出会いあれば別れもある。そうやって日々を過ごしていく内にその時の思い出も記憶から薄れていく。ただ、衝撃的な濃い内容ならば記憶に残ってはいる。他にも連想するものだったり、或いは同じ場面に遭遇したり。
彼は今、そういう場面に遭遇している。
「キミは……」
思い出の中の子にまた逢えた。忘れていた訳じゃない。そういう機会がなかったり、そもそも逢えないと思っていたから。
彼は、目の前に居る"白い猫"に釘付け。
艶やかで白い毛並み、品位がありその上美しさを醸し出している。太陽の光がより一層その良さを引き立てて、そこにいるだけで行き交う人の視線を奪う。
「ンニャ?」
「ッ!」
ずっと見ていたせいか、そのしつこい視線に気付いて閉じていた瞼を開けて瞳をこちらへと向けた。
海よりも空よりも青く澄んでいる、その瞳だけでも魅了される。いや、もうされている。
胸がドキドキと鼓動しており不正脈を疑うほど。全身は熱くなり、高揚感でいっぱい。
「キミは、その」
白い猫は尻尾をフリフリと揺らして毛繕い。こちらには一切の興味を示さない。
猫はとても警戒心が強い。それでも触れたいという欲に駆られ、手を伸ばした──その時だった。
「あの、猫又くんだよね同じクラスの?」
突然声を掛けられてびっくり。思わず両肩を震わせて、反射的に声がした方向へ顔を向けた。
女の子が居た。それでいて、見た目も自分とそう大して変わらない。
勿論この女の子の事は知っている。名前は、そう「猫屋敷まゆ」と聞いた。通っている中学校『私立湾岸第二中学校』に転入生としてつい最近引っ越して来た子だ。
以前の彼女の事も少しばかり知っている事も。
「まゆさんこそどうしたの?」
「どうしたもこうしたも、此処私の家でもあるんだけど」
まゆは苦笑いしながら背にしている建物に目を向ける。
プリティホリックの看板が見える。目にしたのは初めてだったけど、まゆの家はプリティホリックとクラスメイトの会話の中で耳にした事があった。
居た堪れないのか、まゆの視線が泳いでおり中々こちらと目線を合わせてくれようとしない。
「ごめんね、ここら辺来るのってあまりなくて。それに、まゆさんのお家を目にしたのも初めてで、気付けなくてごめんね」
「ううん、気にしないで。わざわざ二回も謝る事じゃないし、それに私の方こそ
「『邪魔しちゃって』?」
「ユキのことジッと眺めていたから」
一体誰の事を言っているのだろうと疑問符を浮かべたが、先程まで眺めていた相手を改めて思い出すと白い猫が出てきた。
そこでハッとなって「ユキ」というのは白い猫の名前だったという。
まゆは、白い猫もといユキの飼い猫。
「そうか、どうりで」
心がホッとした。今はこの気持ちは出さず、自分の胸の中だけに留めておこう。
胸を撫で下ろし、改めてユキに顔を向けて小さく微笑む。愛想よくしたつもりだったが、ユキは不機嫌な表情でその場を後にして何処かへのらりくらりと行ってしまった。
「ユキって結構一人で過ごす事が多くて、多分今日も人が多くて嫌になっちゃったのかな? あはは、はぁ……」
少し無理して話している様にも見える。人との関わり合いが苦手なのか。もしそうだとしたら、あまり間を置かず相槌が打ちやすい様に話題を振ってちょっとでも馴染ませる。
「猫ってほら、自由気ままって言うくらいだし、それで移動したのかもよ?」
「そうかな?」
「そうだよ。それにしても綺麗な子だったね。かなり手入れが行き届いて、愛情よく注がれて育っていると見た」
「ありがとう。そう言われるとなんだか嬉しい!」
彼女の表情が和らいできている。なんとなくだが、話している間に距離感もそれなりに縮まった気もする。
ある程度ほぐれてきたところだけど、こうして立ち話というのも悪い。
「ユキちゃんの事すごーく大切で、大好きなんだね。ボクは彼女と一緒に居られる事に焼いちゃうな」
「えっ、それってどういう?」
「いずれ分かるよ。まゆさん、良かったらなんだけどまた今度──」
口を動かしている最中で、遠くから嫌な気配を感じ取り会話が一時中断する。開いている口をゆっくりと閉じ、気配の出所を探る。
禍々しく、感じるのも嫌気をさす邪気。だが、心の何処かで僅かに謎の心地良さも同時に感じ取れる。
その理由を知っている。
それよりも今はこの邪気の元を断ち切らねばならない。名残惜しいがまゆとは一度此処でお別れだ。話すタイミングなんて明日でも明後日でも、同じクラスなのだからいつでも構わない。
「今日はここまでだね」
「お店には寄らないの? もしかしたら、ユキにまた会えるかも」
「ありがとう。でもそれは、またの機会にゆっくりと見せてもらうよ。楽しみにしてる、また明日」
「う、うん。また明日」
「また明日」なんて言われるとは思ってもみなかったらしく少し吃る様子。
それを尻目に足を動かして急ぐ。
プリティホリックもとい猫屋敷家の二階から視線を感じた。振り返る余裕は無いが、一体誰が見ているのか大体予想が付く。不意に笑みが溢れた。
(ちっとも変わってないな彼女は。それはそれで安心したよ、ユキちゃん)
角を曲がり、壁にもたれながら一度深呼吸をする。
準備は万端、いつでも行ける。
(対処が遅れた分、ここから挽回しなきゃね。彼女達プリキュアと共に)
全身から光が溢れ出して、その姿形を変え始める。
人間の姿から瞬く間に四足歩行の猫へと変貌を遂げる。毛並みは茶色く、喉を鳴らして変化した身体の感触を確かめる。
動きに問題はない。猫から人間へ、人間から猫への変身にはもう慣れた。
「よし、急ごう」
そうして彼──
何気にユキヒロインってわんぷり小説で初めて? あと多機能フォームの使い方忘れて泣いてます
感想、評価お待ちしております