猫又フブキは旅をしていた。何者にも縛られず、順風満帆で心の赴くままに歩いて、走って、止まって、出逢い、そして別れる繰り返しの旅を。
当てのない旅などではない。ちゃんとした目的があって旅をしている。でも最近、とある場所との連絡が取れなくなってこの旅を一度中断せざる得なかった。
ならばと、旅をお休みするついでに里帰りしようという決断に至った。
「ようやく見えてきた、ボクの故郷だ」
フブキが言う故郷の名は「アニマルタウン」
人と動物が仲良く暮らすそんな街。野生の動物も多種多様に生息しており、謂わば動物の楽園とでも称する場所。穏やかで平穏な街だからこそ、と言うべきか。
「流石に、何年も離れていた事もあって街の顔ぶれは少し変わってしまっているね。でも」
周囲を見る。相変わらずアニマルタウンでは人と動物が共存して楽しい日々を過ごしている。それだけが変わりなく、フブキの表情は優しく崩れる。
「いつも通りで安心したよ」
久し振りのアニマルタウンで、その余韻に浸かりながら街中を歩く。気分も上がり、調子に乗ってスキップでもしようかと思ったその矢先だった。
「いろはー、お散歩楽しいねー!」
「そうだねこむぎ!」
女の子二人の声がした。聞くからに、どうやらすぐ後ろに少女と呼べれるくらいの幼子に違いない。
上げかけていた足を引っ込め、迷惑にならないよう配慮して普通に歩く事にした。
ただちょっと気になった。
楽しげな声が元気に響く様子をちょっと見てみたくなった。軽く後ろへ顔を向け、どんな子達か一目だけ見た。
「あ、あれ? おかしいな?」
振り返るとそこには確かに少女は居たのだが奇妙だった。明らか二人の少女の声がした筈が、目の前に居るのは一人しかない。正確には一人と犬一匹。
それに急にダンマリとしており、冷や汗をかいて明後日方向を向いていた。
「ねえキミ、さっき誰かと話してた?」
「あ、いや、私一人だよ……」
「ワ、ワン!」
怪し過ぎる。念の為に周りを見渡して、フブキ自身が勘違いしているかどうかの確認をする。
右を見て、左を見て、少女の背後も確認をする。周囲に誰もいない事を確認した上で再度同じ質問をする。
「ねえキミ、さっき誰かと話してた?」
「あー、私お散歩中なので失礼しますねー」
表情が固いうえどことなく言動もカタコト。嘘を吐くのが苦手だと一目で見抜いた。
フブキは少女が連れている犬に疑惑の目を向ける。「まさかとは思うが」などと考えてみた。
だから少しだけ引っ掛けてみる事にする。
「……さっき公園で、二足歩行で立っている羊を見かけたんだけど」
「「メエメエ⁉︎」」
「ほらやっぱり」
「「あ゛っ」」
少しは考えてはみるものだ。まさか"犬が"喋るなんてな。完全にボロを出してしまって、少女と犬は硬直してしまっている。
フブキ自身、触れてはいけない地雷に踏み込んでしまったんだと後悔した。こういう知られたくない秘密を無理矢理探ろうとしたのが悪かった。
「なんか、ごめんね。あと、二足歩行の羊って言うのも嘘なんだけど本当に居るの?」
少女はその場で頭を抱え込み、項垂れた。適当に吐いた嘘もどうやら命中してしまったようだ。
そもそもそんな羊が居た事自体驚きだが。訳ありにこれ以上深掘りしても良いのか、そんな事を考えるフブキ。
「バレた、という事はこれもう話しても良いよね?」
「こむぎは分かんないワン」
「だよねー、この判定はグレーゾーンだよ」
「そこまで話せない事情なら話さなくても良いよ。変な勘繰りをしてごめんね」
フブキ自身も秘密の一つや二つは持っている。例えばこの人間の姿は仮の姿で、本来の姿は何処にでも居るような猫が正体。
これ以上は野暮ってものだ。
「それならそれでお願いしたいかな。私の方こそごめんね、話せなくて」
口角を上げて笑顔で返す。そこでふと思い出したのだが、こんなに話しているのにまだお互いに名前を知らないという。
変に気遣われるだけじゃ相手にも失礼だ。せめて自己紹介だけでもと思い、フブキは口を開いた。
「そういえば自己紹介がまだだったね。ボクは猫又フブキ、宜しくね」
「私は犬飼いろは。それでこっちが──」
「こむぎワン!」
「もう隠す気ゼロなんだね……」
「もーこむぎー!」
裏表のない素直で良い子達だと感じた。
このまま話していても悪い気はしないけれど、彼女はこむぎとのお散歩中。流石にこっちの勝手な都合でこれ以上時間を取らせる訳にはいかない。
動物との触れ合いには、時間が限られている。それにフブキ自身も、用があってこの地にへと帰ってきたんだから。
「っと、お散歩中だったね。そろそろお暇させてもらうよ。邪魔して悪かったね」
「いえ、じゃあ私達もこれで」
「バイバイワーン!」
互いに背を向けて、それぞれの道へと足を前に出したその矢先だった。
