよな。じゃあお疲れ様でした〜」
逃げた。
後ろの方で聞こえる罵倒の嵐は聞こえなかったことにしよう。
* * *
教科書の入った学校の鞄をリビングのソファに置き、着替えることもせず部屋のベットにダイブする。
「あの人、似ていた」
今日、平塚先生が連れてきたあの比企谷八幡という男の子。名前も顔も忘れてしまったけど、大切だったはずの人に雰囲気がとても似ていた。
普段であれば、平塚先生が男の人を連れてきた時点で罵倒して追い返していたと思う。私に近づいてくる男の人達は大抵下心しかないから。だけど、比企谷君は違った。あんなに気が合う人と話せたのは随分と久しぶりのことだった。
それに平塚先生が勝負に勝った方はなんでも命令できるっていう言葉を聞いて、少しいやらしい目を向けられもしたけど不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
「比企谷君に関わっていけば、何か分かるかしら……」
それは彼がその大切だったはずの人なんじゃないかとかそんな淡い希望を抱いたからではない。単純に彼に関わっていけば、私自身のトラウマも払拭できるのではないかというそんな惨めな考えだ。
「私は謝らないといけないの……彼は一体誰で、どこにいるの?」
何も分からない。ただ、唯一分かるのは今の私ではまだ無力だということに苛立ちを感じる自分がいたことだけだった。
やっぱり俺ガイルは凄いですね。
まだシリーズの一話目を投稿しただけなのに、すぐpixivの男性に人気ランキングに乗るんですもん。
驚愕通り越して絶句してます。
てことで、今回は前回の続きの奉仕部入部絡みのお話でした。
このシリーズの雪乃は原作より八幡に対して無意識無自覚で態度が甘くなっています。
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