やはり俺が自己犠牲をやめられないのはまちがっている   作:星電輝

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第三話 こうして雪ノ下雪乃は染まりはじめる

 部室から逃げ出した日の翌日。俺は再び平塚先生によって部室の前まで連行されてしまった。

 元よりちゃんと部活には出るつもりだった。それは決して部活の内容や雰囲気に惹かれたわけなんて浅い理由ではなく、雪ノ下雪乃という存在に興味を持ったからだ。なのだが、平塚先生からしてみれば昨日俺があんなにも強引に逃げ出したものだから、今日も逃げるつもりだと勝手に勘違いして教室の前に先回りし、そのまま捕獲、連行していった。

 モンハンかな? あれ、でも俺古龍のはずなんだけどな。なんで捕獲できたの? ステルスヒッキーも使えなかったし……

 そんな馬鹿なことを考えつつ俺は部室の扉を三回ノックし、扉を開ける。昨日の件もあり、気まずい空気が流れると思ったがそんなことはなかった。

 

「比企谷君、こんにちは」

 

 昨日と同じように椅子に座り本を読んでいた雪ノ下は俺が部室に入ってくるや否や、顔を上げて昨日見たのと同じ穏やかな笑みを浮かべて挨拶をしてきた。昨日と唯一違う点はその笑顔が、確かに俺に向けられたものであったことだった。

 てか、俺のこと怒ってるわけじゃないの? 

 

「よ、よ〜お」

「あら、挨拶ぐらいはしっかりした方がいいと思うわよ」

「……こんにちわ」

「ふふ、よろしい。ノックをしてから入ってきたのは偉いと言うべきね。まぁ、それが普通なのだけれど……」

 

 雪ノ下は遠い目で窓の外を眺める。まぁ平塚先生だし、しょうがないね。

 

「なぁ、雪ノ下? 依頼人が来ない時間は本を読んだりしてもいいのか?」

 

 昨日、雪ノ下が読書をしていたのを思い出して今日は鞄にラノベを入れてきたのだ。もちろん教材やらなんやらは学校に置き勉してるので、シリーズものの本を何冊も余裕で入れてこれる。いいね、置き勉! みんなもしよう、置き勉!!

 

「ええ、いいわよ。比企谷君はいつもどんな本を読んでいるの?」

「そうだなぁ。割と範囲は広いが、最近読んでいるのはラノベだな」

 

 雪ノ下は首を傾げる。頭の上にはてなマークが見えた気がした。

 

「ラ……なんて?」

「お前……ラノベを知らないのか? 通称ライトノベル、これといった定義はいまだに確立されてはいないが、軽い文体で分かりやすく書いた若者向けの娯楽小説って思ってくれたらいい」

「へぇ、一度読んでみたいわね。おすすめは何かあるかしら?」

「そういうことなら、丁度見返そうと思って持ってきたのが何冊かあるから貸してやるよ」

 

 俺は学校の鞄から部活の暇つぶし用に持ってきていたラノベを取り出す。ラブコメシリーズものではあるがそんなに難しい内容のものではないので、ラノベ初心者も読みやすい方だろう。

 

「ほら」

「あ、ありがとう。見終わったら返すわね」

「おう」

 

 俺は雪ノ下にラノベを渡してから元の位置に座り直す……つもりだった。椅子に座る前に雪ノ下にこう呼び止められた。

 

「何してるのよ、もっと寄りなさい」

 

 は?

