綺麗な蝶には毒がある   作:れいめい よる

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とある高専生の奮闘記

 

傀儡操術、傀儡の操作範囲は天与呪縛の力で日本全土に及ぶ。 

二〇一八年、十月十九日。  

 

 

心から渇望した自由は奪われ、望んでもない天与呪縛が与えられた。

 

糞みたいな呪術界で、塵みたいな人生を送った十七年。 けれどそんな奈落の底を照らしてくれる光があった。東堂、加茂、西宮、禪院、新田....そして何より、三輪がいた。

俺の天与呪縛を知っても、嫌な顔一つせず仲間と認めてくれた皆。どんな時もメカ丸を通して俺を見てくれた。 片腕がなくて、下半身の感覚がなくて、全身が針に刺されるような痛みに犯されても、アイツらがいてくれたから俺は生きたいと心の底から願えるようになった。 

 

呪詛師の連中に協力することで自由な体を得る縛りを結んだ。だが、連中が俺の大切な仲間を傷つけるのならば話は別だ。結果的に高専を裏切ることになってしまったが、その分の罰は甘んじて受け入れる。

 

 

「シン・陰流 簡易領域 」  

 

真人が内から破裂する。 

 

『オオオ゛オ゛オオオ゛ッ !!』 

 

歓呼の雄叫びが響き渡る。メカ丸を操作して崖の上で高みの見物をする安達に向き直った。 

 

嬉しい誤算だ。簡易領域一本、呪力九年分を残して安達と闘れる...! 

メカ丸の右手に天与呪縛により得た実力以上の呪力出力をありったけ込める。勝てる、皆に、会える!!  

 

「撃て!!メカ丸!!」  

 

だが次の瞬間、 

ドォオオオオン!鼓膜が破れそうなほどの破裂音を轟かせ、真人がメカ丸の中に侵入してきた。 

 

ザワザワとムカデのように多数の手足を使い這い寄ってくる真人。スペアの領域をもう一本打ち込むべく座席から立ち上がる。ここで終わるわけにはいかない。いつか会いに行くと、優しい言葉をくれた三輪に会うんだ…!  

 

大きく跳び上がり真人の喉元目掛けて腕を伸ばす。それと同時に真人の両手が近づいてくる。駄目だ…間に合わない。

十七年の長く短い走馬灯が一瞬の間に流れてきた。  

 

真人の腕が俺に触れるまであと数センチメートル。しかし俺が想像するような未来は訪れなかった。

 

「は?」  

「っセーフ!」 

 

気がつけば俺は何者かに引っ張られて宙に浮いていた。 

聞き慣れぬその声に顔を振り返ると、そこにはなんと東京校の一年生、樹舞南斗がいた。 

 

 

 

 

与幸吉の救済は、渋谷事変を乗り越える為の必須条件だった。

 

宿儺の指の回収、壊相と血塗の救済を終えて以来俺はレベルアップの為任務に明け暮れる日々を送っていた。与幸吉の死亡日は知っていたが、正確な場所が分からなかった為助けに入るのに時間がかかった。そうして此度、俺は遂に一級に昇格した。

 

 

ともあれ、急遽救済に駆けつけた俺は与幸吉の首元の制服を持ったまま、彼の安否を確認する。幸い魂に触れられてはないようで与幸吉は俺の登場に呆気に取られてるようだった。  

与幸吉を地上に降ろすと真人が近寄ってくる。 

 

「ちょっと舞南斗!邪魔しないでよ!」 

 

目つきを鋭くさせて睥睨してくる特級呪霊に、俺は友人のように笑いかけた。 

 

「ごめんごめん、」

「ごめんじゃなくて、一体どういうつもり!」 

 

怒り心頭といった様子で真人は子供のようにその場で地団駄を踏む。 

 

「与幸吉には聞きたいことがあるんだ。だから申し訳ないけど今回は諦めてくれない?」 

 

宥めるようにそう言うと、真人はむすっと頬を膨らませるがあっさりと諦めたようだった。 

 

「まあいいや、どうせ渋谷で殺せるもん。」

「ありがとう。」

「せいぜい残り少しの人生楽しみなよ、下衆以下。」

「………。」  

 

警戒心をあらわにして真人を睨みつける与幸吉。と、そこに別の声が何処からか降りかかってくる。 

 

「やあ舞南斗、元気にしていたかい?」

「............。」  

 

俺の目の前に降り立つ額に傷のある男。安達だ...! 