突如として全身に突き刺さる悪寒。それでいて邪悪で醜悪な気配。冷や汗が止まらない。猫の姿だったら全身の毛が逆立っていたに違いない。
この気配はマズい。本当にマズい。動物としての、生物としての本能がそう警告している。
こんなにも穏やかで平和しかないこの街で、どんな異物が乱入してきたのだろうか。
「いろは、"ガルガル"だワン!」
「何その、ガルガルって?」
「あ、えっとね……ごめん! これも説明出来なくて!」
「いろはいろは!」
「分かってる。行こうこむぎ!」
「あっ、ちょっと待って!」
血相を変えて急に走り出したいろはとこむぎ。フブキもその後を追い掛ける為走り出した……のだが、いろは達の走るスピードに意外にも追いつけなかった。
驚いてフブキも走るスピードを上げるが。
「は、速い!」
懸命に走ってはいるが距離は縮まらない。華奢な女の子だからと舐めていたけれど、これはいかんせん。
それと気になるのが方角。
(邪気があったのは確かこの先から。まさかとは思うけど)
いろはの向かう先は危険地帯。静止の声を出しているのに、いろはの足は一向に止まる気配が無い。
フブキもこの先が気になる。ならば、今は黙ってその背中を追い掛ける。
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とある森の奥まで潜り込んだ。旅をしていてそれなりに体力や筋力は付いているが、ずっと走っていたのでフブキはヘトヘトで両肩を上下に動かすくらい息切れを起こしていた。
「居たよ、あのガルガルは?」
「鳥?」
進んだ先には禍々しい大きな動物が佇んでいた。こむぎの言うように確かに鳥類ではある。けれど空には舞っていない。
でもそれ以上に気になる情報があり過ぎる。
「これがガルガル? こんな動物見た事もないし聞いた事もない。邪気もこの動物から発せられているし、何がどうなっているんだ?」
「犬飼さん、こむぎちゃん!」
「悟くん、丁度良かった。あのガルガル、なんていう動物か分かる?」
「あの動物は……って、犬飼さんいいの⁉︎」
何処からともなく現れた眼鏡の少年。フブキの方を見て、なにやら気まずそうな表情をしている。
この少年も少なからず関わっているのは間違いない。教えてと言っても、教えてくれそうにはない雰囲気だけど。
「た、多分大丈夫だと思うよ!」
「そうなんだ……」
「えっとあの、説明してくれるって事でいいのかな?」
結構話が混雑してはいるが、フブキは一応この場に残っていいとのこと。後欲しいのは、ガルガルというのについて説明だけ。
その前に、どうにしかしないといけない問題が目の前にある。先にそれを解決しなければ。
「悟、あの動物ってなーに?」
「鳥類であの特徴的なトサカ、それに飛んでいない所を見るにあれは鶏のガルガルだよ!」
「よく分かったねキミ。あ、猫又フブキです宜しく」
「僕は兎山悟。こちらこそ宜しくね」
お互いに、こんな時でもペコペコと頭を下げて自己紹介をした。近しい性格も相まって、断り難くもあり、名前も知らず話を進めるのは気が引ける。丁寧で真面目な所がよく出ている証拠だ。
「こむぎ、変身するよ!」
「うん!」
こむぎが返事をするタイミングで身体が光り、犬の姿から人間の姿へと変化した。思わず吹き出しそうになったがそこは頑張って堪えてみせた。とはいえ驚愕したのは事実。
まさか、自分と同じような子と出くわすなんて思いも寄らなかった。
彼女達は一体何を、どこまで知っているのか。フブキは今、それを知りたいと思った。
こむぎといろは、懐から同じコンパクトを取り出して大きな声で唱える。
「「プリキュア! マイ・エボリューション!」」
コンパクトを使い、息の合った掛け声で次のステップへと移行する。
「「スリー! ツー! ワン!」」
二人の身体は光に包まれ、その姿を瞬く間に変えていく。
こむぎは私服からピンクを基調としたフリルのある可愛らしい衣装に変わる。頭に冠に腰には大きなリボンと装飾が施され、髪色や長さも彼女らしさ全開に引き立たせた姿をみせる。
いろははこむぎと違い、紫を基調とした衣装。しかしながら衣装のベースはこむぎと殆ど同じで、装飾に多少の違いがある程度。お揃いで、仲の良さが目に見えて分かりやすい。
髪色は金色に変わり、二つ結びのおさげのロングヘアに大変貌。
「みんな大好き素敵な世界! キュアワンダフル! いっしょに遊ぼ♪」
「みんなの笑顔で彩る世界! キュアフレンディ! あなたの声をきかせて」
「「わんだふるぷりきゅあ!」」
煌びやかに変身したこむぎといろは、もといキュアワンダフルとキュアフレンディ。
そんな二人を間近に見たフブキの様子は、不思議と驚いていなかった。
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