 

「何言ってんの? お前俺のこと好きなの?」

「違うわよ……あなた、依頼者が入ってきた時にこの距離感の私達を見たらどう思うのか分からないの?」

「あ、そうですね。すいません」

 

 確かに、距離を離して座ってるような人達のところに相談やら依頼やらをするのは少し不安にもなるわ。

 俺は言われた通りに雪ノ下の近くまで椅子を運んで座った。その様子を眺めていた雪ノ下は満足したのか、俺が貸したラノベに目を落とす。

 それ以降、今日の部活は大した会話をすることはなく下校の時間を迎え、各々家に帰った。

 

* * *

 

 そして次の日。

 俺はなぜか、興奮気味の雪ノ下に部室で迫られていた。

 

「比企谷君! 貸してもらったラノベ、帰った後も読んでいたのだけれどとても面白かったわ! 特にヒロインが自身の恋を自覚する場面が一番よかったわね!」

 

 こいつ……ラブコメもののラノベを渡したせいで頭が恋愛脳になっちまったのか?

 

「ねぇ、続きはないのかしら? もう読み切ってしまって……」

「お、おう。もう読み切ったのか。明日続き持ってきてやるよ」

「えぇ、ありがとう! それと他にもいくつかおすすめあるかしら? ずっと頼るわけもいかないし、面白いと思った本は自分の手元に置いておきたいのよ」

「お、教えるから……いったん、離れてくれない? ちょっと近い……」

 

 なんなの? やっぱりお前俺のこと好きなの? そんなに近いとうっかり惚れちゃいそうになるだろ。惚れて告白して振られるまである。振られちゃうのかよ。

 

「え? あ、あぁ/// ごめんなさい。離れるわね……」

「おう。センキューな………」

「そ、それとあなたのことを人として好ましいと思ってるし趣味が合うから話をしてて楽しいとは思うけれど異性として好きってわけじゃないからそこだけは勘違いしないでほしいというか肝に銘じてほしいというか私って可愛いから昔からいろんな人に言い寄られきて女子達から嫉妬の目で見られたり上履きを60回ほど隠されてたりしてきたせいで信頼できる友達が一人もいないから友達が欲しいと思ったことも何度もあるけれどだからって友達になってほしいってわけじゃなくて……はぁ……はぁ………あ、ああ/// 私、一体何口走ってるのかしら///………」

「お、おう。よくそんな早口でそこまで言えたな。後半は一周回って自虐にしか聞こえなかったけど………てかもしかして、俺、心の声漏れてた?」

 

 雪ノ下は顔を床に向けて小さくうなづく。綺麗な黒髪の間をすり抜けてあらわになった雪ノ下の耳はほのかに赤く灯っていた。

 はっず!? あんな馬鹿みたいな心の声聞かれてたのかよ。き、気まずい………

 そんな気まずくも甘い空気の中、真後ろの扉から弱々しいノックの音が鳴った。

 

「ど、どうぞ」

「し、失礼しまーす……ってなんでヒッキーがここにいるの!?」

「……!? うぐっ………」

「比企谷君!? 大丈夫!?」

「ヒ、ヒッキー!?」

 

 突如襲われた胸の痛みに耐えかねた俺は床に体を丸めしゃがみ込む。

 ヒッキーと呼ぶ少女もまた雪ノ下と同じように俺の胸を締めつけさせる原因の一人だった。同じクラスだということもあってなるべく寝たふりをして彼女の方を見ないようにしてはいたが、まさか奉仕部に来るとは………

 どうやら俺の奉仕部での最初の依頼はこれまためんどくさいことになりそうだ。

 

 

 はぁ……やはり俺の青春ラブコメはいろいろとまちがっている。




こっちの方のシリーズを待たせている方お待たせいたしました。って言うほど今回文字数ないですけどね。
本当にどれくらいのスパンで小説投稿していけばいいのか分からないです。シリーズごとに週一とかの方がいいんですかね?
執筆間に合う気がしませんけど……
てことで、今回は由比ヶ浜結衣が奉仕部に来訪する回でした。
実はこのシリーズ、元々八雪幼馴染のシリーズだったんで由比ヶ浜が幼馴染入りするシリーズに変えようって思った時、先に書いてあった文章を修正しないといけないってなって少し絶望してしばらく書けなかったって裏話があったんですよ。
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