三福から話は聞いていた。初めてこいつと会った日から一週間、味方に付いたふりをしてずっとその正体を探ってたと。

 

例え呪霊でも元は神様の三福には安達の異常さがよく分かるらしい。命の理に反してると不快感を隠すことなく罵倒していた。体を乗り換えて生き永らえてるのが気に入らないのかもしれない。因みに天元様のことも聞いてみたら「アレも反しているが、不快ではない。」 とのこと。

 

兎も角、こいつが俺を味方と勘違いしてるなら都合が良買った。このまま渋谷事変まで持ち込んで要の場面で裏切ることで混乱に陥らせるのが理想だが、悪知恵だけは働くらしいのでせいぜい次のアクションが遅れる程度だろう。それでもこいつ相手にそれが出来るなら上々だ。 

 

そして俺には、この世界に来て最初の一ヶ月の間に培ったスキルがある。必殺技、よく分からんが話を合わせる、である。 

 

「安達さん。」 

 

名前を呼ぶと、安達は漆黒のアーモンドアイを細めた。 

 

「この間はレストランに呼んだのに来なかったね。残念だよ。」 

 

記憶にないのだが、若しや先々週補助監督に何の脈絡もなく言われた、任務が終わったらレストランに行けってやつだろうか。正解なら通達方法の粗雑さを非難したいところだ。どのレストランか指定されなかったら行けるわけないだろうが。

 

日本人らしくない彫りの深い顔立ち。綺麗に整えられた濃い上がり眉を態とらしく下げて残念そうな顔をする安達は、顔だけは良いがとてつもなく胡散臭い。だけどどうやら一方的とはいえ約束をすっぽかしたのは俺の方みたいなので謝っておく。 

 

「ごめんなさい。用があって...事前に連絡しとけばよかった。」 

 

申し訳なさそうに謝ると先程とはうってかわって安達は雅やかに笑んだ。 

 

「いいよ気にしないで。また今度ゆっくりお茶でもしよう。事前の打ち合わせもしたいしね。」

 

踵を返した安達は真人とともにそのまま去るかと思いきや、数歩離れたところで再び振り返る。 

 

「そうだ。この間壊相と血塗が殺された任務、君も居たんだよね?...困るよ舞南斗、戦力を減らされちゃ。」 

 

やっべえ、もう高専側の情報筒抜けじゃねえか!けど壊相と血塗がちゃんと死亡判定されてて良かった、このまま誤魔化せる。 

 

「…街に出ようとしたから殺したんだ。それに総監部の連中が受胎九相図を始末しろと煩くって…脹相がいれば十分でしょ。」

 

そう言うと、安達と真人は何がおかしいのか悦ばしげに顔を歪めた。 

 

「ふふ…そうだね。」

「舞南斗、人間のくせにそういうとこあるのホント好き。」  

 

それ以上俺達が言葉を交わすことはなく、俺は二人が去っていく背中を見届けたのだった。

 

 

 

「どうやら噂は本当だったようだな、樹舞南斗。」 

 

二人の姿が完全に見えなくなると、与幸吉が背後から声掛けてくる。堅い声音に見返れば、何故か与幸吉は警戒した面持ちで俺を睨んでいた。

 

「何故俺を助けた、何が目的だ。」 

 

壊相と血塗もそうだった、この世界の人間は警戒が強すぎる傾向がある。しかも与幸吉に至っては敵じゃなくて志を共にする姉妹校の仲間だというのに。全ては複雑な過去やら事情やらが絡まり合っているからだろうか。 

 

「えっと、与さんって呼んでもいいかな。単純に俺が助けたかっただけとは思わないの?」

「思わないな。」 

 

間髪入れずに断言されると流石に俺でも多少は傷ついた。 

 

「うーん、まあ与さんに頼みたいことがあったのは確かだね。」

「助けてもらったところ悪いが、何か悪事を企んでいるのならば協力はしない。」 

 

やっぱ京都校は色々とシビアだから警戒心強いな。眼を細めて真意を見極めんとする与さんに笑いかける。 

 

「安心してよ、きっと与さんの為にもなる。」

「何?」 

 

俺の言葉に眉間に皺を寄せる与さん。そう、来たる渋谷事変に巻き込まれるであろう彼女を彼は助けたいはずだ。

 

「だって与さん、好きな子を危険な目に合わせたくないでしょ。」

「三輪に手を出したら殺すだけじゃ済ませない!」

「ははっ、別に俺は三輪さんって言ってないのに。」

「っ!!」 

 

三輪さんのこと好きすぎだろ。これが純愛かだなんてくだらないことを胸中で呟いた。 

それにしても不思議だ。与さんは両眼をこれでもかとかっ開いて殺気を突き刺してくる。…あれかな、俺の瞳を通して揺るぎない意思で悪に立ち向かおうとする己を見てる...なんてそんはずないか。 

 

「そうだよね、三輪さんのこと大事だもんね。なら俺に協力して。」 

 

折角助かったんだから、二人には渋谷事変を生き延びて幸せになってほしい。そんな思いを込めて微笑みかけると、与さんは真剣な面持ちで頷いた。 

 

「じゃあ…まずは高専には戻らずに雲隠れして。三十一日が近づいたらまた指示を出す。」

「…分かった。」 

 

互いの意志を確かめ合った俺達は、それぞれの役目を果たすべく早々にその場を立ち去ったのだった。幸先が良いと思っているのは俺だけだなんて、知る由もなかった。

 

 

 

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